一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
今回は一護のが尸魂界にきてから学院に行くまでの小話
※オリキャラ注意
※原作のネタバレあり
※捏造注意
三界の英雄も、歳はとるもので。
歳をとれば、いずれは尸魂界にくるもので。
そうしてやってきたならば、それなりに大騒ぎになるものなのである。
これは、彼が尸魂界にやってきてから数日のお話。
1日目 十番隊隊舎
「一護が?」
ここは十番隊隊主室。
いつもと変わらないのどかな瀞霊廷の朝をのんびりと過ごしていた松本乱菊は、隊長である日番谷冬獅郎からもたらされた情報にあんぐりと口を開けた。
その様子を一瞥した日番谷は、しずかに「ああ」と返事をする。
乱菊は何度か瞬きをすると、ぽすんと音をたててソファに座り、そのままずるりと脱力した。
「あー、そっかぁ。とうとうねぇ」
朝始業してすぐ、日番谷を含む全ての隊長が呼び出された。
定期的に行われる隊首会とは異なる臨時の招集。それはここ数年あまりなかったこと。めずらしいこともあると呑気に乱菊は書類を見ていて、日番谷が隊首会から戻ったときもいつも通り何の話だったのかをさらりと尋ねた。
多くの場合は詳しく教えてくれない日番谷なので、ただの習慣。それに意外なことに答えが返ってきた。
「黒崎一護が、死んだそうだ」
それは、乱菊にとって馴染みのある男の死を告げるものだった。
一瞬そんな馬鹿な。と思考が停止したが、考えてみれば彼は人間で高齢だった。いずれはそんなときも来るとわかっていたのだ。
ただ、突然だったことと、身近な人間の死というワードに心が揺れてしまった。
死神にとって”死”というのは二つの感覚がある。
現世で死に尸魂界にくるということと、尸魂界で死に霊子となって消えるということ。
前者に関しては仕事の感覚が強く喪失という印象はないが、後者は知人に起きることであったりもしてひどい喪失感がある。悲しみが付随する死というのはもっぱら後者だ。
一護の死。という言葉を聞いて、後者の感覚になるのは致し方ない。それほどには存在に馴染みがあるのだから。
けれど実際は、彼は死んで尸魂界に来る。
喪失感を抱く必要は、一応無い。
とはいえ、残された家族のことを思えば、やはりかなしいことではあるのだが。
乱菊はふぅ。っと息を吐いて手元の書類を書類の山に戻した。それを一瞬日番谷が見咎めたのだが、いつもの「仕事しろ」という言葉は降ってこない。
それをいいことに、乱菊は入れて時間の経ったぬるい茶を手に取った。
「やっと二足のわらじじゃなくなるってことかしら」
現世と尸魂界を行き来するという状況から脱する。あるいは、人間と死神を行ったり来たりしていた状況から脱する。ということだ。
日番谷はどこか意外そうに乱菊を見た。
「なんです?」
「いや」
「絶対なにか言いたそうだったじゃないですかー」
日番谷はため息をつくと、こちらも茶に手を伸ばした。
「……黒崎は、死神になるだろうな、やはり」
「……そりゃそうじゃないですか」
勝手にそう思い込んでいたことに若干動揺しつつ、いやいや、死神になるだろう一護ならと思い直して乱菊は応えた。
だって黒崎一護だ。
彼は守る側の人間だ。どこに居てもそれは変わらない。その彼が尸魂界に来て、護ることから遠ざかるとは思えなかった。絶対にそんなことはありえない。
乱菊の返答に、日番谷は「そうだな」とうなずいて茶に口をつける。それから少しして、ポツリと言った。
「今、朽木が捜索にでている」
「朽木隊長? あ、ルキアですか?」
「ああ」
朽木ルキア十三番隊長は黒崎一護と最も親しい死神だ。
彼女がいたから彼は死神になり、彼女がいたから彼は尸魂界に来た。そして彼がいたから、彼女はあそこまで強くなれた。そんなふうに乱菊は考えている。
