黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
 一護が現世演習に行く話。

※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意




26.現世演習は鬼門だと誰かが言った4

 

 

 

『月牙天衝って、どんな技なのかな』

 入学して三ヶ月ほどたったころ。

 定期試験の半ばのころに、一護は自分がそれはそれは有名人だということを知った。

 外見も斬魄刀も情報がないけれど、それ以外はかなり詳しく情報が流れていて、例えば卍解の名前だとか、技の名前だとかも、勝手に知れ渡っていた。

 それがどんな技かまでは、知られていなかったが。

『文字通りに考えるなら、月みたいな形をした牙? で天を衝くんだろ?』

 そんなふうに心平が言って、梅が笑う。

『そんな単純かなぁ』

『でもきっと、すごい威力の技なんだろうな。どう思う? 一護』

『…………さあな』

 その時、一護は目を逸らして誤魔化すことしかできなかった。

 ただ、心平の言うことも、残念ながらあってるんだよなぁと、そんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒崎一護が実際に相対した破面は数名。

 ウルキオラ、ヤミーを除けば、最初に遭遇したのはディ・ロイだ。

 その接触していた時間は僅かな時間だったが、それだけで彼がここに居るのには充分すぎる理由になる。

 そのことを知るのは、今はまだ――。

 

 

 

 一護は上空で仁王立ちする破面を見上げて睨みつけた。

 ディ・ロイ。

 一度グリムジョーと共に空座町にやってきた破面。

 己が刃を交えていないが故に、思い入れがあるわけではない。名前を覚えていなかったのはそういうことだ。しかし存在は覚えている。

 正直苦い記憶が多い敵だった。

 守りきる力もないまま飛び出して、できもしないのに戦って、チャドを傷つけて、ルキアからそれを指摘されて。そのルキアもグリムジョーから護ることができなかった。

 ディ・ロイがどうこうという話ではないのだが、タイミング的によい思い出の無い相手だ。

 

 しかしディ・ロイはあのときルキアの手で撃退された。生存しているはずもない。現世にはもちろん虚圏にだっていないはずだ。仮に死んで尸魂界に行っていたとして、それならば破面として現れるわけがない。しかし空中に浮かぶ姿は間違いなくあのときの破面だ。

 こちらを見下ろすその顔には貼り付けたような笑みを浮かべている。

 

 ――生き返ったのか?

 

 一瞬そう考えて一護は直感的に違うと判断する。

 何が妙なのかははっきりしないが、何かが妙だ。

 何か、何かが違うような。

 その違和感の正体を探す時間は一護にはない。

 

「行くぜ、構えな!」

 ディ・ロイが再び虚閃の体勢に入ったのだ。

 赤い光が収束して放たれる瞬間、反射的に一護は斬月を振るった。

 ほとんど予備動作のないその動きから強烈な霊圧が吹き出す。刃の形にすらなっていない剣圧だが、それはまっすぐ飛んで上空に居るディ・ロイを吹き飛ばした。

 できるならば虚閃は放つ前に止めてしまうにかぎる。経験則である。

 

「一護、くん……」

 梅の呼び声に、咄嗟に振り返った。

 生徒と教師たちが跪いて動けなくなっていた。バタバタと地に伏して震えている。

 ディ・ロイと一護の霊圧にあてられたのだと察して一護は顔を歪める。当然のことだった。

 制御されていても、虚閃を弾くためにそれなりに威力のある攻撃を一護はしたし、相対するのは破面。そのへんの虚に太刀打ちできない生徒が対面して平気でいられるわけがないのだ。何人かはすでに失神しているのか身動ぎ一つしない。

