黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に通う話。
 一護が現世演習に行く話。

※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意
※原作キャラの老後のイラストあります。注意してください!

 



28.現世演習は鬼門だと誰かが言った6《挿絵有》

 

 

 

 

 

 盾舜六花の淡い光を見つめながら、一護は傍らの女性を見下ろした。

 未だ変わらぬ茶色い瞳も、染め直された胡桃色の髪も、たくさんの幸せでいっぱいの横顔も、何もかもが愛しくて懐かしい。

 彼女は一護の視線を感じたように視線を上げた。

 一瞬見つめ合うが、すぐに黒崎織姫は赤くなってうつむく。

「織姫?」

「……あのね、夜一さんから話は聞いてたんだけど……」

「おう?」

「若いなぁって思って……」

「は……はぁ?」

 織姫はなんだかウジウジとしながら、そろりと上目遣いで一護を見る。可愛いなぁと思う。当たり前だが。

 外見的には年の差があるわけだが、心情的にはまだ自分が若い外見であることの方が違和感があるといえばあるので一護は気になっていないのだが、織姫はそうではないようで。

「私すっかりおばあちゃんなんだもん! 一護くんが若くなったら尚更……」

「そりゃおまえ! 俺だって半年前まではおじいちゃんだっただろ!?」

「そうなんだけどぉ!」

 わーん! と顔を覆ってしまった織姫の前でうろうろと手を彷徨わせる。別に泣いてるわけではなく、自分のセリフに恥ずかしくなっているのだというのはわかるのだが、顔を覆われてしまうと流石に狼狽する。

 

 

 ↓原作キャラのおばあちゃん化注意

 

【挿絵表示】

 

 

 

「貴様、織姫を泣かせるとはいい度胸だな」

 地を這うようなルキアの声がして、一護は「泣かせてねぇよ!」と叫ぶ。

 ルキアと織姫はいまでも親友同士なので、こういうことがあると大体ルキアに叱られる。というか生前織姫を泣かせるとルキアとたつきからを本気の拳を受けたものである。

「うう……ルキアちゃん、呼んでくれてありがとう」

「む。あたりまえだろう。それに今回は織姫がいないとまずい状況だったしな」

 と、どうやらルキアが呼んだのは浦原というよりも織姫のことだったらしいと察する。もしかして一護と織姫を会わせようとしてくれたのだろうか。いや間違いなくそうだ。多分織姫のために。

 

 お別れは言えなかったわけではない。

 

 あの日、いつものように二人は同じベッドに寝ていた。

 本当に苦しまずに死んだのだろう。暴れた様子もなくしずかに死んでいる自分をベッドサイドから見下ろして、すでに因果の鎖が切れているのを見た時これは手遅れだと理解した。

 一瞬悩んで織姫を起こした時、当たり前だが織姫はまさか一護が死んでいるとは思わなかった。どうしたの? なんて寝ぼけ眼で言って、それから彼女が一護の胸に鎖がついていることに気がついたとき、一護自身が絶望するほどのショックを受けた。眼の前でみるみるうちに青ざめた織姫の表情が、人生で一度も見たことがないほどに苦しそうだったから。

 織姫は恐慌状態に陥りながら双天帰盾を一護の身体にかけた。

 事象の拒絶という万能に近いその能力も、死んだ人間だけは生き返らせられない。彼女はそれを痛いほど知っていたのに。

 一護はさめざめと涙を流す織姫の肩に手を回して、彼女が落ち着くまでずっと隣りにいた。

 それから、織姫や息子に付き添われて一護は自分の死因を知るまで現世で漂った。己を見ることができる家族や友人にそれぞれ会いに行くこともした。そうして充分現世でやるべきことをした後、すでにただの魂魄になった一護が虚に襲われないようにと守ってくれた彼らにお礼を言って、そうして一護は最後に織姫を抱きしめて、自らの意思で尸魂界に渡った。

