唇に凄まじい違和感があった。
何と言えば良いのだろうか。唇にウツボが噛みついたかのような、そんな不気味な違和感をまず感じた。
「んぅう、うぇ・・・・」
あまりの違和感に目を覚ますと、視界一杯に時雨さんの顔があった。
「あ、おはよう提督。良い夢は見れた?」
「・・・・・・・・え?時雨さん?」
「どうしたの?何か変なことでもあった?」
「え?いや、・・・・え?」
「あぁそうだね。昨日あれだけのことがあったんだもんね。寝覚めが悪くても仕方ないよね」
「いや、違くて、その・・・・」
・・・・整理しよう。
僕はベットの上で横たわっている。顔と体は右を向いていて、視界一杯に時雨さんの顔がある。よく見れば時雨さんは僕と同じ枕に頭をのせていて、・・・・・・・・よく見れば時雨さんは大きめな掛け布団に僕と一緒に入っていて・・・・・・・・待って。待って。本当に待って。
「し、時雨さん」
「提督。昨日はありがと」
時雨さんはそう言うと、布団から出て行き、そのままパタパタと部屋から出て行こうとして・・・・入口で立ち止まると振り返って変なことを言ってきた。
「・・・・・・・・カッコ良かったよ」
現在時刻が午前7時だったので、僕はそのまま食堂に向かった。
食堂に着くと、先に食べ終わっていたらしい霞ちゃんがお盆を持ったまま駆け寄って来て、急に変なことを言い出した。
「おはよう、クズ司令官。一応言っておくけど私と時雨は違うからね?分かった?」
「え?・・・・え?」
「ふん」
一方的に変なことを言い放った霞ちゃんは、僕の返事も待たずに早足でスタスタスタと歩き去ってしまった。
「えぇ・・・・・・・・・・・・」
とりあえず、艦娘から認められたってことで良いのだろうか。
謎は深まるばかりだった。
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古くからのシキタリに、
どの鎮守府でも風呂場というものは基本的に『1つしか設置せず』、どの提督も基本的に1日の内の決められた30分だけしか風呂に入ることが許されないというものがある。
この古いシキタリは提督界隈でかなり賛否が分かれており、近々提督用の風呂が別に設けられるという話も上がっているが実現するかは不透明となっている。
そんな鎮守府のお風呂事情だが、ウチの鎮守府に関しては艦娘が2人しかいないためシキタリの内の決められた入浴時間という部分はほぼあって無いような状態となっており、そんなこと知るかとばかりに僕は今、朝風呂を目一杯に堪能していた。
「これも提督の特権なんだよねぇ・・・・」
足を延ばしても壁に付かないどころか泳げさえする浴槽を独り占めしているという事実に何とも言えない優越感を感じ、一人ごちしていると・・・・・。
「そうだな。だがわすれるな。このひよーはこくぜーからでていることをな」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・」」
「久しぶり」
「おう。ひさしぶりだな」
「どこ行ってたの?」
「きくな。わたしにもししゅんきというものはある」
妖精さんだった。
手の平サイズの妖精さんが隣、というか浴槽のヘリに立っていた。
「えっと・・・・・・・・ええっと・・・・」
正直、妖精さんが見えないことに凄まじいコンプレックスを抱えていたのだが、えっと・・・・その・・・・。
「妖精さん?」
「なんだ?」
「えっと、どうして僕は今、妖精さんが見えているの?」
「てーとくになったらしいな」
「あー、うん・・・・」
「しょてでおまえらをりよーするーとかいったクセに、からだハってたすけたらしいな」
「うん・・・・まぁ」
「あのせんたくはひじょーーーーーによかった。ほめてつかわす」
「どうも・・・・」
「・・・・まぁ、そういうことだ。あとはわかるな?」
「いや分かんないんだけど・・・・」
え?あの時何もしなかったら一生妖精さんが見えなかったってこと?え?・・・・・・え?審査厳しくない?
「そうだな。まぁぜーいんのはなしをきけばわかると思うぞ。おまえらー、でてこーい」
妖精さんが風呂場に壁面に向かって呼びかけると・・・。
壁の隙間から、タイルの裏から、照明の中から、シャワーヘッドの裏から、次々と(というかウジャウジャと)妖精さんが姿を現した。
「へんにゅーしてからのおまえはみてられなかったが、あのころせんせーとやらはやりてだな。いまはいーかおをしている」
さっきまで喋っていた妖精さんが僕の頭の上に乗ると、首にさげていた笛をピーッと吹いた。するとワラワラと出てきた妖精さんが慌てて10列縦帯で並び始めた。
え、かわいい・・・・。
妖精さんが並び終わると、頭上の妖精さんは僕の頭を小さな手ではたきながら眼下の妖精さん達に向かって言い放った。
「これよりカイトとのこーりゅーをきょかする!かくじ、すきなようにカイトとこーりゅーせよ!」
その瞬間、妖精さんの列がポップコーンのように弾け飛んだ。
「てーとくぅ!!!!」
「げへへへへへへへへ!!!!」
「うわぁああああああああああ!!!!」
「ころせころせ!!!」
「やっちまえぇ!!!」
「おまえらうるせぇえええええええ!!!!!」
「おまえもだまれぇええええええ!!!!」
「やぎにでんりゅーはしる!!!!」
「だいいっせいそれでいいのかよ!!!」
「やぎにでんりゅーはしるぅううう!!!!」
「てーとくぅ!!!!」
「よっしゃ!!!!とにかくよっしゃ!!!」
「うんちー!」
「やめないか!!!」
「まて、これはこーめーのわなだ」
「いや、ちょはっかいのわなだ」
「いや、くちさけおんなのわなだ」
「いや、・・・・おもいつかないよぉおおお!!!」
「どんまい!!!」
この場にいた全ての妖精さんが、入浴中の僕の顔面に突進した。
「え、ちょ、妖精さん!?!?」
「ふっ。あまんじてうけろ。・・・・・・・・ばにたすばにたーた」
「いやそれどこで知って、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」
フルチンのまま仰向けに寝転がると、風呂の床は思ったよりも暖かかった。
「ゼー、ハー、ゼー、ハー」
あの後。僕は嵐のような妖精さんを1人ずつブン投げたり風呂に沈めたりして妖精さんのジャレツキに抵抗した。そしたら妖精さんもノってきたらしく、各々が大暴れを始めた。
もうこうなったらヤケクソだーってかんじで、妖精さん全員と遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで、やがて妖精さんの方が遊び疲れると、妖精さん達は疲労で動けない僕を放って風呂場から出て行ってしまった。
いや理不尽すぎない・・・・?労いとか、ないの?
「つよくなったな、カイト」
某バトルマンガの最終決戦後のような青天をしていると、例の頭上にいた妖精さんが僕の胸の上に上がってきた。そして(どこから持ってきたのか)『球形の青黒い物体』を差し出し、こう言った。
「せんべつだ。うけとれ」
「何?それ」
「ユニオンコア・・・・まぁおまもりのようなものだ」
「お守り・・・・?」
妖精さんが渡すものは大抵バカにできないものばかりなのだが、果たしてコレは・・・・。
「まいばんコイツをふきつづけろ。そしたらピンチのとき、バリアをはっておまえをたすけてくれる」
「バリアって・・・・」
「いいか?まいばんだぞ?まいばんふけ。まいばんはなしかけろ。まいばんふろにもいっしょにはいれ」
「いや、その・・・・」
「へんじ」
「うっす・・・・」
謎は深まるばかりだった。