硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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ええそうね。

無人機っていいものよ。

だって、落とされても味方は死なないし。

敵を殺した感覚も直に感じられないもの。

だから私は、無人機が好き。

罪深さから逃げる言い訳になるから。



私は直接手を下していないってね。




第008報 駆逐艦カゲロウ

 やっほー、はじめまして。

 

「無人攻撃機運用航空駆逐艦カゲロウよ、よろしくね?」

 

 とりあえずご挨拶から。基本よね?

 

「核戦争対応型高速駆逐艦、シマカゼです!よろしく、カゲロウおねーちゃん!」

 

 やだ、シマカゼちゃん素直かわいいじゃない?

 

 正面から抱きついてきたので抱きとめた。えへへ、ってかわいいなぁもう。

 

 思わず頭をなでなでしてしまう。あんまり背が変わらないはずなのに、妹っぽいわね。

 

「ぐふっ、つらすぎるぞ、これ。……すまない、六条大佐だ、よろしく頼む。」

 

 なんか今にも死にそうな顔色してるのが私の司令、ね。

 

 顔は悪くないけど、ホント死にそうな感じに真っ青なのがマイナスね。後目つきがやばい。不知火並みにやばい。

 

 

「防空戦艦、ハルナです。……提督、やはりお休みになられたほうがよろしいのでは?」

 

「いや、大丈夫だ。問題ない。それと、ハルナに介抱されているのはヒビキだ。目が覚めたら挨拶してやってくれ。」

 

 問題しかないような気がするけどね。

 

 司令を気遣うのは深海系美人?とでも言うべき見た目の美女。この世界の榛名さんによく似てるらしいけど。そして介抱されているのはくすんだ銀髪と、

 

「無理しないで休んだほうがいいんじゃない?」

 

「いや、大丈夫だ。君の説明を聞こうか。」

 

「ま、いいけど。ハルナさん、見張っといてね。」

 

 

 

「はい、ハルナにお任せください!」

 

 私は無人攻撃機運用航空駆逐艦カゲロウよ。前の世界では、非対称戦の最前線で戦っていたわ。といっても、実際には沖合い何百キロから無人攻撃機を飛ばして、改修するだけだったけど。私はあくまでも洋上プラットホームでしかなかったし、無人攻撃機を遠隔操作していたのは本土の子供たちだったわ。

 

 驚かないで。ここからのほうがえぐいのよ?何しろ、非対称戦の果てに、本土はテロの対象になった。それはそれは多くの犠牲者が毎年出ていたの、大人にね?

 

 だから政府は、戦うための兵士として、兵器を操作する兵員として孤児たちを徴用し始めたの。最初はあくまでも、税金で扶養する対価として、適性のある子にだけやらせていたわ。でも、戦局が悪化するにしたがって、より多くのオペレーターが必要になっていくの。数が足りないなら、義務にすればいい。前線で戦わなくてすむ本土の大人の誰かが言い出したの。そして、それは法律になってしまった。悪名高い戦災孤児特別保護法としてね。

 

 数十万の子供たちが強制的に兵士にされ、最前線で磨り潰されたわ。

 

 正規兵十人を助けるために百人の子供を突っ込ませて、挙句脱出のために子供たちごと敵を爆撃で吹き飛ばしたりね。

 

 しかも業の深いことに、爆撃で吹き飛ばしたのは、本土にいるまだ小さい孤児たちなのよ。ゲームとして与えられる無人攻撃機操縦ソフトのミッションとしてね。撃破レートによって、その日の食事グレードが変わるから、みんな必死にがんばってた。

 

 このころはまだよかったのよ。大人だって前線で命を懸けていたんだもの、ある程度は。

 

 でも、だんだん前線から大人の姿は減って行ったわ。数年もすれば、20歳の連隊長がうじゃうじゃいる位に。

 

 その結果どうなったと思う?戦争は終わったわ。ばかげた消耗戦争に付き合えず、各地の勢力が消滅したの。それもそうよね。全世界で、1900万は子供が死んだんだもの。大人はもう少し死んだわ。

 

 世界から戦争はなくなり、平和になりました。めでたしめでたし。だったらよかったんだけどね。

 

 大人たちは戦争という娯楽に取り付かれていたわ。だから、かつての第三世界を戦場に、下層民に分類された人を戦わせたのよ。それが正義の戦争だと誤認させてね。数多くのドラマが生まれ、各国で放映されたわ。生と死、戦場ではぐくまれる愛、友情、怒り、憎しみ。そんな物語を作り出す脚本にしたがって、現地の戦争は推移させられていたのよ。上層民が望む物語と映像を得るためにね。

 

 そのころも私の仕事は変わらなかった。洋上の各地を移動しながら、無人攻撃機を射出して、回収。故障を修復し、喪失したら補給艦から受け取り、整備しておく。操縦しているのは前と代わらず孤児の子達だった。

 

 十五年くらいかしらね。面倒になった上層民は、ごく一部の人間を除いて戦争にタッチしなくなったの。何しろ上層民の子供たちには、CGだって教えていたのよ?笑えるわよね。

 

 でもそれが原因で、上層民は滅びることになる。そのごく一部が、支配者階層に成り代わるために、反乱を起こしたの。そうよ、あの下層民の軍隊を率いてね。でも旧指導者を粛清した時点で、下層民は反乱を起こしたの。そして数年かけて、上層民は絶滅したわ。当たり前よね、一度も戦ったことのない集団と、生まれてから戦い続けていた集団、勝負になるはずもないわ。

