黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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  一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
 一護が現世演習に行く話。

 
※オリキャラ注意
※原作のネタバレあり
※捏造注意



24.現世演習は鬼門だと誰かが言った2《挿絵有》

 

 

 

 

 

 

 空気が違う。と思った。

 例えば匂いとか、風の温度とか、肌に触れる湿度とか、視界に入る色とか。多分そういうものが尸魂界とは違う。

 それが無性に懐かしい感じがした。

 

 

 

 

 複数人の五回生と教師たちに囲まれて、一回生は緊張した様子で整列していた。

 刀袋から出した斬魄刀を背中に背負って、そわそわと周囲を見渡している。

 そんな中で、正面に準備された穿界門を興味深そうに見ている志波一護の姿はさぞ妙に映っただろう。その顔には現世へ行くことへの不安はない。ただそこにある門が不思議で仕方ないというような顔だった。

 その背中にある斬魄刀の巨大さを見て、ぎょっとする5回生たち。

 どうあがいても異質だが、少なくとも今は、初めて実戦演習に参加するただの生徒だった。

 

 一護たち一回生の引率にきた五回生の生徒たちに一護は見覚えがあった。

 以前、一学期前半の歩法の試験で一緒だった生徒たちだ。あのとき会った蜂 宇航(フォン ユーハン)もいる。というか、やはり彼は有名らしかった。すでに隠密機動に入ることが内定しているということで、一応逸材と呼ばれているらしい。

 そんな彼を筆頭に、五回生たちは優れた生徒が集められている。一回生が実習をしている間本物の虚がこないように結界を張るという授業だが、落ちこぼれは参加できないのだそうだ。なかなかシビアだ。

 すでにほとんどの五回生は先に現世に行って結界を張っているそうなので、今いる五回生たちは一護たち一回生の戦闘の補助をするのが役目だ。

「五回生は環境は整えても、戦闘の手助けはしない。各々自分の力を信じてダミー虚を倒すように。それでは、先に引いてもらったクジに絵があるから、同じ絵の者をさがして三人一組を作ってくれ」

 蜂先輩の言葉に従って各々がグループをつくる。

 心平、片倉とは別のグループ。一護は梅と同じグループだ。

「もうひとりは?」

「僕だよ!」

 他の生徒の間から手を伸ばして走ってきた生徒に、一護は「おー」と声をかけた。

 周防梗助(すおうこうすけ)。一護の出席番号の次の生徒だ。

 黒髪長髪長身細身。気弱な性格だが頭がよく、試験などで並びが近いことから親しくなった生徒である。今まで実技を目にする機会がなかったので実力は不明だが、聞いた話ではあまり成績が良くないとのことだった。

「よろしくね、周防くん」

「よ、よろしく桜庭さん、志波くん」

 女性が苦手、というかドキドキするらしく、梅に対していつも顔を赤くしている印象がある初心な男子である。

「ふたりと同じ組でよかった。僕いつも実戦演習は失敗してばかりだから」

「ダミー虚相手だろ、なんとかなるって」

「そうそう。それに今回は一護くん一緒だし」

「おーい、ハードルあげんなー」

 ふと視線を感じた。

 見れば、最近直接的なちょっかいを出してこなかった山見ガリ勉がこちらを見て、仲間たちと何やらヒソヒソと喋っている。

 というか本名はなんだっけ?

 何の用だよと一護は山見を睨み返した。

 以前は眼中にすらなかったので睨みつけることもなかったのだが、一護が鬼道を使えないことでさんざん「落ちこぼれ」呼ばわりされたので、かなり嫌な印象が強くなっている。

 それでつい睨めば山見は不機嫌そうに顔を背けた。

 相変わらず偉そうに仲間にあれこれと指示してるし、半年以上たってまだ貴族だなんだと言っているのかと思うとバカバカしかった。

 

 「それでは現世に向かう。全員遅れないように」

 五回生の蜂がふたたび注目するように声をかけた。

 一護はぐっと気を引き締める。

「開門!」

 合図と同時に扉が動き、光とともに穿界門は大きな入り口となった。

 

