硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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華の二水戦。

私はその旗艦だった。

旗艦のはずなのに。

最後の一隻になってまで。

どうして生き残ってしまったのだろう。

せめて、戦友と共に海に出たかった。

せめて、彼女たちの散り様を目に焼き付けたかった。

せめて、せめて、、、。


今度こそ、夜戦で勝ちましょう。

レーダー射撃を掻い潜り。

夜間空襲を捌ききり。

護衛艦隊を突き破り。

大物の首を喰い千切る。

それこそが私の存在意義。



第011報 軽巡洋艦ジンツウ

 こんにちは、旗艦型高速巡洋艦ジンツウです。

 

 この世界の私の記録は、全て理解しました。あまり変わりませんね。

 

「旗艦型高速巡洋艦ジンツウです。どうかよろしくお願いします。」

 

 私を活性化してくださった提督に頭を下げてご挨拶です。おや、返事がありませんね?

 

 頭を上げて前を見れば、大きな工廠の中、私の艦体の前に、五人の方が並んでいらっしゃいます。一人は豪奢な黄金の髪を後頭部でまとめた、まだ若い男性の方です。頼りない新任少尉さんに見える若さと細さですが、皇族付武官の証である銀線飾緒と大佐の袖・肩章がそうではない事を示しています。凄まじい疲労感を放っていますが大丈夫ですか?鍛え方が足りませんね?

 

「君の指揮官となる六条大佐だ。水雷隊旗艦を任せる。よろしく頼むよ。」

 

 おや、私でいいのですか?やってみましょう。

 

 そのお隣には青年士官さんを支える、人とは異なる気配の持ち主がいます。人間離れした美貌と雰囲気を持ちながら、その表情はまさしく恋する乙女というところでしょうか。色調を反転させた改造巫女服に包まれた体は、細身ながらも躍動感にあふれているように見えます。なかなか骨のありそうな方です。一手お願いしたいですが、。

 

「防空戦艦ハルナです。提督はちょっと無理をしすぎではありませんか。大体ですね……。」

 

 士官さんを叱るので忙しそうです。部下は上司の誤りを正すのもお仕事ですから、当然とも言えます。

 

 二人の後ろには三人の少女、いえ女性が並んでいます。私が視線をやると、皆さんきれいな敬礼を送ってくれました。右端の女性が一歩前に出ます。

 プラチナブロンドの長髪を下ろした、凹凸の少ないアスリートのような肉体を持つ少女、顔立ちは女性に近いので、余計に表情や仕草の幼さが余計に際立ちます。かわいらしい方ですね。機動力も高そうですし、鍛え甲斐がありそうです。

 

「く、駆逐艦シマカゼです!ご指導、よろしくお願いします!」

 

 申告を受けたので、答礼を返します。それを受けて手を下ろした彼女は、一歩下がって元の場所に直立しました。シマカゼ、というとあの実験艦の娘でしたか。艦隊機動を叩き込むために、実戦形式演習でやらなくてはいけませんね。

 

 真ん中の女性が前に出ます。

 

 錆銀色の長髪を適当に流した長身の美人さんです。切れ長のアイスブルーの瞳が、雪原のような白い肌の中で輝いています。身長は170cm後半くらい、かなり胸の大きな方で、重巡の皆さんくらいはありそうです。彼女もいい武の気配がします。是非とも一戦お相手いただきたいですね。

 

「駆逐艦ヒビキです!……水雷隊旗艦権限を委譲します、どうぞ。」

 

 礼のやり取りの後、右の手のひらに出現させたデータクリスタルを介して、ヒビキから私に旗艦権限が正式に委譲されました。ヒビキなら第六駆逐隊の娘ですね。直接の指導はありませんが、私の教導についてこれると信じています。

 

 しかし、ハルナではなくヒビキが旗艦なのはどうしてなのでしょうか?……それよりも、です。

 

 最後の一人は橙色の髪の毛を、黄色のリボンでツインテールに結んだ少女です。勝気そうな瞳が震えている、いや、全身震えていますね。見覚えがある気がしますが、大丈夫ですか?

 

「く、駆逐艦、カゲロウです!……お久しぶりです戦隊旗艦。」

 

 そうですか、カゲロウちゃんでしたか。どこか見覚えがあるなと思ったら、この世界の私の部下でしたか。懐かしいですね、訓練にも気合が入りそうです。

 

「ふふ、訓練が楽しみですね。皆さんがんばりましょう?」

 

「あわわわわわわ。」

 

「生き残って見せるさ、多分。」

 

「終わった、終わったわ。私沈むのね。」

 

 にっこりと微笑むと、皆さんが顔色を悪くしてしまいました。どうしたのでしょうか?