 梅も同様だ。一度一護の霊圧を受けたことがあるからなのか、意識を保ちながらかろうじて回道を使えてはいるがギリギリなのだろう。顔面が蒼白だった。

 一護は小さく舌打ちすると、屋上を強く蹴った。

 自分と奴を生徒たちから遠ざけるべきか。しかしこれ以上離れると住宅街に入ってしまう。それも危険だ。

 結局今ここですぐさま倒すしか無いと判断して、一護は上空に舞い上がった勢いでそのままディ・ロイに斬月を振り降ろす。

 今の自分ならこの程度の破面に苦戦などしないはず。そんな慢心であり事実である感覚のまま振るった攻撃は、しかし予想に反してかわされる。

 ディ・ロイは剣の軌道線上から難なく逃れると、再び虚閃を一護に放った。

 一護はそこに斬撃を与えて相殺する。弾き飛ばしたり躱したりすれば、どこに被害が出るかわかないからだ。

 相殺されたことを、ディ・ロイは気にしていないようだった。ただ一瞬舌打ちをして忌々しそうにするが、すぐに笑みを浮かべる。

 

 やはり妙だと、一護は眉をひそめた。

 そもそもおかしい事だらけだが、戦ってみても違和感がある。

 まず虚閃の威力がやけに小さい。霊圧だってそうだ。生徒たちは崩れていたが、それでも以前会った時より小さいような気がする。

 かといって弱いかというと、一護の動きには明確についてくる。

 この違和感はなんだろう。

「てめぇは誰だ」

 低く言って斬月を構えると、そこへディ・ロイがツッコんでくる。

「破面No16.ディ・ロイだって言ってんだろ! テメェの名に興味はねぇがな!」

「学習しないやつだなッ」

 斬魄刀と斬魄刀がぶつかり合い火花を散らした。

「お前に用はねぇんだ! あの女死神はどこだ!?」

「ここにはいねぇよ!」

 ルキアのことを探しているのだろうが、ここに居るわけもない。

 一護は叫んでディ・ロイの斬撃を弾く。

 そのまま数度刀同士をぶつけながら、どんどん敵をその場から遠ざけた。

 そうして上空高くに舞い上がり、そろそろ全力で斬月を振り下ろそうとしたとき、ふと、視界の端で何かがちらついた。

 ひらりと夜空を横切る、黒い蝶。

 

 ――地獄蝶?

 

 鍔迫り合いを挑んできたディ・ロイを弾き、その勢いを使ってあえて距離をとってから一護はその地獄蝶を目で追う。

 そうして視線を彷徨わせて、一護はハッと目を見張った。

 ディ・ロイの向こう。地獄蝶が舞うその先に誰かが浮いている。頭からすっぽりとローブを羽織ってはいるが、隙間から見える全身黒の着物は間違いなく、死覇装だ。

 つまり”死神”。

 それがこちらをじっと見ている。

 

 ――誰だ?

 

 遮断されているのか、あるいは隠しているのか定かではないが、霊圧はほとんど感じない。

 ただこちらをじっと見ている。その視線だけはひしひしと感じる。

 こんな状況を見ている死神が居ることがおかしい。助太刀しにきたという感じはしないし、ただじっとこちらを見ているなどおかしな話だ。

 観察に近いその視線は不気味ですらあって、一護は大きく眉を寄せる。

 

「よそ見してんなよ! 死神!」

「ちっ」

 一護は迫ってくるディ・ロイを躱す。

 

 ――わけわかんねぇ。わからねぇけど……。

 

 ただ、あの死神が誰なのか確認しなくてはならない。

 そしてそのためには――。

 

「てめぇは邪魔だ!」

 一護はそう叫ぶと、再度眼の前に迫っていたディ・ロイを睨みつけ、斬月を大きく振り上げた。

 そのまま振り下ろせば霊圧を乗せた斬撃は矢のように真っすぐ飛んで行く。しかし大きさはもはや矢ではない。今までで一番威力のあるその攻撃を、ディ・ロイは真正面から受けることになる。当然。奴は今度こそ吹き飛んだ。

「ぐあぁ!!」

 刃で受けたようだが、それで止まるような威力では当然なく、バカ正直に受ければそのまま数十メートル先まで吹き飛ばされる。その勢いのまま明かりの消えた無人のビルに激突し、盛大に轟音をたててビルの上階が崩れた。

 霊圧が風をはらみ、一護の周りに強風が吹き荒れる。

 バサバサと音をたてて一護の死覇装がはためき、斬月の柄に巻かれたサラシが大きく翻った。

 