 ああ、行くのだな現世に。そんなふうに一護は思った。

 

 

 

 

 

 

 虚がビルの壁を駆け上がる。

 四足歩行でずんぐりとした体躯。短い尾で全長は5メーター前後。だいたい2トントラックより少し大きい程度だろうか。

 白い仮面を真横に横断する巨大な口。額に当たる部分には長い角。頭部には髪の毛のようなものが生えていて、動きにあわせてゆらゆらと大きく揺れる。

 速度は大したことはなく、飛ばないし、跳躍もしない。特殊な能力もなく、分身をつくることも、爆弾を作ることも、それで人を操ることもなく、言葉も発さない。

 そんなダミーらしいダミー虚から、周防梗助は全力で逃げていた。

 空中を走ることはかろうじてできているが、振り返ってダミー虚の存在を認識するたびに速度が落ちたり上がったり。

 梅が待機する場所まで誘導するはずが、どんどん反対方向に逃げている。

 それを上空から見下ろしながら、一護は「おいおいおい」と呟いた。

 

 試験は、穿界門が開いた場所の直ぐ側で行われた。

 場所は関東某所。海に近い工場地帯だ。

 空座町とは離れているからみんなに会うことはまず無いが、空気は懐かしさを感じる。そんなところだ。

 

 演習の順序としては、それぞれの組が指定の場所に向けて散解し、続いて各場所にダミー虚が放られる。そいつを協力して斬り、終わったら集合場所に戻る。大体そんな感じだ。

 所定のスタート位置に移動しながら決めた役割は、周防が誘導。梅が足止め、一護がトドメ。

 周防が虚を引き付けながら梅のいる場所に誘導し、梅が虚の足を止める。そこを背後から一護が斬る。つまりそういう作戦なのだが、まず周防がその役割を果たせていなかった。

 

「わああああ!」と叫びながら周防が走っていく。

 予定地点に来ないことを訝しんだ梅がビルの上から身を乗り出し、目撃した光景に「え!?」と叫ぶ。

 そのまま逡巡した後、結局走り出した。

 周防の助太刀をしに行く。というか、まっていても一向にこないので、追いかける作戦に変更したのだろう。

 一護はそれを視認して、ゆっくりと梅の後を追った。

 普通に瞬歩でダミー虚の元に移動して斬ることはできるのだが、一応そこは授業なので簡単にやってしまっては彼らのためにもならない。とどこか保護者目線で二人を見守る。

 梅が追いついて、後ろから手を掲げた。

「”君臨者よ! 血肉の仮面・万象・羽ばたき・ヒトの名を冠す者よ! 焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ”! ”破道の三十一 赤火砲”!」

 カッと赤い火花のようなものが走って、それがダミー虚の項あたりを直撃した。

 ギャアアア! という悲鳴が上がる。

 しかしダメージはそれほどないようだ。ダミー虚が足を止めた。

 煙を首元から立ち上らせながら、ダミー虚が梅を振り返る。周防がそれを気づき振り返ったが、その瞬間に躓いて盛大に転んだ。

 あーあ。と一護は苦笑いをするしかない。

 

 一方梅は、突進してくるダミー虚を躱して、斬魄刀でその前足を切りつけ、体勢が崩れたダミー虚の仮面を狙って刀を振り下ろす。

 数度の実戦演習でこれほど動けるのはなかなかなのだろうな。と一護が見ている前で、唐突に短いと思われた尾が伸びて遠心力を有して梅に振り下ろされた。

 

 それを、一護は左手で無造作に弾いた。

 

 軽くはたいただけだが、尻尾は根本からちぎれて弾け飛ぶ。それを一瞥すらせず斬月をダミー虚の首に下から振り上げるように滑らせれば、スパンと首は胴から離れて吹き飛び、転んでいる周防の側にボトン! と落下した。

