硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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第015報 椿四号作戦-遭遇-

「第三次偵察隊射出開始!」

 

 20mm機銃二丁、12.7mm機銃四丁、増槽二基を翼下に装備した艦載型無人攻撃機MQ-27ハンターが艦体後部の電磁カタパルトを滑っていく。

 

 静穏性を追求したターボプロップエンジンの穏やかな低音が波音にまぎれて聞こえてくるようだ。実際には聞こえないけど。

 

 挨拶が遅れたわね、こんにちはカゲロウよ。

 

 今日はスコールの後、なんとも蒸暑い太平洋を本土方面に向けて航行中。何でも、本土のお間抜けさんが返り討ちにあった姫級をとっ捕まえろってお達しなんだってさ。

 

「方位3-2-3に進路あわせ……、よし。」

 

 それに駆り出された私達は、なーんにも見えない太平洋上で警戒航行の真っ最中というわけ。ロケット射出できる無人戦闘機で偵察したほうが負担が小さいけど、それをさせてくれないのが私の司令と言う人らしい。使い捨てになるからしないんだろうけどさ。

 

 でも正直、ハルナのレーダーで探知するだけで十分な気がするんだけどね。姫級ともなれば明らかなノイズがレーダー上に現れるって言うし。艦娘相手に100km近い探知距離を誇る高性能だし。そろそろ見えるはず何だけど、影も形も無いなんて。

 

〈しれぇ?おーい、しれぇってばぁ?〉

 

《どうした、カゲロウ。トラブルか?》

 

 艦隊旗艦であるハルナに量子通信を飛ばすと、私の目の前に仮想モニターがポップアップし、司令とハルナが表示された。ハルナの第7世代統合情報処理システムと、小型量子通信機器の組み合わせによってなされる短距離通信だ。相手の顔を見ながら、映像情報を共有できる利点がある。

 

 ハルナに完全に依存したシステムだから、うちの戦隊以外では運用できないけれども。

 

〈いんや、特に何にも。今三機目を飛ばしたところだから、それを伝えよっかなーって。〉

 

《そうか、ご苦労。今のところ異常は無いか?》

 

 飛行中の無人機達の視界にアクセスしてみるが、昨日から代わり映えしない情景が映っているだけだ。雲の位置と太陽の角度しか変わっていない。海の上は今日も平和だ。あ、イルカが跳ねた。

 

〈今のところ異常ははないかな?まぁ、シマカゼが先行しすぎだとは思うけど。〉

 

 隊列は輪形陣。偵察艦としてジンツウが20km先行。中央にあきつ丸を旗艦とした陸軍第221歩兵連隊輸送船団十隻が三列縦隊を形成。先頭にハルナ、右舷側がヒビキ、後衛が私、左舷側がシマカゼの配置だ。

 

 そのシマカゼが所定の配置よりも3km位先行してしまっている。戦隊の対潜網と対魚雷防御システムの有効射程内に艦隊を収めているとは言え、あまりよろしくは無いんじゃないだろうか。

 

《なに?ハルナ、シマカゼの位置は?》

 

《レーダーによれば、所定より3.4kmほど先行しています。》

 

 司令がハルナに問いかけると、ハルナが戦術データリンクを介して、一番機のカメラ映像とハルナの3次元レーダーを司令の前に表示する。本隊や所定の位置との距離を数値で表示しているから見やすいな。 

 

《シマカゼ!減速して隊列にもどれ!》

 

《えー!?みんなおっそいんだもん!》

 

 シマカゼは文句を言いながら右へ左へ船体を振り回している。また燃料の無駄遣いして。シマカゼのバイタルデータが追加で表示され、刻一刻と変化しているのが見て取れる。

 

《シマカゼ、ソナーにノイズが入るから無駄な機動はやめてくれ!》

 

 割り込みを掛ける様に、ヒビキのウィンドウが表示される。せっかくのきれいな顔が怒りで怖くなっている。大分いらいらしているみたいだけど、美人が怒ると迫力あるわね。

 

