黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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オリキャラ目線
会話中心かも?

 
※オリキャラが喋ります
※原作のネタバレあり
※捏造注意


30.隣の席の死神代行につきましては2《挿絵有》

 

 英雄黒崎一護の力の根源はなんなのか。

 

 彼が生来霊圧が大きかった事実も、そもそもなぜそのような力を有していたかという理由も、譲渡された死神の力が彼の本来の力を呼び覚ますための呼び水だったということも、死神以外の力を持っていたという事実も。

 今はまだ、世に知られてはいない。

 

 それ故に、あらゆる疑問点を無視するならば、彼はあるとき現十三番隊隊長朽木ルキアから死神の力を譲渡され、その後一度は力を失ったが多数の死神から力を譲渡され再び死神になったというのが定説だ。

 つまり、現在の彼の死神としての力は譲渡された霊圧そのものであると言える。多くの死神たちから力を渡されたがゆえに、異常ともいえる霊圧を手に入れたと。

 2度目の霊圧の譲渡に参加した死神は数しれず。故に最初に彼に力を与えた朽木ルキアこそが、彼の力の生みの親とされている。

 そうした背景から彼女の存在もまた稀有なものとして知られており、貴族のことになど関心がない流魂街の民でさえもその名を知っていたりする。とはいえ、知っているのはあくまでも名前と役職程度。

 彼女が元々朽木家の養子であるということも、仕事場以外での名が阿散井姓であることも、もちろん結婚し子どもがいるということも、一般的には知られていない。

 

 さて、このような状況になると、多くの民は面白おかしく物語を作ってしまう。

 

 例えば、黒崎一護と朽木ルキアは恋仲である。とか。

 

 

 

 

 

 

 

「ん? なんだ緊張しておるのか?」

 不思議そうに首をかしげた小動物を思わせる十三番隊隊長朽木ルキアを前に、片倉雀は硬直していた。

 隣には沖野心平と桜庭梅もいるのだが、こちらも演習場の扉を開けたまま固まっているのは仕方ないことだろう。

 朽木ルキアの役職と家柄を思えば当然である。大貴族の名を持ち、死神の頂点の十三人に名を連ねる彼女を前に緊張しない方がおかしい。

 

「一度おぬしたちとは会っているだろう?」

 このような態度を取られることが朽木家に入ってからは当たり前になってしまっているルキアが不思議そうにしているのは、彼女の言葉通り一度会っているからだ。

 しかもそのときはこれほど緊張した様子はなかったはずだが、と思っているのだろう。心底不思議そうに彼女は首をかしげている。

 片倉たちからすれば一度会ったといってもかなり特殊な状況下でのことだった。その時は虚に襲われたばかりで負傷者も多く、また志波一護が実は黒崎一護だったと気づいたタイミングだったので、ルキアの存在に緊張する精神的余裕がなかった。むしろあの時の邂逅はなかったことにしてもらいたいほどだ。

 そして単純に友人と教師が二人で鍛錬をしていると思っていた場所に十三番隊隊長がいるという、予想してない事態に困惑もしていた。

「お前が居ると思わなかったんだろ」

 呆れた様子で言ったのはルキアの後ろに立っていた黒崎一護だ。

 片倉はそこでようやく一護の存在に気づいてわずかに肩の力を抜いた。

 汗を拭っていたようで肩に手ぬぐいをかけている。

「で、どうしたんだ? 三人で」

 片倉は持っていた荷物を一護に差し出した。

 所謂背負い袋と呼ばれるもので筒状の布である。筒の端を互いに結んで肩から斜めがけにし背負うような形で持ち運ぶのだが、斬魄刀を刀袋にいれて持ち運ぶ際は邪魔になることも多く、風呂敷のように手で持って運ぶ場合もある。死神になり帯刀許可があれば斬魄刀を腰にさせるのだが、学生の間は背負うのが基本だ。

 この背負い袋の中に教本などを入れて持ち歩いたりするのでかなり丈夫な布でできているわけだが、一護のそれはよくよく見るとかなり高価そうな布で作られていた。

 貴族なのだから当たり前とも思っていたが、彼の正体を知った今考えるともしかしたら朽木家から渡されたものなのかも知れない。と片倉は思う。

「あ、俺のカバンか。持ってきてくれたのか? 何で?」

「なんでって……」

 片倉は一瞬一護の横に立っているルキアを一瞥した。

 彼女は別に王族とかそういうものではないので、そこまで礼儀を気にする必要はないのだが、この距離にいられると一護と親しげに話すのがなんとなく憚られる。そう思ってつい視線を向けてしまったのが、彼女は特に気にした様子もなく一護を見上げた。

