黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に入学した後の話
 今回もモブ教師目線です。前回とは別の先生です。



※オリキャラが喋ります。かなり出張ります。
※モブ目線です。
※捏造注意




22.教え子が元死神代行だった件_鬼道教師の編

 

 

 

 真央霊術院の教師になって数百年。

 元は十番隊の隊士だった岩田治郎は、この教員の仕事をそれなりに気に入っていた。

 教員の中には新しい風を入れるためなどという理由で30年程度で退職し本隊に復帰するように命じられる者もいるのだが、岩田にはそういう話は来たことがない。

 大戦でかなりの教員が亡くなり、護廷からも何人か教員に抜擢された。その際に教員教育を任され、以降岩田は鬼道の学科主任になっている。そのためそう簡単には退職という話にもならない。

 直接生徒に授業をすることは少なくなったが、それでも岩田は教師が己の天職だと思っている。生徒たちと触れ合うのも嫌いではない。

 特にこの2ヶ月ほどは今までにないほど充実した日々を過ごしていた。

 

 

「志波!」

「あ、岩セン」

 

 軽い足取りで歩いていた青年を呼び止めると、彼は非常にラフな返事を返した。

 入学してちょうど4ヶ月ほどになる一回生で、岩田が直接特別授業を行っている生徒だ。オレンジ色の髪に健康そうな見た目。背は高く、目つきは鋭いが見た目の割に温和。若者のようでもあり、ときどき年寄りのようでもある。そんな生徒。

 

 岩セン。というのは現代の子どもたちがよく使う、教師を親しみを込めて呼ぶときの呼び名らしい。普通は本人の前では使わないものらしいのだが、この生徒はそういうところが本当に雑で全く気にせずに呼んでくる。当初はなんて呼び方をするのかと思っていたが、愛嬌のあるとも取れるその呼び方に慣れてしまってからはなんとも思わなくなった。

 この飾らない姿に生徒たちもどうにも惹かれてしまうのか、決して交流が盛んなわけではない彼に対して好感を持っている生徒は多い。クラスの中心という訳では無く、むしろ一人を好む節すらあるようにみえるのだが、彼の周りには常に人が居た。その上容姿のせいで目を引く。

 だからだろうか、一部の教師からは要注意生徒と目されている。

 

 彼の名前は志波一護。

 元五大貴族の志波家縁者だという青年で、入学前にすでに斬魄刀を始解させ、虚退治の経験を持ち、瞬歩はすでに席官クラス。斬術はそのへんの教師を片手でのしてしまう程の実力だが、鬼道はからっきし。流魂街で遊んでいたという理由で尸魂界の歴史にも疎い。

 たしかに真央霊術院の異例を詰め込んだ問題児だ。

 

 けれど彼が意外と真面目で勉強熱心な生徒であることを岩田は知っている。

 素行にもそう問題があるほうではなく、経歴と見た目で損をするタイプなのだろう。

 さて、そんな彼に問題点を上げるとしたら、それは鬼道を使うたびに暴発させるということだろうか。

 

「お前なぁ、昨日の夕方鬼道でまた演習場壊しただろう」

「そう言われても、うまくできねーんすよ」

 ぶすっと口を歪ませる彼は本気で自分の鬼道をどうにかしたいと思ってるらしい。最初は担当の鬼道教師に色々と指導をしてもらっていたのだが、破壊が目に余るということで手に負えないと判断され、岩田を紹介されたのだそうだ。それで自ら岩田の元にやってきて鬼道を教えてほしいと言ってきた。

 それから岩田は親身になって教えているのだが、元来霊力の量がずば抜けているらしく、なかなかうまく鬼道を形にできない。コントロールが下手というよりも持て余しているようだと岩田は考えている。

 こういう生徒は一旦霊力を使い切ってから鬼道を使うことに慣れたほうがいいと思っているのだが、彼の霊力を使い切らせるのは至難の業だった。

 そういうことで、いまだに彼は鬼道を全く成功させられないでいる。

 

 意外なことに志波の親族は彼に厳しいらしく、さっさと鬼道をものにしろと毎日のように圧力をかけられているそうだ。

 どいつもこいつも勝手に言うぜ。とは彼から聞いた数少ない愚痴の一つだった。

 

