行方不明   作:ふぁっしょん

1 / 7
プロローグ


青い空の下
慈悲を示さない


 静寂の中に、微かな風の音が混じっていた。

 足元の石ころを蹴飛ばすと、壁に跳ねて、転がって、やがて止まる。

 崩れたかけらが塵のように散った。

 口を閉じたまま、深く息を吸う。

 埃と、湿気と、錆びた鉄の匂いがした。

 そんな廃墟で、ぼんやりと歩いていた。

 

 昔、ここに来たときは、仲間がいた。それと敵も。

 背を預けるだけの仲間と、向かい合う敵。もういない。

 

 立ち止まり、足元の砂粒をかき消すように足で払う。

 奇妙な凹凸があった、廃墟らしからぬ凹凸だ。

 直感があった。

 ここが求めていた場所だと。

 

 背嚢を床に置き、バールを引きずり出して、隙間に差し込む。

 力を入れ、足で蹴り、切っ先を突き入れて、無理やり引きはがす。

 こじ開けた隙間から、びゅうと風が吹き出して、鼻先をくすぐった。

 パネルの裏には、真黒い闇と、古びたロープが伸びる金具がひとつ。

 見覚えがあった。間違いなく、来たことがある……

 

 

 床の背嚢から降下用の器具を取り出そうと、すこしうずくまって、むせた。

 傷が痛んでいた。

 

 

 私は慎重に金具に器具を取り付け、ロープを垂らした。

 ……どうやら足りたらしかった。

 降下を開始する。

 

 

 闇の中を摩擦音だけが広がっていく。

 ライトの光は、宙を舞う埃だけを照らす。

 やがて床らしきものが、その真っ白な、ひどく埃の積もった表面を見せた。

 

 

 足をつけると、やはり反響のない無機質な音。足首まで沈み込む。

 周囲を見回すも、壁がない。

 床の分厚い埃の塊をかきわけるようにして、どけた。

 指先にひっかかるものがあった。

 引きずり出すと、それは……

 

 

 一枚の、硬質で重い仮面。

 裏にはただひとことが刻まれていた。

「慈悲を示さない……?」

 

 

 

 私にはそれがわからない。

 これがなんなのか、理解できない。

 だが、きっとこれが……

 そう思い、背嚢に収めて、器具を再起動する。

 

 再びの摩擦音が続き……

 やがて真四角の隙間が、上に見える。

 私はその淵をつかみ、這い出、そして気づいた。

 

 そこは先ほど見た場所ではなかった。

 

 

 ふと気づく。先ほどの空間で、あの古びたロープが見えなかったことを。

 確かめてみると、やはり金具には、自分の取り付けたものしかない。

 私は少し考えて、しかしやはり、引きはがされたパネルを閉じた。

 

 帰路を辿る。

 やはり、すこしだけ風の音が響いている。

 湿った風と、埃と、錆びた鉄の匂いも。

 私は扉を開けた。

 赤くない世界をみた。

 

 

 胸元の無線機に問いかけるも、応答はない。

 見上げると、懐かしい、真っ青な空。

 

「は……ははぁ」

 

 呻くような笑いが、少し漏れた。

 どうやら私は、なにかを間違えたらしかった。

 そこは元居た景色では、なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。