一護に四番隊に連れてこられた梅は花太郎と話をすることに。
今回は完全梅ちゃん目線でお送りします。
※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意
愛であり
慈悲であり
優しさであり
喜びであると
決めるのはいつもあなた
桜庭 梅は子供の頃から友人を作るのがあまり上手くなかった。
引っ込み思案だったわけでもなく、誰かに話しかけるのは比較的得意で、それなのに友人と呼べる関係になるのはいつも遠かった。
真央霊術院に入学した日、 梅はいつものように困っている人に声をかけた。
橙色の髪の背の高い男の子。 所属するクラスがわからないと困っていたから何か手助けできるかもと思ってのことだった。
名前を聞いた時、 梅は驚いた。
彼の名前は、志波一護といった。
一護くんと呼ぶようになるまでにはそう時間はかからなかった。
彼は基本的に物事に無関心を装っていて、あの志波家の人なのに、いや、だからなのか、 貴族のことには特に興味がないように見えた。 だからとても梅にとっては居心地が良かったのだ。
その彼がかなり変わった人だということに気づくのにも、そう時間はかからなかった。
あらゆることを特別に免除されていて、もしかしたら入学試験も免除されている。免除されているから能力はわからなかったが鬼道は壊滅的で、 瞬歩は目で追うこともできないほどの速さ。 すでに斬魄刀を持っていて、それは見たこともないほどの大きさ。 それから勉強はできるのに尸魂界の歴史には疎く、あの英雄の名を持っているのに詳しく知らないという。 変な人。
でも。いい人。
先月、試験があった。
鬼道で演習場を吹き飛ばし、瞬神夜一様と一対一での瞬歩の実演を行い、 斑目副隊長との斬術の試験ではあまりの強さに目をうたがった。 それは途中で見れなくなってしまったが。
あとで夜一様が言っていたという話が五回生から流れてきて、彼が瞬神夜一様と浦原喜助様の弟子だということがわかって、それが理由で隊長たちとも知り合いで、そういう関係が子供の頃からあるために常識知らずなのだと知った。
本人に聞いたら、まぁ、そういうことだ。 と彼は言った。
ちょっと設定盛りすぎな気がする。
でもやっぱりいい人だ。
不器用だけど、ぶっきらぼうなところがあるけれど、やさしくて、なんだか側にいると力をもらえる。そんな人。
でも、まさか相談をした途端にこんなところに連れてこられるとは思いもしなかった。
四番隊の綜合救護詰所。
目の前の人物の正体に絶句して言葉もないまま、ただただ硬直している梅の前に、一護はひらひらと手をかざした。
「おーい。生きてるか」
「はっ!」
我に返り勢いよく頭を下げる。
「さ、桜庭 梅です! よろしくお願いします!」
梅の正面に立ったその人は慌てた様子で「山田花太郎です。よろしくお願いします!」とこちらも梅と同じくらい緊張した様子で頭を下げた。
「自己紹介2度目だな」
二人が頭を下げているその頭上で、冷静な一護のツッコミが通り過ぎる。
当然だが梅の頭の中はそれどころではない。
山田花太郎三席。
四番隊でおどろくほど出世の早かった人物で、かつての大戦では最前線に向かい治療にあたったという(実際は何もしてないが)。戦闘員としての実力もさることながら、抜きん出た回道の技術を有する。四番隊に憧れるものなら誰でも知っている人だった。(ということになっている)
もちろん梅も知っている。
席官になりたいなどと言ってもこの人を超えることは考えられない。そんなある種雲の上のような人、のはずなのだが。
梅はさらにわけがわからなくなっていた。
なぜ。なぜ一護はこの人とこうも親しげなのか。そもそもどういう知り合いなのか。どうしていきなりやってきた一護を誰も咎めないのか。意味がわからない。
混乱する梅を放置して一護は花太郎に話しかける。
「ちょっといろいろあってさ、こいつの話きいてやってくんね?」
「え、え、話ですか? 僕がですか?」
「おう」