その彼女ならば、すぐ探しに行くだろう。
きっと京楽隊長も許可したに違いない。
それにしても……。
「呼び方どうにかなりません?」
「朽木妹だ」
「うーん」
朽木ルキアは、六番隊朽木隊長の妹だ。
今は結婚し阿散井姓になっているのだが、仕事上では名前を変更しないということで朽木として隊長をしている。そうなると朽木隊長が二人いることになる。
「阿散井にするか」
「それも恋次と被るんですよ」
夫の阿散井恋次は副隊長だ。あちらと被るのもまた面倒。
結局今のところは朽木妹と呼ばれている。本人は別にまんざらでもなさそうなのだが、呼んでいるのを見ている方としては微妙な心境だ。
むしろ困っているのは乱菊の方で、まさか朽木隊長妹、などと呼ぶわけにもいかない。結局本人が許しているのもあって、最近はルキアと呼んでいたりするのだが、規律的にどうなのかと言われると少し困ってしまうのだ。まぁあまり気にする性格ではないが。
「名前呼びあんまり良くないかしら。そういえば一護が隊長とかになったら黒崎隊長なんですよね。なんか違和感あるわー」
乱菊が言うと、日番谷は複雑そうな顔をする。
「どこに据えるんだ、あいつを」
「そこですよね」
実力としては申し分ない。むしろおそらく他の隊長たちより実力は上の可能性もある。となると代替わりもあり得るのだが、果たして一護はそれに納得するかどうか。
「嫌がりそう」
「嫌がっても隊長就任が決まれば拒否できないだろうがな」
「あー、そうですね。なんか一護の場合だとついつい希望を聞いてあげたくなっちゃう」
日番谷は首肯する。
黒崎一護はずっと特別だった。彼の意思は常に尊重されたし、組織の外にあることとして扱われた。その感覚が残って特別扱いしてしまいそうになるが、こちらに来て死神をするなら他の隊員と同じように扱う必要がある。
もちろん能力を鑑みた正当な評価が行われるわけだが、もう死神代行だから英雄だからという理由での特別扱いは減っていくだろう。
すくなくとも大きな理由がない限り、護廷十三隊の規則内で物事は行われる。
人事もそうだ。
今後、黒崎一護をどの隊に入れるか、どのような待遇にすべきか、どの地位に置くべきか。という点で話し合うことになるのだろう。
思わず日番谷は憂鬱な溜息をついた。
「ともかく、朽木が見つけ出さなきゃどうしようもないからな。お前は仕事しろ」
「あたしも探しに行こっと!」
「松本ぉ!」
日番谷は机を両手で叩いた。
2日目 朝 十一番隊隊舎
「え、今から隊首会っすか? 一護のことですかね」
「多分な」
いつになくウキウキとした様子でいる十一番隊隊長更木剣八の背中に、副隊長斑目一角が声をかけた。
昨日の朝も隊首会があったが、そのときはとても面倒くさそうだったのに、帰ってきたときはとても楽しそうで、そして今日も同じく。
昨日は結局夜になってから一護が発見されたという報告だけが上がったが、その後すぐに一番隊に一護が保護されたため剣八も一角も彼には会えていない。
しかし今日はもしかしたら一護が隊首会に来るかも知れない。
隊首会は基本的に出席は隊長のみ。副隊長の一角は部屋の外で控えるか、おとなしく留守番するかしかないのだが、どちらにしても暇なのだ。しかし今日はついていけば一護に会えるかもしれないと、一角も喜色を示す。
「楽しみっすねぇ。こっちに来たからには戦えますし」
現世にいる死神代行に迷惑をかけるな。ということで現世には行けず、こちらに来ても一護は剣八を避けたりするので会えず、他の隊長たちが手を回すため会えても戦闘できず。なんだかんだ長いこと一護とはやり合っていない。しかしこちらに来たからには闘う機会も増えるだろう。