《えー?ヒビキちゃんてば、機動戦中に対潜走査出来ませんって泣き言言っちゃうの?》

 

 なんでシマカゼちゃんは挑発するかな。それも人のことおちょくる口調で。

 

《……はん!やってやるさ!出来ないわけ無いだろ!》

 

《じゃあ黙ってやってればいいじゃん!べーっ、だ!》

 

 シマカゼの安い挑発にあっさり乗って、あっという間にモニターから消えてしまった。見た目は大人なのに、精神面はまだまだお子様って所かしら。

 

《ほんとにおっそーい!もっとはやく!》

 

 確かに艦隊速度は22.5ktと遅い。私達の経済速度以下である以上、シマカゼからすればとんでもなく遅く感じるだろう。けど、鈍足の機動艇を含んでいると考えればかなりの速度だ。陸軍さんたちもがんばってくれているんだし、あんまり文句を言っていると、

 

《……シマカゼさん?訓練が足りませんでしたね、すみません。》

 

《ご、ごめんなさーい!?》

 

 言わんこっちゃ無い。太陽のような笑みを浮かべたジンツウさんがウィンドウに表示された。ジンツウさんの”ごめんなさい”は怖いんだから、やめてよね。

 

《いいですか、シマカゼさん。いつも言っているように……。》

 はぁ、ジンツウさんのお小言が始まっちゃった。しでかした本人はともかく、通信で一緒に聞かされる側にも身もなりなさいっての。

 

《そちらの艦隊は大分にぎやかだな、六条。》

 

《お恥ずかしい限りです、富永大佐。》

 

 陸軍部隊の司令官、富永大佐が司令をからかい始めた。司令からすれば、部下の取りまとめも出来ていないと見られるのが恥ずかしいんでしょうね。大分声が小さいわ。

 

《申し訳ありません、艦隊運動を把握できていなかったハルナが悪いんです。》

 

 ハルナさんが大分落ち込んでいる。目がうるうるしちゃってるし、スカートの端をぎゅって握ってるところも女子力高いわ。見た目はとっても美人なのに、こういうかわいらしいところが、男心をくすぐるのよね、きっと。

 

《いや、ハルナにまかせっきりにしていた私が悪いんだ、気に病む必要は無い。》

 

《提督……。》

 

 司令、大分気障な台詞を吐くじゃない。あ、頭ぽんぽんなんて、いいなぁ。ハルナさんなんか顔がとろけてるじゃない。

 

《うらやましい限りでありますな。我等が将校殿は全責任を自分に吹っかけてくるでありますから。》

 

 富永大佐のウィンドウが拡大され、揚陸艦あきつ丸さんが表示された。真っ白な肌とつややかな黒髪、飾り気の無い灰色の軍装を、二つの山が押し、押し上げてる。大丈夫、私も駆逐艦では大きいほう。大丈夫、心で負けちゃダメよ。

 

《あのな、重要書類珈琲漬けにしたのも、76式の主砲で隔壁ぶち破ったのも、二式大艇おしゃかにしたのも、全部お前の大ポカだろうが!》

 

《将官ぶん殴って営倉入りしたのはどいつでありますか!旅団の金で山ほど嗜好品買ってきたときは卒倒するかと思ったであります!》

 

《旅団員にばら撒くつもりで買ってきたんだから問題ないだろ!慰問費に着けたろうが。だいたい届いたそばから勝手に食ってたお前が言えた義理か!》

 

《ぐぬぬ!?》

 

《はい、お二方ともそこまでにして下さい。戦闘前に軍医殿の世話になるのはやめましょう。あきつ丸殿もそこまでに。》

 

《はいはい、そこまでにしましょうや大将。》

 

《あきつ丸さんの言うとおりでしょうに。》

 

《ええい、離せ貴様ら。今日こそあの駄肉に物の道理というものをだな!》

 

《また、また駄肉といったでありますか!篠原副長!後生ですから放すであります!今日こそあの駄目人間に正義の鉄槌をっ!》

 

《艤装付けて殴ったらケチャップになるのでやめましょう。》

 

