時系列的には試験の後。物語は一学期後半へ突入。
わちゃわちゃっぷりは残したいのですが、すこしシリアスに入ります。
※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意
幼い頃、バケモノに襲われたことがある。それは大きくて、強くて、恐ろしくて、何もできずに呆然としていた。 そこにその人が現れて、 一瞬で倒してしまったの。
転んでケガをした私に、泣くなと誰かが言った。 見苦しいと言われた。
でもその人は優しくしてくれたの。 私のケガを見て「痛いね」 「怖かったね」 って頭を撫でて、痛みをとってくれた。
それが、私の夢 の始まり。
「梅!」
背後から呼ばれた桜庭梅がパッと振り返る。それから真央霊術院の廊下を肩を並べて歩く二人の生徒の姿を見て目元を和らげた。
そんな梅の隣に志波一護と沖野心平はそれぞれ並んで歩き始める。
「5日ぶりだな! 元気だった?」
「もちろん元気だよ!」
心平の問いに明るく答えて、梅は握りこぶしを作るように腕を動かした。
真央霊術院には夏休み冬休みというものがない。正確にはとても短い連休が何度かあるのだが、尸魂界にはろくな観光施設がないし遊ぶところもない。テレビゲームはいつの頃からか普及しているが、それだってそうそう新作が入ってくるわけでもない。休みがあったところで遊びとは直結しないのである。そのため多くの生徒が各定期試験後に与えられるそのたった5日の休みを利用してすることは、実家に顔を出すという程度のことだった。
今日はその連休が開けた初日であり、学院としてはちょうど一学期の後半が始まるタイミングだ。
「心平くんは実家に帰ってたんだっけ?」
「実家っていうのかな」
沖野心平が首を傾げるのは、彼が流魂街の出身だからだ。
流魂街では血の繋がらない共同体での生活が与えられるのだが、そこを家族や実家と例える人とそうでない人がいる。
心平は彼らのことを家族のように思ってはいるが、共同の家を実家と表現するのも奇妙だと思っていた。
そういう流魂街の詳細については貴族である梅はあまり詳しくないのだが、同じ貴族でも志波一護のほうがまだ慣れ親しんでいると考えて、梅は「そういうものなの?」と一護に尋ねる。彼は没落したとはいえ貴族だが、生まれも育ちも流魂街のはずなのだから。
ところが一護は「さぁ、知らね」とそっけない。
「普通がどうかってのはよくわかんねーんだよな」
「そっか、そうだよね。志波のお屋敷ってあちこちに転々としてるって聞いたことあるし」
「屋敷? あれは屋敷なのか?」
一護は妙なオブジェが脇を固める謎の建物を思い出して首をかしげた。
「一護くんは帰省したんだっけ?」
「してねぇよ。あ、いや、したのか?」
一護は曖昧な答えを返した。
どういう意味? とありありと顔に浮かんでいる梅を見て一護は困ったように目を背ける。
志波一護は貴族だから尸魂界で生まれた。ということになっている。
梅も心平もそのように認識しているし、少なくとも志波一護の名前で彼を呼ぶ者は皆そう思っているのだが、実際は先々月死んだばかりの死人ほやほやだった。
なので彼にとっては実家は現世にあるし、帰省はそこへ帰ることだ。
そういう意味ならば帰省はしていない。そろそろ顔を出しに行こうかなぁなどと思ったりもしてるのだが、安全にあちらに行くには死神となり地獄蝶を連れなければならないので、そう簡単にもいかないのだ。頼めば一護の知り合いの死神たちは力を貸してくれそうではあるが。
なので、この休みに一護がした帰省に当たるものとすると、志波空鶴邸に行ったことだろう。
一護が真央霊術院に通うことができているのは、志波空鶴がその名を貸してくれたからなのだから。かといって全く無縁の関係というわけでもない。血縁であり、親戚だ。
尸魂界の貴族の血縁者が、なぜ現世にいて死して尸魂界にやってくるのか。
これについてはどうあってもうまく説明できないことなので、一護は誰にもそのことを言っていない。
一護はなんとかそれをごまかすことにして、梅に話を振る。
「そういう梅は実家帰ってたんだろ?」
ほとんど話をふることが目的の問いだ。梅も当たり障りのない言葉を返してくるはずだと一護は思っていた。
ところが梅は一瞬表情を固まらせ、答えに窮したように口を閉ざした。さきほど”元気だよ”と笑って返したはずなのに、まるで”実家でなにかあって元気がない”とでも言うような様子に一護は首をかしげる。
けれど梅のその反応は一瞬のことですぐにパッと笑顔になると「うん。帰ってたんだけどね。お父様ったらすごい喜んじゃって。まだ入学して二月なのにねー」となんでもないように笑った。
