決して振り返らない
その憎しみに歪んだ顔を認識したとき、私は背嚢を前に回して構え、そして腰から取っ手を引き抜いて、勢いよく振り下ろした。
特殊警棒が展開され、盾となった背嚢に重い衝撃が伝わる。
付近に遮蔽はない。そのまま突貫した。
ざっと砂を蹴る音が前からも聞こえた。
背嚢が吹き飛ばされ、横にずれる。
勢いに身を任せて横に動き、警棒で銃身を打ち払った。
銃身が歪む感触がない、直前で離されたか!
脇腹に重い衝撃が走る。セカンダリの拳銃だろう。
だが制服の下に隠したボディアーマーが和らげてくれた。
まだ動ける。
懐に入った桃色の髪に警棒の柄を叩きつける。
高純度の神秘特有の鈍い感触。
浅い。
首に激痛が一度走る。二発目は外れた。
歯を食いしばって、もう一度警棒を叩きつけた。
地面に桃色が落ちる。
まだ片腕に引っかかったままの背嚢を、その上から叩きつけた。
そして抑え込み、胸元のホルスタから拳銃を引き抜いた。
“フサキ、待って!”
私は止まった。
下の、ホシノが動く気配はない。
少し、静寂が広がった。
息が漏れる。
「ぐふっ、げほっ……
ごっ、ふっ、ふぅ……」
ゆっくりと、背嚢を動かす。
コンクリートに伏した、その少女から、重苦しい声が聞こえた。
「どう、して……きた」
髪の隙間から瞳が覗く。
「お前が、いまさら……!」
知っていたのか、ホシノは。
知っていて、あんなことを頼んだのか。
その気づきが脳裏をよぎって、けれど、こらえた。
息を深く吸う。
「アビドス高等学校から、連邦捜査部シャーレに手紙を送ったでしょ
それだけ……
それだけだから」
私はふらつかないよう、力を込めて、立った。
少しして、少女、小鳥遊ホシノは身体を起こした。
頭から額へ血が垂れていた。
唇も切れている。
「なんで……」
彼女の顔が歪んだ。
「なんで、先輩を……
ユメ先輩は……!」
ホシノは立ち上がって、私の胸元を握りしめた。
すがるように。
「お前は、ユメ先輩と仲が良かっただろ。
なんで、来なかったんだ……!
なんで一度も来なかったんだ!」
私は、なんだか高いところから見下ろすような気分で、口を開いた。
ホシノの髪がやけに長いと思った。
下に垂れている。
「……今は、ただ。
あなたたちを助けに来た、とだけ、いわせて」
服が引き絞られた感触があった。
彼女はしばらくして、ただ一言。
わかった、とだけ言った。
そして離れて、地面に落ちていた銃と、見覚えのある盾を拾った。
懐かしい盾だった。
「先生、ごめんなさい。
私は……彼女は知らないのだと思っていました。
前……最後にあったとき、彼女は……
何もいわなかった」
先生はその言葉に返すことなく、ただ私の背を撫でた。
私は動けなかった。