山もオチもない。
続きます。
※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意
いったいなんの集まりだこれ。
と心平は周囲をそっと見回して思った。
有名人と無名の生徒と教師。それを繋げるはずの人物はなぜか席を外している。
どうしてこうなった?
今日の予定は午前中は座学で午後は実技。
普段からこうしっかり分かれているというわけではないのだが、今日はきれいに午前と午後で分かれた。
そんな日の昼下がり、ぶすっと唇をへの字にまげて隣の席の友人は不機嫌そうに頬杖をついていた。朝まではそんなに機嫌が悪いということもなかったのだが、先程教師と話をしてからはこうだ。
彼が不機嫌な理由は知っている。
自分の正体を知った途端に態度を変えた教師たちに対して、釈然としない感情があるのだろう。
「態度変わったなぁ、あの先生」
と言えば、更に険しい顔をして「ほんとにな」と返って来た。
彼の名は志波一護という。
没落したがかつては五大貴族に名を連ねたあの志波家の縁者で、鬼道以外は実技が免除されるくらいの実力者で、斬魄刀はすでに始解していて、あの浦原喜助と四楓院夜一の弟子で、十一番隊副隊長と知り合いで、霊圧おばけで。
いろいろ設定を詰め込みまくったような奴だ。
ただ、性格面は意外と普通。
人の名前と顔を覚えるのが苦手で、親しくない人には愛想のない態度をするが、実は義理堅くて面倒みが良い。争いごとは面倒そうにしている割にいざその手のことに巻き込まれるとかなりの負けず嫌いを発揮する。見た目は派手だが真面目且つまともで座学の成績もいい。
心平にとっては普通の友だちで、学院では多分一番仲がいい。
そう思っていた。思っていたけれど、実はそうでもなかったらしい。
いやべつに仲が悪いとかではなく。普通の友達という部分が問題だ。
信じられるだろうか。
彼が、英雄、黒崎一護だなんて。
「態度変わって当然だよなぁ」
「何て?」
聞き取れなかったようで不思議そうに首をかしげた当人を一瞥して「別に」と返す。
一般論として、態度が変わらないほうが無理だと言いたい。
先日、沖野心平たち一回生特進学級の生徒は現世演習で大量の虚に襲われた。まだ本物の虚をみたこともないような新米たちではどうすることもできずうろたえ、死を覚悟したところに救出に現れたのがこの友人。
あっという間に巨大虚を屠り、さらに破面らしき存在をも倒してしまったその戦い様と霊圧に、心平は呆然とするしかなかった。
そしてその後救出にきた護廷の隊長たちの証言から彼が黒崎一護なのだということが確定したのだ。
それから数日、周囲の態度は明らかに変わった。あのとき現世に行った生徒はみんな微妙に距離をとって一護を見ている。腫れ物を扱うようにというか、単純に有名人に近づきたくても近づけない。そんな感じだ。
態度が変わったのはもちろん教師もで、特に一護をよく思っていなかった教師の中で、あの場に居合わせた者はその反応が顕著だった。
かなり態度が軟化したし、様変わりしたと言ってもいいだろう。外から見ていてもわかるほど緊張しているし、妙に優しいというか、媚びるような態度が見受けられた。それまではかなりあたりが強かったというのに。
教師たちの思惑もわからないわけではない。なんせそれまでかなり冷たく接していたのだ。さぞ英雄の覚えが悪いだろう教師たちは此処から先はできるだけ印象をよくしたいと四苦八苦しているのだろう。
ただそれを一護が不満に思ってる以上、完全に逆効果だが。
それにそもそもあの日のことは箝口令が敷かれているし、バレるような態度を取らないようにという注意も日番谷隊長からうけている。なので教師たちの態度はすべてにおいて悪手なのである。
そんな状況の中、心平はというと一応は一護のことを意識していた。