一護はふうん。と返す。
ああ、なにかあったんだな。とそう思いながら、詮索はしなかった。
尸魂界の貴族云々には、あまり関わりたくないというのが一番の理由だったが、梅が突っ込んで話を聞いてくれるなという態度だったというのも大きかった。
そんなことより。と梅が話を逸らす。
「休暇の前になんか新聞部からインタビュー受けたけど、あの後一護くんどうだったの?」
「どうって何が?」
「なんか新聞部の部長さんが一護くんにもう一回聞きたいことあるって言ってたよ。ねぇ心平くん」
「おう言ってた」
「俺話してねーな」
たしかにそのような事はあったが、二度も話をした覚えはないし最初のインタビューも何を話したか全く覚えていなかった。なぜならその時、一護は背後にピタリとついて飛んでいる羽虫に意識を割くので忙しかったのである。
試験の最終日の前日、一護は派手な問題を起こした。
試験中に突然いなくなり、その後更木剣八と盛大な鬼ごっこを瀞霊廷で行ってしまったのだ。もちろんだが別に一護が望んでやったことではない。
「こえーよ、あいつマジでこえー。俺ホントに一回あいつに勝ったのかよ」と以前にも言った言葉と似たような言葉をつぶやきながら逃げていたくらいなので。
しかし望まぬこととはいえど、おそらく最強ツートップの鬼ごっこは「しかたないよね」とは済まされず、お小言が一護に届いたのはその翌日。つまり試験の最終日のこと。寮にもどったらなぜか見知った隊長格がいて、それはそれは苛烈に怒られたのである。
あれは俺のせいじゃねーだろ!
という一護の抗議を「んなわけあるかい」と一蹴した五番隊隊長平子真子は、その後一護から聞いたあれこれを総隊長に伝えたらしい。総隊長は「それは困ったねぇ」と適当に言ったそうな。
軽いことこの上ない。
そうして翌日には「更木隊長からの襲撃を防ぐために一護の霊圧を抑える手段を外側にも作ろうと思うので、その準備としてこれをちょっと付けさせてほしいんだ」という言葉とともに、まぁそれはそれは気持ちの悪い羽虫、と呼ぶのもどうかと思うようななんかよくわからないモノを押し付けられた。
「誰の趣味だよこのキモチワルイ生き物? つかこれ生き物なのか?」と尋ねた一護にそれを持ってやってきた阿散井恋次は「涅隊長」と簡潔に答えた。
その時の気持ちと表情は言わずもがなである。
その後一週間ほど、一護はそのキモチワルすぎるなんかよくわからない羽虫にドキドキしながら生活していた。
ちなみに。その羽虫は連休中に抗議を行った一護のために外され、かわりにバングルのようなものを渡された。それを持っている間は霊圧が抑えられるとのことである。涅マユリいわく、更木剣八の眼帯のようなもの。らしい。あの虫はそれを作るために霊圧の観測を行っていたと事だった。
なお、霊圧を吸収するそのバングルを涅マユリが悪用しないように、バングルが不要になった場合は京楽春水にわたすことになっている。
「喜助くんに頼んで処分でもいいんだけど」と京楽は言ったが、一護は「いやそれはそれでなんか怖いからいいっす」と答えた。信頼してるけれど、ちょっと疑わしい怪しい下駄帽子。それが浦原喜助なのである。
「あの新聞て、一護くんが爆発させちゃった演習場のこと聞きたかったのかな」
「いやー、斑目副隊長とのあれこれじゃないか? それか四楓院様の件。だって弟子なんだろ? なんか噂で聞いたけど」
「あれって本当?」
梅と心平からじっと見つめられて、一護は後頭部をガシガシと掻く。
「あー。夜一さんと浦原さんの弟子で、他の隊長とも知り合いってのは、まぁホントだ」
答えれば、梅は心底納得した様子でうなずいた。
「なぁんだ、そっか」
「なぁんだってなんだよ」
予想外の反応に首をかしげると梅はえへへと照れたように眉をハの字にした。
「私、もしかして一護くんは黒崎一護様なのかなって思ってたんだぁ」
一護はぴしりと固まった。
そんな一護に気づかない様子で梅と心平がそれぞれ笑う。
「俺もそんな感じの妄想してたけどさ、ありえないよなーって思った。だってあの黒崎一護様だぜ? つーかそもそも黒崎一護様って実在すんのかって話もあるくらいだし。そりゃ一護はすごいやつだけどさ、鬼道とかダメダメだし」
「そーなの! もう斬魄刀も持ってるし、すごい霊圧おっきいし、瞬歩すごいしさ。それで普通の生徒ですって言う方がおかしいと思ってたの。でも噂が本当なら一護くんがすごいのは当然かもって思って。志波のお家の関係でお知り合いなんでしょ? それに考えてみれば、黒崎一護様だとしたらもうおじいちゃんだもんね」