「そろそろ本気でやばいと思うんだよなぁ」

 一護はがっくりと肩を落とす。

「まぁ、あと6年はあるんだ。大丈夫さ」

 心からそう思って肩を叩くが、一護はうなだれたままだ。

「いやぁ、6年ね……」

 と力なく笑う。

「なんだ、もしかして飛び級しろとか言われてるのか?」

 もしかしてと言ってみれば、一護はまさにそれだ! という顔をした。

「お、おお、本当にそうなのか? たしかに霊術院の卒業生にいる志波海燕殿は2年で卒業を果たした人だが……、それにならえと言われるとは、無茶だなぁ」

 記録上、最後に真央霊術院を卒業した志波の人間は元13番隊副隊長の志波海燕だ。彼はとても優秀で、飛び級制度を有効活用した生徒の一人。もしや志波家の現当主は志波海燕の例が普通だとでも思っているのだろうか。

 

「……実践とか色々免除されてるから、早く卒業できるだろうって、言われてて」

 言いづらそうに言う一護に、そりゃ言いづらいだろうなと思う岩田である。

 あらゆる授業が免除されている彼は入学してそうそう貴族たちに目をつけられて、何度か騒動を起こした。

 その後実技テストなどで彼の実力や、四楓院先生の弟子であるという事実などが広まって、やっかみが落ち着いてきたのに、今度は飛び級目指してますなどと言ったら上級生に目をつけられるに決まっている。だいたい、鬼道もできないままでは教師たちに笑われるだけだ。

 岩田とて眼の前でこれほど落ち込んでいる姿を見ていなかったら、そうかそうか。と笑っていたかもしれない。

 

「そうだなぁ、鬼道がまずいよなぁ。良くなってきているとは思うんだが」

「岩センはそういうけどさ、全然だろ」

「お前目標が高すぎるからな」

「…………ソレは絶対浦原さんのせい」

「なんか言ったか?」

 一護はふるふると首を振った。

 

 勉学の方面はあまり心配していない。筆記試験は意外と飛び級可能なのではと思う。実技もしっかり見たことはないが、一部の彼の相手をした先生の話を聞く限りでは心配いらなかろう。

 彼の所属する特進学級の斬術担当教師の一人は彼のことをそれはそれは尊敬しているそうで、時々「一護殿」と呼びかけているのを見かける事があった。生徒なのに。たしか最初の騒動は彼の授業だったと記憶しているので、そこでなにかあったのだろう。

 ともかく教師にまで一目置かれるほどなので、彼の斬術にはなんの心配もない。

 

 やはり鬼道が壊滅的だ。

 志波の人間はどちらかというと鬼道が得意だったと記憶してるのだが、一護はそうではないらしい。

 

「まぁなんだ、また明日にでも訓練付き合ってやるから」

「まじすか、助かります」

 軽く頭を下げるので良し良しと肩をたたく。やはりこの生徒はなかなか教えがいがある可愛い生徒である。それに彼には感謝している。2ヶ月前、ちょうど一学期の後半が終わるというころに「鬼道を教えてほしい」と授業外にまで訪ねてきた彼のお陰で、この2ヶ月は本当に楽しいのだから。

 

 

 

 と呑気に笑っていたのが懐かしい。

 

 

 

 

「其方が岩田教員か。……志波一護の件、礼を言う」

 

 その一言に岩田は失神しかけた。

 

 真央霊術院には定期的に護廷十三隊から視察が入る。目的は色々あるのだが、例えば優秀な生徒を見つけることがある。

 早めに目星をつけておき、席官として迎える確約をし、優秀な人材を他より早く手に入れる。先を越されただなんだといざこざが起きないように、毎年くじ引きで順番がきまるというから面白い。

 視察にはそれなりに高い地位の死神が来る場合が多く、そんな彼らを迎えるのも教員の仕事だ。

 岩田が今年担当するのは六番隊。毎年席官クラス、時には副隊長が来ることで知られる六番隊はそれなりにスカウト率が高い隊だ。そして憧れる生徒もどちらかといえば多い。

 あの四大貴族朽木当主が隊長を務めるという敷居の高さを持つ反面、流魂街出身でこの霊術院の卒業生でもある阿散井副隊長の存在がいい感じに緩衝材になっているのだろう。真面目な生徒も破天荒な生徒もバランスよく取ってくれる隊だ。

 

 今日は誰がくるのだろうか。去年は阿散井副隊長だったな。などとわずかに緊張していた岩田は、白い隊長羽織を見て度肝を抜かれた。なんと朽木隊長自ら来られたというのだ。その後ろには阿散井副隊長もいる。これはどうしたことだろうか。

