黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に入学した後の話
 今回はモブ教師目線です。前回の先生の小話です。


※オリキャラが喋ります。かなり出張ります。
※モブ目線です。
※原作のネタバレあり
※捏造注意


3.教え子が元死神代行だった件_斬術教師の編

 

 

 

 

 あの黒崎一護が死んだらしい。

 それを聞いたところで何ができたわけでもないが、その事実はその教師の心をひどく荒らした。

 

 彼のことを“鋼の眉墨”と人は呼ぶ。

 

 真央霊術院に18年前教師として就任した斬術の教師眉墨は、どんな生徒にも表情を変えることなく淡々と斬術を教える人物だ。

 あまりに表情を変えないため鉄仮面というあだ名がつき、やがてそれは”鋼“という異名に変わった。

 彼の顔色を変えてやると意気込む生徒までいた。

 しかし彼は心のない鉄人などではない。時には笑うし、時には怒る。

 そして時には、憧れの人の死にショックを受けて寝込むこともある。

 

 新入生が入学するその日にまさにショックで寝込んでいた眉墨は、それから一週間ほどしてようやく仕事に復帰を果たした。

 さて最初の授業だ。と無理やり気力を振り絞る眉墨に、とある教師がもたらした情報。

 今年担当する一回生の中に、斬術の授業を免除されている生徒がいるという話。

 それを聞いた時、眉墨はその生徒にわずかな憤りを覚えた。

 

 真央霊術院は厳密に言うと死神だけの学校ではない。

 卒業して死神になる者はたしかに多いが、鬼道衆、隠密機動、技術開発局などの組織に入る者、瀞霊廷内の伝達を担当する霊真伝令局を希望する者、卒業後流魂街に戻り生計を立てる者、教師を目指す者。

 その実様々な進路があるため斬術が必ずしも必要になるわけではない。しかし眉墨はたとえどこへ行くのだとしても霊術院に通う力をもった以上は闘う力を高めるべきだと思っている。

 かつて尸魂界が壊滅寸前に追いやられたのを目の当たりにした時、眉墨は実感したのだ。

 下っ端でいいなどと甘い考えで鍛錬もろくにせずにいた同僚たちが、ことごとく命を落としていくのを見た、あの時。

 自分たちは、もっと強くあるべきだったと。

 

 生徒たちにそのような後悔をさせまいと考える眉墨にとって、新入生である志波一護という生徒は不快以外の何物でもない。

 斬術の授業免除の理由が貴族だからというのも解せなかった。

 だから彼が初回だけと己の授業に参加した時かなり高圧的に対応してしまった。初回は浅打を渡すだけだったが、その初回でどうにかこののぼせ上がった生徒に斬術の授業の大切さをおしえてやろうとすら思っていたのだ。

 眉墨が教師となったきっかけをくれた憧れの死神代行が死んだらしいと聞いたばかりだったのも、眉墨を攻撃的な気分にさせている理由だったのだろう。

 

 斬魄刀はあるから浅打はいらない。その斬魄刀はおいてきた。という生徒にもってこいと伝えた眉墨は、実際に志波が持ってきた斬魄刀に目を疑った。

 鍔も柄も鞘もない巨大な刀。そこから確かに感じる強い霊圧。

 見覚えがある。そう思って慌てて持ち主である志波の顔を見て、その頭髪を見て、眉墨は言葉を失う。

 橙の髪に身の丈ほどの大刀。そして名前。

 流魂街では名を変えて名乗ることが許される。だから”一護”という名前は英雄に倣って名乗っているのだろうと思っていた。しかしここまで特徴が揃っていては、名乗っているのではなく”元々その名前だった”と考えるべきだろう。

 まさか、そんな。

 そして、驚く眉墨の前でいちゃもんを付けられ、一瞬でもその力を開放させた彼を見た時眉墨は歓喜した。

 彼は生きていたのだ! と。

 

 

「いや、生きてねぇよ死んでるよ」

 

 眉墨の興奮した言葉に、英雄黒崎一護は間髪をいれずに返した。

 そんな素っ気ない言葉すら嬉しくて顔を赤くする眉墨を、その人は呆れたように見返す。

 授業の後慌てて声をかけた眉墨は、放課後に話をする約束を取り付け、そして現在生徒のいなくなった教室にて黒崎一護と二人で話をすることに成功していた。

 

「普通、憧れてる人が死んだ数日後にその人に会うってないよな」

 机に肘を突いた彼は本来ならありなえない現象に苦笑いを浮かべる。

「それはそのっ 尸魂界ですので!」

「まぁそうなんすけど、てゆーか”鋼”の眉墨って鉄仮面的な意味だったんじゃ……」

「そうです!」

「…………見た限り鉄仮面要素ねー」

「興奮しておりますので!」

「………………ああそう。俺生徒なんで、できれば普通にしてくれよ、眉墨センセ」

 

