硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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お久しぶりです。次の投稿は何時になることやら。


第016報 椿四号作戦 -殲滅-

 連中がなぜ深海棲艦と呼ばれるのか、その答えがこれだ。ヤツラはまるで深海から湧き出てきたかのように出現する事がある。いわゆる待ち伏せなのか、沢山の人間に反応して突然出現するのか。理由はわかっていないが二つ判っている事がある。一つは深海棲艦にとっての脅威を排除するために送り込まれる事。

 

《敵艦隊を視認!エリート級空母多数!敵は機動部隊編成一個艦隊と認む!敵艦載機発艦開始!》

 

 そして、その錬度と数は優勢を担保しうる事だ。しかし、ハルナさんのレーダーで捉えられないなんて、やっぱり湧出は特別な現象ってことなのかしら。あれだけの瘴気を放つ深海棲艦が放つノイズは、この距離でもはっきりわかるくらいなのに。ついさっきまでそんな感覚はまったく無かった。まるで一瞬前まで存在していなかったかのように。

 

《あきつ丸!制空隊を挙げろ。出し惜しみは無しだ!》

 

《了解、紫電改四の性能を見せ付けるでありますよ!》

 

 あきつ丸さんの敬礼と同時に、甲板周辺があわただしく動き出した。待機中だった紫電改四がリフトアップされてくる。これならかなり早く戦線に合流してくれそうだ。

 

《真壁、陸戦要員を対空戦に使え、どうせ沈んだらみんな死ぬんだ。弾の一発でも当ててから死ねといっておけ!》

 

《総員、戦闘配置に着け!手すきの要員は甲板で対空戦用意!第一種戦闘装備だ!急げ急げ急げ!》

 

 あきつ丸を始めとした全ての機動艇の甲板で、陸軍兵士たちが慌しく動き出した。次々に倍力装甲服を着込み、13mm小銃や20mm分隊支援火器を持ち出し、土嚢を積んだ仮設対空陣地を構築していく。あっという間に、戦艦の舷側並みの対空火力が出揃っていく。

 

《鴨居、対空車両を甲板に上げろ!牽制くらいにはなるだろ、撃ちまくれ!》

 

《聞いたな野郎共!対空車両を甲板に上げろ!分隊支援火器もかき集めて対空戦闘用意!》

 

 いくつかの揚陸機動艇では甲板に20mm四連装対空車両や37mm三連装固定機関砲が競り上がってきて、ハリネズミのような対空火力が供給された。陸軍艦艇だけでも200門はくだらない対空兵装が空に睨みを利かせている。近接個艦防空だけなら十分な火力といえるでしょうね。あくまでもこの時代としてはだけど。

 

《篠原、船団に対空戦闘を用意させろ!時間が無いぞ!》

 

《了解です。全船団に告ぐ、対空戦闘用意。前方より敵大編隊接近。迎撃用意!》

 

 機動艇の艦載兵装にも動力が供給され、隠蔽されていた八十八式7.5cm連装高射砲改が次々に起動していく。陸軍の主力対空砲として運用されるこの砲は駐退機の耐久性の低さを改良した結果、重量と性能のバランスがいい傑作砲として知られるようになったみたい。水平射撃に対する適正も向上して、艦載砲としての性能は更に向上したといえるそうよ。ま、海軍の高角砲には及びも着かないけれど。

 

《全艦、ハルナに戦術リンク。ジンツウは後退し本艦隊に合流せよ。》

 

《了解、反転を開始。合流します。》

 

 司令の指示を聞いたジンツウさんが急速反転し、艦隊への合流を急いでいるのがレーダー上の光点からわかった。シマカゼも減速して艦隊との足並みをそろえようとしてる。

 

《全艦、対空戦闘モードに移行。火器管制をハルナに委譲せよ。》

 

《了解、ヒビキ、火器管制をハルナに委譲する。》

 

《火器管制は任せたよ!》

 

《火器管制を委譲します。》

 