 壊れたビルを見下ろして、場違いにも一瞬うわぁと一護は思う。

 現世で虚と戦って破壊されたものを修繕するのは人間だ。場合によりけりではあるが、基本的には死神たちが夜なべして修繕しておく。なんてことはしない。

 よってこうして破壊された場合、翌日には現世のニュースが大騒ぎなのである。ちょっとした破壊ならともかく、ビル一つ駄目にすると流石に罪悪感が大きい。

 

 まぁ仕方ないと割り切るべきだろう。一護は軽くため息をついてから斬月を下ろすと、崩壊したビルを睨んだ。

 さて、追いかけて行くべきか、ここで待つべきか。

 向かってくるなら迎え撃つ。逃げるなら追う。どちらにしても闘うことには違いない。ただあまり生徒たちから距離をとりすぎるのもまずい気がして、一護は追いかけられないでいた。

 

 ふと視界が白くぼやけていくことに気がついた。

 見渡せば、周囲に霧が立ち込めている。はじめは薄っすらと、しかし気づいたときには濃くなって、やがて真っ白に周囲を覆い尽くしていく。

「何だこれ?」

 霧といっても湿気は感じない。煙にも近いがそういった匂いもしない。無臭の霧。

 ただの目眩ましのようにも思うが、これはディ・ロイの能力だろうか。一護が刀を振って霧を晴らそうとするがそれもうまくいかなかった。

 唐突に、ぞわりと嫌な気配がした。

 同時に霧が渦を巻いて一護の前方、一点に向かって収束していく。

「今度はなんだ?」

 そうして濃度の高くなった真っ白な霧の塊のような、雲のようなものが生み出す渦の中央から巨大な腕が突然一護に向かって迫った。

 はっとして空中を蹴りひらりと避けて、たった今までいた場所を見れば巨大な虚の腕が空中を掴んでいる。

「なん――ッ!?」

 驚く言葉も吐かないうちに、霧を蹴散らすように現れたのは巨大な虚。

 全身が濁ったような青色で、顔には仮面と角二本の。

 見た目は普通の虚だが、その巨大さに一護は目を瞠る。

「は?」

 でかい。

 とてつもなく。縦にも横にも大きい。

 それが、5体。

 先程まで何もなかった場所。霧が消えたと思った瞬間に現れたそれらは、あきらかに巨大虚のサイズを上回っている。ということは。

「アジューカスか?」

 アジューカスは大虚の中で、中間の存在だ。ギリアンとヴァストローデの間に位置するそれは、ギリアンよりも小さく、ヴァストローデや巨大虚よりはでかい。

「一体なんだってんだッ」

 流石の一護も声を荒げる。

 巨大虚がでた段階からおかしいのに、死んだはずの破面に、普通にでてくるはずがないアジューカスが複数。 

 気になる謎の死神といい、一体何が起きているというのだろう。

 数も強さも倒せない敵ではない。正直大して切羽詰まった状況ではない。

 しかしさすがにおかしい。それが一護を動揺させる。

 一護は振り返って下方を見下ろした。そこには相変わらず生徒と教師がいる。さらにその横の建物の屋上に、沖野や片倉が居るのが見えた。彼らを守らなければならない。

 さらにガラガラという音がして、先程吹き飛ばしたディ・ロイが全身ボロボロになりながらビルの残骸から立ち上がっているのが見えて、一護は大きく悪態をついた。

 「くそっ」

 いつもの一護なら、さっさと卍解でもして一掃する。なのに一瞬、生徒たちの視線を気にしてしまった。

 バレることより、バレた後のことを考えて怖気づく。そうしてわずかに隙ができた一護にアジューカスたちの腕が迫った。

 一拍遅れた自分に舌打ちして、一護はその腕を切り飛ばそうとして――。

 

 一護が斬月を振り降ろす前に、スパンとその腕が切断された。

 その断面が一瞬で白く凍りつく。

 

「!?」

 

「動くなよ。一護」

 声がして、一護は上を勢いよく見上げた。

 白い羽織がバサリと翻った。

 黒髪が月光を反射する。

 真っ白な斬魄刀と、柄から繋がる白い飾りがひらりと円を描き、周囲の温度が一気に下がる。

 