「お、おう。そうだな」
などと返事をしながら、一護は苦笑いを返す。
どっちかというと、志波一護が黒崎一護ではない理由を一生懸命探しているようにも聞こえる。
実際そうなのだろう。一護が英雄だと正直皆困るのだ。なにせもはや神話の世界の存在に近い人が、こんな普通の男だったなどとは思いたくないだろうから。それはとても複雑な心境ではあるが。まぁ一護が黒崎一護ではない。と証明する方法はあまりないので、自己完結してくれるなら問題はない。
実際、一護が英雄と同一人物と断ずるにはどうしようもない壁がある。
それが梅の言う外見年齢だ。
仮に一護が志波の生まれではなく偽名だと察したとて、その外見を見ればまず英雄とは思わない。
梅が以前見せてくれた本には一護の絵が載っているのだが、それは一護が七十代に差し掛かった頃の似顔絵だった。そういう絵が与える印象というのは大きい。織田信長の教科書の絵がそうであるように。
しかも、一護の斬魄刀の形状や外見についてはあまり書かれていない。昔の天鎖斬月の印象がすこし書かれていたが、特徴的な出刃包丁の形については触れられておらず、一護の外見から人物を特定することが、あえて困難になるように編集されていた。
もしかしたら苦心の上の出版物なのかもしれない。
一護も当初は、試験のせいで正体がバレると思っていたのだが、そのような状況になっていない。それはきっと、そういうことなのだろう。あるいは別の誰かが手を回したか。
なんにしても、とりあえずうまいこと学生生活を続けられそうなことに胸をなでおろしたところで、一護は唐突に脚を止めた。
「どうした?」
心平の言葉に答えず、一護は周囲を見渡す。
一護は瞬間的な霊圧探知はそれほど得意ではない。しかしそれは隊長格たちに比べればといった程度で、例えば平隊士などよりは圧倒的にその能力は高かった。だから、他の生徒がわからなくてもソレに気づいた。痛いほど突き刺さる視線。気配。一瞬だけ通り過ぎるように感じた霊圧。
覚えのある霊圧ではない。しかしそれは死神の霊圧にほかならない。
一護はついと目を細める。
「ほんとにどうしたんだ?」
二度目の心平の問いに、一護は「いや」と返した。そしてもう一度周囲の気配を探る。しかしすでに先程の気配は消えていた。
一護は一瞬悩む。
「なにか、視線を感じた気がしたんだ」
結局そう答えると、心平が「視線?」と繰り返して先程の一護のように周囲を見渡した。けれど何も感じずに首をかしげる。
混乱させて申し訳ないと思いながら一護はそれが気の所為などではないと確信を持っている。それでも二人にそれを正直に伝える必要もないように思えた。
やはりなんでもなかったと答えようとして、一護は梅の様子がおかしい事に気づく。
青ざめて、胸の前で握る手はわずかに震えている。
心平もそれに気づいて、どうしたのかと尋ねようとしたが、その前に梅が震える唇を開いた。
「……視線て、何を見ていたのかな」
奇妙なことを聞くと、一護は思った。
普通”誰を”より”誰が”のほうが気になるものではないだろうか。もっと言えば”何で?”のほうがきになるかもしれない。
なのに、”誰を”見ていたかを尋ねるとは、まるで誰かが見ていることは知っていたかのよう。
一護はまた迷って、しかし結局正直に答えた。
「俺のことを見てたわけじゃないと思う」
だって、もし自分が見られていたならもっとわかりやすいだろうから。そういう経験は今まで何度もあるから、だからこそ違うとわかる。あれはきっとおそらくだが――。
すぐに、一護は自分の言葉を後悔した。わからないと答えたほうが良かったかもしれない。
眼の前で、梅が顔色をなくして息をのんでいた。
――おそらくあれは、桜庭 梅を見ていた。
読了ありがとうございます!
ここからはオリキャラである桜庭梅に焦点をあてつつ、一護の学生生活のお話になります。
そんなに長引く予定はないのですが、あえて会話シーンなど増やしているので、その分長くなるかも。できるだけ原作のキャラ出していきます。
それと、前回のお話への感想ありがとうございます。
それが欲しかった!という反応をいただけてなによりw
月島さんには今後もちょこちょこ活躍してほしいですね。
そのためにもということで、今原作の続編小説版を読み始めました。
途中なのでもしかしたら矛盾とかが出てくるかもしれませんが、捏造含んでますのでw優しく応援お願いします。
それでは、しばらくオリキャラが出張りますが、一護も活躍する予定なので引き続きよろしくお願いします~