 なんだかんだ六番隊隊長が来るのはここ数十年なかったはずだ。

 

「これは……朽木隊長ようこそいらっしゃいました。私は本日案内を担当させていただきます、岩田と申します」

 内心「ぎょえー!」とさけびたい気持ちを抑えて頭を下げる。

 朽木隊長は「頼む」とひとこと言っただけだったが、その声すらも威厳にあふれていて震えてしまいそうだった。

 

「岩田先生去年ぶりだな」

 穏やかに話しかけてきたのは赤い髪が眩しい阿散井副隊長。そんなに何度も会っているわけではないのによく覚えていてくださったと喜んでいると、阿散井副隊長が朽木隊長に笑顔で話しかける。

「隊長、あいつが前に言ってた鬼道でお世話になってるって先生ですよ」

「なるほど」

 

 あいつって誰だろう。尋ねてよいかどうか悩んでいると、朽木隊長がフッと目を細めた。

 

 「其方が岩田教員か。……志波一護の件、礼を言う」

 

 ――失神しなかったことを褒めてくれ、志波。

 

「え、え? 志波、ですか?」

「貴公の指導を経て、先日”雷吼炮”が打てるようになったと」

 

 たしかに、志波は威力の大きい鬼道のほうがもしかしたらコントロールできるのではと教えはじめ、先週ようやく形になった鬼道がそれだ。初めてまともに成功したと大喜びして、知り合いに報告するのだと言ってはいたことを思い出す。

 とはいってもあれはもはや雷吼炮の威力ではなかったが。

 

 ――しかし、知り合い? 誰が、誰と?

 

「一護のやつ、珍しく嬉しそうに報告に来たんだ。そこであんたに直接一対一で教えてもらってるって聞いたぜ」

「あれの斬魄刀はどちらかというと鬼道系統だ。苦手ということもあるまいとは思っていた」

「雷吼炮からってのは驚きましたね」

「破道の六十三は他の破道と比べると圧縮の過程がすくない。霊圧を飛ばすことに長けているあ奴には向いているといえよう」

 

 二人の会話は本当に志波のことなのだろうか。岩田は困惑して交互に二人を見遣る。

 

「あ、あの、志波とはどのような?」

 

 思い切って聞けば二人はどちらも奇妙な顔をした。眉を潜め、どう表現したものかと悩んでいるような。

 

「恩がある」

「ダチっすかね」

 

 二人の答えに唖然として岩田は口をぽかんと開けた。

 ダチもすごいが恩人とは。そういえば阿散井副隊長は志波を名前で呼んでいた。たしかに親しいのだろう。しかしまさかなぜこの二人と? やはりどうしても疑問が増えるばかりで岩田は目を白黒させる。

 ただ、これ以上聞いてくれるなという様子だったので、結局よくわからないまま岩田は二人を案内することになった。

 

 

 

 翌日以降志波に会うことはあったが、どういう関係だ? と聞くのも憚られ結局聞くことはできずじまい。

 そわそわと聞きたいような聞きにくいようなと悩んでいたため、最近岩センおかしくね? と言われたりもしたが、基本的には黙々と熱心に鬼道を教えている。

 志波は最近かなり鬼道が上達してきて、先日はとうとう赤火砲をきれいに成功させた。

 偶に暴発はさせはするものの授業でもうまくいくようになったらしい。先日とうとう試験で”優”を取得。ものすごい成長速度である。

 なお、威力故に使用は厳禁とのお墨付きである。

 雷吼炮などはコツをつかんだのか詠唱破棄までできるようになったが、こちらはわざわざ人の居ない更地に連れて行って練習させる程度にはやばい威力だ。

 赤火砲が授業で使用禁止ならば、雷吼炮は普通に使用禁止だ。

 ともかくできたにはできたので、よくやったと褒めると、知り合いにも褒められた。という。

 それって朽木隊長? と聞きたいような聞きたくないような。

 

 

 そうして六番隊の二人が視察に来てから3ヶ月。

 別の護廷隊が視察にくるこの日、岩田は担当ではなかったので案内にはいかず、歩法の授業を免除されて暇をしている志波の鬼道を見ていた。

 残暑がすぎてすごしやすくなってきたが、岩田はかなり寒いのが苦手なのですでに襟巻きをしている。一方志波一護はいつも通り制服でぜーはーと息を荒げながら鬼道の練習に励んでいた。