「ちょ、いい一護くん!?」
それはもうとてつもなく忙しいだろう人になんて頼み事をするのか。あわてて制止する梅をやはり放置して、一護はうなずく。
「こいつ四番隊に入りたいんだけどさ」
「一護くん!?」
「進路で悩んでるみてーだから」
それは別に間違っていないのだが、それを相談する相手としてはあまりにもだいそれた相手すぎる。そう思って梅が必死に一護を止めようとすると、彼の大きな手ががしりと梅の頭を掴んだ。何事かと目を白黒させる梅だが一護は気にした様子もなく梅の頭をぐいぐいと押した。
じたばたと梅が暴れる目の前で花太郎が困惑した様子で首をかしげる。
「ぼ、僕でいいんですか?」
などと見当違いな返事をする花太郎に、梅は声に出さず悲鳴を上げる。
もうどうしたらいいのか本当にわからなくなって、それでも爆発して真っ白になるには無理な程度には理性がまだ働いているせいで、どうしたって全力で拒否できない。
「いいよな、梅」
「ええ!? だ、え!?」
それはもちろんこんな人と話せるのは嬉しいが、しかし今悩んでいることをまさか彼に話せというのだろうか。
そんな無茶な。
かといって花太郎では駄目などと口が裂けても言えないし思ってもいない。
「じゃあわりぃけど頼むわ」
「一護さん? え? ど、どちらに?」
「俺がいると話しにくいだろ」
「はえ!?」
むしろ行かないでという梅の叫びが聞こえるわけもなく、一護はそそくさと部屋を出て行ってしまった。
「い、いいい一護くーん!」
「いい一護さぁぁん!」
二人の情けない声が響いたが、当然返事はなかった。
一護が去って数分。
取り残された二人はそろって気まずげにソファに腰掛けていた。
最初に声を上げたのは梅だ。
「あ、あの、一護くんがすみません。その、えっと」
とりあえずはまず無礼を謝らねばという気持ちで言ったのだが、花太郎はびっくりしたように両手を顔の前でふりながら首を左右に振った。
「そんなっ。大丈夫ですよ。一護さんですし」
まったく大丈夫な理由がわからない。
おずおずと下げていた頭を上げれば、机を挟んで正面のソファに座っている花太郎が眉をハの字にしながら笑っていた。
「一護さん昔からあんな感じですし」
「昔から……」
「びっくりするくらい、こうと決めたら曲げない人ですから」
ああ、それはわかる気がした。
頑固と言っていいのかはわからない。どちらかというと人の話はちゃんと聞く方だと思う。ただ決めたことは本当に曲げない。
例えば回道の授業がそうであったように、出来るようになると言い切って本当に出来るようになってしまった。それは彼の才能も関係があるのかもしれないが、性格的な迷いのなさもそれを助けているのかもしれない。
そういうところが花太郎の言う通りならきっと幼い頃からなのかもしれない。
「あの、一護くんとは、その……どういった?」
関係なのか。
尋ねると花太郎は困ったように「うーん」と唸る。
「えっと、僕にとってはすごい人って感じなんですが……多分”友達”とか”仲間”とか? そういう感じだと思います。はい」
全く説明になっていないどころか、さらによくわからなくなってしまう。
梅の頭上にハテナが飛んでいたのだろう。花太郎はしどろもどろになりながら「えっと、恩人というか。えっと」と言葉を探している。これはあまり聞かない方がいいのかもしれないと梅が気づいたころには、花太郎のほうもまた頭上にハテナを飛ばしていた。
「す、すみません。うまく説明できなくて」
「そ、そんな! こちらこそすみません。変なこと聞いてしまって」
と言ったものの、別に変なことも聞いていないはずである。
この件は一護にきいたほうがよいと判断して、梅はそこで押し黙った。
一護は話を聞いてもらえといっていたが、どう話して良いのかわからない。結局うつむいてモヤモヤと悩む。
梅は四番隊に入りたかった。
けれど家のことがあって、それができなくなった。仕方ない。そう思っている。なのに、諦めようとしているのに一護はそれを許してくれない。本当に諦めるのか。諦めたくないと戦ったのかと問われてしまえばそれは否だ。