そう思っての一角のセリフだったが、静かに振り返った剣八はすこしばかり嫌そうな顔をしていた。
意外なことに一角は目を瞬く。
「爺になって来やがるからなァ」
「ああ、そうっすね」
あちらであった病気や痛みなどはこちらに引き継がれないのだが、老体の体力などは引き継がれてくる。いくら霊圧が高くても高齢の彼には戦闘ができないかも知れない。
それを剣八は危惧している。
戦えるかもという感情と、戦っても面白くないかもという予想で、複雑な心境になってるんだなぁと一角は納得する。
「でもここ最近会ってないですし、意外とピンピンしてるかも知れないっすよ」
「一回死んだ爺だぞ」
「なんで今日ばっかりはそんなに弱気なんスか」
「あ”あ”!? 誰が弱気だ! アイツとやれるかやれないかわかんねぇから考えてるんだろうが!」
「それが弱気なんじゃ……いいっすよ。はい」
キレ散らかす剣八の横に並んで見上げる。
「まぁ一発戦ってみて、腑抜けてたら鍛えてやりゃあいいんすよ。十一番隊で」
「…………そりゃあいい」
ニヤリと剣八が笑う。
「じゃあまずは、十一番隊で一護獲得目指すってことで」
「あァ」
二人は楽しそうに笑いながら一番隊舎へ向かった。
3日目 朽木邸
朽木家の使用人清家信恒は、気分良く縁側を歩いていた。
手にもっている荷物はすべて新しい着物である。
2日前の夕方。当主の妹君である朽木ルキアが屋敷を訪れた。
結婚してからも何度も来てはいるのだが、このような時間に来ることはそうなく、彼女は申し訳無さそうにやってきた。
当主である朽木白哉から事情を聞いていた清家は、不思議そうに顔を見合わせる使用人たちの先頭に立ち、ルキアとその客人を迎え入れた。
ルキアとともにやってきたのは一人の青年。
彼は死神代行、黒崎一護だった。
当主に恩人と呼ばれる彼を、清家は前からずっと知っていた。顔もみたことがある。その彼が朽木家に来てくれたことがすこしだけうれしかった。
しかし彼をみて清家は一瞬違和感を感じた。
それが、彼がみすぼらしい着物を着ていたからだということに気づくとなんとも言えない気持ちになる。
死覇装でもなく、もちろん整えられた着流しでもない。筋肉の付いたふくらはぎから下が見えていて、足袋はなく裸足に草履。
彼は死覇装が似合うと思うのに、なんだか寂しい気がしてしまった。
正直汚い格好だったが、朽木家の使用人は誰もそれに嫌な顔はしない。そういう教育ができている。
しかし彼は、こんな格好で入っていいのか? としきりにルキアに尋ねていた。
話には聞いていたが、素直な性格なのだろう。すでに齢70ほどだと思われるのだが、仕草も見た目もとても若々しく、若者の微笑ましさがあるようにも見えた。
その後すぐに一番隊にいくとのことで急いで着物を用意し、彼を送り出したあとに彼のために食事を用意するように指示、そうしてようやく人心地ついた清家は、趣味のような心持ちで新しい着物を調達に向かった。
本来はその時間に服を調達するのは難しいのだが、そこは朽木家である。専用の呉服屋に連絡をとり出来合いの着物をいくつか準備してもらった。
その着物だが、昨日の朝は急いでいるとのことで清家が選んだ着物をわたしたが、今日はそういうわけでもないので選んでもらうことが出来る。ということでいくつかの着物をもって、彼の好みを確認しに行く途中だった。
若い使用人たちも準備ができ次第彼の部屋へと向かうことになっている。
着物に不慣れだという彼はどんな着物を好むだろうか。
当主とその妹君の大事なお客様をもてなすことを楽しみに、清家は一護の部屋に向かった。
同3日目 阿散井邸
久々の休日、恋次は自宅の庭にいつもはないオレンジ色を見て、僅かに頬を緩めた。
「一護、茶飲むか」
「ああ、さんきゅ」