「たわけ。もう授業はすべて終わってる時間だぞ。わざわざ持ってきてくれたのだろう」

「え! もうそんな時間かよ」

 まじか。と言いながら一護は背負い袋を受け取る。どうやらすでに放課後だということに気づいていなかったらしい。

 

「そういえばもうそんな時間だな。一回休憩するか? 志波」

 そう言って倉庫から出てきたのは鬼道の学科主任である岩田先生だった。

 こちらの先生の授業は実はきちんと受けたことがない。

 入学してすぐのときに一度だけ特別授業として受けたことがあり、そのときはわかりやすい教え方だなぁと思ったが、それ以降は学科主任の立場故に授業は受けられなかった。たしかその時のことがきっかけで一護は彼に指導依頼をしたらしい。

 その岩田先生だが、視線が行くのは彼の顔ではなく腕に抱えた白い等身大の人形だ。

 一瞬なんだこれ。と思う。

 岩田がもっているそれは縛道の訓練に使う義骸人形だった。見た目は綿の入った素体人形のようなもので、目も口も鼻もないし手首と足首までで手先足先はついていない。身体もなんとなくデフォルメ化されているので人形っぽい気持ち悪さはあまりない。それでも抱えて持ってこられると流石に驚く。

 しかも岩田がその人形を無造作に床に寝かせるので、なんとなく気持ち悪かった。

 片倉だけでなく一護やルキアも同様に思っていたのか微妙な顔をして人形を見下ろす。気にしていないのは岩田だけだ。この人形を使い慣れている先生だからなのはわかるが流石である。

 全員の視線がなんとなく人形に集まる中、岩田は倉庫からいくつか椅子を持ってきた。

  

 霊術院の演習場は学院の校舎と繋がっているものとそうでないものがある。

 後者はとにかく広さが重視されるが、前者は広さよりも設備が重視されている。設備とは鬼道に使われる的や縛道につかわれる義骸人形などのことで、演習場にはそれを収納する倉庫があったり、鬼道の的を設置する的場があったり、木刀の素振りのための板の間があったり、一見すると巨大な弓道場のような形をしていた。

 鬼道の鍛錬に一護が使用しているのはもっぱらこの設備が充実しているほうの演習場だ。以前はもっと大きななにもない演習場で行われていたのだが、一護が鬼道の威力をコントロールできるようになったということと、破道ではなく縛道の訓練が行われているという理由で場所が移動していた。ちなみにもっと前は瀞霊廷の外にまで行って鍛錬していたこともあるとかないとか。

 ともかく今いる演習場はそうした中でも特に設備が充実しており、どういう意図かは不明だが休憩用の机や椅子が並んでいるのだ。

 

 岩田は倉庫から足りない椅子を運んで並べると、それぞれに座るように促す。

 一護とルキアが座ると、岩田は少し離れたところに腰かけて未だ棒立ちの三人を手招きした。

「座ったらどうかな」

「え」

 正直この場をさっさと逃れたい気持ちだったが、明確に断る理由もないし変に遠慮するのもどうかと思って片倉は二人を促して椅子に座ることにした。この際全員道連れだ。

 そばに転がっている義骸人形は見ないようにする。

 

