第一印象は普通のイケメンだった。
スラッとしていて表情も柔らかくて物腰も柔らか。長話になるからと私達を椅子に座らせた所までは非常によくできた青年のように見えた。
しかし『アイツ』が喋ったことは今までの常識の外にあることばかりだった。
「・・・・何なのよ、アイツ」
『アイツ』の喋ったことに関しては善悪のハッキリしない利用関係の提示というか・・・・・・・・悪く言えばいくらでも悪く言えるけど、私達としても悪くはないというか・・・・・・・・。
とにかく『アイツ』が、私達にとっての『提督』というものの像とはかけ離れた存在だということは話を聞いて良く分かった。
あと、素直に喋りすぎなんじゃないの?とも思ったが、『艦娘の死』を中学生の弱い心で受け取ったらそう成るのかなとも思った。
「時雨。どう思う?」
私の隣で海を滑走する『時雨』を見ると、時雨は人生の選択をでもしているような、二律背反な心理に挑戦している学者のような難しい顔をしていた。
「え・・・・そんなに悩む?」
私でもまだ考えすぎかなと思っていたのに・・・・。
時雨は私の呟きにワンテンポ遅れて「あぁ、うん」と反応すると、申し訳なさそうに
「ごめん。聞いてなかった」
と言ってきた。
その目に涙を溜めながら。
「・・・・そう」
・・・・その表情が失望によるものなのか、マトモなのが来て嬉しかったからのか私には分からないが、まぁ後者であることを願いたい。
「とにかく今は任務に集中しましょ。ここがかなり本土に近いとしても海の上なんだから」
私こと『霞』と相方の『時雨』は現在、夜間の哨戒任務を行っている。
艦娘が2人しかいないペーペーの鎮守府に任される哨戒範囲というのは極端に狭い上に近海に限られるのだが、それでも海の上というのは常に深海の奴らと接敵する危険な・・・・。
「・・・・時雨。見えた?」
「・・・・うん。敵、だね。それも姫級を交えた連合艦隊」
手元の電探を見れば、今までに無い反応を示していた。
「・・・・真っ直ぐコッチに来るわね。見つかったみたい」
鑑装を全て展開すると、その直後。
私の真横をレーザーが擦過していった。
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女子がトイレをしないように、提督とは艦娘が活動中は決して寝ない『生き物』である。
そのため僕も当然のことながら、霞ちゃんと時雨さんが出現した後も不眠不休で書類の整理や製作に勤しみ続けていた。
「・・・・ふぅ」
一段落し、時計を見れば小さい針が4のところを指していた。
・・・・いや、いない。指してはいない。
どうやら蜃気楼のようなものを見てしまったらしい。危ない危ない。
目を擦って窓の外を見ると、外は昨日と同じく黒一色の海が広がっていた。
「・・・・・・・・初めて夜の海を見た時、怖くて冬月さんに抱きついたっけ」
過去に思いを馳せてやる気をチャージしていると、水平線の奥から人影が現れた。
「あ、霞ちゃんだ」
よく見ればその影が霞ちゃんだということは直ぐに分かった(あのサイドテールは至高の領域)が、同時に時雨さんの姿が見えないことに僕は胸騒ぎを覚えた。
「・・・・」
「司令官、じゃない、代理司令官・・・・あぁもう面倒くさい!クズ司令官!!時雨が!時雨が!!!」
ボロボロに成って帰って来た霞ちゃんは、陸に上がるとすぐに僕の両肩を掴んでガクガクと揺らしながら大騒ぎを始めた。
「ちょっ、霞ちゃん!落ち着いて!!何があったの!?」
「連合艦隊よ!!!深海の連合艦隊とカチ合ったの!!私達じゃ逃げることもままならなくて・・・時雨が、時雨が、残って・・・」
霞ちゃんは顔を伏せると、身体を震わせた。
・・・どうやら2人は最悪のパターンを引いてしまったらしい。
「霞ちゃんは大本営に連絡して増援を呼んできて」
僕は肩にあった霞ちゃんの右手を左手で握り、右手で霞ちゃんの頭を撫でながら(気持ち優しめに)提督として初めての命令を告げた。
「僕は見えないけど多分僕に付いて来た妖精さんがいるハズだから、その子達にも状況説明をお願い。色々と準備がいるだろうし」
「っ・・・」
「あと『ボート』ってどこかにない?」
「っ・・・・・・アンタ何考えてるの?」
涙を目尻に溜めたままガバッと顔を上げた霞ちゃんは、凄まじい表情で顔を詰めてきた。
「まさか助けに行くとか言うんじゃないでしょうね。無駄よ。生身の人間が行ってできることなんて何も無いわよ。大人しく「それで。
ボートってどこ?」
言葉を遮り、真剣に霞ちゃんの目を見て聞くと、目一杯の誠意が伝わらなかったらしく霞ちゃんは怒鳴り散らした。
「よしなさいよバカ!!!アンタが行っても死ぬだけよ!!!何にもできず、むしろ時雨の負担を増やすだけなのよ!!!アンタは大人しく増援を待つのが仕事なの!!それが提督なのよ!!!」