 今日やっているのは、破道の一 衝。

 最も簡単な破道なのだが、一護のようなタイプにとってはこれがなかなかむずかしく、彼がすると爆弾もびっくりな威力になる。

 静かに物を破壊したりすることができるこの鬼道は攻撃につかわれることがあまりなく目眩ましや誘導などに使われたりする。いわゆる戦術を増やすための鬼道だ。

 そういう使い方ができるとよいのだが、一護の場合は威力的にただの攻撃になってしまう。

 「まずはあそこに置いた石を割ってみろ」と言って盛大に地面に深い穴を掘ってしまったので、現在威力を抑える特訓中だ。

 まぁ今のところは出来る気配がないが。

 

「志波。そろそろ一回休憩したらどうだ」

「………そっすね……」

 できないことがもどかしい。そんな表情で一護が答える。

 汗だくの彼に手ぬぐいを渡して、岩田は隣に座るように自分が座っているベンチの横を叩いた。

 一護はゆっくりそこに腰をかけ、汗を拭う。

 

「岩センがくれたさ、本あるだろ」

「? ああ」

「あれ書いたのってさ……」

「………藍染惣右介だな」

 大逆の罪人、藍染惣右介。

 彼の存在は深く尸魂界の歴史に刻まれているが、悪しきものばかりでもない。

 彼の手によってあらゆる改革が進められた分野もあり、鬼道もまたその一つ。彼が書いた本は教科書となり、いまも作者不明ということで授業に使われたりしている。不明ということになっているだけでみんなが知っていることだが。

「嫌だったか?」

 四十六室の殺害という事実はあれど、死神たちに大きな被害がなかったことと、その後の滅却師との戦いでの犠牲者があまりにも多くでたために、比較して大したことなかったと思う者もいるが、藍染惣右介によっていろいろめちゃくちゃにされた死神もいる。

 間一髪で彼の行動は阻止されただけで一歩間違えれば滅却師が来る前に滅んでいたかも知れないのだ。

 そんな罪人の本を使って勉強するのが嫌だったか? そう問うと、一護はゆるりと首を振った。

「いいんだ。ただ、結局俺はアイツに何度も助けられてるんだなって思ってさ。認めたくは、ねぇんだけど」

「?」

 意味が分からず首をかしげるが、一護はやはり首を振ってなんでもないと答える。

 彼にあの本を渡してから、たしかにその上達ぷりは凄まじい。きっと複雑な心境なのだろう。

 

 

「岩田先生」

 不意に呼ばれて、岩田は顔を上げた。

 斬術教師の眉墨先生が廊下に立ってこちらを見ていた。

「眉墨先生。どうしました?」

「志波くんを見ませんでしたか? いつもこの時間は先生と鬼道の練習をしていると聞いていたのですが……」

「ああ、志波なら……」

 言って志波を呼ぼうとした岩田は、眉墨の後ろに立っている人物をみて驚愕に目を見開いた。

 目深に被った角笠。右目を覆う眼帯。白い羽織の上に鮮やかな羽織を重ねた堂々たる立ち姿。その偉大な人物はまさしく――。

 

「そ、そそそ、そ、総隊長殿!?」

 

 岩田は大きな声を上げた。ほとんど悲鳴に近いそれ。

 すぐさましぃ。と声を落とすように指示されて口を閉じる。そしてただただ瞠目する岩田に、総隊長、京楽春水はにこりと笑った。

「ごめんよ。驚かせて」

 低い、体の中に響くような声音に、びびっと体を震わせて岩田は頷く。

 数百年教員をしていた。その前も護廷十三隊にいた。けれどこの京楽春水と話をしたことは殆どない。いや、お目通りがかなったことなどあるはずがない。こんな至近距離で見たことも。

 岩田は興奮と高揚で顔を赤くしながら何度も何度もうなずいた。

 