変な色眼鏡で見ているつもりはないが、半年友だちをやっていた人が実は本に出てくる有名人でした。なんてどうしたらいいのかわからないというのが本音だ。しかたないだろう。一護が文句を言ったりしてくることはないので、許容範囲なのだろうが、態度にもでているだろう。
一方で心平がこのように一護に対して気まずさ以外を抱いていないのは、心平自身が黒崎一護に対してそんなに興味がないからかも知れない。
もちろんすごい人だと思っているし、憧れが無いわけでもない。ただそこまでファンということもなかった。
心平の家族は揃って黒崎一護のファンだった。
家族というのは、流魂街にいる一緒に暮らしている奴らのことだ。名字は違うし、年齢もめちゃくちゃだけど、一応兄弟だったり親だったり祖父母だったりの役割にあたる人たちはいる。偶然そういう構成だっただけだけど。
南流魂街の四十九地区。全然いいところではないけれど他と比べればまだマシで、大きな本屋があるのが特徴だと思う。心平は以前そこで少しだけ雇われていて、客が汚した本だからという理由で一冊の本をただでもらったりしていた。そうしてもらったうちの一冊である”黒崎一護伝”を家族はひたすら読み込んでいた。
だからみんな英雄が大好きだった。
沖野心平に霊力があるとわかった時、家族は大層喜んだ。あの英雄と同じように死神になれるのだと言う理由が大きかったと思う。
ただ正直心平は気が乗らなかった。
家族は黒崎一護のファンだ。でも心平はそこまでではなかった。
英雄だから何なのだ。この貧しい生活を救ってはくれないじゃないか。そういう気持ちだった。
そんなわけで、一護の正体がわかっても特別キラキラした目で彼を見ることはない。
心平は黒崎一護よりも志波一護のほうがはるかに身近な存在に感じていて、肩書よりも半年の友人関係のほうがつよかったので、戦っている姿を見てすごいとは思っても、それまでの感情が大きく覆ることもなかった。
それで一護への態度は大きくは変わらずに居られたのである。
「なぁ、これってなんて読むんだ?」
自らの思考に入り込んでいた心平は、一護に呼びかけられてハッとした。
「ん? どれ?」
一護は机の上に置いた本のとある頁を開いて指を指していた。難解な文字が羅列している。
心平は読み上げようとして首をかしげた。どこかの流魂街の地区の名前なのだが、なんだったか。
「……死神って地区の名前って全部把握してるもんなのかよ」
心平が返答できないことを理解したのか、一護は面倒くさそうに髪をかきあげた。
「そんなことないだろ。多分」
「多分かよ」
一護が読んでいるのは流魂街の歴史の本だ。尸魂界でも瀞霊廷でもなく、流魂街の。そういえば最近よく難しい本を読んでいる。しかもあまり心平が見たことのない本が多い。ここの図書館から借りているのかとも思ったが、貸出用の処理がされていないので違うのだろう。古そうなものもあるので新品を買ったとも思えない。
以前はこういう不思議なことがあっても、変だなと思う程度だった。けれど彼の正体を知ってしまうといろいろと想像してしまう。
「なんでそんな本読んでるんだ?」
好奇心にまけて尋ねると、一護は一瞬困ったように眉を寄せたが、すぐに「あー」と思い出したように唸ると、心平に耳を貸すように手招きした。
これは黒崎一護関連だと思う心平の耳に一護は「これは白哉から借りてんだ」とささやいた。
はて、白哉とは誰だろう。
心平がキョトンとした顔を返すと、一護も同じような顔で心平を見返した。
「あれ? 有名なんだよな。朽木白哉」
「っ!? く!?」
まさかの大物の名前に心平は思わずのけぞった。その拍子に机にある文具に手がぶつかってバサバサと音をたてて床に落ちる。
それで一気にクラスの視線が集まる。が、心平は視線など気にしていられなかった。なんて大物の名前が出るんだ。そんなの名前で呼ばれてわかるもんか!