〈よろしく頼むわね!〉

 

 続いての艦隊防空システムの構築に向けて、司令が火器管制権の回収を指示してきた。私の体を隅々まで誰かに動かされる感覚はなかなかなれるものではないけれども、いい加減慣れなきゃダメよね。

 

《I have Control!擬似未来予測起動。全艦の兵装データをリンク。敵脅威判定を終了、脅威度B+。第三世代兵装級解放、第三次大戦型アルマゲドンモードを起動。》

 

 私達からの火器管制権の移譲を受けたハルナが、第七世代統合情報処理システムの機能を一部解放し、対艦ミサイル飽和攻撃殲滅モードを起動した。

 

 これは規定レベルの全兵装を使用し、艦隊を総合的に守り抜くためのシステムで、イージスシステムの発展系に位置する技術だ。衛星の替わりに各艦から齎される光学、電波情報を分析する事で正確な迎撃と目標選択を可能にする。もちろん、電子、光学欺瞞が施されていれば迎撃に失敗する事もありうるけど、そうはないでしょ。

 

 私の無人機と五隻のレーダー、光学観測情報が多角的に処理され、ウィンドウ上に三次元表示された。目標を選択すれば予想進路と高度が表示される。このデータと、倍力服の射撃弾道支援プログラムを組み合わせれば、人力でも効果的な弾幕が張れるでしょうね。

 

《……これより、本艦隊は対機動艦隊殲滅体制に移行します。総員戦闘配置。》

 

 ハルナさんの表情が抜け落ちる。声質も感情を感じさせない硬質なものに変化した。いつものハルナさんとは違ったそれ。

 

 一度戦場にたてば、作戦の遂行のために最も効率の良い手段を、必要な犠牲を持って成し遂げる非情の人となる。普段の思考や行動からは読み取れない、友軍の犠牲を許容できる冷徹な機械のような思考の持ち主。

 

 たとえそれが偽りの姿だったとしても、軍人としての判断を下し、実行できるハルナさんはやはり艦娘なのだ。

 

 私達艦娘にも感情はある。友軍が沈められれば憤りも、悲しみも感じる。でもそれで戦えなくなるわけじゃない。私だって最後の一瞬まで砲火を交え続けるだろう。

 

《戦隊、全兵装起動。》

 

 ぴりっとした感覚と共に、全ての兵装が起動する。無人機部隊はすでに甲板上に並び始めている。後一分もしないうちに最初の機体が飛び立つだろう。

 

 VLS内の対空ミサイルのシーカーが冷却され始めた。これは熱源探知式の終末誘導装置を採用している。電波式では捉えられない事がある深海棲艦艦載機を確実に撃墜できる利点を持った、旧型のミサイルだ。当時、速度と射程は低水準であるが、高い旋回性を持つ。今この世界で見ればオーバースペックもいいところだけど。

 

 最終改装時に、大型巡航ミサイルを下ろしたのが功を奏したのかもしれないわね。あれだとこの世界の交戦距離じゃ近すぎてまともに性能を発揮できないで終わっちゃうし。

 

《敵本隊、トラックナンバーWS-0001から0061まで割り振り。重要目標0001-0009に重SSM、警戒目標0010-0017に軽SSM。》

 

 私の医師から離れ、艦首連装ランチャーに取り付けられた対艦ミサイルが前方に指向し、ハルナがレーダー・画像認証システムを連動させて目標を捕らえる。

 

《各SSM……斉射。》

 

 ハルナによって割り振られた目標情報をメモリに刻んだ、二発の対艦ミサイルを発射した。ランチャーから白煙を上げて打ち上がるミサイルは他の三隻から伸びる何十発もの同僚と合流し、はるかかなたに向かっていく。彼らは私達の管理すら離れ、自己誘導で持って敵に突撃していくのだ。

 

《敵艦載機Type-オレンジ、24機が編隊を編成完了、こちらに進路を取った。敵機の脅威認定距離まで、13分。敵戦力における脅威を排除します。》

 