「肆の舞 ”白鏡”!」

 

 白い氷の刃が、アジューカスを垂直に切り裂いた。

 

 一護はその姿を目に焼き付けるように見つめた。

 人生の中で、自分のすべてを変えてくれる存在というのに出会う確率はどのくらいだろうか。

 一護にとって彼女はそういう存在だ。

 運命を変えてもらった。

 躓けば叱咤し、背を蹴り上げて進む道を示す。戦え、頑張れと、奮い立たせてくれる。

 そういう存在を人はなんと呼ぶのだろう。

「ルキア!」

 頭上で軽やかに斬魄刀を構えた女性の名を一護は叫んだ。

 強気な笑みが返ってくる。

 そうしてルキアは当然のように、ふわりと一護の横に着地した。

「四番隊も一緒に来ている」

 言われて背後を見れば、いつの間にか死覇装の集団が生徒たちのそばに現れていた。見知った霊圧もいくつか察知して、一護は安堵の息をはく。

 ルキアはするりと一護の横をすり抜けた。

「奴は任せろ」

「――ああ」

 言って、そのままルキアは破壊されたビルへとまっすぐ向かっていく。ディ・ロイはルキアに任せる。

 ならば今一護がすべきことは目の前のアジューカスを一掃することだ。

 斬月を構えて、霊圧を開放する。

 不思議と焦りは消えていた。

 チリチリと音がして、腕につけた制御装置が悲鳴を上げるが今は気にしない。

「行くぜ……」

 全身から霊圧が噴き出し、巨大な霊圧の柱となって立ち登った。

 

 

 

 

 

 

 視界の端に光が天を突き上げる様子を収めながら、ルキアは瓦礫の中から現れた破面を睨みつけた。

 ルキアの記憶が鮮やかに蘇る。

 あの時の戦いで最初に遭遇した破面だ。

 

「貴様は一度倒したはずだが」

「……そうだったか? 死神」

 ディ・ロイの返しにルキアは不機嫌さを隠さずに眉をひそめる。

 あれは、ようやく力が戻った末の初戦の相手だった。大した力もなく、破面の中では下っ端だったのだろうと理解している。

 この手で倒した相手だ。

「なぜ、生きているのだ」

「さあな」

「そうか。答える気はないようだな。ならば今度こそ、私の名だけは聞いて逝け」

 言って、ルキアは純白の斬魄刀、袖白雪を構えた。

 一瞬、ディ・ロイの姿が消え、ルキアの背後に回る。その背後に、ルキアは瞬歩で回り込んだ。

 背後を取られるような間抜けはしない。

「十三番隊隊長、朽木ルキアだ。――さらばだ。破面」

 

 初の舞 ”月白”。

 

 天高く、氷の柱がそびえ立った。

 

 

 

 

 

 

 一方、複数のアジューカスの相手をしていた一護は、五体目のアジューカスを薙ぎ払ったところだった。

 巨大なだけの相手など大したことはない。相手はしかも破面でもないのだ。ギリアンより愚鈍さがマシというだけ。

 それならばと霊圧をあげて一気に片付けた。消費した霊圧はもちろん大したことはないし、息を荒げるほどでもない。すべてのアジューカスが消えたのを見届けて、一護は溜息をつく。

 そうして一護は再び上空を見上げた。

 そこにはやはりまだ、謎の死神が浮いていた。

 立っている場所も何もかも変わっていない。

 やはり、何者なのかわからない。気配も相変わらず希薄だ。学生を相手にしているのではと思うほどに霊圧が少ない。

「ルキア」

 隣に音もなくルキアが立った。

 彼女も上を仰ぎ見て、眉をひそめる。

「あれは誰だ」

「わからねぇ」

 ただ、仲間ではない。そう感じる。

「そうか………」

 ルキアは静かに答えると、一歩前に踏み出して声を張り上げた。

「貴様は何者だ!」

 夜闇に声が響く。

 沈黙が返った。

 相手は身じろぎひとつしやしない。ただ風にローブと死覇装をなびかせるばかりだ。

「そうか。名乗らぬのなら、捕まえて名乗らせるだけだ」

 ルキアはそう言うと、袖白雪を右手で持ち切っ先を謎の死神に向ける。しかしやはり、動揺もしない。

 隊長格に敵と認定されて、動揺しない死神とはなんだろうか。普通の死神でないことは間違いない。

「心当たり、ねぇのか、ルキア」

「無い」

 