「お、おま! あっ、いや、さすがに、いや、でもあり、なのか、あり、か……」
最初はなんで呼び捨てなんだと叫びそうになったが、考えてみれば彼は黒崎一護だ。ありである。と思ってだんだん言葉尻がすぼんでいく。
「あー、やっぱ呼び方やべぇかな」
「やばくは、ない? のか?」
そんなこと心平にわかるはずもないので曖昧に答える。良いかどうかは朽木隊長に聞いてくれ。
ああでも、先日もう一人の朽木隊長と話していた姿を思い出すと、名前呼びは何も悪くない気もする。
「最近いろんな本を読めって渡されるんだよ。いろんなやつから」
”いろんな”で例えが朽木白哉って……。普通じゃない。普通じゃないから当たり前だけど。
「今のうちに勉強しとけってさ」
と面倒くさそうに言う。
今のうちというのは、本格的に護廷十三隊に入る前にということだろうか。まぁ絶対内定しているだろうから当たり前だが。
そもそもなんでここにいるんだろう。ここ数日ずっと思っていたことでもあるのだが、彼はどうしてこの学院にいるのか全然わからない。一体ここで何を学ぶつもりなのだろうか。
「なぁ、一護」
「なに」
「なんで学院通ってるんだ?」
ストレートに尋ねると、ものすごく不思議そうな顔をされた。
「いや、俺こっちのこと知らないし、鬼道だってできないし」
と、それなら学院に通うのは普通だろ? という顔をされる。
たしかに勉強と言えば学院が真っ先に浮かぶだろうが、それ以外にもいろんな科目があるから正直時間の無駄なような気がする。実技の授業を免除されていてその時間を勉学に当てられるからといっても、別学年の授業に参加して先の授業項目を勉強するわけでもないのであればただ自習時間が増えるばかりだ。
だいたい学院の集団授業では進捗効率が悪いだろう。
それならまとめて家庭教師でもつければいいのではないだろうか。それくらいは例えば先の朽木白哉などがなんとかしてくれそうな気がする。
鬼道だって、もっと上の、それこそ隊長なんかに教えてもらったほうが上達が早いのではないだろうか。その余裕がないにしてもこちらも家庭教師的なものを頼めばいいはずだ。あの夜一様に教えてもらう。なんて方法も一護なら取れそうだし。学院で教わる必要性は無い気がする。
むしろ長く一護を放置して遊ばせておくのは護廷としては得策ではないような。
「学院じゃなくても、家庭教師的なさ」
「……たしかにありだけど」
「何年くらい学院に居る予定なんだよ。普通に六年?」
「……一年」
「一年!?」
ちょっとびっくり。
「それだとあんまり勉強できなくないか? 集団戦とかだって教わるのは当分先だと思うけど」
「うーん」
考え込んでしまった一護だ。
尸魂界の歴史や一般隊士の実力、いわゆる一般の平均を知るためには勉強期間は不可欠であった。しかし護廷に入らずに家庭教師付けて一年勉強するね。というのは、手綱を握れないからと中央四十六室は絶対に嫌がるので、京楽にとっては仕方ないという選択だったのである。
といっても一護も心平もそれを知らないので、なんで居るんだろう効率悪くない? くらいの認識だ。
一護も今更であるが、あんまり意味ない? と思ってしまったりしている。
うんうん唸る一護をみながら、なるほど本人も本当のところどうして学院にいるのかわかっていないのかと納得する。となると学院にいる明確な理由は心平では絶対に推し量れないものなのだろう。
想像したとて想像しきれるわけもない。
心平はため息を付いた。
「一護くん、岩田先生が呼んでるよー」
そこで梅が声をかけてきて、二人はそろって顔を上げた。
「あー、放課後鬼道の指導してほしいってお願いしてんだけど、急用か? 午後授業免除だからそれでか?」
一護は不思議そうにつぶやきながら席を立って、廊下で待っているらしい岩田教諭のもとへ向った。
その後ろ姿を眺めていた心平に梅が「ねぇ」と声をかける。
「心平くんは、一護くんに対して態度かわらないね」
「そーかな。てゆーかそれを言ったら梅だって、いつ一護のこと知ったのか全然わからなかったぜ」
「そうかな。思ったより態度に出てた気もするんだけど。あ、もしかしたら松本副隊長とかのおかげなのかも」
「は?」
また意外な人物の名前が登場した。
「松本副隊長って、十番隊の?」
あの?