 ジンツウさんの光学情報を介して、敵艦隊上空に無数の敵機が遊弋しているのが見える。そのうちの24機が編隊を組み、こちらに向かってきているのを確認した。

 

《敵航空戦力の迎撃を開始、ハルナより対空ミサイル24発斉射。》

 

 前方のハルナから凄まじい勢いで24発のミサイルが発射された。なんとも味気ない光景だが、その実、発揮されている火力は恐るべきものになる。中距離迎撃用の高機動艦対空ミサイルは破片の有効距離と飛散速度に重点を置いた設計になっており、大陸間弾道弾迎撃の最終アプローチにも使用されるらしい。さらに超音速で飛行するにもかかわらず、その旋回半径はレシプロ機をはるかに下回るのだという、当たらないはずがない。

 

《ハルナ、対空ミサイルの使用を一時凍結。弾薬保持に努めよ。》

 

《了解。これより砲兵装による対空戦に移行します。》

 

 司令の指示を受けたハルナが各艦のSAMをロックする。即時発射体制は維持しているが、射撃権限を凍結されている状態だ。しかし危険が迫ればすぐに解除して迎撃できる状態でもある。

 

 同時に、ハルナの主砲がわずかに駆動し、長距離対空戦に備える。三式弾による拡散砲撃でどこまで被害を出せるかに、その後の戦闘の難易度がかかってくるわね。

 

 っと、敵の偵察に向かわせていた無人攻撃機のカメラが、SSMの襲撃を捉えるわね。

 

 シースキミング航行で亜音速飛行していたSSMを敵艦が捉えたみたい。あわてた様子で対空射撃を始めたけど当たる様子が無いわね。

 

《敵迎撃開始、乱数回避。……カテゴリー1、ホップアップ。》

 

 火砲の嵐を右へ左へすり抜けていたそれらの内、ストームダイバーを始めとした一部が、海面を蹴りつけるような機動で急速に上昇していく。

 

 接近時に急速上昇する事で敵の迎撃を回避。数千mという位置エネルギーを稼ぎつつ、目標の脆弱部に超音速で飛び込むための挙動だ。

 

 残りのSSMも終末誘導加速に移行し、超超音速へと突入する。ショックコーンで海を切り裂きながら、彼らは敵艦隊に飛び込んでいく。

 

 防空射撃をばら撒く護衛戦隊をすり抜け、目指すは輪形陣奥に鎮座する敵機動部隊主力。

 

 あわてて回避機動を取る空母たちと、立ちふさがろうとする戦艦や重巡たち。しかし、SSMの速度は通常の艦載機相手なら間に合ったであろう護衛運動を完遂させなかった。

 

 接近するにつれて密度を増す火線。アメリカ海軍式の防空装備に身を固めた深海棲艦の放つ防空火力は、同数の艦娘が発揮しうる火力の数倍に値するだろう。

 

 何発かは撃墜された。まぐれ当たりや、海水面に立った水柱に突っ込んだ奴だ。しかし、鋼の猟犬たちは仲間達の喪失に怯むことなく獲物ののど笛に噛み付いた。

 

 先陣を切ったのはヒビキの放った四発の超音速重SSM、P-1100イズムルートだ。

 

 エメラルドの名を頂く、核弾頭すら搭載可能な重ミサイル巡洋艦用の特殊SSM。

 

 かの世界では米空母機動部隊を覆滅せんと発明された最速最長の槍である。 

 

 敵本隊最大の艦にしてフラッグシップ級戦艦である、サウスダコダ級の艦橋下部へと飛び込んだ一発は、弾頭部の自己鍛造型重金属弾殻を爆轟波集中によって鍛造。重量にして1kg近い重金属は鋭角な針となって鋼の装甲を突き破った。

 

 機関室上面まで進入したところで、二発目がその穴に飛び込んだ。

 突入と同時に、1.5tの爆薬が起爆シークエンスに従い起爆される。全力運転中だった機関と燃料を巻き添えに紅蓮の業火と衝撃波が生み出された。

 