でも逆らえるわけなど……。
「あの、梅さんと呼んでもいいですか?」
「え、あ、はい」
ぱっと顔をあげれば、こちらを気遣うような表情の花太郎が居た。また申し訳なくなって頭を下げそうになるが、逆に顔を見ないのも失礼かと思い結局おずおずと顔をあげる。ただ真正面から見る事ができずにうろうろと目線がさまよった。
反対側で花太郎も同じくオロオロしているのに梅は多分気づかないためただひたすらに沈黙がつづく。
その沈黙を破ったのは、今度は花太郎だった。
「えっと、四番隊に入りたいって、ことですよね。ええと、僕で良ければお話聞かせてください。なにか、悩んでいるってことなんですよね」
花太郎の優しい言葉にほんの少し嬉しくなる。
しかし悩みを話しても良いのだろうか。
梅の悩みは多分あまり人に話してはいけない事なのだと思われた。だから一護には詳しく話せていないし、花太郎にだって話せない。
結局話せるのは家の都合で学校をやめることになったということだけだ。
ただ、あの時一護や心平に話したときと違うのは、辞めるという報告ではなく、やめなければならないけれどやめたくない。という相談だということ。
そういう相談は、たしかに同じ学生にするよりも現職の人に聞く方が良いかもしれない。だから、相談するにはふさわしい相手を一護は選んでくれたように思った。
梅は悩んだ末に、すこしだけ話をすることにした。
ほんの少しだけ。
「あの、私ずっと四番隊に入って、たくさんの人を助けたいって思ってたんです。そのために回道の勉強もいっぱいしてて……。でも、ウチは私が四番隊に入ることに反対してるんです。本当は学院に通うのも反対されてて」
梅はそうして、家の事を話した。
桜庭家は代々特殊な立場で、護廷十三隊には入れない。入れないから学院への入学もあまり推奨されず、内々で家庭教師のようなものをつけて訓練させることのほうが主流だ。
梅は三女で、上の二人の姉はそうして勉強し家業についた。
姉たちには特に夢などがなかったらしく抵抗もなく家業を継いだが、梅はというとそうではない。
「わたし、昔四番隊の方に助けていただいたことがあるんです」
そう言うと、花太郎はすこしだけ驚いたように目を丸くした。
「女の人でした。やさしくて……。顔はあまり覚えてないんですけど、一緒にいる四番隊の方々にとても尊敬されているように見えました。私、その人の役に立ちたくて、最初回道を学び始めたんです。でも」
でも、ある時回道をつかって人を助けたことがあった。
怪我をしている流魂街の人。本当に偶然怪我をしているところに出くわして、それでやってみただけのことだった。
そのとき言われた一言がずっと心に残っている。
「ありがとう。たすかったって、それだけだったんですけど、すごくうれしくて」
自然と梅は微笑む。
本格的に梅が将来を見据え始めたのはその時だった。
梅の父はそれを喜んでくれた。上に二人もいるのだから大丈夫。そう言って梅を学院に送り出してくれた。けれど。
「お祖父様はそうではなかったんです」
梅はぎゅっと膝で手を握りしめた。
「その、上司がいるんですけど、その方々に気に入っていただければ重要なお仕事ができたりするんです。姉二人はあまりそういうのが得意じゃなかったらしくて」
「それで、梅さんにもお仕事を?」
「……はい。そのために、学院をやめなきゃいけないって言われました」
「それは……断れなかったんですか?」
「……」
梅は沈黙を返す。
昔から梅は祖父が苦手だった。
何をしても怒られた。ときには拳が飛んでくることもあった。怯えて、いつも口答えなどできなかった。
父も祖父にはあまり対抗できず、結局梅の夢は祖父の願いによって叶えられなくなってしまったのだ。
梅は一度も、いやだと言えなかった。
ただの一度も。
花太郎はうつむく梅を見ながら、ある人物を思い出していた。
かつて二人で話をする時間が与えられたとき、彼女から色んな話を聞いた。