 陸軍の二人は掴み合いを始めたところで、副官さん達が二人を引き剥がしたみたい。向こうは向こうで大変みたいね。でも副官さんすごいわ、艤装展開した艦娘を生身で押さえつけるなんて。

 

《それにしても、この通信システムを課していただけた事を感謝します。これがあればだいぶ死人を減らせるでしょう。》

 

 副官の篠原中佐が頭を下げ、謝意を示している。見た目は完全にゴリラっぽいのに、人当たりが良くて頭もいいみたい。人間見た目じゃないわね。

 

《友軍の生存が我々の勝利に結びつくのですから、最大限の供与を行うのが当然と考えておりますので。》

 

《ははは、陸軍のお偉方に聞かせてやりたいですな。》

 

 司令と篠原中佐は和やかに会話している。二人とも穏やかな性格だし、たぶん気が合うのね。

 

《ご歓談中に申し訳ないんですが、六条大佐。》

 

《どうしました、ええと。》

 

 そこにさっきまで富永大佐を押さえ込んでいた陸軍士官が移りこんでくる。結構精悍な顔立ちだけど、背は低目みたい。牙しりとした体つきで、頼りがいはありそうね。

 

《申し遅れました。戦車大隊長の鴨井中佐です。》

 

《なにか?》

 

《その、そちらのお嬢さんは陽炎型一番艦でよろしいのですよね?私が知っている陽炎とだいぶ違うので、お聞きしたいと思いまして。》

 

 彼は私のに疑問をぶつけてくる。そういえば陸軍さんへの自己紹介はまだしてなかったかな?

 

〈こんにちは、カゲロウよ。鴨居中佐の言うとおり、普通の陽炎とはだいぶ違うわね。〉

 

〈艦載機運用能力を備えた、航空駆逐艦カゲロウよ。普通の陽炎型の制服に、右肩に連装ミサイルランチャー、左肩に甲板盾と隠蔽型の連装短魚雷、左手にストック付単装速射砲、左腰に近接戦用のタングステンニードルが五本差してあるわ。〉

 

 艦体の異常な構造は見ればすぐにわかる。重航空巡洋艦と似たような構造だし。艦娘としての装備もだいぶ違う。短距離ミサイルと長射程の狙撃速射砲、無人機で艦隊後方からの間接射撃支援を任務とする機動後衛のポジションを任せられている。

 

《質問に回答していただき感謝します。他の陽炎さんに以前の任地で世話になったもので、気になりまして。》

 

 鴨居中佐は照れくさそうに笑った。他の陽炎がね。ま、同型艦の中でも特に面倒見のいいタイプだとは思うし、性別、年齢さも気にせずに世話を焼くわよね、私なら。

 

《退役したら嫁にもらってください、だっけか。慕われてるなぁ、おい。……このロリコン野郎。》

 

《なんで隊長がそれを!?》

 

 富永大佐がぽつりとつぶやいた台詞に中佐が大きく反応する。もっと顔が赤くなって、ってまさか。

 

《連隊の休暇組みが諜報活動したからに決まってんだろうが。にしてもストーキングしてた不知火ちゃんとのガチは肝が冷えた。》

 

《一時的とは言え連隊長押されてましたしね。》

 

《艤装無しだからかろうじて勝てただけだ。二度と遣りたくない。》

 

 まだ見ぬどこかの私、だいぶ情熱的じゃない。まだ私には言えない。

 

 裏表無いわこの人。というより、その不知火は何者なのよ。連隊員相手に百人組み手して圧勝できる使い手相手に、肝を冷やさせるって。

 

《あんたが元凶か!》

 

《いや、あとを付けようって言い出したのはあいつのほうだ。》

 

《連隊長!?し、仕方ないであります。浮いた噂の一つも無い鴨居殿が浮ついた表情で休暇申請出してありますよ?》

 

 あきつ丸さんはソッコーで売られたわね。篠原副長に両脇を抱えられながら、あわあわと弁解している。でも言い出したのが彼女である以上主犯側?

