黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
 霊術院の友達である梅が、厄介な四十六室の配下の一族と知った一護と、
 いろいろ抱えて鬱々としている梅の話。

 鰤のサントラ聞きながら書いてたら泣きそうになりました。
 

※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意


12.Stop the tear of the rainy season・3

 

 

 

 

 

 

「もう、わかりましたから」

 桜庭 梅は、誰も居ない場所にそう話しかけた。

 

 夕暮れ時の教室に梅はぽつりと一人残っていた。

 友である心平も一護もどちらとも寮に帰ってしまい、他の生徒も皆帰った。探せば生徒はいるだろうし教師もいるのだが、今は梅一人。

 そうして、誰もいなくなるのを待ってから梅はつぶやく。

 まるで独り言のようであったが、梅の声に反応する者がいた。

 

 ゆらりと何かが教室の隅に現れた。

 立ち尽くすようにひっそりと何者かが一人。黒い装束は死覇装のようにも見えるが形が違う。ピタリと四肢を覆い首と口元を隠している。隠密機動の装束によく似ていた。

 

「もう、わかりました」

 再び梅は呟いて立ち上がる。

「だからもう、帰って大丈夫。私は」

 言って、梅はうつむいた。決意は口にして伝えると取り消せないと知っている。誰かに伝えてしまったらなおさらだ。だから迷っている。それでも話かけた以上はなんでもなかったなどとも言えない。

「私は、決めましたから。ちゃんと決めました。もうちゃんと、帰るから。終わりに、するから」

 震える梅の声を聞いていたその者は、しばらく沈黙してからうなずいた。一瞬の後気配が消える。

 それを確認し、再び梅は椅子に脱力するように座る。

 カタンと小さな音を立てて椅子が揺れた。それ以外に音のない教室は梅の心の荒波を均してはくれない。

 梅は意図して深く息を吸い、それから大きく溜め息をはいた。

 これで、一護が感じていた謎の気配も消えるだろう。

 そして梅の抱いた夢も。

 消えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 ルキアとの報告会は、結局遅れてやってきた松本乱菊と檜佐木修兵によって飲み会に変わってしまい、店を変えての宴会となった。

 途中でルキアも帰路につき、一護は飲まされまくって見事に二日酔いである。

 身体が若いからか酒に慣れてないのかもしれなかった。

 ちなみに生前から一護は酒にはそれほど強くない。弱くもないが。松本乱菊のような酒豪と本気で飲むのはきついものがある。

 

 それで翌日は注意力散漫になっていて違和感を感じても気にしていなかったのだが、さらに翌日、また翌日と日がたってようやく一護は例の視線がなくなっていることに気がついた。

 正確には、まるで監視するかのように突き刺さっていた視線が一つを残してすべて消えた。

 今まで感じていた霊圧は複数あって、それは入れ替わり立ち替わり変化していた。

 おそらく複数人で交代制で見ていたのだろう。それがこの数日は一人だけだ。頻度も減り気配もやけに希薄になったのが明確に感じ取れる。嫌な感じは相変わらずだが、突き刺さるような鋭さは成りを潜め”ただ見ている”という感覚に近くなった。今まで感じていた視線が急になくなって違和感はあるが、生活的にはかなり楽だ。

 もしかして、ルキアが言っていた隠密機動の警邏隊が動いてくれたのだろうか。それならば近々報告があるかもしれないなと思う。

 よかったのは一護が反応を示さなくなったため、梅も青ざめることがなくなったことだろう。

 にも関わらず、彼女は気が抜けるかと思えばそうでもなく、むしろ思い詰めたような鬱々とした空気は悪化しているように感じた。

 

 やはり、家のことが関係しているのだろうか。

 中央四十六室。

 生前何度か聞いた言葉だが、あまり良い印象は無い。

 いろいろあって中身の人が総入れ替えになり少しは良くなったと聞いてはいたが、それもどんなものか。結局権力者という立場は変わらないのだし、あの大戦でも大きな変化がなかったと言うからまったくもってしょうがない。

 なんにしても一護はあまり良く思っていないが、別に権力をもっているのは彼らだけではない。

 護廷十三隊も権力者だ。

 彼らとは親しいし、実力重視の戦闘部隊というイメージ故に政治的なものから離して考えていたが、京楽の様子を見るぶんには彼らもまた政治の流れの一つなのだろうと思わせられる。

 今回一護が霊術院に入るときだって彼らに対する牽制が必要だったというし。切っても切り離せない関係と言うやつなのだろう。

 かつて忌避した掟を護る立場になるというのは、奇妙な感じがした。

 

