一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
学院生活を満喫する一護の元に流れてきた噂。それは黒崎一護が学院にいるというもの。
いったいどこからその噂が流れたのか。たのしくなっちゃった梅が探し始めて発生するあれこれ。
※オリキャラ注意
※原作のネタバレあり
※捏造注意
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六回生に黒崎一護がいる。
その真偽を探るために、黒崎一護は六回生の教室に行った。
そうしてやってきた黒崎一護は「まるで黒崎一護」と呼ばれて謎に喜ぶ六回生と出会う。
黒崎一護のニセモノは黒崎一護を指して言った。
「お前は自分を黒崎一護だと思っているんだろう。そうやって黒崎一護を名乗る者を僕は許さない」
こうして、黒崎一護のようだともてはやされる黒崎一護ではない人物と、黒崎一護であることをかくした本物の黒崎一護の戦いが始まるのである。
「ややこしいッ!」
一護は盛大に叫んだ。
「しぃ。声大きいよ一護くん」
梅は小さな声で一護を諭す。
ここは第五演習場。
基本的には外だが、入り口は校舎と繋がっていて屋根も床も貼られている。
いわゆる弓道場のような構造だ。
そこの端っこに、座り込んで相談しているのはオレンジ色が鮮やかな志波一護と、ピンク色の髪が優しい桜庭梅だった。
「でも要するにこういうことなんだもん。一護くん大変だね」
「他人事だなオイ」
梅が言ったややこしい話はたしかに事実で、現状それを知っているのは一護と梅だけだ。他にはだれも志波一護が黒崎一護だと知らないので、このややこしさも知らない。
つまるところ、ニセモノにホンモノが、ニセモノ呼ばわりされているというわけで。
「や、ややこしすぎる」
「そうだねぇ」
そうだねぇなんてどころではない。
「おーい。一護。そろそろ大丈夫か?」
心平の声に一護はびくりと肩を震わせた。
そっと振り向くと心平の向こうに黒崎一護のニセモノならぬ、逢咲一輝が木刀を持って立ってる。
「お、おお」
一護は顔をひきつらせ、演習場の壁にある時計を見上げる。一日の授業が全て終わり、すでに30分はたっているがまだ早い。
もう少し時間を引き伸ばしたかった。
一護は今、人を待っている。
助っ人として連絡を入れたのは一般的に”黒崎一護”と親しいということになっている人物だ。しかしまぁ忙しいはずなので時間通りというわけにもいかない。予想通り遅れている。というかそもそもまっとうな返事も来ていないが。
もし助っ人がこなかったら。その場合は考えたくないが諦めて決闘するしかない。
「一護くん。そろそろ本当にいかないとかも」
「……だな」
梅に促されて、一護は立ち上がったが、気は重かった。
「浅打でもいいと言ったのに、木刀かい?」
ゆったりと待っていた逢咲の問いに一護は首を振って応えた。
一護の手には木刀が握られている。そもそも浅打はないし、斬月を持ってきたら流石に手加減できなくなってしまうから、これしか武器にできないのだ。
周囲を見渡せばかなりの野次馬が来ていた。学年も関係ないその光景に、思った以上にこの逢咲という生徒が注目されていることを知る。
この中で斬月を見せびらかすつもりもない。
「まあいい。それじゃあルールを決めようか」
「ルール?」
喧嘩にそんなもの。と一瞬思った。一護のしてきた喧嘩にはルールというルールがあったことがない。まぁナイフは使うなとかそういう話があるのかも知れないが、一護には拳もナイフもあまり変わらないのでどうということはない。つまり何を使ってもいいと思っている。
「ああ、これ決闘だっけ……」
けれどこれは現代の喧嘩ではなく一応決闘に類するものらしい。少なくとも彼の言い分によると黒崎一護を名乗る者を成敗。みたいな感じなのだ。なのでルールも必要ということなのだろう。
決闘といえば正々堂々。みたいなイメージもあるし。嘘つきにそれを言われるのは片腹痛いが。彼がルールを設けたいというのなら別に構わない。
それにしても、死神の世界の決闘とはどういうものなのか。一護はそのあたりよく知らないが、普通の虚と闘う場合はそんなルール必要あるわけがないし、相手が破面でも同じこと。
死神同士の揉め事は決闘で済ませましょう。なんて決まりでもあるのだろうか。
しかも見た感じ審判が居るわけでもないし、どうやって勝ち負けを決めるのだろう。
「そう。ルール。簡単なものだよ。お互い名乗って開始。使う武器はこれ。鬼道は使用可。どちらかが負けを認めるか、戦闘不能になったら終了だ」