つい先程恋次は一護を朽木邸に迎えに行き、そこからこうして自宅に彼を招いていた。
盆に茶と簡単な茶菓子を用意して一護の隣に腰を落とす。そのまま湯呑を差し出せば、あちっと言いながら一護はそれを受け取り、ゆっくりと口を付けた。
そうして淹れたての茶を飲みながら、一護は「瀞霊廷広いなぁ」としみじみとつぶやく。
そんな一護に「そりゃそうだろう」と返して、恋次も茶を飲む。僅かな苦味が美味しい。さすが朽木家が仕入れている茶を入れてるだけのことはある。
「何見てたんだ」
「あー庭? 花植わってるだろ」
「ああ、ちよ……使用人が育ててるんだ。俺もルキアもこういうのはからっきしだからな」
「だろーな」
「そういや、昨日挨拶に回ってたんだろ?」
一日目はバタバタとしていた一護が二日目以降あちこちに挨拶に回っているという話を恋次がルキアから聞いたのは、昨日家に帰った後だ。
基本的には書類仕事が多い恋次だが、部下である隊士たちの訓練に付き合うことも多い。昨日は一日そっちに行っていたため、朝の隊首会の後以降は一護に会うことはなかった。どうしているのだろうとは思っていたが、まさかあいさつ回りとはと恋次は笑う。
「ああ、二番隊と三番隊と四番隊にな」
とりあえず数字の小さいところから回ることにしたらしい。
「その着物で行ったのか?」
恋次は一護の全身に目を滑らせる。
上等な着物を一護は着ていた。多分朽木家の人が急いで誂えたのだろう。キレイな薄緑色の着物。洋装を見慣れているので違和感があるが、なかなか似合っているのでこれもさすが朽木家の使用人である。似合ってるという言葉もかけたくてその話題を出したのだが、一護は少し困ったように笑った。
「清家の爺さんが色々用意してくれたんだけど、どうみてもいい着物だろこれ、なんか着られてる感あるんだよなぁ」
「そうか? 着慣れてないからだろ」
「そうだろうけどよ」
まぁ気持ちはわかる。
朽木家の人は意外ともてなしがすきで、泊まった日などに新しい着物を用意してくれたりするのだが、これがまたいい着物なのだ。しかも恋次の好みを把握してからはかなり嬉しいものをくれている。
本人も含めてまだ一護の好みはわからないだろうが、いずれはそのあたりも把握して色々先回りしてくれるのだろう。
「昨日の着物もいいやつでさ、でも俺着流し? って着慣れなさすぎて変な感じするんだよな」
「あー、じゃあ袴がいいのかもな。そういうやつも居るぜ」
「へぇ、爺さんに言ってみるか」
のんびりと茶をすすりながら一護が言う。
「そういえば、昨日午後は朽木家に帰ってたんだろ?」
「ああ、斬月と話をしてた」
「あー、どこにあったんだよ、そういえば」
一護がこっちに来たとき、彼は斬魄刀を持っていなかったのだ。
そもそも死神は変身するわけではなく、斬魄刀を持ち、死神と認定され、死覇装を着物のように着る。
一護もその状態になったわけなので、こちらに来たときはただの着物だったのだ。ではそのとき斬魄刀が無いならば、どこからそれを見つけ出すのか。あまりにも例がないことで困惑して聞くと、一護は己の胸元を指した。
「心のなかで対話して、起きたら目の前にあった」
「なんだそりゃ」
「原理は俺も知らねぇけど、あいつらは俺の一部だから。俺のなかで眠ってたんだろ。知らねーけど」
「なんだそりゃ」
二度呟いて、しかしそんなものかと納得もする。
例えば斬魄刀が壊れたとき、その破片があり、霊圧が回復すれば元の形に戻るのだ。結局霊圧が全てなのである。
特に一護の斬魄刀は特殊なのでそういうこともあるのだろう。
一護はふたたび茶をすする。
斬魄刀も取り戻し、挨拶もして、近々学院にも行くことになった。こうして一護は着々と死神に向かっている。けれど今までとは違う。