 半閉鎖下にあった機関部での爆発は、爆圧と炎熱で機関部を膨張させ、齎された熱変形によって竜骨と周辺外板装甲が開放破壊される。

 

 着弾から一瞬で煙突部が黒煙と共に吹き飛び、わずかな間をおいて前後部の主砲弾薬庫が誘爆。第二、第三主砲塔が宙に浮き上がるほどの爆発が起こった。

 

 穴という穴、窓という窓から爆圧が開放されるほどの三箇所の爆発により、サウスダコダ級戦艦は轟音を上げて四つに折れて海に沈んでいく。 

 

 リ級フラッグシップであるボルチモア級重巡の二隻は第二主砲近辺に一発ずつを受けて弾薬庫が誘爆。艦橋よりも前を喪失し、急速潜行を始める。

 

 続いて、回避機動を取っていたヲ級エリート、ヨークタウン級空母の一隻は、ストームダイバー3発の急降下突撃を受けた。

 

 自由落下と固体ロケット加速によって超超音速に到達した500kgの重金属杭は、エレベーター、燃焼缶、航空燃料庫を直撃。

 

 彼らは有り余る運動エネルギーと自らの強度によって空母の構造部材を全て垂直に貫き、思う存分に艦内を蹂躙した後に海中に消えていった。

 

 突如として発生した艦を上下に貫通する直径50cm前後の穴。

 

 うちの一つから吹き上がるのは加圧されていた超高温の燃焼ガスだ。艦内を吹き抜ける熱波は、やがて航空燃料庫にあいた穴に接触。

 

 揮発を始めた燃料と熱波が出会い、甲板がめくれ揚がるほどの爆炎が巻き起こり爆沈していく。

 

 彼女以外の空母たちも、舷側に大穴が開いているか、甲板が吹き飛んでいるかのどちらかで、満足に航行できているものも存在しないほどの被害を受けている。直撃弾により航空燃料か爆雷装が誘爆したのだろう二隻は、甲板全てが焼け落ちて格納庫が見えるほどの損害だった。

  

 そのほかの随伴艦も軽SSMの直撃を受けて沈没していく。

 

《SSM命中。敵空母爆沈1、残余は大破炎上中、戦艦爆沈、重巡爆沈2、小艦艇群半壊。敵本隊脅威度低下。》

 

 私達には捉えられない轟音と共に、彼女たちは水底へと還っていく。

 

 二機目の映像に目を遣れば、こちらに猛進していた水雷戦隊の行き足が鈍っていた。それもそうだろう、頼みの主力が一瞬で鉄屑に変わってしまったのだから。

 

《方位3-5-8より第二波接近。ジンツウ、対空射撃戦用意。本艦主砲による迎撃を準備。》 

 

 ハルナのレーダーに捉えられた敵の第二波が全力後退中のジンツウさんに向かっている。射線上にジンツウさんがいる以上、ハルナは万が一を考慮して三式弾を放てない。

 

 そのため、ジンツウさん単艦で第二波を撃退しなければならないのだ。

 

《第一波、弾着、今。全機撃墜。》

 

 ずっと向こうの空で、黒い花が咲き乱れる。さっき発射したSAMが第一波を一機残さず食い尽くしたみたい。第二波もSAMで片付けちゃえばいいのに。

 

《ジンツウ、対空砲戦、入ります!》

 

 敵第二波は既に低空に遷位。ジンツウさんめがけて突貫している。ジンツウさんの視覚情報とリンクする。

 

 目標は敵の第二波。鈍重で頑丈なSDB16機からなる雷撃隊だ。的は大きく、旋回性能も低い旧式機だ。しかし、火力の低い九十六式艦戦や零戦二十一型ではなかなか手ごわい相手になるという。あの装甲相手に7.7mmでは何発撃っても難しいだろう。

 

