大粒で、まばらな雨が降っている。
厚い雲越しに床に落ちた陽は、灰がかかって暗い。
椅子から伝わるプラスチックの温度は冷たい。
窓越しに外を見ていた。草木の緑と、タイルの象牙色が、やはり暗い。
けれどそれは、今いる食堂と比べると、少し明るい。
明かりが点いていないから当然だ。
この食堂は、廊下から入口へと、白い光が伸びていた。
そんな暗さだった。
思うこともなく、ただぼんやりと座り、ながめる。
耳に入るのは、雨音と、冷蔵庫の唸りだけだ。
ぱたぱたと鳴る雨音は、静かな空気を透るようにして響く。
葉が雨水を湛え、大きな塊をこぼすのをみた。
枝を水滴が流れ落ち、薄く広がっていくのをみた。
樹と下草が潤んでいく。
地表を覆う芝草もまた、雨水を受けて濡れている。
かすかに、廊下側の空気が揺れた。
遠い足音が反響しているらしかった。
だんだんと近寄ってくるから、私はそちらをみた。
先生が廊下を歩いている。
こちらをみて、少し困ったような表情で、口を開いた。
“ちょっといいかな”
「もちろん、いいですよ」
私は小さく笑みを向けた。
先生は寄ってきて、私と向き合うようにして椅子に座った。
“少しの間、アビドスってところに向かうつもりなんだけど”
すこし迷いが混じっているのをみて、私は遮るようにしていった。
「私もいきますよ」
先生は言葉を切って、やはりちょっと困ったような顔だ。
けれど気にしないことにした。
「シャーレに居候している身ですし、先生になにかあったら困りますから。
そもそも、供も連れずにアビドスに行くなんて……
あそこは一度行かないとわからないくらい、すごく広大なんです。
土地勘がないとすぐ迷子になっちゃいます」
“……フサキは、アビドスにいったことがあるの?”
「ええ、前に数度。
地図は頭に入ってますし、ある程度実際に見ました。
ですから、安心してこき使ってください」
そういって微笑むと、先生は口ごもる。
少し、静寂があった。
私は、先んじて立ち上がった。
「用意しましょうか。
ちゃんと持つものを持たないと、遭難しちゃいますよ。
先生も忘れ物がないよう、しっかり確認してくださいね。
さ、先生も立ってください」
手を伸ばした。
先生は少し迷った顔で、けれど手を取って、立ち上がった。
“フサキ”
「なんですか?」
“……暗い時は、昼でも明かりをつかっていいからね”
私は歩きながら、その言葉を咀嚼した。
廊下にかつかつと、二組の靴音が響いている。
前を向いたまま、私は答える。
「大丈夫ですよ。
私、暗いところも好きなので」
そして少し、笑みを浮かべた。