現世でのことだけではない。学生時代のことなどもだ。
貴族の養子となって学院を去らなければならなかったこと。本当はもっと一緒に居たかった人がいたのにそれができなかったこと。その人と距離をとらなければならなくなったこと。養子になどなりたくないと断れなかったこと。それを本当に長いこと後悔したこと。
後に彼女はその選択をよかったと心から笑っていたけれど、そこまでに長いこと苦しんだことを花太郎は聞いて知っていた。
梅と彼女は違う。全く違う。
けれど同じように与えられた未来に抵抗することができなくなっている。そうして同じように学院を去るという結論を出している。それがとても寂しく思えた。
「梅さん」
花太郎は静かに梅を呼んだ。
揺れる瞳で梅は花太郎を見る。それに笑って答えると、花太郎は梅に言う。
「ちょっと、僕と一緒に来てもらえますか?」と。
梅は花太郎に言われて綜合救護詰所内を歩いていた。
先程の一護のように早足ではなく、ゆったりと。
パタパタと走り去っていく人たちの中を歩くうちに花太郎はある部屋を訪れた。
待合室のように複数の椅子が置かれたそこには数人の死神がいた。誰もが大なり小なり怪我をしていて、あちこち包帯を巻いて椅子に座ってじっとしている。
そのうちの一人に花太郎は声をかけた。
「どうですか? 痛みは?」
尋ねられた死神は、どこかホッとした様子で花太郎を見あげる。
「ちょっと、痛みが」
と言って包帯を巻いた腕をさする。
「ああ、傷口に触ったら駄目ですよっ。応急処置はしてありますがまだ塞がってないんですから」
「そ、そうですね」
慌てて手を離した死神のかわりに、今度は花太郎がそっと腕の怪我に手を当てた。それから振り返って梅を呼ぶ。
「梅さん、回道で治してみませんか?」
「え、わ、私がですか?」
思わず驚く。患者である死神もわずかに驚いたようだった。それはそうだろ。梅は学院の制服を来ているのだから。
「はい。あの、僕もお手伝いしますから」
梅は一気に心臓が音を立て始めたことを自覚した。緊張。酷い緊張だ。
傷の治療の経験はある。けれどそうそう何度もあるわけでもない。怪我人にそもそも会えないのだから、怪我をした動物や流魂街の住人の治療しか経験にない。
断ろうとする梅だったが、花太郎の視線を受けてそれを思いとどまる。
できなくてもいいからやってみて。という顔だった。
このままでは患者も不安になる。失敗しても花太郎がどうにか治してくれる。
梅はゆっくり膝をついた。
花太郎が包帯を解き、あらわれた傷にゴクリと唾を飲み込んでからそっと手をかざす。
「ち、治療します」
そうしてゆっくりと霊力を流し込んだ。
はじめは消費した霊圧を。それからゆっくり怪我を治す。
もともと消費した霊圧はそれほど多くはなかったらしい。
傷はみるみるうちに塞がって、つるりと傷のない肌へと変化した。
汗がたらりと頬を伝う。
「お、終わりました」
どの程度の時間をかけていたのか梅にはわからない。一瞬だったようにも数分だったようにも思う。
集中が途切れて周囲の音が入ってきたが、それでは時間経過もわからない。おずおずと花太郎を見れば特に問題なさそうだ。むしろどことなく嬉しそうに微笑んでいた。それから患者の様子を見る。こちらも何事もなかったかのようにケロッとした顔で、傷の消えた腕を見ていた。
それから梅をちらりとみると、死神が笑う。
「ありがとう。助かった」
梅は、泣いてしまいそうだった。
鼻筋が熱くなって、じわりと目元が歪む。
唇を強く閉じて、小さく素早く首を振った。
「……いいえ。治って、よかったです」
声が震える。手も震えていた。
たった一言が、こんなにも嬉しいなんて。
患者は立ち上がると花太郎にもお礼を言って去っていった。
花太郎はそれを見送って、それから梅を立たせる。見上げた花太郎の表情は穏やかで、でもやはりどこかオドオドとしていて自信がなさげ。それでも優しく笑うから、やはり梅は少しだけ泣きそうになった。
立ち上がった花太郎が次の患者の元に向かうのについていく。
