黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
 一護が現世演習に行く話。

※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意

 

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27.現世演習は鬼門だと誰かが言った5

 

 

 

 

 破面とは、虚の仮面を剥いだ虚の上に立つ存在。

 人の姿と斬魄刀に、剥がれた仮面。

 それらの外見から破面が元々どの階級にいたのかを判断することは難しい。

 一般的な虚だったのか、巨虚だったのか。巨虚ならば、ギリアンか、アジューカスか、ヴァストローデか。

 もしそれが知りたいのならば、そいつが虚閃を放てるかどうかで判断するのもよいだろう。虚閃は巨虚の能力だからだ。

 それで少なくとも、そいつが巨虚だったかどうかはわかるだろう。

 だが、それがもし、万が一虚閃を放ったならば。

 その時は生き残ることだけを考えて逃げなさい。

 逃げ切れる可能性は零に近いけれど。

 

 教本を諳んじていた教師は、たしかそんなふうに言っていた。

 

 

 

 

 

 上空から放たれたそれが虚閃であることを、片倉は理解した。

 放ったやつの外見とか、赤い光とか、嫌な感じとか、確信に至る情報はあまりないけれど、多分そうだろうと確信していた。

 そして、そうだろうと理解した瞬間にはすでに死が迫っていた。

 先程からわけわからないほど巨大な霊圧を放って、異常とも言える速さで動く同級生を必死に目で追いかけていた彼は、眼の前にせまる死を回避しようと無意識に腕を顔の前に掲げる。

 頭を守ろうとするのは人間の本能だ。

 目を閉じて、声もなく口だけ開けて、あとはどうしたらいいのだろう。

 誰かの悲鳴とか叫び声が混じり合って逆に何も聞こえない。けれど、その声だけははっきりと片倉の耳を打った。

 

「月牙 天 衝!!!!!」

 

 その技の知名度はかなりのものだ。でもどんなものかはみんな知らない。

 ハッとして顔をあげる。

 視界いっぱいを覆うほどのまばゆいほどの赤い光に、白い光がぶつけられた。

 白は赤を呑み込んで、巨大な光となる。隕石のようだと片倉は思った。自分の側から発生して空に向かっていく隕石なんてないだろうけれど。

 周囲の空気も巻き込んで白い光は赤を放った者を呑み込む。叫び声が聞こえたがよく聞き取れなかった。現れた他の虚たちもその光に巻き込まれた。

 そうして巨大な光が天を衝く。

 ぐわっと空に漂う雲が一瞬にして晴れる。瞬間襲いかかる強風に片倉は咄嗟に自分の背中側にいた梅と治療を受けている生徒に覆いかぶさるように身体を広げた。ぎゅっと目を瞑ればゴォォォッという風の音が耳を打つ。

 薄目を開けたところで「うそ……」と梅が呟いたのが聞こえた。

 ゆるりと振り返ればやけに明るい視界に驚く。

 月明かりがなんの障害物もなく降り注いでいた。空を半分隠していた雲は姿を消して星空が一面に広がっている。その広すぎる空の面積に驚いてしまった。こんなに空は広かったのかと。

 先程までいた大量の虚すらも全ていなくなっているではないか。あの技で一掃されたのだろうか。なんという威力だろう。

 バチバチと電線が音をたてている。周囲で光っていた人工的な外灯が明滅している。あちこちで煙がくすぶっている。

 そんな退廃的にも感じられる光景がここで戦いがあったことを感じさせるのだが、それ以外はまるで静寂であった。

 背中を向けて立っていた同級生がゆっくり振り返るのを片倉は呆然と見上げた。

 

「怪我、ねぇか」

 

 片倉は返事ができなかった。

 けれどかわりに、誰かが応える。

 

「大丈夫です。ありがとうございます、一護さん」

 呆然としたまま横を向けば、片倉と同じように一人の死神が梅と怪我人を護るように身体を広げていた。

 その死神は冷や汗を流し気弱そうな横顔でいながらも、毅然とした様子で同級生である一護を見上げている。

「来てくれたのか、花太郎」

「山田三席……」

 一護と梅が同時にその死神に話しかけた。

 片倉も名前は知っている。四番隊第三席、山田花太郎。一瞬、どうしてここに? と疑問に思ったが、落ち着いて周りをみれば複数の四番隊隊員らしき死神たちが屋上に集っていた。

