かみながしじま〜輪廻を断つ者〜   作:空白零無

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忌縁

 

「巫女様、旦那のことをお願いします」

「はい、お任せください。両面様の巫女として呪いは継ぎましょう」

 

 神社にやってきた悩みを持つ壮年の女性を鳥居外へ送り出す。

 鬼の面を被り、巫女服を着た少女は見違えるほど背が伸びた。

 

 歳は十一。身長は百五十ほどまで伸び、黒かった髪は色素が抜けてしまい白に近い髪色に変化した。

 髪は腰まで伸び、朱色の編み紐で纏められている。

 

 神社へやってくる参拝客に挨拶をし。村の人から相談を受けては、幼いながら解決案を提示する。

 時にはお祓いを頼みに来る人の対応で神社を駆け回る。

 

 ほぼ一人で境内の掃き掃除を済ませ、空いた時間に老人が外で買ってきたらしい教本を読む。

 鍛錬は怠ってはいない。朝起きて素振りをし、寝る前に両面宿儺(⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎)に祈を捧げて眠りにつく。

 寝る前や目が覚めれば罪悪感に苛まれ自殺を計ることもあるが成功したことはない。

 

 一月に一度。村全体の祈祷式でも崇められるだけで、誰も少女のことを人として見てはいない。

「生きていることが苦痛だ」「消えてしまいたい」そう叫んだところで現状は何も変わらない。

 そして、誰かに求められなくなるのが怖い。人でありたいの自分で望んでも、村の者がそうさせてはくれない。人であろうとしても自身の立場が邪魔をする。

 

「……我儘はいけない。わたしは、巫女だから」

 

 全部壊せばスッキリするだろうか。この村がなくなれば解放されるのだろうか。少女の思い悩むことは日に日に増えていく。

 

 ──―救わねばならない(壊したい)

 

 少女にだけ聞こえる(衝動)はだんだんと増していく。老人に話しても「陰気を吸収しすぎただけだ」と言われるだけで特に何かされるとかはない。スーツの男に話しても「それが正常さ」と言われておしまいだ。

 

 夜に清めを行いに行っては血を浴び、その血を浴びれば声が大きくなり、体の底から何かが煮えたぎる様な感覚に襲われる。しかし、清めを行えるのは少女だけ。両面宿儺(⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎)から加護を受けているのが少女一人しかいない。

 

 祈る様に屈み、少女の前に(こうべ)を差し出す男の首を切り落とし、弔詞を唱えてポツリと懺悔の言葉を吐きだす。しかし、

 

「巫女様」

「……」

 

 心配そうな声で我に帰る。

 

(わたしが呑まれてはいけない。(呪い)に呑まれて仕舞えば村の人達が困って(死に絶えて)しまう)

「どうかなさいましたか? 日々野さん」

「いえ、心ここに在らずと言った様子でしたので。何かあったのかと」

「……最近はやることが増えましたからね。疲れているのでしょう」

「でも、両面様の巫女なのだし。血の癒しを受けてるはずですよね?」

 

 両面様の〝血の癒し〟。加護のことだろう。

 両面様の巫女は皆、高い身体能力と回復力。呪いを引き受けるという力を授けられる。それ故に疲れ知らずで呪いを常に扱える存在とのことだ。

 実際そんなことはない。加護とは言うが、身体能力も回復力も生まれ持ったものだ。呪いを引き受けているのかは少女にもわからない。気休めぐらいのものだろうが、村の者にはありがたいのだろう。

 

「加護は受け取ったのですが、なにぶんまだ幼い身。体の最適化が済んでいないのでしょう」

「なら仕方ないわね。あ、そうだ。巫女様に美味しい茶菓子を持ってきたの。良かったら食べて」

 

 茶菓子を受け取り、女性は軽く雑談をして帰っていく。

 少女はその後ろ姿を見ながら送り出した。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

「ちょっと君。君がここの巫女さんであってるかい?」

「……何用でしょうか?」

「なに、ただの迷い人だよ。困ったら如月神社の巫女に話に行けと言われてね」

 

 ある日、村の外から人が来た。

 どうやら道に迷ってしまい。この村にたどり着いたのだそうだ。

 

 どうやってこの村に辿り着けたのかは謎だが、立ち話も疲れる。神社裏にある居住スペースへ案内し、客間に通した。

 

「車の燃料も無くなるし、携帯電話は圏外だし、迷子になるし。大変だったよ」

「……それは大変でしたね。少し休んで行ってください。ここはわたし以外に人も来ませんし、静かですから」

 

 外から来たのはショートヘアの女性で、年齢は大体三十手前だろうか。目つきが悪いが、悪い人ではなさそうだ。優しい目をしている。

 

「そうさせてもらえるとありがたい。しばらく歩いていたから足が疲れているんだ」

 

 冷えた緑茶と老人が定期的に持ってくる茶菓子を女性に出し、少女は掃除の続きに向かった。

 

「……行ったか。もう少し話がしたかったんだが」

 

 一人になった部屋で女性が呟く。そして、辺りをキョロキョロと見回し、部屋にある本を物色し始めた。

 

 本棚には村の歴史書や、少女の教本。経典やスピリチュアル雑誌などが並べらており、異色とも言える題の無い古びた本が置かれていた。

 女性は古びた本を手に取り、開いた。中身は日記だ。

 

(まだ置いてあったのか。中身の確認はされてないのか? それとも巫女の私物だから畏れ多くて確認していなかったのか。まあ、好都合だからいいか)

 

 さらっと日記を流し読み、パタンッと閉じて棚に戻す。いつもの女性なら指紋を拭き取ったり何らかの処理をするがその必要はない。

 本棚から目を外して部屋全体を観察した後、お茶と茶菓子を味わった。

 

「茶が美味いな。なかなか良いセンスだ」

 

 良い茶葉を使っているのだろう。口をつけた茶は爽やかで微かに甘みを感じる。懐かしい(忌々しい)味だ。

 

 ギシギシ。廊下から床の軋む音がする。誰か来るのだろうか? 少し背筋を伸ばして気を引き締める。万が一のために腰につけているものに手をかけておく。

 

「邪魔するぞぉ。…………客が居るたぁ聞いていたが、本当に居るとはなぁ」

「お邪魔させていただいている」

 

 頭のハゲ散らかした老人は女性の顔を見るなり少し驚いた様な表情をした。

 対する女性は少し安堵の表情が浮かんでいた。

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