ルギア、拾っちゃいました。2   作:じゅに

97 / 100
第97話 ハナダの洞窟。

 

 

 

 

 モモワロウがハナダの洞窟に逃げた──。

 

 その名を聞いた途端、脳裏におぞましい記憶が甦った。

 

 毒に侵された被害者たちの苦しげな顔。

 猛毒の鎖に巻きつかれ、あわや腐り落ちるところだった己の腕。

 ディアンシー女王に頂いた破魔瓢箪の神薬がなければ、果たしてどうなっていたことやら。

 

(ありゃあ痛いなんてもんじゃなかった……)

 

 幸か不幸か不死身の躰だ。

 死にたくても死ねない地獄のような苦しみを永劫味わっていたかもしれないと思うと、たとえ相手がポケモンであろうが憤怒を覚えずにはいられない。

 

『……アシタバ?』

 

 ミュウツーがそっと声をかけてくる。

 かつてない激情をテレパシーで感じたからだろう。

 俺は努めて怒りを押し殺し、「大丈夫。ごめんな」と微笑んだ。

 

「……ここに居るモモワロウがアローラのと同一個体ってのは、間違いないんですか?」

 

「間違いない」

 

 オーキド博士ははっきり頷いた。

 

「アローラにはわしの従兄弟がおっての。

 珍しいポケモンが見つかったからわしのほうでも調べてみてくれと頼んできたのよ。

 事件の重要参考人だからと国際警察のハンサムくんが連れてきてくれてな。

 調査を始めたまではよかったんじゃが……」

 

「逃げられてしまった……と」

 

「面目ない」

 

 博士が沈痛な面持ちで項垂れる。

 

「わしがちょっと席を外しとるあいだに、見張ってくれていたハンサムくんが突然おかしくなったんじゃ。

 キビキビ喚きながら妙ちきりんな踊りを踊ってのぉ? 

 その隙に逃げてったんじゃよ。

 慌てて追いかけ、なんとか現在地までは突き止められたが……」

 

 厄介な場所に逃げ込まれ、手を出せずにいたわけか。

 

 俺はどんと胸を叩いた。

 

「わかりました。なんとか連れ戻してみせます!」

 

「おお、やってくれるか! すまん、恩に着る!

 あと10年若ければわしがなんとかしたんじゃが」

 

 心底悔しそうに唇を歪める博士に、俺は苦笑した。

 

 この人は元々凄腕のトレーナーで、カントーリーグの王者の座に2回も輝いたことがあるほどだ。

 年齢を理由に引退した時は、終生のライバルを自称していた現王者キクコが怒り狂ったという。

 それほどの経歴の持ち主ならば自分で追いかけたくもなろう。

 

「博士にもしもの事があったら世界の損失ですよ。

 捕まえたら連絡するんで、どこかで待っててください」

 

「ありがとうよ。

 ではわしはハナダジムで待たせてもらおう」

 

 カメックスに乗って川を遡上する博士を見送り、洞窟に向き直った。

 

 強すぎる野生ポケモンがうようよする廃坑……ね。

 

「それでこそやりがいがあるよな、ミュウツー(カタリベ)

 

『──あぁ』

 

 ミュウツーが片笑む。

 かくして俺たちは、ハナダの洞窟に足を踏み入れた。

 

 

 〇〇〇

 

 

「……支配ポケモン・モモワロウか」

 

 アシタバに渡した懐中時計(盗聴器)の音声に耳を傾けながら、ロケット団の首領は目を細めた。

 

 見たことも聞いたこともない名前だが、何やら有益な能力をお持ちのポケモンらしい。

 

 人を支配する。

 まさに、我らロケット団に相応しい逸材ではないか。

 

 デスク下のボタンを押すと、すぐに腹心のアポロがやってきた。

 

 怜悧冷徹を絵に描いたような男だ。

 余計な口を聞かず、任務を確実にこなす性分を、サカキはこよなく愛していた。

 

「ハナダへ人をやれ。

 ポケモンの奪取に長けたチームがいい」

 

「はっ。標的はなんでしょう」

 

「モモワロウというポケモンだ。

 詳しい情報は私も知らん。

 現地にポケモン学の権威がいらっしゃるようだからお尋ねするといい。()()()()()()()()()()だろう」

 

「……なるほど。オーキド博士から奪うのですね」

 