「しかし、岩田殿の教え方はとても上手いのだな。あの一護がここまで鬼道ができるようになるとは思わなかったぞ」

 全員が座ったタイミングでルキアが岩田に声をかけた。

「恐縮です」

「あの一護ってなんだよ。俺だってやればできるっての!」

 と一護が抗議すると、ルキアはニヤリと笑う。

「貴様の霊圧コントロールの雑さは周知の事実だぞ」

「どこの情報だよ……おい、目ぇ逸らすな! テメェだな! あと恋次だろ!」

「雑というのは卯ノ花隊長のお話だ」

「くっそ! 文句言えねーじゃねーか! あの人やりやがったな!」

 一護が悔しそうに頭を抱える。それを隣でルキアがアホをみるように冷めた目で見下ろした。

「その貴様が鬼道が使えるようになるとはな。兄様も驚いていた」

「白哉がなんだって?」

 ジト目で一護がルキアを見る。

「ああ『あの黒崎一護でも優秀な者が根気よく教えれば鬼道ができるようにもなるのだな。私もまだまだ知らぬことがあるものだ』と」

「言い方がムカつく!」

「兄様はお世辞は言わぬぞ」

「尚更悪いわ!」

 と、やり取りをする二人を見ながら、片倉は冷や汗のようなものが流れるのを感じた。

 今の話からしてこれは朽木白哉六番隊隊長のことだろうか。あの、五大貴族朽木家の当主の。

 さきほどでてきた卯ノ花というのはもしや前四番隊隊長殿では? 

 怖い。話題に出てくる人が怖い。

 片倉をふくむ三人が微妙に顔色を悪くしているのに気づかない一護とルキアはぎゃあぎゃあと言い合いをしている。

 

 先日見た人間の女性と一護のやり取りをみるに、噂になっている朽木ルキアと黒崎一護恋仲説は完全にデマなのだろうが、それにしてもこれはかなり仲がよい。

 そう。喧嘩するほどなんとやらだ。

 実際、特別な関係性であることは事実だとも思っているので、仲がよいのもおかしくない。先程の背負い袋しかり、彼の普段の私服しかり、朽木家からいろいろ渡されているだろうし。

 まぁ、一護の普段着が朽木家の支給というのは片倉の完全な想像だが。(事実である)

 完全に二人の世界に入っているので、それをとりあえず見ないふりをして片倉はちらりと横にいる岩田を見た。この二人のやりとりを平然と見ているということは、岩田は一護の正体を知っているということなのだろうが、しかし彼は現世演習には参加していなかった。

 なぜ知ってるのだろう。

 疑問に思ってじっと岩田をみていると、ぱっと目が合う。

「どうしたんだ?」

「……その、先生は志波くんのことは……」

「ああ、知ってるよ。そうだ現世演習、大変だったね」

「ええ、まぁ。でも彼らに助けてもらったので」

 彼ら。つまり一護とルキアである。二人は話題が移っているのに気づいたのか口論をやめてこちらを見ていた。視線が交じる。

「岩センは前に京楽さんが来たときにバレたんだよな……」

 と思い出すように一護が言うので、片倉は一瞬なんのことか分からず呆けてしまった。

「……誰が、来た時?」

「京楽さん」

「……」

 誰だって?

「だから京楽さん。用があって学院に来てくれてさ、その時に――」

 

「なんや、総隊長がばらしよったんか」

 突然降ってきた声にバッと片倉は顔を上げた。

 いつのまにか三人の後ろに一人の死神が立っていた。

 白い羽織。金髪におかっぱ。五番隊隊長、平子真子である。

「ひ、平子隊長!?」

 真っ先に声をあげたのは岩田先生だった。反射的に立ち上がろうとしたようだが、平子がそれを手をあげて止める。

「ええ、ええ。オシノビや」

「は、はぁ……あ、では……」

 岩田は慌てた様子で倉庫に向かうと、椅子をもう一脚持ってきた。

「おおきに」

「い、いえ」

 そのまま平子は流れるように椅子に腰掛ける。

 そんな平子を一護は目を見開いて不思議そうに見ていたが、すぐに目を眇めてジト目で平子を睨む。

 「なんで平子が居るんだよ」

 いやいや、睨むなよ。隊長だぞ。いや、隊長だな。これって黒崎一護的には普通なのか。普通か?

