ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

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第94話 科学博物館。

 

 

 

 

 今日はどこにミュウツーを連れていこうか、ベッドの上でカントーマップを吟味していると、ルギア(ポッポの姿)がある一点をつついてきた。

 

 タマムシから北東方面に位置するそこは────

 

「ニビシティか。いいとこに目をつけたな」

 

「げるる」

 

 胸元をくすぐってやる。

 ルギアは気持ちよさそうに目を細めた。

 

 ニビシティ。

 お月見山の麓に広がる街だ。

 俺が相棒の化石を発掘した思い出深い土地でもある。

 

「んじゃ行くか。

 ミュウツー、今日はこっちの服を着てみてくれるか?」

 

『……? 昨日のものではダメなのか?』

 

「昨日被せた帽子、サイズあってなくてブカブカだったろ。フード付きのパーカー買っておいたからさ、たぶんこっちのほうが楽だぜ」

 

 手元を隠せるゆったり系のパーカーを差し出す。

 思った通り、細身のミュウツーによく似合っていた。

 

『……なるほど、深く被れば顔も目立たんな』

 

 鏡の前で自分の服装をチェックするポケモン。

 なかなかレアな光景である。

 一応口許隠しのマフラーも巻かせて、ホテルをチェックアウトした。

 

 テッカグヤに乗る前に屋台で朝食でも……と思っていたら、朝っぱらからむずがっている幼児と、困り果てているお母さんに出くわした。

 

「どうしたのレッド、なにがそんなに嫌なの」

 

 ベビーカーから抱きあげ、懸命にあやすも効果がない。

 顔を真っ赤にし、そっくり返って泣いている。

 癇の虫というやつだろうか。

 

『アシタバ。あの小さきものは、なぜ大声を出している』

 

「泣いてるんだよ。人間の赤ん坊は自分じゃ何にもできないから、泣くことでご飯を貰ったり世話をしてもらうよう仕向けるんだ」

 

『ではあれは、腹が減っている報せなのか』

 

「うーん、そうでもないっぽい」

 

 哺乳瓶を吸わせてもすぐに顔を背けていた。

 少なくとも空腹ではないようだ。

 

 じゃあなぜ泣いてるのか。

 それは母親が1番知りたかろう。

 

 周囲の人間が、迷惑そうに、或いは気の毒げな顔で通り過ぎていく。

 

(大変そうだなぁ……。

 なんか気を紛らわせるものあったっけ……。

 菓子、はだめか、ピッピ人形は幼児にも効くか……?)

 

 あっちこっちのポケットをまさぐっていると、ミュウツーが指先をくいっと曲げるのが目に入った。

 

 赤ん坊の真上で、白銀に輝く星がぽんと出現した。

 星は右に左に弧を描いては消える。

 消えたと思ったらまた現れた。

 ぽんぽんといくつも星が生まれる時もあれば、ひとつきりの時もあって、見ていて飽きない。

 

 不可思議な現象に、赤子が泣くのも忘れてぽかんと口を開けていた。

 

「あらまあ! なにかしら、これ」

 

 誰かの大道芸かしら、綺麗ね〜とはしゃぐ母親の後ろで、俺はまじまじとミュウツーを見つめた。

 

「いまのって……。

 昨日覚えたばかりのスピードスターを使ったのか?」

 

『そうだが』

 

 まじかよ。

 攻撃技を、赤ん坊の気を逸らす手品の代わりにしたっていうのか。

 

 智恵の回ることにも驚いたが、なによりも驚いたのは応用力の高さだ。

 こんなの、スピードスターを扱い慣れたポケモンにだって出来るかどうか。

 しかも、俺の指示もなく自発的にやってのけるなんて! 天才すぎる! 

 

(め……めちゃくちゃ頭いいなコイツ……!)