 けれどあれは死神だ。

 一護が眉をひそめ、瞬き一つした瞬間、唐突に死神の背中から白い湯気のようなものが上がった。

「!?」

 それは黙々と雲のように広がって、死神の姿を隠していく。そして、やはり先程のように渦を巻いてその霧のような煙のようなものが集まっていき、その中心から何かが姿を現した。

 白い靴を履いた足先が見えて、更に全身白い装束の全身が見えた時、一護とルキアは目を瞠る。

 

「ディ・ロイはやられたか」

「……結局カスはカスだな」

 

 霧の中から現れた二人組。それらはルキアが倒したディ・ロイについて悪態をついた。

 その顔に面があることに気づいて、一護は舌打ちをする。

「次から次へと……なんだってんだ」

 巨大虚、破面、アジューカスときてまた破面。しかも今度は2体だ。

 もはや半分呆れて顔を歪める一護の隣でルキアがかすれた声で「あれは……」とつぶやく。

「知ってんのか?」

「……いや。だが見たことがある」

「なんだそりゃ。そう言うのを知ってるって言うじゃねぇのかよ」

「たわけ! ……会ったことはないが、資料を見たのだ!」

 ルキアは軽く一護を怒鳴りつけると、ふたたび上空を見上げる。

「日番谷隊長と、恋次が戦った相手だ」

「は?」

「シャウロン・クーファン。それからイールフォルト・グランツ。どちらもグリムジョーの従属官(フラシオン)だ」

「フラシオン? ああアレか。グリムジョーの?」

「あのディ・ロイもな。だが、どちらも死んだはずだ。恋次の報告にも、涅隊長が虚圏より持ち帰った情報にもそうあった」

 その言葉に一護は顔をしかめる。つまりディ・ロイと同じく、いるはずのない者ということだ。

 一体どうなっているのか。それに今のはまるで、あの死神が呼び出したかのようだった。白い霧の正体もよくわからない。しかし、破面二体か……と一護は内心思いっきり悩む。

「……ルキアはあっちの死神なんとかしてくれ」

「貴様はどうするのだ」

「あの破面の相手だ」

 頷いて、同時に二人は空中を蹴った。

 死神の前に立っている二人を一護が弾き、できた隙間を縫ってルキアが謎の死神に肉薄する。

 破面二体は一護とルキアの行動に動揺した様子も謎の死神を護る様子もなかった。破面なのだから当然だが、死神の前に立っていた姿はまるで守っているようだったので、一護は一瞬意外に思う。

 二体はルキアを一瞥はしたが、結局一護とルキアの思惑通りに一護に向かってきた。

 最初に、金髪の破面イールフォルトを剣圧で弾き、シャウロンを斬月で叩き斬る。どちらもなんとかソレに耐えてみせたが、やはり力の差は歴然だった。

「くっ、妙ですね。貴方は死神ですか?」

 シャウロンが言う。

「それ以外に見えんのかよ」

「死覇装を着ていないのでね」

 言われて、そういえば今は制服だったと思い出す。

 そうして同時に自分が学生だったことを思い出して、苦々しい気分になった。こんな連中と堂々と戦っているのを、おそらく下にいる生徒たちは見ているのだ。

 やっかいなことになった。

「しかしそうですか、貴方が死神なら、やはり特徴は聞いたとおりですね。貴方が――」

 その続きを言わさずに、一護はシャウロンに再び斬月を叩きつけた。

「くっ!」

 シャウロンは斬魄刀を抜いて斬月を直接受けるが、それでは防げない。斬月を叩きつけた勢いのまま一護がさらに強く振り切れば、押されてシャウロンは真っ逆さまに地面へ落下する。そうして振り切った体勢のまま、瞬時に地面を蹴って軽く跳躍すれば、先程まで立っていた場所をイールフォルトの斬魄刀が通り過ぎた。