 若干混乱しながら様子をみていると、平子は一護を同じくジト目で睨んだ。

「なんや一護、五番隊隊長様が来てるんやで? 茶でももってこんかい」

「あ”?」

「そうだぞ一護。私に対しても饗しが足りんぞ」

 と二人に言われる。

 ぱっと立ち上がろうとしたのは梅と岩田先生だ。ふたりしてほぼ同時に「用意します」と言いかけて、それぞれ平子とルキアに制止される。

「よいのだ。これは一護の仕事だからな」

「せやせや。こいつにまかせとき」

「ちょっとまて!」

「たらたらしてへんで行って来んかいボケ」

「おいコラ。当たり強くね? つか茶もってくるのはいいけど、なんで俺一人なんだよ!」

 一護が双方を睨んでいると、わざとらしくルキアが溜息をついた。

「貴様が演習場を壊すから修繕費が大変なのだ」

「護廷も朽木家も出してるのに追うつけへんってどういうことや」

「うっ……」

 どうやら痛いところをつかれたらしい。

「一護が騒ぎを起こすたびに報告に走るので最近は特に忙しいのだ」

「おーそら可哀想になぁ。一護のせいやなぁ」

「ええ、まったくです」

「ここでお遣いしてくれたら、忘れたってもええんやけどなぁ」

「そうですね」

「っっ! てめぇら、俺をパシリたいだけだろ!」

「わかっているではないか」

「開き直るんじゃねぇよ!」

 がなるように怒る一護に岩田が「手伝いますよ」と苦笑したまま声をかけた。

 今度はルキアも平子もそれを止めなかったが、ふたたび梅が立ち上がろうとすると、今度は岩田先生からストップがかかった。

「大丈夫だから座っていなさい」

「え、でも……」

 遠慮がちに梅は岩田先生を見上げたが、すぐ大人しく椅子に座る。

「しょうがねぇなぁ」

 一護は渋々という様子で立ち上がり、記憶を探るように視線を少し上に向ける。おそらくどこで茶を用意しようかと思っているのだろう。

 ここで一番近いとなると給湯室ではなく自動販売機コーナーか。そこに向かったほうがよいだろう。一護も同じ結論に至ったのか「自販機でいいな」とつぶやく。

 自販機。自動販売機のことだろうか。もしや現代での呼び方だろうか。

「つか、さすがに一人じゃ無理だろ……お盆とかあるかな」

「ああ、そこにあると思うよ」

 と岩田も立あがり棚を探る。

 なんであるんだと言うツッコミを一護はしたが、岩田先生は「さぁ」と苦笑した。本当に何であるんだろう。

 そうして一護と岩田先生が扉を開けて去っていくのを見守る。なんだかんだ自動販売機までは距離があるのですぐには帰ってこれないかも知れない。

 はやく一護が帰ってきてくれ。と片倉はかなり真剣に思った。

 

 不意にルキアが溜息をついた。

「ところで平子隊長はどのような御用で?」

「ガクインチョーさんに私的な用があってな。休憩も兼ねてやな」

「……雛森副隊長には…」

「ちゃあんとおやすみしますぅって言うてきたで。置き手紙ばっちりや」

「置き手紙をしてる時点でちゃんと言った事にはならなさそうなのですが」

「細かいこと気にしとったらハゲるで」

 ルキアは一瞬沈黙すると再び溜息をついた。

「……それで、御用は終わられたのですか?」

「先に終わらしてきた。今日ルキアちゃん視察やったこと思い出してな、ちょうどええなぁ思て来てみたら、ホンマにタイミングようメンバーそろうてるやん。これ利用せえへん手はあれへんやろ」

「なるほど」

 唐突に視線が片倉たちに向けられた。三人はほぼ同時に背筋を伸ばす。

 一護をよそにやった時点で、もしかして用があるのは自分たちなのではと思っていたが、まさにそうだったらしい。観察するような鋭い視線が平子から向けられた。が、すぐにニコリと微笑まれる。

「そんな緊張せんでええで。ここに茶菓子でもあったら緊張も紛れそうやけどなぁ」

 とキョロキョロと周囲を見渡す。まぁ流石に茶菓子はない。

 菓子を探す平子を横目にルキアが三人に視線を向けた。

「すまないな。岩田殿とは話ができたから良かったのだが、おぬしたちとはまだ何も話せていないだろう。一護がいると話しにくいし」

「はぁ……」

「わけわかれへんよな。まぁ所謂周辺調査ってやつや。英雄の周りにけったいなのが寄り付けへんように」

 そうして説明を受ける。曰く。

 

 黒崎一護を取り込もうという一派が貴族の中にいるのだという。同時に、一護を害して護廷に入れさせまいとする一派も。いままではそれらの動きも活発ではなかったのだが、最近一護が真央霊術院にいるという情報が出回ってしまった。しかもあの現世演習の後に。

 ということは、あのとき参加していた学生や教師の中にそれを吹聴した者がいて、しかもそいつは一護を害そうとしているどちらかの一派の一員である可能性が高い。

 そこで一護の周りにいる者の素行や事情を調査しておこうということに護廷で決まったのだという。

 正体がわかってから近づいてきた者はもちろん、それ以前から親しくしている者のことも調査をすることになったのだとか。

 話を聞いて片倉は首をかしげた。

 普通調査を行うのは調査を担当する下位の者たちであって、ルキアや平子であるはずもない。それなのになぜわざわざ隊長がここに来てまで? 

