黒崎一護・護廷十三隊物語   作:hapi

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 一護が死後、尸魂界にやってきて真央霊術院に入学した後の話
 今回は一護側のお話。期末テストの最初に演習場吹き飛ばして絶望的なスタートを切った一護が恥ずかしい思いをする話


※オリキャラが喋ります。かなり出張ります。
※原作のネタバレあり
※捏造注意


5.嗚呼!憧れの黒崎一護!(挿絵有)

 

 

 真央霊術院の1回生のテストの初日、鬼道の演習場が吹き飛んだらしい。

 そんな話が護廷十三隊に流れた。

 発信源は女性死神協会だとか、十番隊からだとか……。

 まぁだいたいそこまで聞いたなら察しの良いものは色々気づいたりするのだが。

 その噂に平隊士たちは「今年はすごいやつがいるんだなぁ」などの反応を示したが、副隊長たちは異なる反応を示した。

 爆笑する者、呆れる者、頭を抱える者、苦笑いをする者。

 その誰もがある人物の顔を頭に思い浮かべる。

 そしてみんな揃って言うのである。

 

「そうなるだろうと思った」と。

 

 ならなぜ止めなかった。と言うセリフは後の黒崎一護の言葉である。

 止めて止まる男かと、思われたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 さて、そのような話が瀞霊廷で行われることを知らないやらかした張本人は、現在教員室でこっぴどく叱られていた。

 

「君はっ特例として入ってきているがね? しかしだ! 当然だが壊したものを仕方ないでは済まされない! そんな特例はない! 学院長がゆるしても、この副学院長である私は笑って許してやるわけにはいかん! 片付けと修復は手伝わせる! 聞いてるのか志波一護!」

「聞いてます」

 昨日実技試験がスタートし、その初回の試験は鬼道だった。

 一護はそこで先日松本乱菊に教わった通りに鬼道を行い、そして、失敗した。

 というより吹き飛ばした。

 文字通り。

 跡形もなく。

 チリ一つ残さず。

 

 それは言い過ぎだが。

 

 ともかく演習場は見る影もない状態になった。

 もし学舎に向けていたら、建物が消えていたかもしれないレベルである。ちなみに一護がふっとばした演習場の先には霊術院の塀があったが、それは見事に消え去り、その向こうにあった小さな森は消し飛び、その向こうにあった建物の屋根が吹き飛んだ。

 奇跡的に犠牲者は出なかったが、演習場で待機していた生徒の何人かは風に煽られこちらもふっとんで怪我をしたので、彼らの試験は延期された。

 大変申し訳無い事態である。

 

 そもそも乱菊の元でもそううまくはいっておらず「まぁ発動しかけている気配はあるから零点は免れるかも」ととびきりの笑顔で送り出された。そしてまさかの大出力。あれはもはや赤火砲ではなかった。べつの何かだ。

 今までの授業でもほとんど成功した試しはなく、一度成功しかけたときは今回ほどではないが大爆発を起こしている。それ以外は暴発で自分がまっくろけになるか、そもそも不発でうんともすんとも言わないかだった。

 今回は一応前に飛んでいる。ということを考えるとまだマシなのか。どうなのか。吹き飛ばしてるがよくなってると言えるのか否か。よくわからない。

 ただ流石に破壊してしまったことを猛省している一護である。それによって試験日程もずれ込んでおり、当初予定していた鬼道の試験を最終日に移動させたクラスもあった。

 呼び出され怒られる程度ならば神妙にするしかない。

「ほんと、すみません……」

 乱菊にも後で謝罪しておかねばとうなだれながら謝れば「まぁそのへんで」と他の教師たちが副学長を諌めた。どっかの教師が一護に絶対的な敬意を表している場面をみて、教師たちの中には一護を、もしかしたらあの……と疑う者も多い。もしそうならあまり怒らせたくないのだろう。

 が、一護が言ってはいけないのだが、擁護できないレベルの被害を出しているので、逆に教師たちの理性が心配だ。

 ともかく前代未聞の出来事だった。

「運良く、修繕の予定があったということでお咎めはそれほどないが、普通なら退学だ!」

 ごもっとも。

 本当に運良く塀は修繕予定があり、森は開拓予定があった。らしい。

 本当かは知らないが。らしい。あの森の辺りは朽木家の管轄らしいので、まさかな、と一護は思ったりしているが、まさかそこまで朽木の当主も太っ腹ではないはずだ。多分。

 そこまで好かれているとは思ってないし。多分。

 