 

 もっとたくさん技を会得したら、一体どこまで強くなるんだろう。

 ミュウツーが育ちきった暁には、ゲンシカイキしたカブトプスでもキツいんじゃなかろうか。

 

(……とりあえず、いろいろ勉強し直そう……)

 

 育てる俺がへっぽこじゃ、ミュウツーの能力を存分に伸ばしてやれない。

 

 ありったけの語彙で褒めちぎり、熱々のホットドッグを2人並んでぱくつくのだった。

 

 

 〇〇〇

 

 

 さてニビシティに到着した。

 ここら一帯は良質な石が採取できるため、道路も建物も石で建造されている。

 

 その質実な景色が気に入ったのか、テッカグヤがボールに戻りたがらなかったので、彼女も連れ歩くことにした。

 

「よふーよふー」

 

 身の丈およそ80センチのお姫様があっちへちょこちょここっちへちょこちょこ。珍しく興奮している。

 

「そんなに街並みが気に入ったのか」

『……いや、そうじゃない』

 

 微笑ましく眺める俺にミュウツーが教えてくれた。

 

『石に入っている()()()に惹かれているようだ』

 

「 ……もしかしてルナライトのことか?」

 

 ニビシティ周辺で産出する鉱物には、ルナライトと呼ばれる成分が含まれている。

 硬度と靱性を高める性質を持ち、劈開面が月光のように淡く輝くことからこの名がついた。

 

 ちなみに、このルナライトを多量に含有した鉱石を俗に《月の石》という。ピッピなど特定のポケモンを進化させることができるのだが、詳しい原理は分かっていない。

 

 試しにフレンドリィショップで月の石を買い、テッカグヤに与えてみたところ、全身から喜色を爆発させた。

 

「よふよふ! よふふ!」

 

 まるでワルツでも掛かったかのように、その場でくるくる回りだす。

 

「すげー喜んでくれてる……!」

 

 嬉しいけどなんでだ? 

 アローラで出会ったクチナシさんは、テッカグヤのことを異世界のポケモン──ウルトラビーストだと言っていた。ひょっとしてあっちの世界にもルナライトがあり、故郷を懐かしんでいるのだろうか。

 

 ショップにはストラップも売られていたので併せて購入し、首から下げられるようにしてやったら、脚にぎゅーっとくっついてきて離れなくなった。

 

 感謝の表れか? 

 うぅん。可愛い。

 メロメロになっちゃう。

 

 5分ほど戯れたあたりでミュウツーが言った。

 

『いつまでそうしてるつもりだ』

 

「…………はっ。

 悪い悪い。科博に行ってみようと思ってたんだった」

 

『かはく?』

 

「科学博物館の略さ。むかーしのポケモンの化石とか骨とかを飾ってある施設だよ。

 技術の進歩を感じる展示もあって面白いぞ」

 

 ニビ博物館は街の北外れにある。

 ごねるルギアを宥めすかしてボールに戻し、足を踏み入れると、正面に展示されたカブトプスの骨格標本にミュウツーの目が吸い寄せられた。

 

『おぉ……』

 

「なっつかしいなあ。

 俺これを見て、カブトプス欲しいって思ったんだよ」

 

 忘れもしない、5歳の遠足のときだ。

 博物館を見学してからお月見山で発掘体験をしてみようというプログラムだった。

 

 まだ手持ちのいなかった俺はこの標本に釘付けで、どんなに先生に促されてもテコでも動かなかった。

 その後、カブトを復元できる甲羅の化石を掘り当てたときは、子供心に運命を感じたものだ。

 

 学芸員さんに許可を得てカブトプスを呼び出す。

 相棒が仲間の骨を見つめていると、そばを通りがかった少年が「わっ」と声を上げた。

 

「か、カブトプス! 本物!?」

 

「本物だよ。俺の相棒のカブルーだ」

 

「す、凄い!

 化石ポケモンを育ててる人初めて見ました!」

 

「おっ。お前さん化石が好きか」

 

「はい!

 化石だけじゃなくて、岩タイプ全部好きです!」

 

「いいねぇ!」

 

 まだ9歳かそこらだろうに、もう好みのタイプがある。

 しかも岩とは! くーっ通だねえ! 