 サカキの口角が上がる。

 察しがいいのもこの男の美点だ。

 

「ただし、今は博士の元にいない。

 ハナダの洞窟に逃げられ、アシタバが連れ戻すのを待っているそうだ」

 

 アシタバの名が出た瞬間、アポロの瞼が僅かに引き攣ったのを、サカキは見逃さなかった。

 

 入団以来、いかなる任務も完璧にこなしてきたアポロに、唯一土をつけたトレーナー。

 それがアシタバだ。

 100回殺しても飽き足りないほど腸が煮えくり返っていることだろう。

 

 憎悪怨恨大いに結構。

 上手く扱えば、そういう激情はこの上ない武器になる。

 

 サカキは椅子から立ち上がると、わざとゆっくり歩を進め、アポロの肩に手を置いた。

 

「やりすぎなければ、アシタバから奪っても構わんが?」

 

 部下の瞳に危険な焔が宿る。

 早速アシタバを痛めつける方法を幾通りも考えはじめたに違いない。

 

「期待しているぞ、アポロ」

 

「お任せ下さい、サカキ様」

 

 アポロは、優雅に一礼した。

 

 

 〇〇〇

 

 

 ハナダの洞窟はかつて銅の採掘場だったというが、当時の作事跡がけっこう残っていて、案外歩きやすかった。

 

 会敵するポケモンのほとんどがサイドンやニドキングなどの大型種ばかりでも、全く窮屈さを感じない。

 

「戦いやすくて助かるねえ。

 っと、ミュウツー(カタリベ)、スピードスター」

 

 煌めく星屑の矢が、天井から飛びかかろうとしたアーボックを撃ち落とす。

 後続に控えていたブーバーたちは慌てて逃げ出した。

 

『仕留めるか』

 

 ミュウツーの指先にエネルギーが凝る。

 俺は笑って手を振った。

 

「いーよいーよ。

 戦意を失くした相手はほっとけ」

 

『わかった』

 

 ミュウツーはあっさり構えを解いた。

 

 入ってからこっち、ずっとこんな調子で多勢に無勢を強いられているが、たった1体でなんなく撃退している。

 およそ苦戦するということがない。

 

ミュウツー(カタリベ)のやつ、スピードスターを完っ璧にモノにしてんな……。覚えて3日と経ってねえのに)

 

 末恐ろしい……が、頼もしい。

 

「それに比べてお前はよォ」

 

 頭上の鳥を指先で小突く。

 ルギアが警戒してくれていたのは最初だけ、どんな敵もミュウツーが易々倒すと気づいてからは頭の上で居眠りしはじめやがった。

 

「ぐぴー……げるー……」

 

 あぁ(いびき)がやかましい。

 せめて起きてなさいよアンタ。

 後輩が頑張ってるでしょうが。

 先輩の威厳もクソもねえな。

 

「ほい、ヒメリの実。

 大丈夫か? しんどくないか?」

 

『問題ない』

 

 PP回復のきのみをしゃくりと咀嚼しながら、ミュウツーは辺りを見回し、告げた。

 

『ここには居ないぞ』

 

 俺は吐息した。

 

 最初は、すぐに見つかると思っていた。

 なにしろこっちには千里眼を持ったサマヨールと、全身の金貨で全方位索敵できるサーフゴーが居るんだから。

 

 ところが。

 ふたりは、影も形も捉えられないと顔を曇らせた。

 

『たしか彼奴(あやつ)は我輩と同じゴーストタイプでしたな?

 影に遁甲していたり、幽体術を使われたりすると、さすがの我輩にも見抜けぬでござる』

 

『ごめんねマスター。

 フーゴのコインたちも目に見えるものとか手で触れるものしか探せないノ』

 

「まじかぃ」

 

 目論見、こっぱみじん。

 

 仕方なくこうして地道に歩き回っているというわけだ。

 こう書くと、読者諸君のなかには、枝道だらけの複雑な坑道を探しきれるのか、見落としやしないかと疑わしい人もいると思う。

 

 その点は安心してほしい。

 

 あれほど悪意に満ちたポケモンならば、ミュウツーの高い感能に必ず引っかかるはずだ。

 そのミュウツーがこの階には居ないと断言したのだから、本当に居ないのだろう。

 