「まったく。同じ“一護”として恥ずかしくないのかね!」

 一瞬、一護は沈黙した。

 同じ一護とはどういう意味だろう。

「えっと」

「えっと、じゃない。まさか気づいてなかったのか? 黒崎一護殿と同じ名前だろう! 彼はそれはそれは優秀で、鬼道だって隊長格と並ぶと言うぞ! それに比べて君は! 彼と同じ名前をつけてもらっているというのに鬼道を使うどころか、発動すらできない。できても大爆発だ! もう少し見習ったらどう……ってどうした志波」

 

  

 ――ど、どうしたじゃねー!

 

 一護はうずくまって悲鳴を上げそうになった。

 

 ――とても優秀で、鬼道は隊長と並ぶ? それ誰!? 俺? 俺を見習うの? 俺が!?

 

 本人の知らないところで広がっている噂が本人を超えているのはどういうことなのか。一護は全否定したいのを全力で我慢して唸り声を上げた。同じ”一護”としてなどと言われても困る。だって同一人物なのだから。

 

 一護が困惑で悶えていることなど知らない副学長は一護の肩に手を置くと「そうか、お前も英雄の名前をもらってしまって苦労しているんだな。すまなかった」と一人勝手に納得してうなずく。

 そろりと顔を上げた一護の視界に同じようにうなずく教師陣が見えて、一護は再び膝に顔を埋めた。

 

 

 

 当たり前だが一護がいない尸魂界では一護の耳に入ってきてすらいないだけで、勝手な噂が流れまくっていた。それは一護を英雄とよぶもので、神聖視にすら近いもの。

 最初に一護に憧れて死神になる者がいると京楽から聞いていたし、一護を尊敬しているという教師にもあった。その教師の尊敬っぷりもちょっと異常なほどだったし、それを見て一部の教師が一護を黒崎一護と疑うくらいには知名度があるのもわかっていた。わかっていたつもりだったが、しかし独り歩きしている噂を目の前で披露されるとそれなりに来るものがある。

 げっそりとして教員室を出た一護は、尸魂界で回っている自分の噂について近いうちにルキアたちへ詳細を聞きに行こうと決める。

 そしてできればその噂を撤回するために隊長副隊長たちには協力してもらわねば。とおそらく逆効果であろうことを気づかずに決意してた。

 

 

 

 そうしてのそのそと教室に戻ると、なぜかそこには人だかり。

「なんだ?」

 不思議に思いながらそれをかき分け教室に入れば、沖野心平が苦笑しながら手招きしていた。

「おかえり一護」

「おう………なんか、すげー人来てね?」

 言って先程通ってきた教室の入り口をみる。やはり人だかりは掃けておらず、他のクラスの生徒達が教室を覗いていた。そういえば教室に戻る途中にも何人もの視線を浴びていたが、思考の中に入っていたのでそれほど気にしていなかった。しかし流石に教室の前にできた人だかりには驚く。しかもだ。その視線が明らかに自分に向けられていることに気づくと流石に居心地が悪い。

 なぜこんなことになっているのかがよく分からず首をかしげると、心平は驚いたように一護を見つめた。

「お前何も知らないのか? すごい鈍いな」

「なにがだよ」

「演習場のことよ。さすがに試験の日程までかわっちゃったから他の組にも広まってるみたいでね、一護くんの姿を見ようってみんな集まってきてるの」

 最近いつも一緒にいる桜庭梅が一護の隣に腰掛けながら笑っていった。ああ、それか、とうなずいて、笑い事ではないので口元を引きつらせる。

「一護かなり有名人だぞ今」

「うれしくねーんだけど」

 もう一度目を向けた教室の入り口で数人の生徒はコソコソと一護を見て何事かを囁いている。彼らはなんと話をしているのだろうか。

 

 最近こんな感じばっかだなと一護は思う。

 瀞霊廷に行けばサインを求められたり、遠巻きに観察されたり、それ自体は昔からなのでそんなに気にしていないのだが、学校でもこのように見られていると流石に気が休まらない。志波一護として本来は目立ってはいけないのだろうし、このことが知られれば見知った死神たちの間で何を言われることになるか。

 もっとも、今回の件が外にもれないとは思えないが。

 