「名乗る?」
なるほど、そういうのが最初にあるのか。
そういえば破面たちもよく最初に名乗っていたと聞く。滅却師たちも同様だ。名前を名乗って闘うのが流儀とかなんとか。死神だってそうだ。たしか一角のときも名前を聞かれた。
現代の喧嘩じゃあ相手が誰とかあまり気にしたことがないので、考えてみればかなり律儀だなぁ。と思う。
演習場の中央に二人は距離をとって立つ。
後ろには梅や心平、片倉がいる。視線が痛い。主に片倉の。
この演習場に来る前、片倉に言われた。
「君は負けないよ」と。
その根拠は? と尋ねる一護に彼は勘だと応えた。意外とそういう適当なところもある奴だ。
「僕は今まで君を見てきたけれど、君は多分実力だけなら護廷十三隊席官に匹敵する。いや、もしかしたらそれ以上かも。なにより霊圧だ。普段はうまく抑えているようだけれど、霊圧も相当のものだと思う。先輩とは比べ物にならないよ。だから君は負けない。斬術でも、霊圧でもね」
淡々とした言葉に一護は若干照れたように目をそむけてしまう。
別に席官クラスと言われて嬉しいわけではないのだが、友達に真正面からこのように評価されるのはくすぐったいものがある。
事実、おそらく負けはしないだろう。鬼道勝負とかなら一瞬で終わりだが。
「でも俺は、あの人と闘う気はねーけどな」
「どうして? より注目されれば早く護廷十三隊に入れるかもしれないのに」
普通ならな。
この学院に通っている期間は下積み、あるいは準備体操だ。これから走るためのストレッチでしかない。そして一護に求められているのは、その期間を滞りなく済ませること。
問題を起こすのはそれに反しているので、一護の場合は目立たないのが一番だ。
仮に、正体がバレてもどうせ一年後には卒業してしまうのだからどうでもいいといえばその通りなのだが、まだ鬼道もなにも習得していない。このタイミングで追い出されたらかなりショックだった。
「俺は目立ちたくねーんだよ」
めんどくさいとか、そういうの以前に目立つのは学院生活中止に直結する。
だから今回も助っ人を呼んでいる。
黒崎一護本人は呼べずとも、黒崎一護の意思を伝えてくれる人がいればいいのだ。あとは単純なインパクトだ。ことを流してしまえるほどインパクトのある人物。
残念ながら大物すぎる人は呼べないので、親しい人を呼ぶことにしたが。
片倉は一護のいいぶんに納得していなかったが、時間が迫っていたため話は中断した。そのため今も視線が突き刺さっている。
ほんとに戦わないのかー。という視線だ。
「まいったな……」
一護が普通ではないことは多分同じクラスのみんなが知っている。でも誰も、一護になぜ? とは問わない。
けれど片倉は聞いてくる。
正直、嘘や誤魔化しは苦手なのだ。
きっと真っ先に彼にバレてしまう。そんな気がした。
「準備はできたかい?」
逢咲が一護に尋ねる。
あと一時間くらいまってほしい。と思いながら一護は渋々うなずいた。
助っ人よ。どうしてこないんだ。コラ。
「それでは始めよう。僕は真央霊術院六回生、逢咲家の長男、逢咲一輝。君を負かすよ」
相手の名乗りに一護は溜息で返した。だってこんなのなんたる茶番だ。
「志波、一護っス」
「聞いてるよ。志波の人なんだってね」
意外なことにそのまま会話を続けてきた逢咲だが、体は戦闘の体制に入っている。その証拠に逢咲はゆるりと木刀を構えた。
「驚いたけれど、決闘に家柄は関係ないから」
それは同意見だが、あえてそれを言う必要がどこにあるのか。
一護もしぶしぶ木刀を構える。
どちらかが動けば試合開始だ。
一護は正直このまま木刀を投げて終わりにしたかった。かといって逃げるのも性に合わない。結局やるしかない。
一護が覚悟を決めたとき、張り詰めた空気を破壊するかのように演習場に声が轟いた。
「おーっす! 一護!」
大きな声で一瞬にして空気が緩み、一護は相手から目を離して声の主を探した。
演習場の入り口はそれほど大きくない扉が一枚。そこから体を滑り込ませるように演習場に現れた人物に一護はほっと息を吐く。
赤い髪のおもしろ眉毛。”黒崎一護伝”にも友人として書かれている、おそらく真央霊術院で最も有名な副隊長。阿散井恋次だった。
「れん……」
一瞬呼びそうになって慌てて止まる。
まずいまずい。と思いながらも、おせーんだよ! と内心で文句を言いながら一護は木刀を下げた。
それから不意に、今アイツ「一護」って呼んだ? と思い至って、恋次を改めて見ようとした一護は恋次の後ろから現れた人物に驚いて目を丸くした。
「やっほー、一護! 来てあげたわよ!」
おなじみの松本乱菊の登場である。
何で?