 ……そもそもとっくにここから逃げているという可能性は、ひとまず考えないこととする。

 

 この廃坑道は、地上2階と地下1階の三層で成り立っている。今居るのは地上1階だ。

 

 上から攻めるか下から行くか。

 しばし悩んで、ぽんと手を打った。

 

「うし。次は上だ。2階を隅々まで探しぬくぞ」

 

 上を選んだことに合理的な理由はない。

 ただの勘だ。

 

 ヒメリを飲み下し、ミュウツーは静かに頷いた。

 

 

 〇〇〇

 

 

 3時間ほど歩いたが、上階の探索も不発に終わった。

 残すところは地下1階だけである。

 

 くたびれた脚を励まし誤魔化し階段を降りる。

 あと少しで到着という時に、()()は現れた。

 

「ガルーラ……?」

 

 俺が捕まえたくて仕方ない親子ポケモンが、階段をおりてすぐの広場に立っていた。

 

 しかし明らかに様子がおかしい。

 双眸が紫色に濁り、左右にふらついていた。

 

 ──いや違う。

 これは……踊っている? 

 

「……っ!」

 

 気づいた瞬間、俺はひゅっと息を呑んだ。

 そのガルーラは、ポータウンの人々や、クイーンに囚われていたときのサーフゴーと瓜二つだった。

 

『アシタバ』

 

 ミュウツーが鋭い声で呼びかけてくる。

 

『邪悪な気配を感じる。居るぞ、ここに』

 

「……あぁ、だろうな」

 

 闇の奥からポケモンたちが這い出てくる。

 ハガネールもニドクインもゴルバットも、みんな正気を失くしていた。

 

 また、毒で操りやがったのか。

 何の罪もないポケモンたちを。

 

 ボールホルスターから、ボールを3つ毟りとった。

 

ウネルミナモ(ミナモ)オーガポン(ステラ)カブトプス(カブルー)!」

 

 眼前に並ぶは地面タイプばかり。

 水と草で突っ切れる。

 

「俺とミュウツー(カタリベ)で元凶を倒す! 

 お前さんたちで道を開いてくれ!」

 

 ウネルミナモが吼え、カブトプスが刃を構える。

 オーガポンが「ぽにおん!」と棍棒を振り回した。

 

「行くぞ、ミュウツー(カタリベ)

 

『心得た』

 

 ミュウツーと右に向かって走りだす。

 

 追いかけようとするポケモンをカブトプス達が押しとどめ、たちまち戦場と化した! 

 

 

 

 

 突然地下から響いてきた騒音に、アポロは隊列を止めさせた。

 ひどい騒ぎだ。咆哮、悲鳴、技の炸裂音が渾然一体となり洞窟中を揺るがしている。

 

「野生ポケモンの縄張り争いでしょうか」

 

 部下の声に、サカキの懐刀は首を振った。

 無論そのケースも有りうる。

 だがアポロには、この騒動の中心にアシタバがいる気がしてならなかった。

 

「確かめに行きましょう。全員私に着いてきなさい」

 

「二手に別れずともよろしいので?」

 

 これは別の部下の言だ。

 下層の喧騒にアシタバが居なかった場合、無駄足になると案じているらしい。

 

 アポロは失笑した。

 

 それがなんだというのか。

 仮に別れたとして、貴様らがアシタバと出くわした場合、敵うとでも? 

 

 あの男は、数の暴力で倒せるような雑魚ではない。

 むしろこいつらの方が鎧袖一触に敗れ去るだろう。

 

「全員で、ですよ」

 

「わ、わかりました」

 

 アポロの気迫に、部下は何度も首肯した。

 

 

 

 




というわけで97話。
アシタバくん珍しくポケモンに怒ってます。
モモワロウファンの皆様にはアンチっぽい仕上がりになっていて申し訳ない。

そしてさらに申し訳ないのが、本作、三部作とすることにしました。
こちらでの更新は100話を目処に区切りとし、近々「ルギア、拾っちゃいました3」を公開いたします。

またぁ!?と思ったあなた、またです。
ほんますみません(土下座)
アルセウスとのあれこれや色々決着したあとの流れを考えてたら一旦区切ったほうが読みやすいと判断しました。

オチまでは思いついてるので、ついてきてくれよな!(スライディング土下座)
感想高評価おまちしてます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。