早朝、日が昇りだして黒が失せ、青ざめたような空の下で、またシャーレの前にたどり着いた。
こんなことをするくらいならロビーで待てばよかったのに、なんてことを思うが、座り込んでいたくない気持ちは今も強いから、遅かれ早かれだったかもしれない。
自動ドア越しにロビーを眺めて、ふと、腹が減ったと思った。
一拍、考えて。
シャーレの居住区の方に入った。
居住区一階、入口のすぐそばにそこはあった。
エンジェル24、まあコンビニといっていい。
店員らしい少女が、早朝にも関わらずカウンターに立って……
なにやら携帯電話を弄っていた。
折り畳み式だ、いまどき珍しい。
水色の上半分と、白い下半分が、丁度服装と同じような色合いで、似合っていた。
店内をうろつく。
昨日は栄養補給用のカロリーバーと水しか飲んでいなかったので、弁当でも食べようか。
そう思って、棚を眺めていた。
「うひっ!?」
声にふり向くと、店員の少女が驚いた様子でこちらを見ている。
「い、い……いらっしゃいませ!」
「ああ、どうも……」
少女はあわただしく瞬きをしながら、こちらに挨拶をしてきたから、ひとまず返事をした。
私は弁当をもう一度見た。
視線を感じる……
ちらりと伺うと、少女と目が合った。彼女はぎゅんと音がつきそうなほどそっぽを向く。
万引きでも疑われているのだろうか……?
ひとまず海苔ちくわ弁当なるものを選んだ。
それと手榴弾などの爆薬も少々買うことにする。
買った。
イートインらしき席に座り、カウンターの少女をぼんやりと眺めながら、弁当をもぞもぞと食う。むしゃむしゃするほどの気力はなかった。
ちくわはうまい。油っぽくなく、それでいて練り物としてしっかりと風味がのった、いいちくわだった。
少女はやたらこちらを気にしている様子だ。
そんなに客が珍しいのだろうか?
シャーレの先生や、当番の生徒も来ると思っていたが……
あるいは恰好がよくないのか。
自分の恰好をみると、たしかにくたびれている。
血痕や煤が残ったままだから、なるほど物騒かもしれない。
特に腹部や肩に空いた穴と、付近の血塊が崩れたあとは、結構いかつい。
そういえば手当を忘れていた……
重い傷は応急処置用のゲルが傷口を覆っているが、軽いものはそのままだ。
ため息がひとつ漏れた。
弁当の残りを口にかきこんで、ひとまず合掌。
立ち上がり、消毒液ほかいくつか棚から取って、カウンターへ向かう。
会計といっしょに、少し聞いてみよう。
「すみません、ここで軽く傷の手当をしてもいいでしょうか」
「は、はい!大丈夫ですよ!……ほかにお客さんもいませんし」
「ありがとうございます」
席に戻り、ボディアーマーなどを外して、傷に処置を施していく。
傷を再確認するたび、それらは思い出したかのように痛んだ。
あるいはずっと痛んでいたが、慣れていただけか。
ふと、足音に気づく。
入口をみると、なにやら大人がいる。
見覚えがあった。
くたびれた動きだが、それを表に出さないあの表情に……
「い、いらっしゃいませ!
……先生!」
“おはよう、ソラ”
先生だ。
変わらない姿だった。
短い付き合いで、別れてからそう経っていないというのに、なんだか懐かしい気がして。
私はじっと、その姿をみていた。
先生が、こちらをみた。
“はじめまして、だよね
……どうしたの?”
「ああ、いえ……ええと」
戸惑って、けれど思い直す。
「先生に、用があってきました。
昨日、机に仮面と手帳があったと思うのですが。
私は、それの持ち主です」
“……あれの”
気が付くと少しうつむいてしまっていて、私は顔をあげた。
先生は、少し硬い表情だった。
「私は、間黒フサキといいます。
先生にお願いしたいのは、あの仮面についてです。
使われるべきときまで、持っていてほしい。そして、あれが本当はなんなのか調べてほしい。
手帳の内容をどこまでご覧になったのかはわかりませんが、ただ……
私に関することを信じられなくても、あの仮面に関することだけは……」
“大丈夫”
先生は遮って、言った。
“私は君の味方だから”
その言葉に、私はなんだか身体がこわばって、手を握りしめた。
苦しくて、頭から血が抜けるようだった。