と思う間もなく更に一人。
「埃っぽいところだね。相変わらず」
続いたのは綾瀬川弓親だ。それで終わらない。
一護はぎょっとして目を見開いた。
「さっさと用事済ませてさっさと帰るぞ」
――ひ、日番谷先遣隊きたー!
すっかり大人の顔になった日番谷冬獅郎が居て、一護は完全に度肝を抜かれていた。
ええええ! といって逃げ出したいレベルである。
一瞬続いて一角がくるかと思ったが、なんとか志波一護との繋がりがある人物の召喚は免れたらしい。しかし、なんてメンバーがきてしまったのか。
まさかまさかの10番隊隊長。
五番隊、六番隊、十番隊は真央霊術院ではかなり人気の隊だ。十番隊は特に隊長副隊長が人気が高く、それ故に入隊希望者が多い。
それが副隊長隊長両方きてしまったとは、なんということだろう。
はっとして振り返ると、驚いた様子の野次馬たちが彼らを凝視する中、梅だけが蒼白な顔で一護を見ていた。その口が動く。
(なんで呼んじゃったの!?)
読唇術など分からなくてもあからさまなその言葉に全力で一護は首を振った。
(俺が呼んだのは恋次だけだッつの!)
隊長はまずかろうとルキアには声をかけなかったのだが、恋次なら意外とまともなのでなんとかしてくれるだろうと、思った、の、だが、しかしなぜ、なぜこの大人数?
いや、言うまでもない。わかる。この流れを知っているぞ。
絶句する一護と逢咲の側に、さも当然という顔で近づいてくる四人に、一護は酷く焦る。
周囲では「今一護って言ったよね」「言った、やっぱりホンモノなんだ」などという声まで聞こえるし。
――ちょっとまて、俺は否定してくれって言ったんだが?
すぐ側に来ていた恋次は、驚愕のあまり声もない逢咲と、不安のあまり険しい顔をしている一護を交互に見てニヤリと笑った。
「で、どっちが黒崎一護だ?」
――こっちですけどあっちです!
ビッっと一護は逢咲を指出す。
恋次の後ろで乱菊が盛大に吹き出し、その横で冬獅郎が死んだような目をして一護を見ていたが、この際気にしていられない。
恋次は目を細めて逢咲を見る。
逢咲はというと、一護の指を見て驚愕し、顔面蒼白どころかもはや紙のように真っ白になっていた。
それはそうだろうが。
「おう、一護。随分見た目が変わったなぁ」
と恋次がわざとらしく逢咲に近づいて肩を叩いた。
ひぇ! という逢咲の悲鳴が聞こえたがそれを無視して、今度は弓親が反対側から逢咲の顔を覗き込む。
「なんだか前より美しくなった気がするね」
――うるせえ!