 一護の動きを追うので精一杯で、ここに彼らが集まっていたことにまったく気づかなかった。

 彼らは斬魄刀を抜いて構えていたが、一護が守ってくれたことに気づくと困惑をたたえた表情のままでいながらもすぐさま怪我人の治療へ戻っていく。

 それを眺めていると一護が片倉に声をかけた。

「片倉、大丈夫か」

「…………」

「おーい」

「え、あ、ああ」

 一瞬呆けてしまったが、なんとか曖昧に頷く。一護の両目はしっかり片倉を見据えているので自分が話しかけられているのに間違いないようだと遅れて思った。

 月光を背負って立つ一護を見上げて、片倉はようやく状況を把握し始めていた。

「げつが、てんしょう……」

 幼子のようにたどたどしく呟いて、一護を見上げる。

 どこか気まずそうにする彼は目を反らした。その彼の腕にはひび割れたバングルが光っていて、いつもは感じない強大な霊圧を彼からひしひしと感じた。

 

 『君は多分実力だけなら護廷十三隊席官に匹敵する』

 

 そんなふうに言ったことがある。

 あの時本心では、もしやそれ以上かもしれないと思っていた。けれど副隊長や隊長に並ぶとまでは言えなかった。そこまで言ってしまったら自分の中に出てきた可能性を肯定してしまいそうだったからだ。そうしたら、どう接していいのかわからなくなると思ったからだ。

 はじめてできた友人を”そう”だと思いたくなかった。

 手の届かない人だと思いたくなかった。

 

 でももう、どうしようもない。

 認めるしかない。

 心平を守ったあの時からもうわかっていたのだ。

 名前が似てるとか、そんなことも今更だ。似てるのは当たり前だ。だって。

 

「黒崎、一護……」

 

 同級生は、英雄だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前を呼ばれて、一護は苦笑した。

 それがおそらく肯定になってしまうとわかっていて。

 だって勘の良い友人のことだから、もうごまかすのも無理だと思ったのだ。

 切羽詰まった状況だったのでみんながみんな気づいたわけではないだろうけれど。死を目前にして青ざめている生徒の中には高揚で顔を紅潮させた生徒も何人か居るから、やはり気づかれてしまっている。それぞれと視線があった気がしたが一護はさっと目をそむけた。

 視線の置き場所に困ってちらりと花太郎に目を向ける。

 ルキアが一緒に来たという四番隊は花太郎が率いる治療隊だったようだ。

 花太郎はどこか心配そうに一護を見上げていたが、一護が軽く頷くと花太郎も頷いて治療を始める。梅がそんな花太郎を一瞬見て、それから一護を見上げた。

「大丈夫か、梅」

 片倉にきいたことと同じことを尋ねる。

 梅はすべてを知っているから、やはりどこか心配そうにしながら頷いた。

「大丈夫だ」

 その頷きに対する応えだったのか。もう大丈夫だと安心させたかったのか、自分の正体がバレたことを気にするなと言う意味だったのか、あるいはそれを自分に言い聞かせていたのか。一護自身よく分からなかった。

 一護はふたたび上空を見上げる。

 

 謎の死神はまだそこにいた。

 ルキアと対面しているが、斬魄刀は抜いていない。

 先程までは一護が今いる場所からさらに百メートル以上上空にいたはずだが、ルキアに追われて随分下まで降りてきている。屋上に立ったままでもその全貌が見えた。

 死覇装の上に被っているのは黒いローブだと思っていたが、どうやら灰色のフード付きのロングコートのようだ。それで顔は全く見えない。年齢も性別も伺い知れなかった。 

 腰に斬魄刀があるかもよく見えないので、本当に死神だろうかと今更疑問に思う。

「一護貴様! やるならやると言え!」

 上空からルキアが悪態をついた。見れば隊長羽織の端っこがすこし焦げている。あれは自分がやったのだろうかと思いながら、ちゃんと対応したつもりでいる一護は口をへの字に曲げた。