 光を通り、断界を通らないで初めて尸魂界に足を踏み入れたときには、一護はもう現世への未練を考えなかった。

 考えないようにした。

 それまでずっと隣にいた存在が側にいない寂しさも、置いてきてしまったやるせなさも考えないように。

 現世に心残りを残すべきではないと思ったし、誰も一護がとどまることを言葉の上では望まなかったから。

 なにより考えないようにしていのは、死んだ一護のそばでその魂魄を守りながら最後まで共にあった織姫は一体その後どんな気持ちだったのかということだった。

 それだけは絶対に考えないように。

 学院に通うのもそういうもろもろに思考をとらわれないようにしたいという思いが僅かにあったからだ。

 実際忙しくしていたおかげでそういうことは考えずにすんでいたけれど、やはり一人の夜は寂しくて。

 そして思うのだ。

 今、織姫は一人だろうか。と。

 

 不意に、温かい手が一護の手を握った。

 見れば、織姫が心配そうに一護を見上げている。

「痛い?」

「……ああ」

 素直に痛いと言えるのは、彼女の努力の賜物だ。

 出会ってから60年の間、素直に言ってと何度も懇願されてようやく彼女にだけは素直に言えるようになった頼る言葉。

 応えた一護を織姫が抱きしめた。一護もその背中に腕を回す。

「寂しい想いさせてゴメンな」

「たつきちゃんも居るから、大丈夫」

「会いに行かなくてゴメンな」

「それはちょっと怒ってます」

「ははっ、じゃあちゃんと会いに行くから」

「うん。待ってる」

「……織姫。長生きしろよ」

「うん」

「ちゃんと待ってるから、急いでくるな」

「うん」

「その時は絶対、すぐに迎えにいくから、どっかいくなよ」

「うんっ」

 愛してる。そんな言葉を人前だからと呑み込んで、二人は抱き合っていた。

 

 

 

 

 しばらくして、双天帰盾が終了したころ、ようやく一護は織姫を放した。

 まぁかなり気恥ずかしくなって、二人してそっぽを向く。

 その相変わらずっぷりに、ルキアが呆れたように笑ったが、おまえだって人のこといえないだろうと一護は思う。

「一護くん」

「うん?」

「あの、なんか正体秘密にしてるって夜一さんが……」

「あー」

 言われて一護はそろりと後ろを見た。なんだか顔を真赤にした梅がぼーっと一護と織姫を見ている。うわぁと一護も当てられてさらに赤くなる。梅の後ろの方では生徒たちが好奇心を抑えられないという顔でみいてた。

 別に、見られていることを忘れていた訳ではないのだが、目の当たりにするとさすがに恥ずかしい。

 それに、そろそろごまかせないよなぁと一護は思う。

 

