気味の悪い文章を読み終えた後。
数件探索して移動する。特に収穫はない。あるとすれば、未開封の水ボトルを三つほど見つけたぐらいだろう。
あの気味の悪い文章は最初の家にしかなった。もっと周ればあるかもしれないが、あまり時間をかけられない。
「この様子だと人もいなさそうですね。休めそうな場所に移動して、少し休憩しましょう」
ほぼノンストップで探索してすこし疲れた。
「休憩した後。食糧を探しましょう」
「その……。申し訳ない」
「いえ。お気になさらず。腹が減っては戦はできぬと言いますから」
私の燃費が悪いせいか。食糧が確保できても割とすぐに底を尽きてしまう。世にいる大食いの人。よく食べる人には種類がいる。
元々沢山食べる人。胃下垂のため、胃袋の容量が大きい人。そして、私の様に燃費が悪く。活動するために大量のエネルギーを必要としてしまう人。
岳見さんはそこまで食べない様で少し羨ましい。
「何処かにLINKのダンボールがあるといいんですがね」
所々配置されているLINKのダンボール。中には武器や物資が入っている。何故かはわからないがパンやら水やらカロリーメイトやらが入っている。本当に何をしている会社なんだろうか。
「? 何か聞こえませんか?」
立ち止まり岳見さんが周囲を警戒する。辺りを警戒しつつ、耳を澄ます。
(確かに何か聞こえる様な……。足音?)
乱れた足音だ。複数の何かが走ってこちらに向かって来るような音。そして、何か話し声の様なものも聞こえて来る。
「岳見さん。何か近づいて来る音が」
「この速さだとどう逃げても接敵するでしょう。HGの残弾数は?」
「九発とマガジンが三本の三十六発」
「私はARの残弾が二十発に、HGが六発。マガジン。一本もらえますか?」
最近残弾確認をよくやっているせいか慣れてきた。
マガジンを一本取り出して手渡す。正直に言うとマガジン三本全て渡してもいい。どうせ私はHGを使わずに日本刀で対応するし、古くなるより使う人間が使えばいい。
電柱の陰に隠れて様子を伺う。走る何かが遠目に見える。だんだん近づいて来る何かの様子は何かから逃げている様だ。
「走りなさい! 追いつかれるわよ!」
聞き覚えのある声だ。声の主と並走する三つの影。全員女性だろうか。走るのも割と限界そうに見える。
陰から出て声をかける。
「状況を教えろ!」
私の声に反応してか「げっ」と言いたげな顔だ。失礼な後輩もいたものだ。
「ヒトガタ! 人間みたいな化け物に追われてます! 三体です」
「わかった! 岳見さん。出ます」
「わかりました。生存者確認。保護のため如月さんの援護を行います」
こっちに走って来る後輩に向かって駆け出し、光達の後ろを追ってきていた化け物と対峙する。
目、鼻、口は本来ないであろう位置。不自然な大きさをしておりピカソの絵画めいた見た目をしている。ケタケタと笑う様なその顔は、見るものを不快に。あるいは恐怖感を与えるだろう。
「あまり人型相手は好きじゃないんだが」
鞘を手で支え、足を後ろに引いて腰を落とす。
(……今!)「そこ!」
刀を抜き放ち、そのままの勢いで首を刎ね。返しで袈裟切り。残りの一体に刀を突き刺して上に切り裂く。
人間ほど固くない。思ったよりも脆い様だ。
赤黒い血が飛び散り、粘性が強いのか少しベトっとしている。
「こんなものか」
(もうちょっと強ければ死ねたんだが。…………何を考えているんだ私は)
私は自死してはいけない。逃げてはいけない。まだ、まだ何も償えていない。本当に薬が欲しい。そろそろ精神面が不味いかもしれない。
「生存者の保護に成功。大丈夫ですか」
「はい。なんとか……」
黒髪の少女が答え、パーカーの子と白衣の女性が疲れかその場に座っている。
事情聴取は岳見さんに任せ、私は見知った顔に声をかけた。カメラを肩に下げ、チェック柄のベレー帽を被った女性。