「わあぁ!」と周防が叫ぶのを見て、一護が肩をすくめる。

「あいつ大丈夫か?」

 と小首をかしげながら斬月を背に戻すと、息を荒げていた梅が苦笑した。

「見た目怖いからね。追いかけられると、逃げちゃうのかも……」

「いや、それはだめだろ」

 まぁ気持ちは分からないでもないのだが、せめて役割をこなす努力はしたほうが……。と思いつつ、一護はうーん。と唇をひん曲げた。

 集団戦は一対一の場面に遭遇した時にどうすればいいのかを分からなくさせそうだ。

 一護が死神代行になったばかりのころ、ルキアがいたとしても手助けがあると一切思わずに一護は戦っていた。だからこそ逃げるわけにはいかなかった。それは恐怖に立ち向かう覚悟を与えるし、自分が守らないとという責任感を育てる気がする。

 多分そういう方法のほうが能力の底上げになる気がする。

 誰かがフォローしてくれると思うと気持ちが弱くなるのではないだろうか。もちろん、協力することは大事だし、仲間を頼ることは大事なことだ。一護だってそうしてきた。けれどやっぱり、一人で闘うときは来るのだ。すくなくとも練習段階では、一人での戦いに慣れたほうがいい気がする。

「いっそのこと、一対一の練習したほうがいいんじゃねーかな」

 一護がつぶやくと梅もうなずいた。

「現世での駐在任務って一人で行くものだから、いずれは一人で闘う練習すると思うよ。でも、今はまだ最初だからね」

「まぁ、そうだけどな」

「それよりも、助けてくれてありがとう」

「いいよ。当然だろ」

 ふふふと梅が笑う。

 ようやく息が整ったのか背を伸ばした梅が一護を見上げながら微笑んだ。

「それにしても……」

「ん?」

「流石としか言えないかも……」

「何が?」

 一護の返答に、梅は困ったように一護を見上げた。

「さっき、素手で吹き飛ばしたよね」

「あー」

 ダミー虚の尻尾のことだ。実際のところあの程度だと斬魄刀がなくても破壊できる気がする一護だ。

 昔はそんな芸当はできなかった。というか斬月で斬る以外の方法をしらなかったのだが、ある時なんとなく殴ってみたら虚が吹っ飛んだのだ。それから、霊圧で叩き潰す、吹き飛ばす、という事ができると気がついたのである。

 剣八みたいだなと思ったり思わなかったり。

「普通はできないと思う。から、あんまりやるとバレちゃうよ」

「そ、そうだな」

 だめだ。癖が抜けない。

 だって仕方ないだろう。

 跳び箱跳べるやつが跳べないふりをするのって難しくないか? 鉄棒で逆上がりできるやつができないように見せるのって難しくないか? 泳げるやつが泳げないふりするのって難しくないか? 読める文字を読めないふりするとか、聞こえているものを聞こえないふりするとか、そういうレベルの話だ。

 全くできないようにみせるならまだしも、ある程度できるようにみせないといけないんだぞ? そんなん難しすぎないか?

 思った以上に難しすぎて、頭を抱えたいレベル。

 本当に実技の授業が免除でよかった。今後は実戦演習も免除にしたほうがいいのかもしれないが、暴れられないのもシャクなのでなんとも言えない。

 そんな一護を見ていた梅だが、ふと気づいたように転んだままの周防に近づく。

「周防くん、そろそろ立てる?」

「こ、腰抜けた……」

 と言いながら彼は梅に立たせてもらっている。

 一護はそれを眺めながら、本当に大丈夫かなぁと、本気で心配になった。

 かつて空座町の担当だった行木竜ノ介を思い出す。

 彼も長いこと空座町にいてそれなりにはなったのだが、あれは相棒の斑目志乃がいたから生き残れたのだ。

 はたして周防は大丈夫だろうか。

 