 梅は、一護よりもそうした権力者に近いところにいるのだ。学生という身分でそこに関わるというのはどういう心境なのか。

 少なくとも気分は良くなかろう。

 監視されているということが、そこと繋がるならばなおさら。

 

 一護もまた、そうして悶々と考える生活が続いていたある日、突然梅に話があると呼び出された。心平も同様に呼ばれており、三人で夕暮れの教室に残る。

 しばらく雑談をして、会話が途切れたころ、しばしの沈黙の後に打ち明けられた梅の言葉に、一護は目を見開いた。

 

 

「学院をやめる?」

 あまりのことに驚いて、心平が大きな声をあげた。

「うん。ちょっと家の事情でね。中退することになるかもしれないの」

 困ったように小さく笑って梅は言う。

 家の事情。と一護は口の中で呟くが、掛ける言葉をうまく見つけられずに黙り込んだ。そんな一護とは反対に、心平は困惑のまま尋ねる。

「かもって、まだ決まってないのか?」

 決まっていないなら。という若干の希望を感じる言い方に、梅は申し訳無さそうに目線を下げた。

「あ、ううん。決まってる。決まったよ」

「そんな、いきなり……」

「うん。でもしかたないというか」

 梅は静かに笑った。あきらかに無理して笑っているのが心平も一護もわかったので、思わず互いに目を合わせる。

 

 梅が打ち明けたのは「霊術院を中退することになった」という報告だ。

 予想していなかった展開に驚く二人に、梅はただただ切なそうにするばかりだ。

「家の事情って?」

「うーんと、家業を手伝うことになって」

 まるで当たり障りのない返答に心平は不服そうに唇を歪めるが、となりの一護はというと彼女の家業を知っているだけに複雑な心境だ。

 それはつまり、四十六室の配下である衛視隊に入るということではないだろうか。

 

 ルキアからきいた話によると、衛視隊というのは隠密機動の組織には属さずに中央四十六室から直接命令を受けて動く裏の組織なのだという。

 仕事の内容は多岐にわたるが、主に四十六室の”護衛”と護廷十三隊の”監視”そして時には貴族間の争いの手足となって動くこともあるのだという。実際にどう動くのか何をするのかについてはルキアもためらって詳しくは聞けなかったのだが、その中には”暗殺”なども含まれるとか。

 裏の組織というだけあってあまり明るい仕事ではないらしい。そこに入るというのは、梅が目指すものとはかけ離れているように思えてならない。

 一護はじっと梅を見つめるが、梅はわずかにうつむいたままで心平のことも一護のことも真正面から見ようとしない。まるで後ろめたいことがあると言っているようで、一護はため息をついた。

 

「夢はどーすんだよ」

 ぶっきらぼうに尋ねる。

「四番隊に入るんだろ? たくさんの人を助けたいんじゃねーのかよ。あきらめんのかそれ」

 言葉に窮したように梅が黙り込む。

「おめーが決めたってんならいいんだよ。でも悩んでるじゃねーか。俺でもわかる」

 できないと思いながらも、諦めきれずに目指すのだと笑っていた梅と、それが叶わぬと悲しそうにしていた梅。その両方の顔を一護は覚えていた。諦めきれない理由があるのに、諦めようとするのは見ていて気持ちのいいものじゃない。

 もともと神妙に話すような性格でもないのだが、親しいと思っている友人が相手だ。発破をかけるくらいはする。だから、あえて乱暴に揺さぶるように話しかけた。

 

 誰だって、いろんな事情があるのはわかっている。目指したいものがあるからってそれが必ず成し遂げられるわけでもないことも。けれどやると決めたならそのために出来ることをすべてやらなくては絶対に後悔する。それだけは知っている。

 なぜならずっとそうだったから。できない。無理だ。勝てるわけがない。逃げろ。そう何度も言われたことがある。言われるたび、思い知るたびにそれでも戦ってきたのは、そこで諦めたら何もかもがこぼれていくと思ったからだ。諦めて目を瞑れば後悔すると知っていたからだ。

 諦め、それで別の道を進むのだと決めたならそれでもいい。

 けれど絶対に後悔するとわかっているのにその道を進んだところで、その予想が外れることはきっと無い。

 

「できること全部やったのかよ」

 

 限界まで足掻いて、抵抗して、戦ったのか。

 

 梅は泣かなかった。ただ、膝の上でぎゅっと手を握りしめてうなだれるだけだ。

 表情は怒っている。

 悔しいと言う気持ちが、ありありと浮かんでいた。

 