誰もが梅に一瞬驚いて、けれど治療をすれば「ありがとう」と言った。
言われるたびに、梅は胸が締め付けられた。
喉がつまったように声がでなかった。
そうして何人かを治療し、部屋に居た患者たちがある程度少なくなった頃、常に前を歩いていた花太郎がゆっくり振り返った。
「悩んでいる貴方をこんなふうに後押しするのは、本当はよくないかもしれないですけど……」
そんなことはないと梅は首をふる。
たしかに、夢をなおさら諦められなくなっただけかもしれない。
でも、やはり諦めたくないのだと自覚することにもなって、それが嬉しかった。
こんなにもなりたいと思うものがあるのに、諦めてしまおうとする自分が情けなくて、悔しくて、悲しい。
ふたたび首を振った梅を見て何を思ったのか、花太郎はどこか懐かしそうに目を細めて何かを思い出しているような口ぶりで話す。
「闘うのって怖いですよね」
だって命がけだ。
怖いのは怖いに決まってるけれど、強い人はそうではないのかと思っていた。
そう言うと、花太郎は困ったように笑う。
「そういう人も、居ますけど……。でもやっぱり強い人でも怖いと思います。多分ですけど、それを言わないし、みせないだけで」
そうだろうか。
そうかもしれない。
「でもそれでも戦っている人を僕はかっこいいって思うんです。見てる側は心配になるけど」
最後のほうは困ったように笑って花太郎は言った。
「でも、戦いたいって思っているなら、僕たちはその手助けを精一杯するしか無いんです。それが四番隊の務めだから」
治せばまた戦いに行ってしまう。それもまた恐怖だ。
でもそれでも手を貸して治すのは、それが務めだからだ。それが自分にできることだから。
「梅さん。四番隊にぜひ来て下さい。一緒に戦いましょう」
いつもオドオドしている彼がそんなふうに笑うのは、実は貴重なことなのだと、そんな事知るわけもなく、ただ梅はまた少しだけ泣きそうになった。
そして結局。ただ声も出さずに、けれどしっかりと首を大きく縦に振った。
もう一度頑張ろう。
自分の意思を伝えよう。
そう覚悟を決めて。
部屋に戻ると、いつのまに戻ってきたのか一護がのんびりソファに腰をかけて医学書を眺めていた。
「ああっ! 一護さん! すみません、お茶も出さずにっ」
と花太郎は言うが、一護の前にはしっかりと茶が出ている。茶菓子付きだ。
一護は片手をあげるとひらひらと振って気にしてないことを示す。
「別にいいって、他の人が出してくれたから」
よくよくみると先程までなかったクッションやらお菓子やらがあり、よくわからない紙袋まである。そっと覗けば中は尸魂界の高級和菓子屋の箱だった。
なぜそんなVIP待遇?
やはりよくわからない。
疑問に思っていると、一護が梅をみて小さく笑った。
「なんか吹っ切れたみてーだな」
「あ………」
言われた梅は、ちょっと泣いてしまったから目元が赤い。けれど一護はそれには反応しなかった。
それは妹がいるからこその一護の慣れた気遣いなのだが、梅はただ嬉しいばかりだ。
一護が何を考えてココに連れてきたのかはわからない。でもこうして花太郎と話すことで梅は迷いを振り切ることができた。闘う覚悟ができたのだ。
それは一護のおかげだ。
「うん」
はにかむように答えて、梅は小さくうつむく。
彼がいてくれてよかったと思うと同時に、もし。とあり得ない想像をする。
「どうしました?」
心配そうな花太郎になんでもないと首をふって、梅は笑った。
「一護くんが、黒崎一護様だったらよかったのになぁって」
何をばかな。と笑われると思った。
でも顔を上げれば妙な顔をした花太郎と一護が視界に入ってくる。
「あ、えっと、その、そうだったらなぁって思っただけで、むしろ居なかったらもうちょっと簡単だったというか」
ますます訳の分からないことを言っている自覚があって、梅はぐるぐると思考を巡らせる。
ええっと。っと言葉を濁していると、一護がふっと立ち上がった。そのまま目の前までやってくる。顔を見れば意外なことに困ったような表情をしている。
