今、私と岳見隊員は市街地の様な場所に来ている。
浜辺エリアから少し離れた場所。そこは民家の立ち並ぶ場所だった。
数軒の古びた家が立ち並び、車や自転車がその場に捨て置かれている。
まるで、人が急に居なくなり。それなりの年月が経っているかの様だ。
「我々の状況とは真逆なのですね」
「
街角からゾンビでも出てきそうな雰囲気だ。こちら側には規格外生命を数匹確認している。ここにも何かしらいるかもしれない。
防弾チョッキを着ている岳見隊員が先行し、私が後方を警戒する。分かれ道では共に前に出て確認し、クリアリングを行う。私は私で、知り合いの伝手で特殊な防刃衣類の服を着ているので刃物には強い。HGを構えながら探索する。
「前方右、クリア」
「前方左、クリア。前進します」
こんな感じで進んでいる。
ここまで強く警戒する必要はあまり感じないが、死角が多い分。付け入らせる隙を消すためだそうだ。……ん? あれは、
「岳見隊員」
「……そろそろ隊員って呼ぶのやめませんか?」
「では岳見さん。あそこの電信柱に何かの痕跡が」
少し前にある古びた電柱。そこには何か固い物で引っ掻いた様な痕がある。
「マーキングでしょうか?」
「似た様な傷痕がないか辺りを探してみましょう。私たちの様な人間が道標としてつけたものかもしれません」
私だったらやる。来た道。通ったことのある道を判別するために、壁や地面に何かしらの痕跡をわざと残すだろう。
「となると。生存者は気が強い人か、複数人で移動している可能性が高いですね」
人間は群れる生き物だ。群れを成す生き物は決まって臆病で自身が生き残る確率を上げるために群れを作る。
二人いれば一人で常に警戒し続ける必要はないし、一人ではないと言う安心感から少しでも気の休まる時間が増える。
一人であれば精神をすり減らしている可能性がある。
目が覚めたら覚えのない場所で一人。未知の場所で野生の動物に怯えながら過ごさなければいけない。
精神がやられていてもおかしくはない。
「痕跡を辿りましょう。人がいるのであれば話を聞き、仲間に加えましょう」
「岳見さんがそれで良ければ」
私は否定しない。私が探している人物がここにいる可能性もある。数年前に神隠しにあった人が生きているかは微妙なところではあるが、運良く生き残っているかもしれない。
生活がカツカツというわけではないが。困っているなら助けたい。
電柱の周囲をよく見てみると、ブロック塀にも同様の傷を確認できる。
(やはり、何者かが故意的につけたものかもな。高さと傷の付き方が若干違う)
固いものを押し付けてつけて引っ掻いた痕だが、線の角度も違う様に思う。一つ一つ手書きなんだろう。
ペタッ。ペタッ。
ブロック塀の奥から足音らしき音が聞こえる。
(誰かいるのか? 人らしい気配は感じないが)
「岳見さん。向こう側から音が」
「了解」
岳見さんを呼び、岳見さんにも音を聞いてもらう。私を見て頷いた。岳見さんにもちゃんと聞こえたらしい。
ブロック塀の向こう側は一軒家。そして、ここは家の裏側。家の中に入りたいのであれば、普通は正面に回って入り口から入るが……。
「岳見さんは壁を登ったりするのは得意ですか?」
「まさか登るつもりですか?」
「そのまさかです」
日本刀の下緒をベルトから外し、口に加える。壁に立てかけてある程度固定して足場にする。
ブロック塀の高さはおよそ二メートル。私の身長であれば素で登ることは可能だが、手のひらを痛めたくはない。
塀の向こう側を見てみると、小さな庭の様だ。雑草があちらこちらに生えている。庭に続く掃き出し窓は破られている様で、割れたガラス片が家の内側に散らばっている。
塀の上に登り、日本刀を回収してから庭に降りる。
掃き出し窓の向こう側はキッチンにつながっている様だ。HGを構えながら家の中に足を踏み入れる。
「屋内に侵入します。庭付近は安全な様です。登ってこれますか?」
「了解しました。これより侵入します」
岳見さんと合流するか。それとも先に探索するか……ん? これは……
(これは……血痕? それもそこまで時間の経っていない)
何かを引きずった痕の様だ。暗くてわかりにくいが、床に乾いた血液で線が引かれている。
よく目を凝らして辺りを見ると、何かの肉片があちこちに散らばっている。
「如月さん。どうかしましたか?」
「……あまり長いはしない方が良いかもしれません。探索を始めましょう」
岳見さんが前を行き、私は後ろについていく。
ダイニングキッチンの前にはリビングがあり、古びたソファーとテーブル。液晶テレビが設置されていた。
埃をかぶっており、人が生活していたような気配はない。
テレビの画面は割れていて、ついたとしても液晶漏れがひどくて見れたものではないだろう。
「臭いもキツイですね。確かに、長居はしない方が良さそうです」
岳見さんがそう言って何かを拾い上げた。
「日記でしょうか? 何か書いてありますね」
一枚の紙だ。何かを書いてある様だが、薄暗いせいか読むことができない。
「後で明るい場所で読みましょう。リビングは何もない様なので他を探しましょう」
足を止めた岳見さんに続きを促して家を歩き回る。
それから歩き回ったが、特に何もなかった。元々人の住んでいた様な形跡もないので、神隠し特有の建造物なんだろう。
「何もありませんでしたね」
「何もなくてよかったです」
激しく同意する。家の中で狼やイノシシに襲われたら生き残れる自信がなかった。
家の玄関へ向かい。外の様子を確認する。
外には何もいない。玄関を慎重に開け、HGを即座に構える。周辺を確認しても何もいなかった。
「探索終了。移動します」
「周辺も探索していきますか?」
「……後数件で大丈夫でしょう。それより先に、メモの様なものを読みませんか?」
「そうしましょうか」
岳見さんが折りたたんで持っていた紙を開き、内容を確認する。
『〝名も知らない誰かへ。
初めまして。或いは久しぶりだ。この手紙を読めているということは、お前はかなりの幸運の持ち主だな。これを読めたお前は一つ確かな情報を得ることが約束された。
ここには人間の様な見た目の異形が徘徊している。見た目は人の様なナニカだが、腕を追加で生やしたり。脚部を破壊しても、新しく生えさせて走ってくるだろう。
奴らの頭部の破壊。或いは、それと同程度の欠損を与えろ。そうすればあいつらは再生してこない。おそってくることもなく、そのまま動かなくなる。
私はもうダメらしい。不意打ちをくらってしまった。死因を聞かないでくれ。自分の慢心が憎いよ。
頑張って生き残ってくれ。これが、私のできる贖罪になるかもしれないんだから〟』
「人型の異形。ですか……。まだ遭遇していませんし、運が良かったですね」
「遭遇前に情報が得られるのはありがたいですからね」
違和感を感じる。何処に違和感を覚えているのかは自分でもわからない。わからないんだが……
「…………気味が悪いな」
私はそう呟いた。その言葉が、自分に向けられた様な気がした。