「黒崎」

 突然呼ばれて、一護は眉をひそめた。同時に様子を窺っている生徒たちもまたぴくりとその言葉に反応した。

 呼んだ人物に視線を向ければ、一護よりもまだまだ背の低い日番谷冬獅郎が一護の方に向かって歩いてくるところだった。

「…………」

 口をへの字にして迎えると、冬獅郎は目を瞬いてそれから生徒たちをちらりと見ると肩をすくめる。

「今更だろ」

「……今のがトドメだろ絶対……。もういいけどさ」

 やっぱりそうなんだ。本物? えーうそだぁ。などという囁きが聞こえるが、一護はそれを頑張って無視して冬獅郎に意識を集中させる。

「なんか報告してたんだろ? もういいのか」

「怪我人のことがあったからな。だが全員持ち直した。礼を言う」

 冬獅郎が織姫に言うと、織姫はうれしそうに「ううん!」と言う。気にしないでという意味合いだろう。

 織姫のお陰で怪我人もほぼ全員完治したようだ。

 花太郎がそわっと見ているのに気づいて、一護は織姫に目配せをする。織姫も花太郎に気がつくと、さっとそちらに歩いていった。

 花太郎がぺこぺこと頭をさげて、織姫も頭を下げるのをみてこちらもあいかわらずだなぁと思う。

 後ろ姿をすこしだけ名残惜しく想いながら、一護は再び冬獅郎に視線を戻した。

「つか、なんで冬獅郎が来たんだ?」

 隊長なのに。

「この街は今十番隊の管轄だからな」

「あー、駐在任務の管轄かそれ」

「学院から緊急要請がかかる直前に、うちの隊の駐在からこの街で虚が大量に発生していると緊急要請が入ってな。こっちへ隊士を送る準備中だった」

「隊長が来んのと関係あんのか?」

 そういう事があるたびに隊長を送っていたらきりがない気がした。少なくとも空座町ではこの程度の数の虚が発生する自体はそこそこあった。まぁ、破面が来たりアジューカスが大量に来たりということはなかったのだが。なんにしても隊長自ら単身でというのはなんとなく違和感がある。

 冬獅郎は一瞬悩んだように沈黙したが「お前ももう護廷だからな」と呟いて顔を上げた。

「十二番隊からは、虚発生の報告がなかった。尸魂界では今回の事態を捕捉できていない」

「……それっておかしくね?」

「ああ。だから俺が来た」

 普通感知できるはずで、ソレを十二番隊が連絡することで駐在任務中の死神は出現を認識しているといっても過言ではないのだ。それが機能しないというのは問題だろう。それを冬獅郎はかなりの異常事態と判断したらしい。

 なるほどなぁと腕を組んでから、一護は再び首を傾げる。

「じゃあなんでルキアが来たんだ?」

 隣で聞いていたルキアが「ああ」と応えた。

「私は十二番隊から要請を受けたのだ。たまたま貴様の制御装置を新調するために十二番隊に赴いているところだったので、その話を受けた」

「でも、十二番隊は捕捉してないって言ってなかったか?」

 問うと冬獅郎が頷く。

「駐在からの要請は十番隊に直接来るが、学院での問題が発生した場合の緊急要請は十二番隊に集約される。だから教師がだした救難要請は十二番隊に行ったんだろう。で、たまたまそこにいた朽木が要請を受けた」

「日番谷隊長に同行を申し出たらお受けしてくださったのだ。本来ならば管轄していない街だから、報告はしても私が出る幕ではないのだがな。十二番隊が感知していないことが起きていてそこに貴様がいるのだ。流石に見過ごせまい。」

 まるでトラブルを一護が引き起こしているかのような言い方に、一護は苦笑いを返す。

 冬獅郎は顎で一人の死神を指した。所在なさげにたっていた女性死神がいて、ペコリと頭を下げる。

「もともとこの街は十三番隊の管轄だったから、土地勘のある前駐在と共に同行できるのはこっちにもメリットがあったからな」

 つまり、あの女性死神が十三番隊の元駐在担当なのだ。

 そういえばかつて空座町は十番隊が管轄していた場所だったというが、その後十三番隊の管轄になりそれでルキアが空座町の担当になった。そういう管轄地の担当の入れ替わりもあるのだ。

「そういや、今ここの駐在任務してたやつは?」

「今向こうで四番隊が治療中だ。現世演習の結界をはっていた者たちを守って負傷したからな。朽木がいたから俺はそっちの援護に先に行っていた」

 それで冬獅郎は遅れてきたのか。とようやくもろもろ納得して一護は頷いた。

「そんなことより、いいのか?」

 冬獅郎に尋ねられて、一護は首を傾げる。

 と同時に冬獅郎が横にずれると、話をしている間一歩下がっていた梅がおずおずと顔を出す。

「お話中申し訳有りません」

「いや、いいけど……どうした?」

「あの、先生が一護くんを呼んでて……」

 そう言うと、梅はそろりと背後を振り返った。そこにはいつのまにか数名の同級生が集まっていた。肝心の一護を呼んでいるという先生は生徒たちに退かされてしまったようで、生徒が最前列に立って一護を見ていた。

 「あの、大丈夫?」

 梅が不安そうに言う。それが正体バレちゃったかも。という意味だと気づいた一護は「あー」と声を上げた。額を抑えて空を仰ぎ、それから視線を梅に戻して、また明後日の方向を見る。