「なぁ」
「はい!」
「今回のことと、黒崎一護が関係してんの?」
予想外のセリフに梅はびっくりして目を見開く。
核心をつかれたのだ。
花太郎にも話していない。核心を。
答えられない梅に、一護は追い打ちをかけるように言葉を重ねた。
「やっぱり、四十六室からなんか言われてるのか? 」
「え!? なんでそんなこと知ってるの!?」
事情を知っている一護に梅は驚く。
だってそれこそ誰にも話していないのに。
なぜ? と考えて、一護が志波家の人間だったことに今更気づく。
「あ、そっか、お家の人から聞いて?」
「あー。まぁそんなもん」
桜庭家が中央四十六室の配下にあることは別に有名なことではなく、むしろ比較的隠されていることだが、上位の貴族たちは知っていることだ。
没落したといえど、志波家も知っていたのだろう。
ではいつから知っていたのか。もしかしたら連休の間に帰省して聞いたのかもしれなかった。
「そっかぁ、なんだ知ってたんだ。じゃあ話してもよかったのかなぁ。あの見てる人たちのこととか」
「は?」
一護が声を上げて、逆に梅は驚く。
「なに、見てる奴らと四十六室って繋がってんの?」
「え、っと。あの、あのね。多分お祖父様が、付けた監視だと思うの」
「なんだそれ」
不審そうに一護が眉をひそめる。
結局祖父が絡んでいるという話は一護にはしていないので、説明が難しい。
「えっと、多分、お祖父様が、私が家業を継がないで逃げたりしないように監視していたのだと思うの。だから最近居ないでしょ?」
もういい。わかった。決めた。と伝えてから、彼らは監視をやめたのだ。それは一護の反応を見ていてもわかる。
梅は迷惑をかけたことを申し訳なく思って「ごめんね」と伝える。しかし一護は沈黙したままだった。
おずおずと見上げると、意外なことに真顔の一護がそこに居た。
「あ、あれ? 一護くん?」
不思議に思って名前を呼ぶ梅の隣で、花太郎が一歩後ずさる。
「い、一護さん。おちついてっ」
などと言いながらまた一歩。
どうしたことかと一護と花太郎を交互に見ていると、一護が大きくため息をついた。
「はぁぁ」
「え、どうしたの?」
「……いや、いいわ。なんでもねー」
「あ、ごめんね迷惑かけて」
「あー、それはいいんだけどよ」
がしがしと頭をかいて、一護は自らを落ち着かせるように数度大きく息を吸って吐いた。それから再び梅をみる。
「で、どーすんの」
「うん………」
もう梅の思いは決まっている。
「私、明日の休み帰って、ちゃんと言う。ちゃんと頑張りたいって。学校やめないって言う」
言ってどうなるかはわからないけれど。
「そっか」
一護はいつものようにそっけなかったが、それで充分だった。
不意に梅は手に持っていた荷物がないことに気がついた。
花太郎と治療していた時に部屋においてきてしまったのだ。
「あ、私荷物探してくる!」
そう言って梅は飛び出す。
足取りはここに来たときよりずっと軽かった。
残された一護は再びため息を吐いた。
「一護さん」
そんな一護を気遣うように花太郎が一護を呼ぶ。それに頭をふって一護は答えた。
孫を監視し怖がらせる祖父。
一護に祖父は居ないが、それがあまりにも家族として良くない形なのはわかる。
そしてそんな祖父を梅が恐れていることもなんとなくわかった。
それに、一護がもし関わっているというのなら。
それこそ放ってはおけない。
一護はちらりと花太郎をみる。
「なぁ花太郎」
「? はい。何でしょう?」
「ちょっと相談があるんだけど」
その内容に、花太郎は声にならない悲鳴を上げた。
おはこんばんちは!
がんばれ梅ちゃん!ということで、今回は梅のターンでした。
そして花太郎が喋る回。花太郎に夢見てる……。
まぁそのぶん一護はほとんど活躍なしですが、この対話が成り立ったのは一護のおかげなので活躍したことにします。
今回長い割に次回もしかしたら短いかもですが、かきたかったシーンがあるので頑張ってみます。
多分あと2回か3回で梅ちゃんの話は終わります。
それでは!