 やはり変わらず呆れたように彼は言う。

 先生と呼ばれることがこれほど幸せなことだとは思わなかった。と後に眉墨は語った。

 

「無理そうっすね」

「黒崎殿にあこがれておりまして!」

「あ、じゃあせめて名前で呼んでくれ、黒崎はまずい」

「一護殿!」

 

 眉墨はキラッキラと目を輝かせる。あの黒崎一護の名前を呼べるなど、光栄の極みであった。

 

「でもそうだよな。俺の顔とか絶対誰も知らないとは言えないか」

「有名ですので」

「先生はもともと護廷十三隊の人?」

「はい。元十三番隊です」

「ああ、じゃあ元々ルキアの部下なのか」

 

 眉墨は更に興奮した。

 朽木ルキアも眉墨の尊敬する人物。その名前が彼から出てきたことがうれしくてしかたない。

 特にこの二人の関係を知っている眉墨としては気分は最高潮だ。

 

「朽木隊長には良くしていただきました。以前一護殿の話を伺ったこともあります」

「俺の?」

 

 あの戦いで多くを失った時、己の無力を呪うとともに、疑問に思うことが会った。

 本来死神ですら無いはずの生きた人間の死神代行が、なぜそこまで強くあれたのかと。

 当時十三番隊の平隊士だった眉墨は、その理由を生き残ったそれなりに親しかった席官に尋ねた。すると席官は「それならば会ったことがあるという小椿仙太郎三席や、虎徹清音元三席に聞くとよかろう」と言った。それで二人を訪ねてみると今度は「朽木副隊長に聞くのが良かろう」と言われた。

 そこまで来ると話しかけるにはなかなか気が重い相手となってくる。それでも聞きに行ったその時から、おそらく眉墨は死神代行に憧れを持っていたのだろう。

 

「一護のこと?」

「はい」

 当時から鉄仮面ぎみだった眉墨に対し、朽木副隊長は表情豊かに目を丸くした。

「先の戦いでお姿を拝見したのですが、とても強く……。正直私にはわかりません、なぜあの方はあれほどに強いのでしょうか」

 この手の質問には慣れているのか、またかといった様子だった朽木副隊長はじっと眉墨を見つめてから「そういえばお前の部下たちは……」と呟いたきりだまりこみ、それからぽつりぽつりと死神代行、黒崎一護について話して聞かせてくれた。

 

 妹がいること、友がいること。守る力を求めていたこと。その力を手に入れた事。それでも守れないモノがあるということ。それを守るために闘うということ。

 

 守る。

 その言葉を朽木副隊長は何度も口にした。

 勝つためでもない、相手を倒すためでもない。己を守るためでもない。

 誰かを守る。そのためだけに強敵に立ち向かい続けた死神代行の物語は、かいつまんで聞いてなお眉墨の心を震えさせた。

「強さを求める理由など人によって違うだろう。だが、もし心が折れてしまいそうな時が訪れたならば、その理由が己を支えてくれるように思う。どんな理由でも良いのだ。ただそれが己を奮い立たせてくれる力をもっているならば、きっと誰しもが強くなれるのではないかと、私は思う」

 己にはあるだろうか。心が折れそうな時、心を支えてくれるようなものが。

 

 それから眉墨は色々考えた。自分にできること、したいこと。何を強く願うのかを。そして一つの答えに行き着いた。それが、真央霊術院の教師になるということだった。

 たくさんの死神が死んでいったあの時、一番ショックだったのは己が教えた部下の死だ。部下たちは眉墨の指示で動いている際に敵と遭遇し全滅した。それが何よりも辛かった。もっともっとしっかり教えていれば、もっと面倒を見ていれば、あの時彼らだけで行かせなければ、そんな後悔ばかりが眉墨を責め続けていた。だから教師になることを決めた。

 より強くなり、より弱い者に力を与え、育て、生き残る力を与えることができたらと思ったのだ。

 

「それからずっと鍛錬を続け、今こうして真央霊術院で子供らに闘う術を教えています。最近では死神になることを死にに行くことなんていう奴もいますが、私は彼らが生き残り、自分の守りたいものを守れるように助力したいと思っているんです。私に生きがいをくださった。お二人を私はとても尊敬しております」

「……そっか」

 つぶやいたきり、黒崎一護はそっぽを向いてしまった。頬はすこしだけ赤みがさしていて、照れていることがなんとなくわかる。それがすこしだけ意外だ。というかそもそもなぜ彼は若い姿なのだろうか。どう見てもまだ十代程度。普通は死後このように若いころの姿になることはない。当然ご老人の姿であると思っていたが、不思議なこともあるものだ。