「そうだよ。前にね、一回一護くんとご飯食べに行ってそこであったの」
それはすごい人にあったんだなぁと眼を瞬かせると、そこからさらに大物の名前が出てきた。
「あと檜佐木副隊長と」
「檜佐木副隊長!?」
「吉良副隊長と」
「吉良副隊長!?」
「阿散井副隊長と……」
「阿散井副隊長!?」
完全にオウム返し状態の心平に、梅は眼を丸くしてからクスクスと笑った。
「びっくりだよね。私もびっくりした。偶然だったんだけどね。その時の一護くんちょっと子供っぽくてね」
言いながら梅は一護の席をあけて自分の席につく。
「なんだか英雄っていう感じしなくなっちゃったんだ」
それだけ英雄らしさを後押ししそうな有名な”知人“を前にして、よく英雄って感じしない。という結論になるものである。
「死神の方たちといる一護くんにどっかで遭遇できればいいんだけどね。そしたら似たような気持ちになるかもよ」
と梅が冗談で言う。それは楽しそうだが大変そうだ。
「だなぁ。俺もその有名人たちにあってみたい」
と言ってはみるが、実際会ったらどうしたらいいのかわからない。こないだは騒動もあって隊長格を前にしても平然と? していられたが、素面であったら卒倒しそう。
「一番の有名人には会ってると思うけどね」
いつのまにか眼の前に来ていた片倉雀が苦笑して言った。
彼は一護の席の前にいつも座っているのだが、先程までは授業の教材の片付けを手伝っていて不在だった。戻ってきた彼は片手に紙コップを持っていて、多分廊下にある”自動販売機”から買ってきたのだろう。
ちなみにこの”自動販売機”。設置元は護廷十三隊十二番隊らしい。開発は浦原喜助である。
湯気がたつコップを机において、片倉は身体を横に向け振り返ったような姿勢で二人の会話に参加した。
「一番有名。いや、たしかに一番有名か。伝説だもんな、もう。つか有名なその黒崎一護のはずなんだけど実感がねぇな。あいつが黒崎一護だなんて」
「最初はそうだよね。授業に出たとしても一護くんの実力は発揮できないから、本当かどうか確認する機会ないし。そのせいであれはただの夢だったのかなって思うもん」
それはおそらく一護の正体を梅が最初に知ったときのことなのだろう。どこか懐かしそうに梅が言った。
「周りの態度のおかげで俺たちが共通の夢をみてたんだなってことはわかるぜ」
「共通の夢かぁ。でも夢じゃないんだよねぇ」
「夢じゃねぇなぁ」
夢だったら、ただの笑い話なのだが。
「こないだのことは夢じゃないけれど、それより前の半年間だって夢じゃないだろう?」
片倉は澄ました顔で言う。
片倉はあの夜一護の正体がわかったときも、その後も本当に態度が変わらない。実は知っていたんじゃないかとすら思ったが、実際に尋ねてみると「そんなわけないだろう」と一蹴された。
ただ、そうだったらと思ったことはあったそうだ。
心平だって想像したことはあるが、片倉の場合はそれに付随するあれこれに関しても想像していたそうなので、そこが心平と片倉の態度の違いに出てるのかもしれない。
傍から見たら、どっちもよくもまぁ変わらず接してられるよな。という感じだったりするのは、本人たちのあずかり知らぬことである。
大きな音でチャイムがなって、心平はハッとした。
次の授業の合図だ。
慌てて教本を机の上に出して、あれこれ準備をする。ふと気になって心平は教室の扉の方向を見遣った。
「一護……帰ってこないな」
「なんか急なお話だって岩田先生は言ってたよ」
梅が小声で言う。
そろそろ教師が来るからだろう。
ちなみに実技なのに未だに教室にいるのは、まず教本であれこれ話したあとに実技をしに行くことになるからだ。
三人はそれぞれ机に向き直りつつ、真ん中の人が座っていない席を思った。
結局一護は授業のあとも戻ってこなかった。
夕方、三人は一護の荷物をもって一護が普段鬼道の訓練でつかっているという演習場に向かった。
校舎の廊下に面した演習場の待機室には使用中の札が貼ってある。これがあるということは誰かが貸し切りにしているのだ。
もしここに一護がいなかったり、別の人が使用しているところだったら申し訳ないので、そっと音を消して中を覗く。
「お、貴様たちはたしか一護の学友だったな、入るがよい!」
こっそり入ったつもりだったのに、すぐに声をかけられた。三人は扉から身を乗り出しそのセリフの人物を見ようとして硬直した。
そこには数日前にお会いした朽木ルキアが仁王立ちしていた。
続く!
ということで、すごいおまたせしたのに大したお話でなく申し訳ないです。
あの後のギクシャクを書きたいなぁと思っていたのですが、なかなかうまくかけない!
うーん。小説って本当に……
次回は続きでルキアが出てくる予定です。
では!