 昔から別に目立つつもりがないのに目立つという経験をしてきたので、放っておくしか静かになる方法がないのは知っているが、果たして時間感覚のおかしいこの世界で噂はどれだけ長く続くものなのだろうか。

 今できるのは、早く騒動が収まるように願うことだけだ。

 そもそもこの事態は一護自身が引き起こしたことではあるのだが。

 

 席に座り頬杖をついてため息を付いて、それから気配を感じて顔をあげると、いつの間にかクラスの生徒たちが一護の周りに集まってきていた。この二ヶ月でそれなりに距離が縮まっては来たが、それでもこれほどの生徒が集まってきたことはない。

 転校生にでもなった気分になる。

「すごかったよねー、昨日の志波くん」

「な。あの爆発学院の外まで聞こえてたらしいぜ」

「俺兄貴が護廷にいるから昨日の夜に話しちゃったよ!」

「私もー」

 口々に言われて一護は口をへの字にひん曲げた。

 別にわざとやったわけでも注目されたかったわけでもないのに、武勇伝みたいになってしまいそうだ。

「なぁ志波」

 一護が不機嫌になっているのに気づかないのか、また違う生徒が一護に声をかけた。

「なに」

「志波の名前って、黒崎一護様の名前からもらってんの?」

「あーそれ私も気になってたー」

「俺も!」

 

 

「…………は?」

 

 再び一護は沈黙した。

 

「いや、だから一護って名前がさ」

「ちょ、ちょちょちょっとまて。今なん……黒崎一護 さ ま ?」

 一護はガタンと音を立てて立ち上がる。一方のクラスメイトたちはキョトンとした様子で一護を見ている。

「え、違うの? てっきりそうなのかと思った」

 と梅がいい、心平がうなずくので一護は「いや、そこじゃなくて!」と滅多にない大声を上げてしまう。

 ――様? 様!? 俺、今の俺のこと!?

「偶然なの? 珍しい名前だと思うんだけど」

 本人である。

 一護は頬を引きつらせた。

「さ、様付けで呼んでんの? 何で?」

「なんでって、だって黒崎様だよ?」

 逆になんでそんなことを聞くのかというような梅の表情に、一護は思わず後ずさりしそうになった。後ろの席にぶつかって後退りなどできないので、あくまでも気持ちの中ではだが。

「まさか黒崎一護様知らないとか言わないよな。最近こっちにきたやつなら知らなくても無理ないけど。一護って流魂街出身だけど一応貴族なわけだし……」

「知ってる、けど……」

 若干不審そうな心平の視線に思わず首を横にふる。それから恐る恐るという様子で椅子に腰掛けた。

 

「まぁ黒崎一護様を知らないで一護って名前なわけないよな。志波くんが知らないだけで、きっと黒崎一護様のお名前からもらってると思うし」

「最近一護って名前の子結構いるらしいよ?」

「いやーちょっと重くないか? 名前の重圧!」

「期待大! って感じでちょっと気が引けちゃうかもね。一護って名前だったら」

「そういう意味じゃ志波くんは堂々としているよね」

 

 クラスメイトの好き勝手な話を聞きながら、一護は首を盛大にひねりたい気分だった。

「なんでそんな人気なんだ?」

 いえば、梅が目を丸くする。

「だって大戦の英雄じゃない」

「じゃあ、”恋次”とか”白哉”とか、”織姫”とかって名前も人気なのか?」

「何で?」

「何でって……」

 一護はとうとう首をかしげた。なぜ自分の名前ばかりがと不思議になる。

 英雄というが、あの時最後にたどり着いたのが自分だったと言うだけだ。一人で勝ったというわけでもない。共に戦った死神たちも同じように扱われていてもおかしくないのに、彼らの名前が人気ということはないのだという。

 朽木隊長、阿散井副隊長、のように役職がないから名前が有名になってしまったのか。それなら死神代行でもよいではないか。

 もしや、人間だったからなのだろうか。だとしたら石田はクインシーなので無理としても、例えば井上織姫という名もそれなりに話題になってもおかしくないのに、そこは知られていないようだった。

 一護の出自は伏せられているし、尸魂界に出回る情報などそう多くはないはずだから、立場としては織姫たちとそう変わらないはず。もちろん死神代行という職である以上は織姫たちよりは名前が知られていてもおかしくはないのだが。だとしてもなぜここまで熱狂的なファンがいるのだろう。