例えばこうしてのんびりしているのは珍しいことだ。今まではこんな時間もなく現世とこちらを行き来していた。
これからはこういう時間も増えるかなぁと、恋次は一護の横顔を見ながら感傷に浸った。
「何見てんだよ、きもちわりぃ」
「……そういうやつだよな、テメェは」
4日目 五番隊隊舎
「なんや、まだふらふらしとるんか」
「うるせぇな、こっち来たばっかなんだからいいだろ別に」
昨日の午後に顔を見せに来た黒崎一護が再びやってきて、平子は少し驚いていた。
さっさと隊に入ればいいのに、何をしているのだと小言を言えば、うるせぇと返される。
相変わらず口が悪い。
しかし平子の言うことも尤もで、彼の力を考えればフラフラさせておけないはず。
京楽は何を考えているのだろうと平子は総隊長の思惑を予想しようとしてやめた。どうにも彼の本心を探るのは苦手だ。
「なぁ、雛森さんは?」
「あ? 桃なら今仕事ででとるけど、なんの用や」
「そうなのか。なんか鬼道のコツ聞いておこうと思ったんだけど」
「鬼道? なんでまた」
この馬鹿またなんか変なこと考えているな。と眉を寄せる。一護はそんな平子の様子を気にせずに笑う。
「学校に行くんだよ。なんだっけ、シンオウレイジュツ院?」
「……そないに学校すきなんか」
「そうじゃねぇよ。鬼道の勉強しに行くんだよ」
「はーっ、真面目やなぁ」
死後まで勉強しようとは熱心なことだ。と同時にまだ勉強して強なるんか、とちょっと呆れもある。
一護が強いことは知っている。どんどん強くなることも。
彼の中にある力についても軽くだが聞いていた。全てにおいて強い力を持った彼が、もっと強くなる。それをよくまぁ上が許したものだ。
普通なら、きっとどこにもやりたくないし、鍛えたくもないはずだ。更木剣八がそうであったように。
けれど、尸魂界の掟を知らない彼の無知を放置もしておけなかったのだろう。それならばある程度の知識を付けさせる意味も兼ねて学院に通うことを許可した、というところかも知れない。
「もう少し待っとったらええわ。すぐ戻ってくるで」
「そうか? じゃあ待たせてもらうぜ」
そう言って座った一護は昔見た若い頃のまま。
なんだかんだおじいさんになってしまった彼に対して愛着もあったのだが、これはこれで面白いので良しとする。
「で、学校はいつからなんや」
「それがタイミングよくてさ、明後日に入学式があるんだと。こっちも入学式は春なんだな」
「まぁそうやな。しかしいきなりやろ。大丈夫なんか準備とか」
「それは京楽さんがなんとかしてくれるらしい」
とりあえずはまだ特別扱いということらしい。しかしいつまでもそうというわけにもいかない。いずれは他の隊士と同じように扱われる。はず。
いやでも、このばかみたいな霊圧の男を、どう扱っていくのだろうか。
「学院の後どうするとかは決まってるんか?」
「いや、全然。つーか決まってるのかもだけど、俺はしらねぇ」
「ええんか、それで」
「京楽さんだし、悪いようにはならねぇかなって」
なかなか彼は人を信頼しすぎるところがある。仲間として懐に入れるととことん甘い。平子はそこにわずかな不安をいだいた。それはずっと前、彼が本当に若かったころから気がかりだったこと。
これまでは気にせずにいられたが、これからはその甘さを誰かに利用されないとも限らない。
京楽だってそうだ。平子だって京楽が悪いようにするとは思っていないが、勝つためにあの藍染を一時解放する男である。無警戒でいいとも思っていない。
平子は一つ溜息をつく。
なんだかんだ、平子は一護に対して仲間意識があるし、一種の部下に対する感覚に近い感情も抱いている。あるいは弟か友人か。なんとも言えない認識だ。
その彼がもしなにかに悪く扱われそうだというのなら、平子はおそらく彼の味方につくだろう。