「まつげ長ーい。いいなぁ一護」
乱菊が下から逢咲の顔を覗き込む。
ゆるい雰囲気に少し安心したのか、周囲の気が僅かに緩んだ瞬間。
「で? こいつのどこが黒崎一護なんだ?」
静かな冬獅郎の一言で、しんと空気が張り詰めた。
え、え? と混乱する周囲の動揺が波のように伝わっていく。
「ぼ、ぼくは、僕は黒崎一護では、ああ、有りません!」
泣きそうな声で逢咲が叫んだ。弓親も乱菊も顔がいいと褒めたが、今はイケメンが台無しの顔だ。残念。
「僕は、な、名乗ったこともないです!」
「ほーん。でも黒崎一護が居るって噂になってるんだろ?」
「そ、それは周りが勝手に・・・!」
「あら、それはご愁傷さま。でもそれなら大人しくしてればいいじゃない。決闘なんていかにも一護がしなさそうなことしてないで」
乱菊がまさに言ってほしかったことを言ってくれて一護は全力で頷く。
そうだそうだ。黒崎一護はそんなことしない!
「しかもあんた、一護のかわりに決闘してるんでしょ?」
乱菊がいたずら好きの顔をして今度は一護を見た。
一護はとりあえず頷く。
まぁそういう名目ではあるので。
すると今度は逢咲が一護を指して叫んだ。
「僕じゃないです! か、彼が黒崎一護を名乗っているんです!」
「はぁ!?」
――名乗ってねぇよ、本人だってのを隠してんだよ!
今度は恋次が面白そうに「ほーん」と言って一護の肩に腕を回す。
あきらかに楽しんでいる顔で、大げさに空を仰ぐような仕草をすると。
「あーこれは違うわー」
と恋次は棒読みで言った。
「美しくないね」
続けて弓親がそう言って、一護への関心を失ったように手をひらひらと振る。
なんとなく、いや確実にけなされている。
「似てなーい。ねぇ隊長どう思います?」
そこでなぜ冬獅郎にふるんだよ! と一護が叫べないことをいいことに、冬獅郎はぶすっとした顔をわずかに崩す。
「そうだな。主に顔が」
――顔かよ!
「あの黒崎一護が、こんなくだらないことに参加するわけもないしな!」
「そうね。あの黒崎一護が学院にいるわけもないし、決闘なんてしないわよねぇ」
「ああ、あの黒崎一護ならとっくに護廷十三隊にいるしな」
「そうですね。あの黒崎一護がこんなところでさぼっているわけないね」
ね、一護。
と顔だけは一護に全力で同意を求める。
一護は引くつくこめかみを自力で抑えて、無理やり笑った。
「そうですねー」
――こいつら絶対後で泣かす!
「ま、つまりどっちが一護を名乗っていても関係ないってことよ。だってどっちも偽物なんだし?」
と言いながら乱菊は一護を見る。
意味深な顔を頼むからむけないでほしかった。
「ど、どうして皆様が、ここに……」
しばらく沈黙していた逢咲が、確信をつくようなことを尋ねた。
弓親は周囲を見渡して呆れたように溜息をつく。
「こんなに人を集めて、しかも他学年にも言いふらしていたんだって? 黒崎一護のニセモノを倒すって。言いふらしているの、君だろ?」
初耳のことに一護は逢咲を見る。
蒼白な逢咲が首を横に小刻みに振っていた。それを無視して弓親が続ける。
「さすがに護廷にもその話が入ってきたよ。どこからっていうのは言えないけれど。そうしたら、黒崎一護から止めてほしいと言われてね」
「え!」
一護と逢咲が同時に声を上げた。
逢咲からすれば本人からの中止要請ということで驚きとショックで真っ青案件。
一護からすれば、なるほど真実を言ってもおかしくないのかと感心しただけ。
しかし本当に護廷に話が行くほどのことだったのならラッキーだ。