「そろそろ戻るか?」

 一護が二人の元に向かいながら尋ねる、梅が振り返ってそれに答えようとしたその時、一護は霊圧を感知して弾かれたように顔を上げた。

 遅れて、周防と梅も顔色を変える。

「ね、ねぇ、いま、なんか……」

 ぶるっと震えながら呟いた梅が周囲を不安そうに見渡す中で、一護は霊圧を感じた方角に勢いよく首を向ける。

 ここは重霊地ではないはずだ。なのに感じるのは複数の虚の気配。それもかなり大きい。

 空座町で遭遇する虚の大群を思い出すそれに一護は斬月を抜く。と同時に、無造作に斬月を横一文字に振るった。

 

「え?」

 

 梅の頭上で、ずるりと音がした。

 梅がはっとして見上げれば巨大な虚の真っ黒な風穴の目が梅を見下ろしていた。目を見開く梅の視界の中で、その仮面の上部が、ズレる。

 滑り落ちる。

 そんな表現がふさわしい様子で、頭の半分上が横にズレて、ずるずると地面に落ちた。

 続いて、頭を失った巨体がぐしゃりと潰れるように倒れる。

「ひぃぃ!」と周防が声をあげて、そこでようやく梅は無意識のうちに詰めていた息を、はっと短く吐き出した。

 

 今、梅の背後に居たのは巨大な虚。

 それを真っ二つにしたのは――。

 梅は斬魄刀を持ったままどこかを見ている一護を見た。

 彼は梅の背後に迫っていた巨大虚を、一瞥すらせずに一閃したのだ。

 ゆっくりと一護が振り向く。

 否、梅の認識では、一護はかなりゆっくり動いているように見えたが、その動きは思ったよりも早かった。振り返って梅を見て、大股で近づいてくる。

「大丈夫か」

 いつもの、「おはよう」と同じような声音で、一護が言った。

「歩けるか」

 ふたたび尋ねられて、梅はかろうじて頷く。

 どこか遠い意識の中で、一護が喋っている。

「集合場所の方で、複数虚が出たみたいだ。急いで戻るぜ。ここもあぶねーかもしれねぇから」

 置いていくのは怖い。そういう意味だろう。

 一護は腰が抜けた周防を乱暴に肩に担いだ。

「わぁあ!」と再び周防が悲鳴を上げるがそれを黙殺して、今度は一護が梅を小脇に抱える。

 思わず「へ?」という声が出た。

「行くぜ」

 言うや否や、一瞬で地面が消える。

 空を一護が駆けたのだ。風が、ゴウゴウと音をたてている。目を開けられない。

 ぎゅっと目を閉じた瞬間、地面に足がついた。ストンと降ろされて「えっ」と声をあげて目を開ける。

 梅はきょとんと瞬いた。

 そこに一護は居なかった。

 

 

 

 

 

 

 ダミー虚の尾が伸びた。

 それを目で見て確認し、心平は間一髪で避ける。

 大振りの尻尾の攻撃が外れたことで体勢が崩れたところを、片倉が斬りつけ、ほぼ同時に心平も虚の仮面に攻撃を入れた。

 

 ダミー虚の消滅を確認したところでようやく一息ついた。

「ダミー虚ごときに遅れをとるなんてな」

 あざ笑うかのような声をかけてきたのは、志波一護が山見ガリ勉。と呼んでいる、山見央之助(やまみおうのすけ)だ。

 こいつと同じ組になったことを心平は心の底から最悪だと思っている。心平は流魂街出身だから彼とはとことん相性が悪いのだ。

「うるせぇな」と小さく呟いた心平の隣で、片倉が手を上げて近づいてくる山見に応えた。

「おつかれ様、山見くん」

「ああ、片倉くん」

 片倉は貴族だし、しかも世渡り上手でなぜか山見ともうまくやっている。以前山見と同じグループにいたからだろう。そこからぬけてこちらに来たわりには、山見もまだそこまで毛嫌いしていないようだった。