「……してない」

 梅がつぶやく。

 

「まだっ、してないっ」

 

 唇をぎゅっと噛み締めて、梅は一護を睨んだ。睨むように見上げた。

 

「そうかよ」

 

 ならばと、一護は梅の手を掴んだ。

 そのまま強引に立ち上がらせる。

 驚いて目を白黒させる梅をそのまま連れて一護は歩きだした。

「心平。ちょっと梅と行くとこできたから、おまえ帰れ」

「はぁ?」

 驚いた様子の心平を置いて、一護は梅を引っ張りながら教室を出る。途中荷物を掴むことも忘れず、梅の荷物をもつとそれを梅の開いている手に押し付けた。

「い、一護くん!?」

 驚いているのは梅もだが、有無を言わさずに廊下を行く一護に心平も慌てた様子で待ったをかける。

「おい! 一護! どこ行くんだよ!」

「便所!」

 咄嗟に出た一言は、昔よく言葉にした妙な言い訳だった。

 

 

 ぽつりと残された心平がつぶやく。

「便所って……梅つれて行くとこじゃねーだろ」

 

 後に、さんざんからかわれることになる。

 

 

 

 

 

 

 ズンズンと地面を蹴って、一護と梅は歩いていた。

 制服のまま学院の外にでてしまったためか、歩くほどに周囲の目線が突き刺さる。せめて一護に止まってほしいのに脚を止める気配すらないため、後ろをついて歩く梅は大変気まずかった。

「あの、一護くん?」

「ちょっと付き合ってくれ」

 話しかけてもこの調子だ。何度も話しかけても結果は一緒。

「連れていきたいとこがある」

 ただそう言ったまま、どんどん瀞霊廷の中心に向かっていく一護に梅は首をかしげる。

 この方向に何があっただろうかと思いながら。

 似たような道を通りながらも、迷いなく一護は進み、やがて近づいてきた建物に梅は狼狽した。

「い、一護くん!? ここ四番隊の……」

 

 そこは四番隊、綜合救護詰所だった。

 

 綜合救護詰所は要するに病院だ。瀞霊廷の中での怪我はここで治療される。真央霊術院も瀞霊廷内にあるため、当然大怪我をすればここへ運ばれるがそうそう来る場所でない。

 少なくとも梅は一度もこの中にまともに入ったことはなかった。

 うろたえる梅の問いに答えず、一護は相変わらず迷いなく進むと気負うことなく中に脚を踏み入れた。

 当然だがそこには死覇装の死神ばかりで、梅は顔をこわばらせる。

「い、一護くん」

 なんでそんなに堂々としてるの? と半ば悲鳴を上げたくなるような心境だったが、結局声を出すのも憚られ、小さな体をより小さくして梅は一護について歩くしかない。

 

「あ、どーも」

 途中にすれ違った隊士に一護は声をかけた。

 知り合いなのだろうかと訝しがる梅の目の前で、話しかけられた男は目を丸くする。

「く!」「しー!」

 何事かを叫ぼうとした相手の口をものすごい速さで一護は塞いだ。

 さすがに驚く梅だが、相手もそうだ。びっくりしたという顔で一護を見ているが、やがてなにかに納得したのか小さくうなずいた。それと同時に一護は塞いでいた口を自由にすると、そのまま近づいて小言で何事かをささやいた。相手は何かを心得たという様子で同じく小言で答え、それから道の先を指さした。

「多分第二処置室にいると思いますよ。さっきちょうど治療が終わって休憩中です」

「わかった。ありがとう荻堂さん」

「いえいえ」

 

 荻堂と呼ばれた人は朗らかに手を振って去っていく。その後姿はどこか楽しそうだ。

「一護くん、今の方知り合い?」

「まぁな」

 素っ気なく返事をして、一護は荻堂が指さした方向に迷わず歩き出した。

 途中何人かの死神に驚いた顔をされたり、ぎょっとされたり、ときには顔を赤くした隊士に逃げられたりと、妙な反応をされながら一護と梅は歩き続ける。

 もう混乱どころではない梅はぐるぐると目を回す勢いだ。頭痛すらしてきた気がして、目を細めるしかない。

 

 つかつかと歩いていた一護だが、ふととある扉の前で静止した。部屋の名を確認しようとして視線を巡らせている間に、一護は梅を置いて開きっぱなしになっている部屋の扉をノックした。

 

「え、一護さん!?」

 