「その口振りからすると時雨さんが轟沈するまで時間があるかんじ?」
「なっ、・・・本当にバカなんじゃないの!?バカ!バカ!バカ司令官!!!」
無茶と無謀は違うとよく言うが、コレに関してはハッキリとした打算があっての行動だ。だからソレを霞ちゃんには分かってもらいたいのだが。
「僕は提督である前に3年E組の生徒だ。だから大丈夫。絶対に『死にはしない』よ」
掴んででも止めようとしてくる霞ちゃんを引き剥がし、僕は約束した。
「大丈夫。絶対に連れて帰るから」
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初めてあの提督を見た時、僕は前のことなんて全て忘れるくらい胸がザワザワした。あの提督が喋ると耳がザワザワして、喋ること全てがいかがわしい言葉に聞こえた。
提督という生き物は危険だと理性の切れ端が訴えているのに、本能があの提督を・・・・・・好きだと言っていた。
だから。
出会ってまだ1日も経っていない提督のために死ねるのなら本望、とまではいかないが、自分の死に意味を残せるような気がして少しだけ気分が楽になっていた。
「・・・・ふふっ。提督は悲しんでくれるかな?」
「ナニヲ、イッテイル!!!」
「いや、コッチのこと。ねぇ聞いてよ、ウチの提督って凄くイケメンなんだよ?」
「オマエ、シヌノガコワクナイノカ!!?」
姫級2隻の鑑砲を目視でかわし、返しの魚雷で取り巻きの駆逐艦を1隻潰す。これで20隻。平常時だと大戦果ではなかろうか。
「っ・・・・」
「アタッタ!アタッタゾ!!!」
「掠っただけだよ!!」
「チョクゲキダッタゾ!?」
深海の奴らと小粋なトークを回して余裕そうに見せているが、実際はもう限界を越えてプルスウルトラしていることをアッチ側は気づいているらしく、冷静に僕の周りを固めるとジワジワと削る方にシフトしてきた。
「ヤレ!!!コロセ!!」
「ハズシタ!?」
「コノノーコンヤロウ!!」
「ノーカウントダ!!」
「フッ。ヤルジャナイカ」
「ゼンゼンウマクネーヨ!!!」
「キミ達ちょっと静かにしててくれるかな!?!?」
主砲をバンバン撃ちながらツッコミを入れていると、遠くから白い何かがコッチに向かって猛進してくることに気がついた。
「ナ、ナンダアレハ!!」
「コウイウバアイ、オイツメテイタホウガシヌンダヨナ」
「ウソダドンドコドーン!!!」
その白い何かがごく普通のモーターボートであると分かり、そしてそのモーターボートの上で立ったまま腕を組んでいる大バカ野郎の姿を目にした瞬間、私は自分の見ているものを、現実を疑った。というか疑うしかなかった。艦娘なら疑って当然だと思う。
「ハーッハッハッハ!!!!!!初めましてだね深海のクソども!!!!僕の名前は時里カイト!!!ワケあって提督の代理をやってるパンピー中学生だよ!!!」
そう叫んだ提督は
「とうっ!!!」
という掛け声とともに、絶賛ドンパチ中の僕に向かって飛びかかってきた。
「えっ・・・・・・・・」
「ナッ・・・・」
「ハァ!?」
これには僕も深海側も唖然とするあまり動きを止めてしまい、提督の跳躍は誰にも邪魔されることなく。
「えっ、あっ、ちょっ」
慌てて艦装を放り出して僕が受け止めると、提督は満面のドヤ顔で深海どもを煽り始めた。
「よっしゃ!!!
おい深海ども!!!もう時雨さんは殺せないと思った方が良いよ!!!残念だったね!!!いやー残念残念!!豆鉄砲は数を揃えても豆鉄砲だったってとこかな!?」
直後、黄色い影が僕達と深海どもの間に割って入ってきた。
「えっ・・・・・・・・」
ソイツは酷くウネウネしていた。ソイツは人間とはかけ離れた身体をしていた。ソイツには触手が生えていた。
「・・・・・・・・信じてたよ、殺せんせー」
その姿は、話だけは聞いていた椚ヶ丘中学校3年E組の担任の特徴と一致していた。
「ヌルフフフ。先生、流石に教え子のために戦場に立つ日がくる事までは予想していませんでしたよ」
どこから持ってきたのか不明なビート板の上に立つ黄色のタコ(殺せんせー)は、触手の内の一本で提督を抱えた僕ごと持ち上げると次の瞬間には空高くまで飛び上がった。
「ふぇっ、あ、えっ」
「時雨さん、大丈夫だよ。殺せんせーって見た目は完全にバケモノだけど普通に優しい人だから」
殺せんせーを見れば、提督の言葉の『バケモノ』という部分に少なくないダメージを受けたのか遠い目をしていた。
「・・・・・・・・お二人とも。少し飛ばしますから掴まっていてくださいね」
殺せんせーはそう言うと、夜空を裂くようにして飛行を始めた。
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後日。僕は霞ちゃんのありがたいビンタと説教をもらった後に、殺せんせーからのキツい説教をもらうこととなった。