彼らが来たときはなんてオオゴトにしてくれてるんだと思ったが、どうせ情報が行っているならば、彼らが出てきてもおかしくない状況ということではないか。多分。おそらく。
「不思議な話だよね。黒崎一護と間違えられている生徒が、黒崎一護を名乗る生徒を断罪しようなんて。面白いことをするよ」
弓親の言葉はまさにそのとおりだ。まぁそもそも一護は名乗っていないのだが。本人だし。
恋次は一瞬一護を見遣ってから再び逢咲に視線をむける。
「俺が一護から頼まれてな。で、様子を見に来たってわけだ。そうしたら一角さんが来たいって言ったんだが、あの人はちょっと事情があって呼べなかった。そしたら弓親さんが来るって言って」
なんだか聞き覚えのある話に一護は目を瞬かせる。
「騒ぎを聞きつけた乱菊さんがどうしても来たいっていうから、仕方なく日番谷隊長が引率についた。って感じだな」
――ピクニックかよ。
「俺は視察のついでだ」
と冬獅郎が補足する。
そんなところも既視感がある。
まぁこうして集まったメンバーだが、まだ真っ当な方だろう。すくなくとも剣八をつれてこなかった時点でナイス判断だ。
「てぇわけで、騒ぎを起こしたやつを見に来たんだが、似てねーな。微塵も」
一護と逢咲を交互に見て恋次が言う。
逢咲はともかく、一護は本人なのだが……。
「特にこっちは顔がにてねぇ」
と親指で一護を指すので、ぴきっとこめかみあたりが鳴った気がした。
「黒崎一護は、美形で鬼道もすげーけどな、ニセモノが出たくらいでうだうだ言わねーよ。多分」
前半に対する文句はあるが、最後に多分とつけるあたりがずるい。
まぁ以前に勝手にコンに体を使われたときは大騒ぎしてコンを探し回ったので、それはそれで否定できないのだが。
しかもかなりこういうことに首突っ込むタイプという自覚もあるし。
よぉし、あとは解散するだけだ! と思う一護だが、「なんだ、ニセモノか」という野次馬の中の誰かが言った言葉に一瞬で機嫌が悪くなる。
ざわざわと呆れたような声。「結局目立ちたがりか」「ホンモノのわけないよね」「つまんねーの」などという言葉。
一護は顔をしかめた。
なんだかんだ言って楽しそうにしていたくせに、こうして真っ向から否定された途端に非難するなど、性格がいいとは言えない。
逢咲は呆然としてしまっているし、こうなると哀れだ。
その姿が一瞬梅の祖父と被った気がした。なんだかんだ一護と関わると、相手はかなり心理的ダメージを受けるようだ。まぁ仕方ないが。
――いや、いつも俺が悪いわけじゃねー。……はず。
「つーわけで、誰も得しない決闘なんか中止だ中止!」
――ナイスだ恋次!
「ほら、テメーら解散だ!」
と恋次が促して、バラバラと野次馬たちが散り始める。
よく見るとみんな視線は冬獅郎に向いている。それはそうだろう。彼らの興味は滅多に見れない日番谷冬獅郎たちに向かって、決闘のことなど過去の事になってしまったのだ。
それでいい。思惑通りだ。からかわれたのは予想外だったが。あとメンバーと。
冬獅郎は面倒くさそうにため息をつくと「俺はもう行くからな」と一足先に瞬歩で消えてしまった。
一護は一瞬逢咲を見たが、掛ける言葉もない。
ともかくこれでなんとか、なった。はず。
と落ち着いて、近いウチに恋次たちには礼を言っておこうと思って顔を上げた。
「じゃあな一護もどき」
「またねぇ一護もどき♡」
恋次と乱菊が一護に向かって手を振っている。その楽しそうな顔と言動に再び一護はこめかみをひくつかせる。
――やっぱりアイツらいつか泣かす!