 と疑問に思っていると、それを平子が先に解消してくれた。

「調査は俺たちはやらんわ。それは別。俺らがここにおるんは単純な興味やな」

「お主たちの身辺調査をしようと言うのではないぞ! ただ、最近妙なことはないかと一護に聞いても”分からない”としか言わないのでな……。もう近しい友人に聞いたほうがまだマシではないかと思ったのだ」

「ちゅーか、一護って学校ではどういう感じなん?」

 平子は穏やかな笑みを浮かべる。

 

 聞いたことはなかったが、平子真子と黒崎一護は親しい関係だったのか。と片倉は少し驚く。

 最初に返事ができたのは梅だった。

 何度か隊長格にあっているし、以前から一護の正体も聞かされていたので、片倉や心平よりは多少緊張度合いが少ないようだ。

「あの、なんというか学院ではすこし大人っぽいです」

「ほぉ」

 面白そうに平子が答える。

 そういえば、梅は以前他の副隊長たちと行動している一護を見ており、その際の一護の様子を見たら驚くだろう。と言うような発言をしていた。この場でそれに近い話が出るということは梅にとってはかなり印象深いことだったのだろう。

「話し方とかはあまり変わらない気がするんですけど」

 実際梅の言うとおり、先はどルキアや平子とやり取りをしていたときの一護は普段の何倍も楽しそうだったような気もする。

 親しさに差があるというのは少し寂しくもあるが。

「以前副隊長方とお話をされているときは、からかわれたりしていて、学院では見ない光景だなと」

「以前? ああ、もしやおぬしが桜庭の?」

「え、あ、はい。桜庭梅と申します」

 梅が名乗ると得心がいったと言う様子でルキアがうなずく。

「今年の春頃に一護が貴族街に乗り込んだことがあったが、あれのときのだな」

「あー、例の?」

 楽しそうに平子が笑う。

 例のとは何だろうか、と片倉と心平がそれぞれ首を傾げるのを梅は見やって「色々あって……」と詳細は濁す。

 しかし一護が貴族街に乗り込むとはなかなかの事件だ。

 学院の生徒がそれをやるというのも問題だし、その生徒が黒崎一護だというとさらに問題だろう。よく大事にならなかった……いや。大事になっているからルキアや平子も知っているのか。

「あ。春って、もしかして梅が学院辞めるって話してたあれか?」

 心平が梅に尋ねる。

「うん。それ」

「そっか梅の家貴族だもんな。あいつ貴族の家に乗り込んだのか……やべぇ」

 なにやら納得した様子で心平がうなずく。その当時片倉は三人とは仲がよくなくて詳しい事情は全然しらないのだが、梅が学院を辞めると言う話があったというのは驚きだ。

「三人ともいつから一護と友だちなん?」

 素朴な疑問という様子で平子が尋ねる。

「私は入学初日に」

「俺はその一週間後くらい後だったかなぁ」

「僕は一学期後期くらいからだったと思います」

 平子は「ほーん」と言いながら片倉に視線が止まる。

「片倉雀と申します」

 なんとなく名を尋ねられている気がして答えると、平子が僅かに目を見張る。

「もしかして飛鳥って名前のにーちゃんおった?」

「えっ」

「たしか三番隊に片倉っちゅう名前の隊士がおったと思うんやけど」

「は、はい確かに」

 兄、片倉飛鳥は、かつて三番隊の第六席だった。滅却師との戦いで殉職したが、優秀で自慢の兄だった。

 平子は思い出すように目を細める。

「……そうか。音楽に夢中になってほっつき歩いとったローズを探しに五番隊に顔見せにきたことあってなぁ。顔は覚えとる。兄弟やからって似すぎちゃうか?」

 ケラケラと平子が笑う。

 兄の話ができるのはめったにないので、覚えていてくれたということもあって嬉しい。

「片倉の兄ちゃんそんなすごい人なのか」

「片倉くん優秀だもんね。お兄さん似なんだ」

 などなどと言われてちょっと照れる。

 