 そうしてじっと見ていると、黒崎一護は「見すぎ」と更に照れた様子で眉墨の視線を手で遮った。

「す、すみません。つい」

「俺が若いのが意外って感じ?」

「ええ。まぁ」

「やっぱりそういう例ってあんましなんだ?」

「そうですね。ただ皆がいつ死んだかなどは話しませんし、記憶を失ってくるものも多いですので実際のところは……」

「そういや生前の話って誰ともしたこと無いけど、みんな一回はあっちで生きてるんだもんなぁ」

 貴族などは当然死者ではないが、こちらで生まれた者でなければ、大体そうだ。もちろん眉墨もそうである。しかしたしかに生前の話問はあまりされないことだった。

「俺と同じ時代に生きてたやつも霊術院にいるかもなんかな」

「あり得ない話ではないかと」

 

 そういったきり、一護は黙り込んでしまった。生前の知り合いに出会えることはこちらではそう多くない。尸魂界は広いし、しかも死神となってしまうと同じように死神としかほとんど交流がなくなる。

「俺だけ若返ってるみたいになったらめんどくせーな」

「残念ですが、そうそう会えることはないようです。……生前の知り合いがみんな霊感をもっていた。などというおかしなことが無い限り、そうそう会うのは難しいでしょう」

 半分笑いながらいうと、黒崎一護は「あー」と言ったままま黙り込んだ。

 

「俺さ」

「はい」

「こっちのことよくわかんなくて、知り合いはいっぱいいるけど、みんな仕事してるし? でも生徒に聞くとボロが出そうでさ」

「それは、そうですね」

「だから、なんかわかんないことあったら、聞いていいか?」

 また照れたような様子の黒崎一護の手を眉墨はほとんど反射的に握りしめた。

「もちろん! 喜んで!」

 一瞬彼は驚いたように目を丸くした。眉墨の勢いに引き気味だっただけなのだが、とにかく眉墨の興奮は伝わったらしい。再び苦笑して「サンキュー」と軽く頭を下げた。

 そしてすぐにパッと顔をあげると、神妙な顔で眉墨を見る。

 

「で、早速なんだけど。俺学生にちゃんと見えてる?」

「え?」

 眉墨はさっと黒崎一護の全身に目を向ける。

 橙色のツンツン尖った髪。鋭いのに垂れ目気味の目。凛々しい眉毛。身近で見る彼は精悍で整った容姿をしている。体つきはかなりいい。細身なようでしっかり筋肉がついている。背も高く、骨格もしっかりしていそうだった。歩き方などから見ても、しっかりした重心移動を感じられたし、外見だけでもそれなりに実力があることがうかがえるだろう。

 しかしそういう生徒は居ないわけでもない。眉墨の初見の印象は”ただの小僧”だった。

 霊圧を抑えるのにも成功しているようで、少なくとも何事も無ければあの英雄黒崎一護だとはわからないだろう。何事も無ければ。

 ――このひとに限って、何事もないとかあり得るのだろうか。だって、この人知らないかもだけど、一部じゃ疫病神ってよばれてるし……。大変遺憾ではあるが。

 思わず難しいですねぇ。と言いそうになって眉墨はあわてて口を閉じる。

「な、何事も無ければ大丈夫ではないかと」

「……何事も、なく……」

 本人も無理っぽいと思ったのだろう。遠い目をしてうなだれた。

「あとは、その……斬魄刀が」

「ああ……」

 仮に何事もなかったとしても、彼の斬魄刀を見てしまうと違和感を抱く者は多いだろう。中には彼が黒崎一護と気づく者もいそうだった。

「生徒たちは気づかないでしょうが、教師の中には私のように過去あなたを見たことがある者もいますし。いっそのこと教師陣には話しておいたほうが良かったのでは」

「それは俺も思ったんだけど、でも先生を見てるとなー」

「え?」

 じとっと一護は眉墨を睨む。

「試しに俺のこと志波一護って呼び捨てに……」

「無理です」

「敬語も禁止」

「無理です!」

「……だろうな」

 つまり眉墨のようになる教師が増えると、より生徒に不審がられるということである。

「ただでさえ色々免除されてて目立つしなぁ。目立ちたくねーなー」

「……」

「正直に言ってドーゾ」

 

「……無理かと」

 

「……だよな……」

 

 お互いコクリとうなずいた。

 ここに、黒崎一護の正体を隠すチームが結成されたのである。

 

 

 

 

 その後、眉墨は必死で一護を「志波」と呼ぶように努めた。けれど影でこっそり「一護殿」と呼んでいたため、結局教師の間で知らぬ間に噂が流れることになる。

「眉墨先生! なんか先生たちが俺のこと遠巻きに見てくるんだけど!?」

「すみません! 一護殿!」

「ってあんたのせいかい!!!!」

 

 

 

 




ちょっとした小話ですが、モブ目線大好きです。
次は一護目線で書きたい。
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