 今回は山見が陽動で、片倉が足止め、心平がトドメという役だった。

「山見くんいい動きだったね。授業のときより瞬歩速かったような気がするよ」

「まあね。やはり実力は実戦で発揮されるものだからな。当然だよ」

 そういうのは何となく分かる気がして、心平も不満げに頷く。

「そういや助けてくれてありがとな、片倉」

「いや。まさか尾が伸びるとは。よく避けたね」

「まーな。一護には及ばないけど、俺だって動体視力には自信があるんだ。……って言うほど一護の戦ってるの見たことないけどさ」

 心平が肩をすくめると、片倉は苦笑いをした。

「仕方ないさ、授業に出ないんだから」

「前に斑目副隊長と戦ってるときはマジですごかったわ」

 あれは流石に驚いた。

 本人があまり蒸し返されたくなさそうなので話題にならないが、志波一護はなかなか変なやつだ。

 一時期、実は”黒崎一護”なのでは? と思ったりもしたりする程度には、おそらく強いのだろうと思われる。

 そんな彼と一緒に実戦演習ができると期待していたのだが、今回は一緒ではなかった。

 

「志波くんの斬魄刀、あれは始解なのか」

 山見がつぶやくように言った。

「あ?」

「さぁ、よくわからないんだ」

 喧嘩腰に対応する心平の一言を受け継ぐように、片倉が苦笑しながら言った。

 はっきりとは心平も確認したことがないのだが、似たような事は言っていたのでそうなのだろう。

「なぜ、学院にいるのだろうな」

 すこし、意外なセリフだった。

 山見は一応一護の優秀さを認めているのだろう。それはまぁ、あれだけあらゆることを見せつけられればそうだろうが。

「家の事情みたいなもんて言ってたけど」

「………」

 納得いかなそうに山見が眉をひそめる。そんな顔をされても、心平も片倉も似たような気持ちなので何も言えない。

「でも本人は、自分が優秀なことをあまり自覚していないみたいだけどね」

 片倉が肩をすくめて言った。

 誰かが一護をどう褒めても、彼は自分をすごいとは思っていないようで、天狗になるようなことはない。かといって自己評価が著しく低いのかと言うとそうでもない。

 心平が思うに、志波一護は一般的な基準というのをわかっていないのではないだろうか。

 一回生ならこんなもの。六回生ならこんなもの。という感覚がないから、自分がものすごく突出しているということにも自覚がない。

 おそらくだが、学生生活を続けるうちに、自分の能力が高いことに気づくのではないかなとは思っている。

 

「そろそろ帰ろうか。はやい組はもう戻っているだろうし」

「だなぁ。一護と梅はどうなったかなぁ」

 心平たちの組は最初の地点からそれほど離れていない場所に配置された。ダミー虚も遠くまで逃さなかったので、すぐ集合地点に戻ることができる。

 立ち並ぶ工場の間を歩きながら、心平たちは普段の生活や今後の試験などについて話に花を咲かせていた。

 こういうときは山見もそれなりにまともな会話をする。まぁ心平には返事もしないし質問もしてこないが。

 

 

 最初にそれに気づいたのは片倉だった。

「今、なにか言わなかったか?」

「何か? 別に何も……」

 強いて言うなら明日の授業の話をしていた。なにか気になることでも? そう聞こうとして、今度は山見が「おい」と緊張した声音で言った。

「どしたよ?」

「僕も、聞こえたぞ。悲鳴、みたいな」

「山見くんもそう聞こえた? なんか、変な声が……」

 

 その時、巨大な咆哮が聞こえた。

 

 三人ともびくりと震えて勢いよく顔をあげる。

 腹の奥に響くような、轟くようなそれは、引き攣れた悲鳴のような、獣の叫びのような、こすれる金属のような、そんな、耳障りな音だった。

 みぞおちがぐっと持ち上がるような気持ちの悪い感覚があって、すぐに全身が震えるほどの霊圧を感知する。

 

「これっ、虚か!?」

「これが……?」

 