 そんな一護を見ていた冬獅郎が「今更。だな」とため息混じりに言って、その横でルキアが肩をすくめた。

 生徒たち、さらに教師にまで期待いっぱいの目で見られて、一護は言葉をつまらせる。

「ほんとうに、本物なのか?」

 生徒の中に紛れるように立っていた沖野心平が、めずらしくひどく真面目な顔で一護に尋ねた。

 一護は大きく息を吸って、吐く。

 この人数の記憶置換するわけにも行かないし。仕方ない。

 それからコクリと頷いた。

 

 

 わっ! と歓声が広がった。

 

「ウッソぉ!!」

「本物?」

「マジで!?」

「同級生って……」

「いやいや爺さんじゃないの?」

「鬼道全然だったのに!?」

「いやでも最近は鬼道できてたな。しかもすごい威力」

「私はそうかもって思ってた!」

「わぁ、まぁじか!」

「だから隊長格とも知り合いだったのか」

「なんで学院にいるの!?」

「いやぁ、かっこよかった!」

「めちゃめちゃつよ!」

「え、え、本物ですか?」

「サインもらえるかな?」

「直視できないんだけど!」

「で、っか、斬魄刀デッカ!」

 

 キーンと耳に響く声たちに一護はたじろぐ。

 わらわらと集まる生徒たちに一護がどうしたものかと顔をしかめた。

「もう! みんなしずかに! 隊長たちの前なんだから!」

 怒ったのは梅だ。

 全員はっとして口を閉じて、冬獅郎とルキアをちらりと見る。正直そっちをキラキラした目で見てもらいたいのだが、全員の興味は今完全に一護に行っているらしい。ただ冬獅郎たちに迷惑をかけたのではと怖気づいて沈黙しただけだ。

 視線をむけられた冬獅郎はというと、面倒くさそうにそっぽを向いて、聞こえないふりを決め込んでいる。

 このやろう。

 

 ふと目の前に誰かが立った。

 片倉と心平だ。

 二人はどちらも複雑そうな顔だったが、対照的な感情をみせていた。

 片倉はどこか安心したような、若干の高揚を抑えたような顔で、心平はむすっと口を曲げて一護を半分睨んでいる。

 一護はふたりを交互にみると、ゆるくうつむいた。

「わりぃ、だまってて」

 結局一護は友だち二人に嘘をついていたことになるので、なかなかまっすぐ顔を見にくい。

 片倉は目元を緩めて肩をすくめるにとどめたが、心平はずいっと一護に近づいた。

「本物なんだな」

「……おう」

「ホントにホントに本物だな?」

「そうだよ……」

「志波っていうのは?」

「それは、色々あって、さ。名前借りてる」

「梅も知ってたのか?」

「知ってたっつーか、バレたっつーか」

 心平は梅を見る。

 梅は曖昧に頷いた。

「ごめんね。黙ってて。でも一護くんも普通に学院生活送りたいみたいだったから」

「……教えてくれてもよかっただろ。俺秘密なら黙ってたぞ」

「う……わりぃ」

 それなりに本気で怒っているらしい心平に再度謝る。しばらくして、心平は「はぁ」っと溜息をついた。

「もういいよ。怒ってるわけじゃねーんだ。ちょっと悔しかっただけで……」

「悔しい?」

「………いいよ。助けてくれて、ありがとな。一護」

 一護は一瞬目を丸くして、それから照れたようにそっぽを向いて「おう」と応えた。

 

 

「ということで、だ。今見たこと聞いたことは他言無用だ」

 冬獅郎が通る声で言った。

 屋上に集まっていた生徒教師が一斉に冬獅郎に目を向ける。

「この際だからすべて明確にするが、ここにいるのは間違いなく黒崎一護だ」

 冬獅郎の声を受けて、半信半疑だったらしい教師たちは一護を見る。その目に眉墨先生や岩田先生と同じ類の感情を見た気がして、一護は気まずくなって後頭部を掻く。

「このことは護廷十三隊総隊長及び、中央四十六室の名に於いて一級秘匿事項とされている。よって、他言した場合は相応の罰がくだされる。親族もろともだ」

 完全な脅しだ。

 一護が流石にと声をあげようとするが、ルキアがそれを留めた。

 冬獅郎は一護を一瞥するがすぐに視線を生徒たちに戻す。

「もちろん近親のものにも一切他言することを禁ずる。更に、学院内であってもこいつの正体がバレるようなことにならないよう細心の注意を払ってくれ。これは護廷十三隊十番隊隊長日番谷冬獅郎からの正式な命令だ。いいな」