「ちゃんと当たらねぇようにしたっつの!」

「それでもすこしかすったではないか! まったく。こんなことではこの先が思いやられるな」

 集団戦を必須とする護廷での話を持ち出してルキアが肩をすくめる。

 一護は一層唇をひん曲げると、その表情のまま軽く屋上を蹴った。

 下から生徒たちの視線が突き刺さるが今はそれを気にしてはいる場合ではないので無視しておく。

 ルキアの横に並ぶと、ルキアは忌々しそうに眉を寄せた。

「奴に攻撃を仕掛けると、途端に虚が大量に現れるのだ」

 なるほど、それでさっきあんな大群がいたのか。

「虚を呼び出せるんだな、やっぱり。てことは破面もそうなのか?」

「そのようだな」

「能力なのか? それとも技術的な? わかんねぇな」

 とはいえすでに破面三体は屠った。

 他の虚も同時に月牙天衝で吹き飛ばしてしまったので、この謎の死神を護るものは今なにもない。

「てめぇは何者だ」

 返事があると思って聞いたわけではない。ただ、尋ねた。

 すると意外なことに死神が笑った。最初は小さく、やがて声をあげてたのしそうに、うれしそうに笑う。

「あはははっ、ふふっふふふ」

 声は男のような女のような、老人のようでもあるが若者のようでもある。変声機でも使ってるのかと思うような不思議な声だったが、機械音声というわけではなかった。

「何、笑ってやがる」

 一護が唸るように尋ねると、楽しそうに笑っていたその死神はすっと笑みを鎮めた。鎮めたがすぐにまた笑い出す。楽しくて仕方がないと言った様子で。

 なんだろう、この気持ち悪さというか気味の悪さは。相対していて気持ちのいいものではない。

 そいつは一通り笑ったあとで、歌うように言った。

「名乗るような者じゃあ、ありません。恐れ多いことです」

 やはり、性別のわからない声。

 奴の言葉に一護もルキアも眉をひそめる。声には邪気がなくてまるで子供のようですらあった。

「お会いできて光栄です。黒崎一護様」

 その上そんなふうに言うので、一護はますます眉間に皺を寄せる。

「俺を知ってるのか」

「知らない者がおりますか?」

「テメェは誰だ」

「名乗るほどの者ではございませぬ」

「じゃあ一体何が目的でこんなことしてんだ?」

「それもまた、お教えするほどのことでは」

 なんだこいつ。と一護は舌打ちしたい衝動に駆られた。話をする気があるようには到底思えない。

「けれど、名を尋ねてくださったことはとても光栄で……」

「何言ってんだ?」

「ますます、強欲になってしまいそうです」

 恍惚とした声音で言われて、こっちこそますます意味がわからない。

 首をかしげたその時、背後から声が聞こえた。

 

「それでは、黒崎一護様、朽木隊長、私はそろそろお暇させていただきます」

 一護はハッとして振り返り驚愕する。

「なっ」

 そこに、ロングコートの死神がいた。

 今、目の前にいたはずなのに、どうして背後に? 目で追いきれなかった? 

 慌てる一護の背中に、ルキアの背中がトンとあたる。

「一護……」

 緊張した声音に一護は背後を一瞥すると、そこには先程の死神がまだ立っていて――。

 眼の前と、後ろに一人ずつ。

「なん……」

 それだけではない。

 あちらにも。こちらにも。

 そこの屋上にも、こちらの給水タンクにも、電柱の上にも、上空にも、同じ格好の死神が立っている。

「なんだ、こいつら……!?」

「それでは失礼いたします」

 そんなふうに言ったのは、いつのまにか生徒たちの間に立っていた死神だった。先程のやつと声は同じだ。まさかすべてが同一人物だとでもいうのだろうか。

 一護は今すぐそいつの元へ飛んで斬り捨てたい衝動を抑えた。この量の死神に囲まれた状態であの位置を取られると、一護は身動きが取りにくい。背後から狙えるならまだしも。それを生徒に期待するのも無理な話。生徒を人質に取られたような状況に思えて一護は低く唸った。

「てめぇ」

 死神は笑う。

「観測はすみました。あなたはやはり英雄だった」

 フードで顔は見えないが、それでもわかる。うっとりとした表情でそいつは言った。

 