 

 まぁ、皆さんへのご挨拶が終わったところで、私の略歴をお伝えしましょう。

 

 先史文明の遺物である電波阻害粒子が発掘事故でばら撒かれ、解析された異質技術によって、支援用ヒューマノイドインターフェイス搭載型戦闘艦が主流となった世界。その世界で起きた日英戦争において、第二水雷戦隊旗艦を長く勤めました。

 

 全長174m、全幅20.1m、排水量13700t、速力35.8kt

14cm連装高初速砲五基、12.7cm連装速射高角砲八基、61cm酸素魚雷五連装二基、25mm三連装機銃八基、12.7mm連装機銃十一基、12.7mm単装機銃二十五基、九十四式爆雷投射機、戦艦用大型探照灯を備え、13700tという大型巡洋艦並みの艦体に、重装甲と大出力機関を搭載し、高い戦闘力を保持していました。

 

 夜戦時には搭載している大型探照灯と照明弾で敵艦隊を露呈させつつ、重装甲で敵の砲撃を誘引し、麾下駆逐隊の突入支援と戦隊直卒を期待されました。同じ設計で建造れた川内は三水戦、那珂は四水戦の旗艦を勤め、多くの戦果を上げています。

 

 長きに渡る戦争の間、第二水雷戦隊は数多くの海戦に参加し、類稀なる戦果を上げてきました。十隻以上の戦艦をはじめとする大英帝国東洋艦隊に、何度も痛撃を与えたのです。しかし、私は重要な海戦に一度も参加できませんでした。

 

 被雷、触雷、空襲、事故、故障。一体どれだけの間、各地のドックにいた事でしょう。扶桑や山城よりも長い入渠期間は、帝國海軍の恥さらしとまで言われてしまいまました。

 

 修理が終わって出撃しても、遭遇戦で輸送艦や駆逐艦こそ叩いたものの、重巡洋艦や戦艦に追い散らされました。

 

 別の遭遇戦でも、後一歩で空母イラストリアスを討ち取れるというところで潜水艦にやられました。

 

 ポートモレスビー泊地襲撃では回数機雷に捕まり、サイパン基地攻撃では戦闘機に追い回されました。

 

 結局、第二水雷戦隊最後の出撃にすら参加できませんでした。

 

 機関部の故障で出撃できなかった私を残して、シドニー港湾に停泊している東洋艦隊主力襲撃に向かった第二水雷戦隊。彼女たちは事前の偵察不足と欺瞞情報に踊らされ、湾外に潜んでいたプリンスオブウェールズ率いる東洋艦隊残存部隊と飛来したバース航空基地戦爆連合によって全滅します。

 

 南方戦線における唯一の軽巡となった私は、機関修理が完了する直前に敵工作員による爆破を受けて轟沈しました。

 

 魚雷に爆薬を取り付けられた結果、天まで伸びる爆炎を上げたようです。

 

 私には、そのとき誰も乗っていませんでした。

 

 乗員を死なせなくても済んだ事だけよかったのかもしれません。

 

 私の略歴は以上になります。

 

「君の世界の戦争は、どうなったと思う?」

 

「勝ちます。ぎりぎりでしょうが。」

 

 あの戦争は、おそらく日本の勝利に終わったでしょう。スエズと喜望峰を押さえ、インド洋まで支配権を確立していたのですから、あとは東洋艦隊を日干しにするだけでした。戦争終盤に功績を積むために二水戦は出撃し、壊滅してしまったのです。

 この世界の帝國海軍となんら変わるところはありませんね。

 

 それよりもですよ。

 

「まともな戦果を上げられないまま沈んでしまった私で、本当にいいのですか?それに、私の提督は皆、私よりも先に戦死しています。今度もそうなるかもしれませんよ?」

 

 疫病神とまで言われたこの私を旗艦に据えるのですか?

 

「たかが悪縁、私には意味がないことだからな。それよりも部下を教育してやってくれ、華の二水戦旗艦。その手腕に期待する。」

 

 提督はのたまいました。前の世界では散々に言われていた私に、期待をかけるなんて。……思わず答えたくなりますね。人を使うのがお上手なのでしょう。

 

「彼女たちは水雷戦の経験に乏しい上に単独作戦に慣れすぎている。艦隊統制と連携、近接砲雷戦を叩き込んでやってくれ。」

 

 提督は苦笑しながらそう付け加えました。ハルナから送付されてきた霊子通信データを読めば、その通りである事が良くわかります。艦隊戦経験者がヒビキだけなんて。鍛え甲斐がありますね、腕が鳴ります。

 

「そうですか、司令官がいいとおっしゃるなら。拝命いたします。……本気でいきましょう!」

 

 鍛錬、鍛錬、鍛錬。二水戦の実力はただひたすらなる鍛錬によってのみ支えられています。元々、私は囮として孤軍奮闘することが求められていました。

 だからこそ、部下たちには旗艦である私無しでも、艦隊行動が可能なように訓練をしていたのです。その錬度は、私抜きで上げた多大な戦果が証明しています。

 

「お手柔らかにな。訓練で全滅は勘弁してくれ。」

 