「「「はい!」」」

 いいお返事である。

「それから、今見た虚たちについて、つまり現世演習で起きたあらゆる事に関しても箝口令を敷く。事態が事態だからな。情報が漏れれば疑われるのはここにいる全員だ。ゆめゆめ忘れるな」

「「「は、はい」」」

 そろってまた良いお返事である。

 

「一護。今から帰って京楽隊長に報告を上げる。貴様もこい」

 ルキアに言われて一護は頷く。

 かなり気になることもあるし、これは流石に放置しておけない事態だとわかる。

 神妙な顔をして黙った一護を見ていたルキアがふと笑う。

 

「以前、恋次から聞いた話だが」

「?」

「恋次も学院にいたころ、同じようなことがあったそうだ」

「あー、きいた。でもそれは藍染の仕業だったんだろ? って、まさか今回も?」

「そんなはずがなかろう。奴は無間にいるのだからな」

 憮然と言ってから、ルキアが笑う。

「今日ここにいる生徒たちは、要するに恋次や雛森副隊長、吉良副隊長、それから檜佐木副隊長たちと同じような状況なわけだからな。つまり生徒たちから見たら……」

「あ?もしかして俺、今回藍染ポジション?」

「そういうことだな」

 藍染に散々苦しめられた側のはずだが、ルキアは一護をからかう材料を見つけたとでもいうようにニヤリと笑う。

 一護は咄嗟に言った。

「俺は天に立つとか言ってオールバックにしねーからな!?」

 ぶふっと吹き出したのは冬獅郎だ。

 こちらもかなり藍染に振り回されてそうとう藍染を憎んでいるはずなのだが、流石に笑ってしまったらしい。

 そんな三人を見ていた梅が「何言ってるの一護くん」と怪訝そうに言う。

「いや、なんつーか……」

「ていうかさ、志波くんのことは今後も志波くんでいいのかな? もう一護くんて呼んだ方がいいかい?」

 片倉が顎に手をやって困ったように言う。

「呼び方なんてなんでもいいよ」

 一護が適当に応えると、それを聞いたルキアがニヤリと笑った。

「では、黒崎一護様と呼んでも良いわけだな?」

「あ!?」

 それは、一度定食屋で副隊長たちに散々からかわれたことだ。

「てめぇ、恋次に聞いたな?」

「さて、なんのことだかな」

「てめぇ」

 

 心平と片倉が不思議そうにしていると、梅がこそっと彼らに告げた。

「一護くんのこと、様付けしているのが隊長の皆様的にはかなりおもしろいことみたいなの」

「何で?」

「似合わないんだって」

「でも英雄だし、普通じゃね? みんなそう呼んでるじゃん。一護様って」

 再度冬獅郎が吹き出す。

「おいこら、冬獅郎」

「ぐ、ごほっ。日番谷隊長だ」

「ごまかすな!」

「あ、でもそうか、これからその名前で呼べることってもう無いかもだよな。箝口令あるし」

 心平が思い出したように顔を輝かせる。

「これからもよろしく頼むぜ! 黒崎一護”様”!」

「強調すんな!」

 

 ぐるるるっと獣のように唸っていると、バッと扇子を開くと音がした。

 音の方向を見ると、例のどこでもドアを開いた浦原がこちらを見ていた。側には織姫が立っている。

 治療も終わったし、そろそろ帰るのだろう。時間も深夜だし。

「それじゃあアタシはこの辺で、織姫サン送ってきますね」

「あ、じゃあ俺が……」

 と申し出るが、それをルキアに止められる。

「報告に行くと行っただろう」

「それは……」

「気持ちはわかるがここは浦原に任せろ。ある程度霊圧を抑えられるようになったからといって、興奮している今の状態で空座町にいくのは不味いだろう。試作品だったとはいえ、その手の制御装置も故障しているようだしな」