「ちゅーことは、三人とも例の一件の前から親しかったんやなぁ……。せやったら、あの一件以来妙な態度のやつとかしらん?」

 平子が真面目な顔で言うので、三人は顔を見合わせた。

 妙。と言われるとそこまで思い浮かばない。というかむしろみんな態度が変わったので妙といえば妙なのだが。

「最近妙に一護に近づくようになったとか、態度が明らかに変わったとか。そういうのがあれば聞かせてほしいのだ」

 ルキアの言葉に各々思い出そうと首をひねる。

 しばらくして心平が「妙ってほどじゃないんですけど」と前置きをして手を上げた。

「実は歴史の先生がちょっと変ていうか」

「変?」

「その……。一護に悪い印象があった先生たちはみんな態度が変わって気持ち悪いくらいなんすけど、歴史の小沢先生だけは逆に距離を取るようになってる気がするんですよね」

 言われてみれば。と片倉も思う。

 現世演習の件を知っている先生の態度はだいたい二種類。ただそこから発生する行動は大体一緒だ。

 それまで悪感情を持っていた先生は、なんとか関係改善をしようと妙に近づいたり、媚を売ったりする。そして一護に対して良い印象を持っていた先生も、今まで以上に一護に近づこうとする。生徒たちは緊張から遠巻きにしがちだが、先生たちはむしろ近づこうとしているのだ。その中で小沢先生のようにそれまでの距離感よりさらに離れていくのは奇妙ではある。

 それに態度も変わった。以前はもう少し穏やかだったのに、どこか冷たいと言うか。

「変に距離取ってる感じするよね……あ、あと変といえば、昨日一護くん、門倉先生から変な勧誘されたって言ってなかったっけ」

 梅が思い出したように言う。

 昨日の昼休み明けは算学の授業で、担当は門倉と言う教師だった。

 普段から分け隔てない先生で、荷物を運ぶ手伝いに気まぐれに生徒を指定することがある。昨日は一護が指定されたのだが、戻ってきた一護は荷物の片付けなどの手伝いをしてきたかと思えば、すこしだけ不機嫌そうに「変な勧誘しやがった」とぼやいていた。具体的な内容については聞いていないので、内容については全員首を横にふるしか無いが、妙と言えば妙だ。

 ルキアと平子は互いに目を見合わせると「歴史と算学か……」とつぶやく。

 

 

 そこでからりと扉が開いた。

 一護と岩田がそれぞれ手にコップを乗せたお盆を持って帰ってきた。

「? どした?」

 思わず三人は一護を凝視してしまった。

 こっそり彼について話していたから妙に気まずいのだが、それをまったく表に出さずルキアと平子が「遅いぞ」と声をかける。

「うっせぇな。人数多いんだからしょうがないだろ」

 そう言いながら机にコップを並べていく。

 途中妙に沈黙している三人をみて何を思ったのか、一護はルキアと平子を睨んだ。

「隊長二人で学生を威圧すんなよ」

「なっ、してないぞ!」

「いるだけで威圧するんだよ。自覚なしか」

 もしかしたらお前が言うなと言えるかもしれない。そんなセリフを吐きながら一護はどかりと椅子に腰をかけた。

「べつになんとも無いよ?」

「ホントか?」

 ジトッと一護は梅を見る。

 梅は慣れた様子で、なんでもないって。と笑って誤魔化した。

 

「で、お前らいつまでいるんだよ」

 一護はルキアと平子を再び睨む。

「私は貴様の鍛錬が一段落するのを待っていたのだ」

「ちっげーだろ! お前が用があるからって俺を呼び出したんだろ!? そのくせ来てみたらいねぇし。かと思ったら突然練習の邪魔しに来るし!」

「視察だったのだから仕方あるまい。貴様にずっとかまってられるわけがないだろう。なんだ寂しかったのか?」

「寂しくねぇよ!」

「寂しそうな顔をしているぞ」

「してねぇよ!」

 二人は先程と同様に、傍からみると楽しそうにぎゃあぎゃあと叫ぶ。本当に仲がいい。

「つか、俺になんの用だったんだよ」

「ああそうだった、これだ」

 言ってルキアは袂からなにやら手のひらサイズの箱を取り出した。

 それを一護に手渡そうとするが一護は受け取らずにただただ嫌そうな顔をして箱を見下ろす。

「何入ってんだこれ」

「制御装置だ」

「……涅さんの?」

「ああ。前回のは壊れてしまっただろう」

 ルキアがパカリと蓋を開ける。思わず片倉を含めた全員が覗き込むと、箱の中には前に一護がしていた腕輪と同じようなものが入っていた。が、それを凝視して全員顔色をなくす。