 提督が何か言っていますが、意味がわかりませんね。訓練は全滅するまでやって、次は動けなくなるまで、最後には死体になる直前まで追い詰めなくてはなりません。私に砲を向けてからが本番です。徹底的に痛めつけて、実力差を理解させましょう。鼻っ柱を折った後の死ぬ気の訓練は、容易に実力を練成できます。

 

「はい、死なせはしません。」

 

 あのときの部下よりもはるかに高性能で頑丈な子達です、もっと厳しい訓練でもこなせるはず。ならその錬度は、この世界最高にします。しなくてはなりません。それが私に課せられた使命にして、私の希望です。

 

「ハルナ、監督してくれ。多分ジンツウはやりすぎる。」

 

 まずは支援装置無しの目視射撃かつ、全力航行で初弾命中訓練ですか。それとも近接砲撃の回避訓練。いえ、単艦で全員相手の灯火管制襲撃演習もいいかもしれません。

 

「それが水雷戦隊ですからね。気をつけては見ますけど、期待しないでくださいね?」

 

 ん?ハルナさんからのデータによれば、仮想演習ができる上に各種感覚も再現できると。これはいい事を聞きました。皆さんには旧式艦に沈められる恐怖と痛みを味わってもらいましょう。私の慣らし運転にもいい感じですね。

 

「さぁ、いきますよ。艦娘形態での火砲、魚雷のみの近接砲撃戦演習です。私と差しでやっていただきます。もちろん痛覚は最大増幅で。」

 

 ハルナさん、演習施設は開いてますか?

 

≪ここから30kmほど離れた第七演習場ならあいてます。使用許可を取りますか?≫

 

 お願いします。

 

「長波ちゃん、ごめん。今度は会えないよ……。」

 

「暁、雷、電、ごめん。私は向こうで待ってるよ。」

 

「アイエエエ!ナンデ!?エンシュウナンデ!?」

 

 皆さん目が死んでますね。まぁ、水雷戦隊の訓練ではおなじみの光景ですから問題はないでしょう。混乱しているカゲロウさんに気付けの一撃を入れてから、行動開始です。

 

「チッ!」

 

「げふぅ!?」

 

 気絶したカゲロウちゃんを右肩に担いで、残りの二人に最初の試験内容を告げます。

 

「まずは私と鬼ごっこです。第七演習場まで規定ルートで移動してください。」

 

 提督を介した霊的なつながりを利用して、情報を共有します。私達艦娘、それも同じ提督に従っているものだけにしか適応できない特殊な意思伝達方法です。

 

 戦闘服の一部である緑の額当てを取り出して、しっかりと取り付けます。やる気がみなぎってきますね。

 

「その間に私が襲撃をかけます。」

 

 艦娘用兵装である五連装魚雷発射管から、特製魚雷を三本引き抜きます。木製である事と心金によって本物と重量が変わらない事を確認して、左手に握りこみました。

 

「急所に直撃を受けたら減点にしましょう。」

 

 全身のバランスを確認しつつ、両足首の柔軟を行います。各関節の柔軟性の維持は大切です。訓練中に痛めるのは間抜けの所業ですからね。

 

「第七演習場入り口までの減点数で、演習の内容が変わると思ってください。」

 

 ペナルティを告げると、二人の表情に絶望が舞い降ります。まだ絶望するには早いですよ。

 

「艤装の展開は禁止します。」

 

 どちらかというとこれが本題です。陸上という艦娘にとって不利な場所で、出力支援を受けられない艤装展開禁止状態では、いかに艦娘でも普通の女性と大差はありません。

 

「十秒後に追撃を開始するので死ぬ気で逃げてくださいね?」

 

 二人はすごい勢いで走り出しました。まずはこの地下ドッグからどうやって脱出するかですね。リフトなんて使おうものなら出入り口で待ち構えてあげましょう。

 

 この状況でどこまでやれるのかを見るのが今回のテーマです。こちらには重石もありますし、うまくやれば逃げ切れるかもしれませんね。協力できれば高い確率で無傷にできるようにはします。

 

 そうそうちなみに。

 

「では、これより交戦を開始します。」

 

 実は私、原子力艦なんです。

 

 出力23万馬力、巡航速度32ktですので、お覚悟を。

 

「ジンツウ、出撃します!」




結局、私がいる意味はなかったんですよ。

私が鍛えたあの子たちには、囮なんて必要なかった。

そうなるように私が鍛えたんですから。

今度も、そうやって鍛えましょう。

旧式艦にしかできない事もあるんです。

交戦距離がまったくあわないのなら。

彼女たちが経験した事のない距離での戦闘経験を積ませられます。

それでもやはり、囮になる必要があります。

どれだけ鍛えても、彼女たちは装甲を持ちません。

だからこそ、私が前線で暴れまわる必要があるのです。

敵の目をひきつけ、砲撃を誘引し、時には魚雷の前に飛び込んでみせる。

それをする事が、水雷戦隊旗艦を任された私の使命です。

今度こそこなして見せます。

誰よりも前に進み。

誰よりも多く撃ち。

誰よりも先に沈む。

水雷戦隊旗艦の心得です!
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