 

 上層民を滅ぼしたあと、下層民は何をしたと思う?そうよ、地上の支配権をかけた世界大戦、そして全面核戦争。私はその巻き添えを食らってマダガスカル島ごと焼き払われた。運がいいのか悪いのか、私は最期の改装を終えた直後だった。

 

 全長188m、全幅19.77m、排水量11600t、出力60000hp×2高出力ガスタービン方式、最大速力34.1kt。艦体後部に90mクラスの航空甲板を、右舷側にアングルドデッキ方式で配置。127mm単装速射砲一基、20mmCIWS五基、無人戦闘機12機、無人攻撃機6機、射出用電磁カタパルト、連装対潜短魚雷二基、連装対艦ミサイル二基、多用途VLS8セル二基。これに反応爆薬装甲と中空充填装甲が追加されていたわ。あと超高出力高速通信システムと高度情報処理システム、艦隊データリンクを完備したのよ。ま、一回も使ってないけどね。

 

「ま、そんなところ。どぉ、参考になったかな?」

 

 私の過去を語りきった。どんな反応が返って来るかしら?司令はふらつきながらも、一歩前に出た。私と彼はとても、とても近い。

 

「カゲロウ、君の願いはなんだ。」

 

 いきなりそれ聞いてくる、普通?

 

「私の願い?そうね、今度も無人機使って楽に戦いたいわね。」

 

 割と心の底からそう思うわ。

 

「そうか、本当にそれでいいんだな。」

 

 やだ、そんな真面目な顔するような話じゃないでしょう。たかが兵器の些細な願いよ。

 

「ええ、そうよ。」

 

 私の願いは唯一つ。罪の意識から逃れること。

 

「なら、君を解体するほかないな。」

 

 彼は、なんだか悲しそうな顔で、そう告げた。

 

 どうして?

 

「なんで?無人機が使える私がいれば、無茶な偵察も特攻もできるのよ!」

 

 役に立てるじゃない!

 

「そのトリガーを引き、命令を下すのは、カゲロウ、君だ。」

 

 だから!

 

「今度は私がそれをするのよ!子供たちじゃなくて!命を奪う意味と意思をこめて!」

 

 せめて、死を齎す責任を感じさせてよ!

 

「それが君の願いじゃないのか、カゲロウ。」

 

 そんなこと、ないわ。

 

「そ、そうじゃないのよ。だ、誰もいないじゃない、だから。」

 

 しかたないのよ、そう、しかたないのよ。

 

「逃げるな、カゲロウ。」

 

 逃げてなんてない。

 

「君は、罪を背負いたいんだろう。」

 

「罰を受ける権利を、欲しているんだ。」

 

「それじゃ、ダメなの?」

 

 あの子達は私の無人機で遊んで、成長し、最前線で私の無人機に殺された。

 

「それを認めるならな。」

 

 私の願いは。

 

「そうなのかな。私は、殺すって、思っていいのかな。」

 

 自分の意思で殺す決意。

 

「君には、その権利と、義務がある。」

 

 司令は、私を、やさしく抱きしめてくれた。

 

 

 

 

「ハインツ、マリー、エリーゼ、ジョージ、ザイード、チヨ……、皆死んじゃった。」

 

 私と遊んだ4780人。私が殺した110875人。生き残ったのは6人だけ。でも、その6人は、最後の瞬間に確かに殺した。

 

 6人の最期の表情。

 

「ハインツは機影を見てびっくりしてた。」

 

 最期まで生き残ろうとしてたね。ナパームで焼いたけど。

 

「マリーは気づかなかった。」

 

 クラスター爆弾で護衛の車列ごと吹き飛んだね。

 

「エリーゼは銃を構えて撃った。」

 

 部下を守ろうとしてたね。衝撃波弾頭でなくなっちゃったけど。

 

「ジョージは、見えなかったな。」

 

 バンカーバスターⅢで司令部ごとなくなったから。

 

「ザイードは、家族と一緒だった。」

 

 幸せそうだったけど、部族ごと気化爆弾で消滅したわ。

 

「チヨは、自殺した。」

 

 まさか機影を見ただけで拳銃自殺するなんて。

 

 最高司令部の命令で、建造されて最初で最期の自己判断攻撃だった。

 

「完璧だった。これまでの子供たちのデータを利用して。」

 

 レーダーの死角。警戒部隊の移動ルート。対空砲火の避け方。正確に投弾する方法。全部使った。

 

「皆、殺したのよ。私の意志で。」

 

「最初からそうだったらよかったのに。」

 

「悲しくなんてならなかったのに。」

 

 でも決めた。自分で、自分の意思で殺すわ。

 

「殺すわ、私の意志で。」

 

「子供たちの手を汚させないためにも。」

 

 あんな子達を生み出さないために、この手にかけなくてもすむように。

 

 そう決意した、私は司令から離れる。彼の手は簡単に外れた。

 

 

 

「ようこそ、この世界に。」

 

 そうして司令は私に言った。

 

「そして誕生日おめでとう、カゲロウ。」

 

 今日から新しい生を生きろ、と。

 

 




今日から無人機がもっと好きになったわ。

だって全部私がするのよ。

敵を殺す罪も。

味方を助けられなかった罪も。

全部私が背負えるの。



だったら、私がしたいようにやるわ。



それでいいんでしょ。


ね、司令?

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