 うっと一護は言葉に詰まる。手首に視線を落とせばひび割れたバングルがあって、霊圧制御ができていないのがなんとなくわかった。

 そんな状況で重霊地には行かない方が良さそうだ。また虚がでても嫌だし。

「大丈夫! 一護くん、会いに来てくれるんでしょ?」

 織姫がそう言って一護の手をとった。

「……行くけどよ」

 ふてくされるように唇を尖らせると、織姫はくすっと小さく笑う。

「じゃあ約束だよ」

「おう」

 にこりと笑う織姫はやはり相変わらずとても愛しい。

 さて、と浦原が扇子をたたむ。

「それじゃあ皆さん。こっちはこっちで色々調べておきますね。アタシもちょっと気になることがあるので」

 先程の敵のことだろう。浦原喜助が気になること。どうせやばいことなのだろうが、今聞いても応えないだろうと一護もルキアも冬獅郎もわかっている。

 それぞれ頷いて、それぞれの門へ向かった。

 門を通る前に一護はぱっと振り返った。

 同時にあちらの門の前で織姫も同じように振り返って、目が合う。

 しばしの別れだと思うと何を言えばいいかわからなくなって一瞬口の中で言葉をまごつかせるが、すぐに言うべき言葉は出てきた。

 

「またな」

 

 言えば、織姫は一瞬目を丸くして柔和に笑った。

 

「うん。またね」

 

 穏やかな織姫の笑みに、一護も穏やかに笑って返す。

 

 近いうちに会いに行こう。そう決めて、一護は門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い影が歩いている。死にかけの身体でギャアギャアと叫ぶ虚どもを斬り捨てながら。

 一体ずつ順番に、ゆっくりと。

 殺すことに意味はない。斬ることにしか意味はない。そうして多くの虚を切り裂いた己の刀を眺めて、うっとりと笑う。

「また、近づける」

 その様子を見ていた”誰か”が「たのしそうだね」と笑った。

「ああ、楽しい。至福だよ」

 素直に言って顔に薄い笑みを浮かべれば、”誰か”も小さく笑む。

「これで目的に一歩近づくんだ」

 むき出しの刀を撫でてから刀を鞘に収め、振り返って視線を泳がせると、壁際に立つ三人目を見遣った。

 まぶたを閉じてじっと佇む姿はまるで人形のようだが、しかしまぶたが震え茶色い瞳がゆっくりと現れた。数度まばたきをして、またまぶたの奥に隠れてしまう。

 それを満足そうに見つめて呟いた。

「もうすこし。もうすこしだ。もう少しで俺は――」

「本当に、たのしそうだ」 

 後ろからずっとその様子をみていた”誰か”が呟いた。

「不服か?」

「まさか」

「お前にはもっと力を使ってもらうからな」

「……いいよ」

「よろしい。ならば、次の手を考えようか」

「そうしよう」

 狂気の笑みを浮かべる二人の周りを、いつの間にか霧が覆っていた。

 

 

 

 

 茶色の瞳はそれを見ていた。霧の中で嗤う二人を見ていた。

 まばたきを数度繰り返し、視線を落とす。

 唇が震えて音を奏でた。

 

「くろさき……いちご……」

 

 オレンジ色の髪が、はらりと揺れた。

 

 

 

 

 






 おはこんばんちは。
 梅ちゃんの心配してくださってありがとう!彼女には彼女の物語を用意してたりしてなかったりするので、そこはおいおい。

 ともかく現世演習中編終了です!
 バレるシーンをギャグにするかどうするかすごい悩んで、結局ストーリー重視でギャグを放棄しました(汗)
 肝心のストーリーは何も解決しないまま謎を深めて終わる形になったりなってなかったりですが……。
 一護の日常が書きたいのでストーリー進行は遅めですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
 もうすこしだけ一護の学園編は続きます!
 
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