ヴァイザードとして。
平子は一度一護から視線をそらすと、近くにおいてある雑誌をいくつかもって一護の前に置く。
「まぁこれで時間でも潰したらええわ」
「ああ、ありがとな」
平子のお気に入りの雑誌を興味深そうに見る一護をちらっと見て、平子はどうなることやらとため息を付いた。
5日目 一番隊隊舎
「黒崎さんは戻られたのですか?」
一番隊副隊長、伊勢七緒の言葉に京楽は「うん」と気の抜けた返事をした。
先程黒崎一護がこの一番隊舎に来ていた。
理由は学院の入学手続きが完了したことの報告と、その書類を渡すために京楽が呼び出したから。
初日と同様に質のいい着物に身をつつんだ彼は、あいかわらず太陽のような暖かな霊圧で京楽の前にやってきた。
書類を渡せば素直なお礼が返ってくる。
彼は人間では高齢にあたるため、それなりに老熟してそうなのだが、若い体に入っているからなのかとても若々しい。それでも昔ほど無鉄砲でもなく、時々見える眼差しはとても静かだった。
なるほど人間はやはり成長がはやいと京楽はしみじみと感じる。
同時に一抹の寂しさもあった。
これから先、死神として長く生きるうちに、彼は少しずつ変わっていくだろう。それがすこしだけ京楽の胸裏に憂いのようなものを抱かせた。
かわらないものなどないとわかっているが、いつまでも彼には黒崎一護らしく無鉄砲でいてほしかったりするのだ。
とはいえ、ずっとそうでは困るといえば困るのだが。
「四十六室からは、なんと?」
七緒の言葉に京楽はうーん。と唸る。
「一応合意は取れたけど、なるべく早く卒業させろってことだよ。これはナユラちゃんも同意見みたいだ」
「隊長も同意見なのではないのですか」
「そうなんだけどねぇ」
確かに、長く彼を放置してはおけないので、京楽は彼に1年と伝えていた。
そうして早く彼の行動を管理したほうが、上も安心するし京楽も安心できる。それに彼の安全の確保という意味もあるし、他の隊長たちがしびれを切らして彼に突撃するギリギリがそこという意味もある。
それにおそらく1年以上いたら絶対にボロがでる。彼のことだから。
そういうわけで一年。
そう伝えたときの一護はこどものように不満そうな顔をしていた。
「私も、彼が長く学院にいることには反対です」
「それはまたどうして?」
「彼がこちらに来た。という情報がどこからか漏れています。それでどうやら、彼を護廷に入れさせまいとする動きがあるようです」
「…………」
京楽にもその話は聞こえていた。しかし七緒の表情からして思ったよりもその声が大きいようだ。
「彼らが本格的に何かを企てる前に、黒崎一護さんにはこちらで管理できる隊に入っていただいたほうが良いと思います」
「なるほどねぇ。そりゃあそうだ」
京楽は笠を目深に被るといつものセリフを呟いた。
「こまったねぇ、どうも……」
そんな様子を見ていた七緒は思い出したように「でも」といった。
京楽が視線を上げるのをまって、七緒は笑う。
「でも、少し安心しました」
「何がだい?」
「黒崎一護さんです。こちらに案内するときにお話ししまして。彼あいかわらずでした。あいかわらず素直で、微笑ましくて」
一瞬京楽は目を丸くして、それからフッと笑う。
「僕も同じこと考えていたよ、七緒ちゃん」
今はまだ、彼が変わらず黒崎一護であったことが、ただただ嬉しかった。
ひらひらと飛んできた桜を追うように、京楽は空を見上げた。
「いい天気だねぇ。お花見日和だ」
かくして、黒崎一護は真央霊術院に入学した。
おはこんばんちは。
今回は一護がこっちに来てから数日の間のみんなについてです。
本当は全員毎日書きたかったのですが、大変だったので一部を書きました。
大好きな人達だけ抜粋w
次回はまた先生シリーズ。
別の先生のお話です。
では~