 

 あ~。

 うー。

 あ”~。

 

 と、なにやら小さな声でうめいている。

 よく見ると腕輪の内側には複数の口がついていて……。

 

「断る!」

 そりゃそうだ。

「なっ!? せっかく持ってきたのだぞ!?」

「こーとーわーる! 気持ちわりぃ」

「……そんなことはないだろう」

「目を逸らすな! だいたいこれ知ってるぞ! あれだろ! 剣八の眼帯と同じだろ! なんで口ついてんだよ!」

「涅隊長の趣味だろう」

「趣味だろうじゃねぇよ! いらねぇよ! って嗚呼! 勝手につけんな!」

「うるさいぞ! ありがたく受け取れ! 暴れるな!」

「やめろ! これならテメェの下手くそな絵が描いてあるほうがまだマシだ!」

「ちょっと待て! 私の絵と比べたな貴様! これのキモチワルさと比べたな!?」

「キモチワルイって言ったな! 言ったよな!?」

「さっさと受け取れたわけ!」

 とうとう入っていた箱をルキアが一護の顔面に投げつける。さすがに激突して痛かったらしい一護がうずくまって唸った。

「てめぇ……」

「技術開発局が貴様のために作った特注品だぞ。眼帯じゃないだけマシだと思え」

「思ってねぇくせに言うじゃねぇか……」

 地を這うように言って、再びルキアと一護のやり取りが続く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 片倉は若干呆れて溜息をついた。

 とほぼ同時に溜息をついた平子が、呆れたように二人を見て笑う。

「夫婦漫才やな」

「「誰が!?」」

 

 二人の抗議を手を振って流すと、平子はよっこいせっ、と言いながら立ち上がった。逃げる気かな?とか思いながらそれを目で追う。

「そろそろお怒りの電話来そうやし、俺はお暇しますぅ」

 お怒り?

 ひらひらと手を振って歩き始めた平子だったが懐からジャズ音楽が流れてきて足を止めた。

「あ………」

 と小さく声を発した平子の背中に、一護とルキアの「でろよ」「出たほうがいいですよ」の声が届く。

 平子は苦笑いをしながら伝令神機を取り出すと、耳にそれを当てた。

 

『隊長! 今どこですか!』

 

 スピーカーonにしてんのかよ。

 と全員が思う中、平子は伝令神機を耳から遠ざけると「今戻りますぅ!」と答える。

「なんや桃のやつめちゃくちゃ怒っとるな」

 いや、それあんたが悪いだろ。

 と再度みんなで気持ちをシンクロさせる。

「じゃ、おじゃましましたぁー」

 慌てた様子で平子が扉から出ていく。

 平子隊長、副隊長に頭上がらないのかな……。

 

 平子の退場でようやく夫婦漫才もどきを終えたらしいルキアは唐突に思い出したように「では私も戻る」と言って立ち上がった。

「帰れ帰れ」

「黙れ馬鹿者!」

 と空になった紙コップを一護にぶん投げると、ルキアも逃げるように去っていった。

「あのヤロウ……」

 うずくまって唸る一護を見下ろして、梅が首をかしげた。

「一護くんと朽木隊長仲がいいんだね」

「そうか?」

「うん……」

 と頷いて、梅は一護にジト目を向ける。

 

 

 

「一護くん、二股?」

 

 

 

 

「違いますぅ!?」

 

 

 

 




 おはこんばんちは。

 相変わらず山もオチもなくひたすら会話するだけになってしまいました。
 まぁつなぎの回なので……。

 そういえば23話に挿絵も追加しましたw

 さて、次はまたちょっとした中編のつもりなのですが……。ちゃんと書けるかなぁ。
 頑張ります!
 
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