 

「あっ、あのっ、もしよかったら、そのカブトプスと対戦させてもらえませんか!」

 

「あー、と」

 

 どうしよっかな。

 戦いたいのは山々だけどまだ入ったばっかだし、ミュウツーが全然見れてないんだよな……

 

『相手になってやれ。ワタシは1人で回る』

 

 頭の中の声に視線を送ると、ミュウツーは小さく頷き、奥の方へ行ってしまった。

 

(タマムシのスピードスターといい、子供への気遣いがうますぎる……惚れてまうやろ)

 

 感涙を堪えつつ、少年に親指を立てた。

 

「おーけぃ、やろう!」

 

「ありがとうございます!

 おれ、じゃなかった、ぼく、ニビのタケシです!」

 

「ヒワダのアシタバだ」

 

 拳をぶつけ合い、外のバトルスペースに向かった。

 

 

 〇〇〇

 

 

「形式はどうする?」

 

「ぼくの手持ちはまだ一体しかいないので、シングルでお願いします!」

 

「了解! 頼んだぞカブトプス(カブルー)

 

 彼のご要望にお応えしてカブトプスに任せると、タケシはイシツブテを繰り出してきた。

 

 当然審判なんかはいないので、俺が宣言を下す。

 

「試合開始! 先手は譲るぜタケシ!」

 

「ありがとうございます! 

 イシツブテ、(のろ)い!」

 

 命じられたイシツブテが両腕を交差し、全身に力を溜めていく。機動力と引き換えにパワーを高める技だ。

 

 俺は感心した。

 

 あのぐらいの歳はとにかく攻撃一辺倒で、自身を強化する技や撹乱する術を軽んじる傾向にある。

 

 特に岩タイプは、生来の頑丈さで生半可な攻撃を跳ね返してしまうから猛進しがちだ。

 

 なのに、スピードを犠牲にしてでも初手で“積んで”くるとは。なかなか冷静(クレバー)な遣い手じゃないか。

 

「こっちも鍛えてくぞ! 鉄壁!」

 

 カブトプスの甲羅が分厚く硬く変化していく。

 

 タケシが唇を引き結んだ。

 この堅牢な鎧を、物理攻撃で突破する難しさに気づいたんだろう。

 

「──地ならし!」

 

 両手を大地に叩きつけ、激しく揺すぶってくる。

 殴る前にこっちの体勢を崩しにきたか。いい手だ! 

 

「慌てんな! 更に鉄壁!」

 

「また……っ。イシツブテ、妨害しろ! 

 撃ち落とす!」

 

 地面から石を抉りとり、まっすぐ投げつけてくる。

 鉄壁中は深い集中を必要とするため、それを乱して失敗させようという腹だろう。

 

 甘いな。

 これまで何千回と使ってきた技だ。

 俺が命じた時にはもう硬化が終わっている! 

 

「カブルー、ストーンエッジ!」

 

 鎌を突き立て、巌の槍が屹立した! 

 真下からカチ上げられ、イシツブテが高く舞い上がる。

 だがタケシもタダではやられない。

 すぐに次の手を命じた。

 

「ロックブラスト!」

 

 イシツブテの口から岩石が雨霰と降り注ぐ! 

 迂闊に近づくことを許さない凄まじい弾幕だ。

 仕方なくその場に留まった。

 

 タケシの猛攻は終わらない。

 落下するイシツブテにストーンエッジの先端を掴ませ、回れ! と吠えたのだ。

 

 イシツブテがぐるぐる回転しはじめる。

 充分にスピードが乗った瞬間手を離し、こちらに向かって矢のように飛んできた! 

 

 遠心力と頑丈さを利用した、自傷覚悟の体当たり! 

 凄まじい戦法に、おもわず笑みが零れた。

 

(いいね! いいな! 

 岩タイプの特長を、完璧に理解してる!)

 

 だが忘れてないかタケシよ。

 硬いのは、お前さんのポケモンだけじゃないんだぜ? 