「久しぶりだな。光。出来ればこんなところで再開したくなかったよ」
「お久しぶりですね。私だってこんな場所で会いたくありませんでした」
高校時代に少しの時間を共にした後輩。網野光は、不満気にそう言った。
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「初めまして。南愛海です。この子達の教師をしています」
「天音みこです」
「今別府ほむらです」
「網野光です。ジャーナリストをしています」
自己紹介を軽く終えて、全員がどうやってここに来たのかを聞いた。
天音みこは家の神社で光から取材を受けていると気がついたらここにいた。光は天音みこの取材中に気がつけばここにいた。
今別府ほむらは部活動で軽い怪我を負い、南愛海の治療から逃げていたら。南愛海は今別府ほむらを追いかけていたらここにいたという。
「先輩。先輩はこういうオカルト系は詳しいですよね。何かわかりませんか」
「そうだな……。正直、神隠しであることはわかっている。だが、時間も場所もバラバラ。目覚めた場所も何故か離れている。何が要因で連れてこられたのか。我々の共通点がわからないんだ」
岳見さんは自衛官。南愛海は学校の教師。養護教諭らしい。天音みこと今別府ほむらは学生。光はジャーナリスト。そして私は探偵だ。今の所、共通点としては全員性別が女であるということだけだ。
「共通点を強いてあげるとするなら、我々全員が女であると言うことだけだ」
私の言葉に、光と岳見さん以外の全員が凍り付いた。
「……男に見えるかもしれないけど、先輩は女の人よ」
三人の頭からつま先まで観察し始めた。
正直、初見で男性だと思われることは珍しくない。と言うか、そう見える様な容姿であることも理解しているし。男装の方が落ち着くから男装をしている。
間違われても別になんとも思わない。
「変な勘違いを──」
「お気になさらず。そう見られる様に振る舞ってますので」
天音みこの謝罪を止めて思考を巡らせる。考察できる要素は沢山あるのだろう。だが、共通点を見出しても神隠しを脱して現世に帰れるかはわからない。
現世に帰れたと言う報告は、なんらかの行動を起こしたのがきっかけで帰れたと言うものが多くある。私達も何かしらの行動を起こさねばいけないのだろうが、何をすればいいのか見当もつかない。もうしばらくは探索しつつ、手掛かりを探す他ないだろう。
「如月さん。取り敢えず、セーフゾーンまで向かいましょう。ここにいるヒトガタの行動は予測できませんので、安全な場所に一度引き返しませんか?」
「……そうですね。この人数なら一度セーフゾーンに行って情報交換するのもアリですね」
セーフゾーンと言うのは、私と岳見さんの2人で見つけた洞穴のことだ。バリゲートが敷かれており、電気柵が設置されている場所。市街地エリアからは離れているが、ここで安全な場所を探すよりは楽だろう。
「そのセーフゾーンって言う場所は離れてるんですか?」
「歩いて30分ほどかかりますね。だいたい三キロぐらい離れてると思われます」
岳見さんが南愛海と話をしている間。声をかけられた。
「あの、如月さん。でしたよね」
「なんだ? 天音みこ。聞きたいことでもあるのか?」
「もしかして、剣道とかやってたんですか?」
何故そんなことが気になるんだろうか。
「いや。剣道はやったことがないな」
「じゃあ、あの剣は」
「適当に振ってるだけだよ。運動は昔から得意でね」
剣術のことは聞かないで欲しい。答え難いし、子供相手だと余計に言えない。
「天音みこ。確か、君は巫女だったな」
「そうですけど」
「…………なら、私とあまり関わり合わない方がいいと言っておこう。神は穢れを嫌うからな」
君が嫌いだと言うわけではない。私は神が嫌いだ。
(君が