 聞こえたのは若い男の声だった。どこか頼りない、自信なさげな。

 最初部屋の外で待っていようとしていた梅だったが、好奇心にまけて部屋の中を覗く。

 そこは小さな部屋だった。綜合救護詰所全体が消毒液の匂いがするが、この部屋は廊下よりずっと匂いが濃い。ソファや机が簡単に置いてあり、壁一面に書類や瓶が並ぶその部屋にはもうひとつ扉があって、そこには”第二処置室”の文字があった。

 さきほど荻堂が言っていた部屋はここかと納得しつつ、なぜ一護がここへまっすぐ来れたのかと不思議に思う。

 ずっとここまで迷わなかったし、やはり一護は綜合救護詰所に慣れ親しんでいる様子だ。

 梅は不思議に思いながらも改めて部屋を眺めた。

 一見、一護以外には人がいないようにみえる。一護は誰と喋っているのか。

 

「ちょっと今時間あるか?」

「い、いいですけど、どうしたんですか? というかその格好は」

「ああ、真央霊術院にかよってて」

 

「ええええええ!!!!!」

 

 大きな声が聞こえて、梅はびくりと肩を震わせる。そこでようやく、一護の身体の影に隠れて見えなかっただけで、小柄な男がいることに気がついた。

 

「え、え、ええええ」

 男がふたたび気の抜けるような情けない声を上げる。

「びっくりすんだろ! でけー声出すなよ!」

「す、すみません」

「たく……んな驚くことか?」

「驚くことですよ! 一護さんが学院だなんて、み、皆さんが知ったら……」

「大体みんな知ってるだろ」

「え、そうなんですか? 僕聞いてませんでしたけど、すみません」

「そうだったか?」

「そうですよ。前にお会いしたときはそんなこと一言も……そうですよね。僕に話す必要も……でも教えてほしかったです」

 

 見るからに力関係が出来上がってるような気がして、梅はわけがわからなくなる。

 この人は誰なのだろう。

 そう思っていると、一護がくるりと振り返って手招きをした。

 恐る恐る梅が近づけば、その男は梅とそう身長のかわらない、やはりどこか気のよわそうな隊士だった。

「一護さん、彼女はえっと」

 男も梅と同じくらい困惑と緊張の中にいるのか、不安そうに一護を見る。

「俺のクラスメイト、あー同級生。梅っていうんだ」

 すると男はやはり困惑しながらも一応納得したという顔でうなずく。自信はなさそうだが、柔和な表情で優しそうだ。

 

「えっと」

「はじめまして、山田花太郎です」

「あ、はじめまして」

 さて、どこかで聞いたことのあるような名前である。

 花子とか太郎とか、そういう意味ではなく。なんだか音として聞いたことがあるのだ。さてどこだったかと内心首をかしげていると、一護が爆弾を投下した。

 

「そんで四番隊第三席だ」

 

「え」

 

 思わず花太郎と一護を交互に見る。

 

「あってるよな」

「そうですよ」

 

 三席。

 三番手。

 四番隊で三番目に優れた人。

 

 山田……

 

 

「山田花太郎三席!?!?」

 

 梅は悲鳴のように声をあげた。

 聞いたことがあるに決まっている。四番隊でおそらく最も有名な人物。短い間に三席にまで上り詰めた人物だ。

 そうして呼ばれた花太郎はちいさくなって頭をさげた。

 

「は、はい三席です。すみません!」

 

 

 再び梅は「えーー!」と声をあげる

 その横で一護が呆れた様子で「何で謝るんだよ」と冷静にツッコんだが、梅にも花太郎にも聞こえてはいなかった。

 

 

 

 ここ最近の鬱々という気持ちが、一瞬すっ飛んだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 







 どうもこんばんわ。
 投稿がいつも夜なんだから”こんばんわ”が正しいんじゃ? となっている作者です。

 いつも感想ありがとうございます!
ほんっっっっっとうに感想あるから続けられてる!!
気持ちをお返しする方法がないのであとがきにかきます!!
ありがとうございます!!!

 

さて、思ったより不穏な感じにすすめてますが、本筋にはまだ遠いというところなんです。なにせ題名は《護廷十三隊物語》なので。
 久保帯人先生の構成とかをじっくり勉強したいところです。

 とうとうでてきちゃった花太郎です。だいすきですね。彼が居なきゃそもそも一護は最初にルキアを助けに行けなかったんですよ。すごくないですか。
 あのころを見直してすごい作品だ。と感動しています。

 それでは。次回は花太郎が喋る。喋る! 多分。
 
 
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