駆け寄ってくる梅たちに見えないように、静かに恋次たちの後ろ姿を睨んだ。
「どう思う?」
演習場の裏手で、綾瀬川弓親がつぶやくように言った。
「正直驚いたっすね。あれ」
「そうね」
恋次と乱菊が頷く。それを確認して弓親は大きくため息をついた。
「髪の色。目の色。それに霊圧の質。黒崎は気づいてなかったようだけど、よく似ていた」
これが偶然なのか、と弓親は問うているのだ。
乱菊は無言で腰に手を当てて、こちらも軽くため息をつく。
「外見びっくりしたわねー」
「どこの情報ですかね。あらゆる出版物から一護の外見的特徴を抜いて、老後の姿さえ嘘のものを載せて徹底的に隠したのは、単純に一護がこっちに来たときのための配慮でしたけど、おかげで一般には知られてない。なんでそれを知ってるんだか」
「誰かが話したんじゃないのぉ」
あらゆる本を出すことを許可したのは、噂が独り歩きするくらいならという考えからだった。そのためすべての本には厳しい調査がはいっている。
できることとしてはそのくらいしかないという京楽の考えのもとに行われたが、当時はそれもそこまで強固に進められたわけではない。軽いチェックだったので漏れたものもあっただろう。それでも情報はある程度抑えられた。今はそれをやっておいてよかったとみんな思っている。
しかし、それでも護廷十三隊のすべての者たちに口止めするのは難しいので、逢咲の身内などに一護の知り合いがいて、そこから情報を得たと考えることも可能だ。
しかし。
「外見はそれで似せられても、霊圧はね。どうやって似せるのか。涅隊長くらいじゃない? そんなことできるの」
たしかに彼ならできるかも。と想像して恋次は苦笑いをする。
「それに彼は六回生だ。これまではどうしていた?」
弓親の意見に、恋次は押し黙った。
「いつから彼は黒崎一護だと思われるようになったのか。今年からだっていうなら、タイミングも良すぎるだろ」
「身内って可能性、あると思います?」
恋次の言葉に乱菊は肩をすくめた。
「さぁ。あの逢咲って子に志波の血があるとは思えないけど」
「母親か、また別の血筋か……。とにかく、あの生徒のこと調べてみようか?」
弓親の提案は恋次もしようと思っていた。というかこれはしないといけないことなのだが、まさか弓親が言い出すとは、と恋次と乱菊は驚く。その顔を見て弓親は肩をすくめた。
「いいでしょ、たまには。じゃあせっかくの休憩だし、行きたい所あるから僕は行くよ」
弓親は一角と居るときは常に後ろについて、あるいは横について自由行動も少ないのだが、個人になると自由行動が目立つ人なのだ。なのでこの行動も予想の範囲である。
乱菊は弓親の後ろ姿を目でおってから首を傾げた。
「ほんとに意外。一護のことでやけに行動的ね弓親のやつ」
「あー、まぁ一角さんが気にしてましたからね」
一角のために動くと言うならわからないではない。
その一角は、志波一護と面識があることがバレているので渋々留守番している。そこへの報告もあって急いでいるのだろう。
「じゃあ俺も調べときますけど、とりあえず仕事戻ります。乱菊さんは?」
「んー、あたしは隊長探そうかしら。一緒に視察しよーっと」
「戻って仕事しろって言われてた気がするんすけど」
「細かいことは気にしなーい!」
乱菊はひらひらと手を振ると、そのまま日番谷冬獅郎の気配がある方へ消えていった。
恋次はため息をつく。
色々と問題が浮上しそうな出来事だった。
一見するとただの茶番なのだが。裏で何かが動いている。そんな気がしてならない。
とはいえ一護はそうは思っていないようだし、今は学院生活を満喫すればいいと恋次も思っているので、当分は何も知らせまいと思うのだ。
今回のことは、一護に関わるからと隊長が行かせてくれたのだが、正直あの人が来たそうだったなぁと思う恋次である。
なんだかんだ今後朽木白哉と関係が深まっていきそうな一護に同情すべきか、それとも白哉が喜んでいることを恋次も喜ぶべきか。あるいは今後の騒動のあれこれを予想して頭を痛めるべきか。
恋次は再度ため息をつくと、今回の借りを一護にどう返してもらうか考えながら帰路についた。
意外なことにこの事件をきっかけに、黒崎一護が学院にいるという噂は沈静化するどころか、大きく広がっていくことを、寮の部屋で脱力している一護はまだ知らない。
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【挿絵表示】
おはこんばんちは。
モヤッと感をのこして今回のお話は終わり……。
いつかこのもやっとを解消したいですが、その前に一護の正体をばらしたいw。
次はすこし原作キャラたちのお話にしようかなぁと思っています。
そういえば片倉くんは原作に出てきた人の身内設定だったりします。特徴的な眉毛だよね君も
それでは。