 短く深呼吸してどもりながら尋ねる。

「ど、ど、どう、どうされたのですか??」

 一番隊が視察に来ることもあるが総隊長が来るなど……。式典などで偶に呼ばせてもらうこともあるが、それとこれとは場合が違う。

「あれ? どーしたんすか京楽さん」

 気の抜けた声がして、岩田は勢いよく振り返った。

 そうして一も二もなくその声の主に近づくと、思いっきり頭を掴んで下げさせる。

「も、申し訳有りません! 生徒が失礼を!!」

「うぉ!」

「ば、馬鹿者! 頭を下げろ!」

「いてててて! や、やめッ岩セン!」

「わからないのか!? こちらのかたはなぁ!」

「っ痛えって!」

 がばっと身を起こした一護に振り払われて岩田は大きくのけぞる。しかしふたたび一護の頭をさげさせようとして、笑い声に静止した。

 声をあげて笑っているのは京楽春水その人であった。

「いやぁ、一護くん学生してるねぇ。よかったよかった」

「い、一護くん?」

 呆然とする岩田をふたたび振り払って、一護は「あー」と困ったような声を上げる。

「京楽さん、岩センはしらねぇんだけど」

「そうだろうねぇ。眉墨くんが知っててその方が僕は驚いたよ」

「うっ……まぁ、さっさとバレたんだけど」

 気まずくなって後頭部をがしがしとかく一護を見て、眉墨が小さく笑う。

 岩田はそんな眉墨を見て、それから一護をみて、最後に京楽を見て、ことの次第を全く理解できずに大きく首を傾けた。

「えっと?」

「一護くんに用があってね」

 まったく理解が追いつかない。

 ぽかんとする岩田に苦笑した一護だが、すぐに京楽に視線を戻した。

「どうしたんすか?」

 小首をかしげる一護に、京楽は薄く笑うと、懐から取り出した小さな箱を渡す。

 質素な飾り気の無い箱。京楽の手に収まるそれを一護は注視する。

「俺に?」

「うん」

 わずかに警戒していた一護は、京楽の穏やかな表情に警戒を静めて、差し出された箱を手に取った。

 何の変哲もないその箱を無造作に開ける。その瞬間、ぱっと顔をあげて京楽を凝視した。

「これって……」

「あちらにあったものを回収したんだ。もう効果は失われているけれど、勝手に捨てるわけにもいかないじゃない」

 一護は箱に目を落とし、その中から板状のものを取り出す。

 

 それは、小さな板だった。

 見れば、中央にドクロのような柄が書かれている。

 かつて一護が現世でずっと一緒に過ごしていた、死神代行戦闘許可証。つまり、代行証だった。

 一護はするりと指先で表面を撫でる。

 なんだかとても懐かしい気がするそれを握りしめて、それからふたたび京楽を見上げる。

「ありがとう。京楽さん。持っとくよ。俺が」

「……そうかい」

 一護が死神代行であった証拠。

 思い入れがあり、そしてかつてこれを一護に授けた浮竹十四郎を思い出す形見にも似たそれ。一護はそれを大事に懐にしまった。

 

 呆然とその様子を見ていた岩田は、その板きれに見覚えがあった。

 教科書に載っているほど有名なものだ。

「死神、代行戦闘許可証……」

 呟いた瞬間に視線が集まる。

 

 岩田はドキドキと鳴り始めた心臓を抱えて、一護と京楽を交互にみやった。

 代行証をもつことができるのは、死神代行だけ。

 それを一護が渡されたということは、彼が死神代行であるということ。ただ、現世の人間ではなく、死神になろうとしている学生。代行になる資格はないはず。つまりそれは身内や過去に代行とつながりがあったということで。

 一護という名前。能力。

 京楽隊長が会いに来た。朽木隊長が恩人だと言った。阿散井副隊長が友達だと言った。四楓院先生の弟子で。それから、それから。

 ああ、なんということだろう。

 どうして今まで気づきもしなかったのだろう。鬼道が下手だったから? 若かったから? それを覆すほどの情報がある。

 

 答えは一つだ。

 みるみるうちに口が大きく開いていく岩田を、一護は気まずそうに、京楽は面白そうに見ていた。

 ふたりとも口を閉ざしているが、しかしこれは。

 答え合わせをするように、岩田はゆっくりと眉墨を見る。

 彼はわずかに緊張と高揚を混ぜたような顔で大きくゆっくりうなずいた。

 

 

 

「っえええええええええ!?!?!?!」

 

 

 岩田治郎、鬼道学科主任。

 渾身の叫びであった。

 

 

 

 

 

 

 

「岩セン頼むから普通に志波って呼んでくれ」

「無理では!?」

「私も同意見です」

 泣きそうになりながら叫ぶ岩田の後ろで、眉墨は大きくうなずいた。

 

 

 

 

 

 






 おはこんばんちは。
 いい先生に出会えてよかったね。
 ということで今回は前の眉墨先生とは違う先生のお話でした。
 着々と時間が進み、二学期に突入しましたが、一護は相変わらずというところです。

 実は一番最初に書いたのはこの話だったりします。

 さて、次回は再び一護主体の学校のお話にもどります。

 ではでは~
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