行方不明   作:ふぁっしょん

6 / 7
ドアをノックする

 大粒で、まばらな雨が降っている。

 厚い雲越しに床に落ちた陽は、灰がかかって暗い。

 椅子から伝わるプラスチックの温度は冷たい。

 窓越しに外を見ていた。草木の緑と、タイルの象牙色が、やはり暗い。

 けれどそれは、今いる食堂と比べると、少し明るい。

 明かりが点いていないから当然だ。

 この食堂は、廊下から入口へと、白い光が伸びていた。

 そんな暗さだった。

 

 

 思うこともなく、ただぼんやりと座り、ながめる。

 耳に入るのは、雨音と、冷蔵庫の唸りだけだ。

 ぱたぱたと鳴る雨音は、静かな空気を透るようにして響く。

 

 葉が雨水を湛え、大きな塊をこぼすのをみた。

 枝を水滴が流れ落ち、薄く広がっていくのをみた。

 樹と下草が潤んでいく。

 地表を覆う芝草もまた、雨水を受けて濡れている。

 

 

 かすかに、廊下側の空気が揺れた。

 遠い足音が反響しているらしかった。

 だんだんと近寄ってくるから、私はそちらをみた。

 先生が廊下を歩いている。

 こちらをみて、少し困ったような表情で、口を開いた。

 

“ちょっといいかな”

 

「もちろん、いいですよ」

 

 私は小さく笑みを向けた。

 先生は寄ってきて、私と向き合うようにして椅子に座った。

 

“少しの間、アビドスってところに向かうつもりなんだけど”

 

 すこし迷いが混じっているのをみて、私は遮るようにしていった。

 

「私もいきますよ」

 

 先生は言葉を切って、やはりちょっと困ったような顔だ。

 けれど気にしないことにした。

 

「シャーレに居候している身ですし、先生になにかあったら困りますから。

 そもそも、供も連れずにアビドスに行くなんて……

 あそこは一度行かないとわからないくらい、すごく広大なんです。

 土地勘がないとすぐ迷子になっちゃいます」

 

“……フサキは、アビドスにいったことがあるの?”

 

「ええ、前に数度。

 地図は頭に入ってますし、ある程度実際に見ました。

 ですから、安心してこき使ってください」

 

 そういって微笑むと、先生は口ごもる。

 少し、静寂があった。

 私は、先んじて立ち上がった。

 

 

「用意しましょうか。

 ちゃんと持つものを持たないと、遭難しちゃいますよ。

 先生も忘れ物がないよう、しっかり確認してくださいね。

 さ、先生も立ってください」

 

 手を伸ばした。

 先生は少し迷った顔で、けれど手を取って、立ち上がった。

 

 

“フサキ”

 

「なんですか?」

 

“……暗い時は、昼でも明かりをつかっていいからね”

 

 私は歩きながら、その言葉を咀嚼した。

 廊下にかつかつと、二組の靴音が響いている。

 前を向いたまま、私は答える。

 

「大丈夫ですよ。

 私、暗いところも好きなので」

 

 そして少し、笑みを浮かべた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。