 気づけば周囲に霧が立ち込めていた。先程までの霧と同じ無味無臭のそれに一護とルキアの体に緊張が走る。また虚が出るか? そう思ったが霧はさきほどのように収束する気配をみせずに広がっていく。

 逃げられる。

 そう思ったときだった。

 

 

「霜天に坐せ」

 

 

「”氷輪丸”!」

 

 

 よく通る声がした。

 同時に、氷の龍が一護とルキアの周囲をぐるりと走る抜ける。

 複数のロングコートの死神たちを舐めるように襲ったその氷の龍には見覚えがあった。

「冬獅郎!」

 冷気が空気中の水を凍らせる。湿度を持っていないように感じた霧だがそれすら凍っていった。

 次々と謎の死神たちが凍っていき、そうして死神の氷像がいくつもできたのを一護が確認すると同時に日番谷冬獅郎が生徒たちの間に立っていたコートの死神の頭上に現れた。

 刃が振り下ろされる。

 勢いよく、その刃は死神の身体を引き裂き、それによって死神は――。

 

 ぶわりと霧が広がった。

 

「!?」

 斬られた身体は霧となって、霧散していく。さらに冬獅郎の氷によって凍らされた周囲の死神たちも気づけば霧となっていた。

 霧が視界を覆う中、声が響く。

 

「さようなら。また会いましょう」

 

「待て!」

 一護は叫んだが、宙を掴んだ掌に何かが残ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちだ! 二人負傷!」

「第八段階まで施術完了! 担架だ急げ!」

「生徒二名発見! 第五段階まで施術完了しました!」

「班長! こちらをお願いします!」

 

 バタバタと四番隊が走り回る。

 重症者はいるものの現状死者はない。それでも意識のない重体患者は花太郎や選りすぐりの席官たちが治療に当たっている。その状態は離れてみていても芳しくなかった。

 一護は舌打ちをする。

 もう少し早く気づいていたらと悔やまれた。

 治療に邪魔な生徒たちはと言うと、負傷しなかった教師が同じく負傷していない生徒たちを一箇所にまとめている。状況が落ち着くまでは彼らを尸魂界に戻すわけにもいかずに今はこうして並ばせておくことしかできない。

 屋上のフェンスに背中を預けて立っている一護に声がかからないのは教師たちもどうしていいのかわからないからだろう。

 ちらちらと視線が寄せられるので、教師も生徒も一護に声をかけたいようではあるのだが。

 彼らの様子が一護には手に取るようにわかる。向こうが気まずいように自分も気まずくて、あえて目を合わさないようにしている。

 多分。もうバレた。

 ほぼほぼ隠すのは無理だろう。だからなんとなく、生徒の中に入っていくことができないでいた。

 

「一護くん」

 唯一状況を理解できている梅が話しかけてきた。それに「おう」と生返事を返す。

 彼女ははじめ治療に参加していたが、敵が去ってある程度の指揮系統が正常に機能し始めたころには、他の生徒のもとに返された。一向に近づいてこない一護を見て心配になったのだろう。彼女が一護を心配しているのをわかっていて、一護はあえて話を逸らす。

「大丈夫だ。みんな生きてる」

「………うん。でも」

 梅は一瞬一護を気遣わしげに見上げ、それから治療をしている四番隊に視線を向けた。

 その視界の先で、心肺蘇生をしているのが見える。

 一護はふたたび眉を寄せた。

 一人。だめかも知れない。

 

 そう思ったときだった。

 

「どぉもぉ! お久しぶりです」

「うぉ!?」

 至近距離から聞こえた声に一護は飛び跳ねるように驚いた。

 突然屋上に穿界門によく似た、発光する障子が現れてカラッと音をたてて開いたのだ。そこから一人の男が現れる。

 深緑色の甚平に黒い羽織。緑と白の縦縞が入った帽子と、シンプルな杖。下駄がカランコロンと鳴る。

 

「う、浦原さん!?」

「いやぁ、お元気そうで、黒崎サン」

 言葉尻に音符でもつきそうな軽い声で、浦原喜助は笑った。

 