 連携のつもりだろうが、そんな遅い連携では捕らえられる訳がない。

 瞬歩ですぐさまイールフォルトの背中側に回ると、シャウロンと同様に地面に向かって叩き落した。

 さらにそれを追って、一護も地面へと降りる。

 今はとにかく、コイツらを倒すのが先だ。たとえ正体がバレても。

 土煙が舞う地面に向かって飛んでいく一護は、前方から感じた霊圧に反射的に落下する軌道をずらした。先程までいた場所を赤い閃光が通り過ぎる。

 虚閃だ。

 ディ・ロイよりは明らかに強いそれを、一護は数度に渡ってひらりと躱した。

 そうして地面に立って見上げているシャウロンに斬月を叩きつける。

 受け身はとったのだろう。

 しかし、落下による速度と重力が上乗せされた斬撃の威力に、地面が大きく陥没した。

 シャウロンの両足がミシミシと音を立てる。

 やがてガクリと力が抜けて、そのまま地面にめり込んだ。

 一護は身を起こす。

 仰向けに倒れた状態で、シャウロンは沈黙していた。

 一護はすぐさま仁王立ちで見上げる。

 先程シャウロンに攻撃を仕掛けた時、一足先に上空に逃げていたイールフォルトを視界に収める。

「なんなんだ! お前!」

 キレイな顔を歪めてイールフォルトが叫ぶ。それを無視して、一護は地面を強く蹴って突っ込むと、イールフォルトにぶつかる直前に背後に回る。

「二度目だな」

 そうしてふたたびイールフォルトを地面に倒れたシャウロンと同じ場所に向かってたたき落とした。

 

 ゆるゆると地面に降りて、土煙が晴れるのを待つ。その間に、ルキアはどうなったかと見上げて一護は絶句した。

 遠く上空でルキアが対面しているのは大量の虚だった。

「なんっでそうなんだよ!?」

 叫んで、一護は地面を蹴る。

 流石にあの大群では助太刀しなくてはと思ったのだ。しかし飛び立つ直前でなにかに足首を掴まれた。

「なんっ!? うぉ!!」

 掴んでいたのはシャウロンで、それを振り切る前に、思いっきり放り投げられた。

 といっても破面の力である。ものすごい勢いでそのまま吹き飛び、あわやビルに激突というところでなんとか空中に足を止める。

 

「一護くん!」

 すぐそばから聞こえた声にはっとしてふりかえれば、そこには梅がいた。その側にはいつの間に移動してきたのか、片倉と心平の姿もあって、それぞれと一瞬目が合う。

 今ので生徒たちのところへ放り投げられたのだと気づいた一護はすぐさま離れようとするが、同時に梅が再び叫んだ。

「一護くん! 前!」

 赤い閃光が走る。

 シャウロンとイールフォルト。二体の破面による虚閃。それが同時に放たれた。

 

「一護!」

「志波くん!」

「一護くん!」

 

 叫ぶ友の声に一護は歯を食いしばる。

 弾け。相殺しろ。

 ならばもう、これを使うのが一番早く確実だ。

 一気に霊圧を高めて、叫んだ。

 

 

 

 「月牙 天 衝!!!!!」

 

 

 

 バレるとか、やばいとか。その後とか。そういうのはどうでもよくて。

 ただ、俺が護るんだ。

 そう思った。

 

 

 

 

 黒崎一護の代名詞とも呼べるその技が、天を衝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




+++++++++++++++++++++++


 どうもどうも。 
 遅くなりました~
 相変わらず難産で、めずらしく推敲したらこんなに時間が空いてしまいました。
 
 なんかこう、なんていうか、こう、戦闘シーンって本当に難しいですね!
 一護の無双が見たい反面、お雑魚様相手では無双すらもできないほど実力差があって大変。
 かつ怒涛の展開が書きたいゆえに、敵キャラがしゃべらない!!!
 どうしたらいいんだ!!!

 と思いながら書いてますw
 
 さぁ、現世演習編、もうすこしで終了です。どうぞ!




 
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