 

 カブトプスが、とん、と1歩退がる。

 そして、両方の鎌を大きく振りかぶった。

 

 がら空きの胴にイシツブテが激突する。

 直後。

 

 

「いまだカブルー! 解き放て!」

 

 

 全身全霊をこめて両鎌を振り下ろす。

 脳天を思いっきり殴りつけられたイシツブテは、あえなく気絶した。

 

 

 〇〇〇

 

 

「うわー! 負けちゃいました!」

 

 タケシが悔しそうに、けれど爽やかな笑顔で空を仰ぐ。

 カブトプスとイシツブテの応急手当をしてから、握手を交わした。

 

「すげーいい試合だった!

 お前さんめちゃくちゃ強いな!」

 

「ありがとうございます!

 アシタバさんもお強くて、勉強になりました! 

 最後の技はなんですか?」

 

「ありゃ“我慢”って技でな。

 その名の通りひたすら我慢するんだ。

 発動中は動けなくなるが、ダメージを受ければ受けるほど、やり返した時の威力がとんでもないことになる。

 面白そうだから昨日タマムシシティで買ってみた」

 

「なるほど……。

 どおりで最後の一撃が途轍もない衝撃だったわけですね。ひょっとして、こっちがロックブラストを撃った時に我慢しはじめました?」

 

「鋭いねえ。

 なにか仕掛けてくるなーって思ったから、ストーンエッジで打ち上げたあとこっそり指示しといたんだよ」

 

「ではあの時追撃しなかったのは、ロックブラストの弾幕に怯んだのではなく、我慢中だったから移動できなかったということですね。見抜けなかったなあ……!」

 

「いやいや、礫のダメージエグかったぞ?」

 

 当たり前だが、我慢中に体力を削られきってしまうとこの戦法は不発に終わる。だから鉄壁を2回積んだ。

 もしも1回しか使わなかったら、ロックブラストと最後の体当たりでこっちが倒れていた可能性が高い。

 

 力量差を加味し、あえて水技を封じていたのもあって、実は結構追い詰められていたのだった。

 

「けど、大抵の攻撃にはビクともしない、岩タイプならではの戦術だろ? てなわけでホイ」

 

 タケシの手にわざマシンを握らせる。

 中身はもちろん“我慢”だ。

 

「えっ!? い、いいんですか?

 わざマシンってお高いんじゃ」

 

「いいんだよ。腕のいいホープトレーナーを見ると応援したくなっちまうんだ」

 

(サカキ先生ならきっと同じことをしただろうし、な)

 

 心の中で付け加える。

 かくいう俺も、学生時代にあの人から貰った水の波動のわざマシンのおかげで、飛躍的に強くなることができた。

 

 年上から受けた恩は年下に返せ。

 先生から教わった、大切なことのひとつだ。

 

「俺は博物館に戻るけど、タケシはどうする?」

 

「ぼくはポケモンセンターに行って頑張ってくれたイシツブテを回復させます」

 

「わかった。そんじゃまたな」

 

「はい! ありがとうございました!」

 

 深々とお辞儀をし、去っていく。

 礼儀正しいし、腕もいい。

 この街一番のトレーナーになる日も遠くないだろう。

 

「さんきゅな、カブルー」

 

「ぎしゅ」

 

 どこか嬉しそうなカブトプスをボールに戻し、博物館へと踵を返した。

 

 

 

 

 




というわけで94話。
ネームドちょろっと登場の巻。
カントー編はずっとそうですね笑

赤ん坊レッドくん実はミュウツーと接触してましたよーというのが描きたかっただけ。今後も出てくるかは未定。
そしてカントー編でいちばん出したかったと言っても過言ではないジムリーダー・タケシくん。
この頃はまだ新米です。旅にも出てません。
チャレンジャーに我慢のわざマシンを贈るようになった経緯をな、捏造したいと思うたのじゃ(羅生門感)

よければ感想高評価おなしゃす!
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