「な、なんでここに……」

 さすがに驚いて一護が凝視していると、一護の隣にいつのまにか並んでいたルキアが呆れたように浦原に話しかけた。

「随分遅かったではないか。連絡してからかなりたっているぞ」

「かなりって、まだ20分もたってないッスよ?」

「貴様ならもっと早く来れるだろう」

「わぁ! そんな高い評価をもらってたなんて、うれしいッスねぇ」

 わざとらしい浦原の言葉に一護の目がどんどん半眼になっていく。

「い、一護くん? この人は」

 梅がおずおずと尋ねてきたので、一護は渋々紹介した。

「浦原喜助。梅も名前は聞いたことあるだろ?」

「ひぇ!? こ、この人が!?」

 まぁ説明するまでもなく超有名人である。

 一護は言葉を失ってしまった梅からルキアに視線を戻す。

「ルキアが呼んだのかよ」

「ああ。緊急だったのでな」

「へぇ、しっかしよくピンポイントでここに門開けたな……」

「ここに門が開くとは、私も思っていなかった」

 浦原喜助は相変わらずいろいろと開発をし続けており、現世での街と街の移動も可能にした。所謂どこでもドアである。

 虚がつかう黒腔(ガルガンタ)や、滅却師がもつ影の能力を解析してできたもので、これを使えば浦原が一度門を設置した場所ならどこでも行き来できるのだとか。

 内部は黒腔に近く、尸魂界に行くのと違い霊子変換器もいらないし断界も通らないので、霊力で足場を作れる者が先導すれば生身の人間も使用できるという優れものだ。

「そんなことより、今は緊急事態ッスからね」

 言って、浦原は空いたままの門に手を伸ばした。そこからにゅっともう一つ手が伸びきて、浦原の手に重ねられる。

 「あ……」

 一護から思わず声が漏れた。

 

 白く細い指、小さい手。細い身体。現れたのは女性だった。

 茶色い髪を後ろで結って団子にして、後れ毛を風になびかせている。

 顔に刻まれたシワからみて年齢は70代ほどだろうか、背筋が伸びていてとても老女とは思えない。

 年齢を重ねてなお変わらない純真無垢な瞳で、彼女は笑った。

 

「元気だった? あなた」

 

「おり、ひめ……」

 

 懐かしく、愛しい人が、そこにいた。

 

 一護はふらふらと足を進めた。

 そうして華奢な身体を目の前にして、何も言えなくなる。

 そんな一護を見上げて、生前己の妻だった黒崎織姫は穏やかにほほえんだ。

 

「”双天帰盾(そうてんきしゅん)”」

 

 織姫がささやく。

 

「”私は、拒絶する”」

 

 言葉とともに、六花の二つの花びらが空を駆けて、屋上に倒れるすべての者たちを覆う盾を張った。その内側が一瞬発光する。

 嗚呼。と一護は小さく声を発した。

 彼女が来たなら、もう、大丈夫なのだ。

 ほっとして眉を下げる一護の頬に温かい手が伸ばされた。その年老いた手が一護の頬をやさしくやさしくつつむ。

「大丈夫だよ」

 まだ思い出にはなっていないと思っていた声に懐かしさを感じて、一護は目頭がわずかに熱くなるのを感じた。だってしかたない。彼女のキレイな瞳にもうっすらと海が広がっているのだから。それがこぼれてしまう前に、一護は目の前の小さな身体をゆっくりと抱きしめた。

 そうして髪に鼻を埋めてその存在を確認する。

 

 こんなに身長差があっただろうか。

 こんなに細い身体だっただろうか。

 こんなにいい香りがしただろうか。

 こんなに暖かかっただろうか。

 

 すべてがもう思い出になってしまっているのだと気づいて。

 彼女を置いていったことを今更思い知って、一護は強く愛する人を抱きしめる。

 

「おかえり、一護くん」

 

「ただいま」

 

 もう、離したくない。そんなふうに思った。

 

 

 

 

 

 





 はぁ。とうとう織姫を出してしまった。
 本当は出さないつもりだったのですが、皆様の感想を読んでいて有りだなぁと思いこのような形にしました。
 冬獅郎とルキアが助けに来てくれた経緯などは次回かなぁ。
 敵については次回はあまりやらずにひっぱるかも。
 そして次回で現世演習編終了です!
 ではまた!
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