 虚の咆哮を聞くのはこれがはじめてだった。

 心平はぐっと奥歯を噛む。

 ダミー虚が発する不快な音を何倍にも増幅させたようなこの音が、これが虚の声なのかと恐ろしさすらあった。

 声の方向から退こうと足が自然と後ずさる。しかしすぐにはっとした。

 同じ方向から同級生たちの霊圧を感じた。

 それがひとつずつ、消えていくのだ。

 背中を何かが滑り落ちるような、ゾッとする感覚がして、ほとんど無意識に心平は走り出していた。

「沖野くん!」

 片倉が呼んで、すぐに後ろについてくる。

 振り返って確認をすることもせずに、心平は地面を蹴ると高く跳躍した。そのまま建物の上に着地し同級生たちの方向に全力でまっすぐむかう。

「待て! 待つんだ! 行ってどうするだ!」

 追ってきた片倉が叫ぶ。

 どうする? どうするって?

「助けに行かないと!」

「ッ! 無理だ! 感じないか!? 先生たちの霊圧すら消えていく! 危険だ! 応援を呼ぶべきだ! 沖野!」

 聞こえないわけではない。ただ聞こえないふりをして走る。

 梅や一護の顔が脳裏によぎった。

 意味がないかも知れない。無謀かもしれない。でも助けなければ。

 何かできるかもしれない。そんな思いで走る。

 そうして一際高い建物に囲まれた広い場所に出たとき、心平は建物の屋上で無意識に足をとめた。驚愕に目を見開く。

 

 巨大虚(ヒュージホロウ)だ。

 

 心平が立っている建物の高さに並ぶか、それ以上の巨大な虚。

 それが、3体。

 何かを囲むように立っている。

「ッ!」

 心平はその中央にあるものに目を見張った。

 最初に穿界門で来た地点。そこに数名の制服の生徒たちと、倒れているのは教師だ。鮮やかな赤い血が見て取れた。

 だれかが怪我をしている。あるいは――。

 斬魄刀に手をかけることすらできないまま、呆然と見下ろす。

 どうしたらいい?

 どうしたら……!

 

 

「沖野ッ!」

 

 呼ばれて心平は振り返った。

 巨大なナニカが夜を遮っていた。虚だと、思う。その虚が動く。

 

 爪だ。

 するどく尖った巨大な爪が目の前に迫って視界を覆い、迫る。

 頭蓋ごとあるいは体ごと貫かれる。そんな未来が見えた。

 死を覚悟することすらできない。

 ただまるでスローモーションのように目の前に迫るその巨大な死を前に、心平は呆然と目を見開いた。

 

 

 

 

 

 強い閃光がほとばしった。

 

 火花。

 あるいは霊圧の華。

 視界が真っ白に染まり、次の瞬間、目の前に居た”死”が大きく弾かれた。

 こんな光景を見たことはない。

 巨大な虚の体躯が、まるで立って歩くことを覚えた幼児が後ろに転がるように、のけぞる。

 轟音をたててそれは倒れ、続いて強風と砂埃が渦となって襲いかかった。

 肌に当たる砂粒が僅かな痛みを与えて、目を開けていられないと目を閉じた心平は、じゃりっという草履が砂を踏む音に目を開けた。

 

 月光を反射するのは、巨大な斬魄刀。

 

 月光を受けて輝くのは、鮮やかなオレンジ。

 

 月光を受けて浮き出るのは、着物をきたシルエット。

 

 バサリと音がして、着物の袂が翻る。

 

 

 心平は膝の力が抜けて、尻もちをついた。

 見上げた先で、笑う横顔に目を見開く。

 

「………いち、ご……」

 

 

「ああ」

 

 呼べば、応える。いつものように。

 笑みを含んだ声で、彼が応えた。

 

 

「助けに来たぜ」

 

 

 

 そこに、死神がいた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 





 ここもな。書きたかったんや。それだけ。
 一護さん本当にかっこいいです。
 色んなシーンのセリフ好きですが、何度聞いても一護の「助けに来たぜ」は。
 そこにしびれる憧れるぅ!!!!

 ちなみに現世に残った人たちの話はまた今度やります!

 てな感じで続きます!

  
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