 だいたい大戦は60年ちかく前の話だ。一護にしてみれば随分前だし、ここにいる若者たちにとってもそうのはずだ。

 なぜこんなに流行りの人のように話題になるのか。

 

 一護が腑に落ちないという表情を顔全面にだしていると、突然梅が手荷物の中から本を取り出した。

 まだ新しめの本を手渡され、表紙をみた一護はぎょっとした。

 

《英雄・黒崎一護伝》

 

「な、なん、なんだと?」

「一護くん、あまり黒崎一護様のこと知らないみたいだから、もしかしてって思ったけど、やっぱりこの本知らないんだ?」

 思わず梅と本とを交互に見る一護に、梅はくすくすと笑う。

「黒崎一護様の本はこれだけじゃないんだけど」

「これだけじゃない!?」

「うん。でもこれが一番有名かな。近代史をやるころに教本として配られると思うよ。ちなみにこれは実家から持ってきたの」

「きょ、教本……」

「一護くん、朽木隊長とか阿散井副隊長のこと言ってたでしょ? たしかにお二人も有名なんだけど、やっぱり黒崎様とは比べるとね。

だって黒崎様は人間で、死神代行で、本来なら闘う義務もないのに助けに来てくださったわけでしょ。死神になってまもなかったはずなのに」

 それは覚えのある言葉だ。

 何度かそんなようなことを言われて、だから助けに来てくれてありがとう。と言われた覚えがある。

 が、別にどこの誰でも、救える力があったからそうしただけだ。そして助けたいと思う理由もあったのだから、そんなことで感謝されてもなぁというのが本音だった。

 だいたい一護がやらなくてもきっと誰かがどうにかしたかもしれない。

「そ、そこまでかぁ」

 一護は本を開きこわごわと目を滑らせる。そこにかいてあることは確かに一護のことだが、しかし一護のことではない。

 

 

《黒崎一護。人間でありながら死神代行として、藍染惣右介の打倒を成し遂げ。後、霊王護神大戦では首魁を討ち取りし人物。三界をまもりし英雄についてここに記す》

 

  ――だれだこれ書いたの!!!

 

 更に目を通して曰く……。

 

《「斬」「拳」「走」「鬼」を極め、卍解を数日で会得した》

《虚圏を制圧し――》

《人間離れした美しさをもち――》

《――その斬魄刀は天を裂き――》

 

 

 バシン! と音を立てて一護は本を閉じた。

「だ、大丈夫?」

 梅が心配そうに一護を見る。なんといっても顔を羞恥で赤くしながら冷や汗を流すというとてつもなく器用な顔をしているのだ。一方の一護はあまりの羞恥にどうしたらいいのかわからず声にならない悲鳴をあげた。

 

「――――っ」

 

 副学長はいった。”黒崎一護”は隊長に匹敵する鬼道の技術を持っていると。

 この本を読めばたしかに一護が素晴らしい鬼道の技術をもってそうに感じるだろう。実際にそう書いてある。しかもこの本教科書にもなっている。教師が内容を知らないわけがないのだ。そしておそらくだが、梅の実家にあったということは、これはこの学校以外でも広がっている。

 朽木ルキアが爆笑している姿が目に浮かぶようだった。

 阿散井恋次も多分引き笑いしてそうだし、なんならみんなで本を開いて《美しい》だのと謎の評価がついたことを笑いあってそうだった。

 ――や、やめろー!

 

 と妄想に顔を更に赤くする。

 しかも、しかもだ。本物はこうして学院で鬼道の才能なしとまでいわれているわけである。

 何たる羞恥。顔から月牙天衝吹き出しそうである。

 

 一護は本をゆっくり机に置くと、空を仰いだ。

 

 

 

「俺、黒崎一護になりてー」

 

 黒崎一護、75歳の叫びであった。

 

 

   

 

 

 

 

 






 ↓挿絵
 
【挿絵表示】



 ご感想ありがとうございます!
 お返事できてないものもありますが、全て拝見してます。そして参考にさせてもらって次話を書いてます。
 せっかくなので鰤ファンが見たい展開が書きたいよね!

 あとイラストも見てくださってありがとうございます!
 イメージを崩さない程度にまたかいていこうと思います!
 
 ということで、引き続き一護のターンです。

 

 次回は試験の続きの予定!ではでは~
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