 

 そんなシチュエーションだったら私でも気になるわね。というより司令が同じことしたら、間違いなくうちの戦隊はデバガメするわ。

 

《まぁ、私でも気になりましたからね。》

 

《篠原副長まで!……神は死んだ!?》

 

 ゴシップには興味なさそうな篠原副長の一言に、鴨居少佐はひざから崩れ落ちて画面から消えた。意外と言えば意外な感じ。篠原副長でも興味がわくといえば、大ニュースなんでしょうね、連隊内では。

 

《ご歓談中申し訳ありません。先行艦ジンツウより報告を。》

 

 そんな話をしている最中に、ジンツウさんの声と共に新しいウィンドウがポップアップしてきた。

 声色にわずかな緊張があった。途端にみなの表情が引き締まる。陸軍組みは誰だかわからなくなるくらいに怜悧な表情だ。

 

《当艦前方57kmに霊子雲出現!現在密度上昇中!敵艦隊の湧出です!》

 

 ジンツウさんがいるはずのはるか前方に、急速に広がっていく禍々しい黒雲。深海棲艦の放つ瘴気が一定以上まで集まったときに形成される、異常な雲だった。あの下にはかなりの数の敵がいるのだろう。そうでなくては形成されないのだから。

 

《全艦隊に告ぐ。》

 

 司令が声を上げる。皆が緊張を表情に浮かべていた。誰もが彼の言葉を待つ。

 

《敵艦隊の出現を受け、本艦隊はこれより遭遇戦に移る。……何、負けはしない。》

 

 彼は気負いもないように言葉を放った。この程度の敵に負けるわけが無いとでも言うように。私は思わず手の汗をスカートでぬぐう。緊張しているとでも言うのか。思わず苦笑が浮かんでしまった。

 

《各員、第一種戦闘配置に着け!》

 

 気力は十分、艦隊のみんなの表情も、無駄な気負いはないみたい。一人だけ盛り上がっていた自分が一寸恥ずかしいわね。

 

《敵艦隊を殲滅するぞ!》

 

《《《《〈了解!〉》》》》

 

 司令の力強い命令に、私達は一糸乱れぬ敬礼と返答で答えた。

 

 やる気は十分。

 

 弾もある。

 

 後は徹底的に叩いて、司令に勝利をささげるだけ。

 

 ただの勝利ではなく、かすり傷一つ無い、完全な勝利を。

 

 さぁ、はじめましょう。

 

 私達の海戦を!

 




ギャグがうまく書けない。楽しんでいただけると幸いです。

ただし、戦闘が書けるわけでもない。(白目)

対魚雷防御システム

 ヒビキの装備する、原潜に対する聴音性能を持った高性能聴音システムと各艦の有する水中弾を組み合わせた迎撃システム。
 水中を進行する魚雷推進音を捉え、未来予測地点に三式水中弾のような衝撃波弾を打ち込むことでバブルパルスによる爆圧障壁を形成。突入した魚雷を圧壊、誘爆させることで迎撃する。
 ハルナによるデータリンクと各艦の長射程、高収束砲が組み合わさる事で半径7kmを有効防衛圏としている。

深海棲艦とレーダー

 通常のレーダーには、深海棲艦は映らない。正確には大きすぎるノイズとして写りこみ、艦種や数を特定する事は極めて困難になる。電波誘導装置では射撃支援に使う事ができない最たる理由。艦娘などの持つレーダーには、ある程度性格に映りこむが、その精度はいまいちな上に、故障しやすいことでも知られている。
 
霊子反応

 艦娘が固有にもつ共通装備であり、深海棲艦の出現をかなり正確に把握することができる機能。霊感の存在する人間にも深海棲艦の放つ瘴気を感じ取れる者がいる事から、深海棲艦は亡霊の類であると考えられている。霊子反応とは深海棲艦の放つ瘴気を観測するに当たって付けられた仮称のようなもの。正式名は瘴気と呼ばれるものと同一だが、学術的には霊子反応と呼ばれる。
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