 SDBは、四機編隊をダイヤモンド状に配置して突っ込んでくる。深海棲艦では珍しいくらいの低空飛行だ。帝国海軍の十八番ともいえる、波頭を削る異常な低空進入。高い錬度を思わせるだけの、航空雷撃戦の妙技だった。

 

《なるほど、やりますね。ならこちらも全力です!》 

 

 艦後部に配置されている14cm連装速射砲二基四門が、凄まじい速度で敵編隊を捉えた。ジンツウさんの観測情報をハルナが解析し、砲の微細制御を行うはずなのだが、ジンツウさんは空中投影されているターゲットレティクルを無視。手でかき消してしまった。消せるんだ、これ。

 

《ジンツウ、何をしている!》

 

《彼らを相手にハルナさんの助力を受けるなどありえません、私の全力を持ってお相手します!》

 

 司令の静止すら振り切り、ジンツウさんの対空砲撃戦が始まる。14cm連装速射砲、口径は小さくても、内蔵されている炸薬の質と威力が違う。低延伸、高初速弾でありながら、既存の対空砲弾とは比べ物にならない破壊半径を誇る一発。そんな代物を一分に20発も撃ち上げている。

 

 瞬く間に先頭の隊長機が撃ち落とされ、二番機、四番機が続いて堕ちていく。完全な直撃弾、それもコクピットを抉り取るような当たり方だった。

 

《第二波、散開。ジンツウは対空戦を続行せよ。……方位0-1-9より敵第三波接近、本艦主砲照準合わせ。》

 

 次々に叩き落とされる味方におののいたのか、爆雷撃体制に入っていた第二波は急速に散開。点でばらばらの方角に逃げ去っていく。

 

 ジンツウが37mm三連装対空機銃を発射するまでも無く追い散らされた第二波を尻目に、ハルナの主砲が再び微動する。

 

 今度こそ、誰もいない海上を突き進んでくる敵編隊。140機以上からなる大部隊を相手に、ハルナの主砲を存分に用いれる環境が揃っていた。

 

三つの梯団を形成する第三波は、高度3000を維持しつつ大きく広がって飛行していた。中央の梯団が70機、両翼の梯団がそれぞれ50機からなっている。

 

《前部主砲、照準良し。砲動揺低減。》

 

 戦闘速度で航行すれば、たとえ大質量を誇る戦艦でも波濤による動揺を無視する事はできないはずだった。しかし、最新鋭の自動照準システムが画像認識をベースとした近未来予測に基づき、砲口部における動揺を限りなくゼロに近づける。

 

《射撃地点まで3、2、1、右砲、発射。》

 

 砲口のゆれが収まった瞬間、ハルナの前部連装砲右砲が火を噴いた。最新の無煙火薬による無色の熱爆が、水蒸気を大量に含んだ太平洋の空気を加熱。瞬間的に白煙が上がった。

 

《空間変動予測範囲内、弾道保障良し。続いて左砲、発射。》

 

 しかし、それもわずかな時間を空けて放たれた左砲の衝撃波に吹き散らされ、大気に掻き消えていく。わずかに遅れて私の耳を重苦しい砲撃音が駆け抜けた。

 

 60口径以上の長砲身から放たれた二発の三式弾改は十数秒飛翔し、第三波中央梯団と右翼梯団に食らいついた。

 

《子弾射出。》

 

 第三波の目前で起爆した二発の35.6cm三式弾改は内蔵している594発の子弾を空中に拡散させ、ばら撒かれた子弾は炎尾を引きながら大きく広がり、遠隔信管により最適な位置で起爆していく。目の前に広がる紅蓮の網。とらわれた第三の中央、右翼梯団は一瞬で爆炎に飲み込まれ、海と還っていった。

 

 中央・右翼梯団のほとんどが撃墜された。

 

 運良く難を逃れた左翼梯団は急速に高度を下げ始める。三式弾の有効破壊圏は砲弾先端からの円錐形を示す。高度の異なる二つの部隊を撃破するのには向いていない兵装なのだ。

 

 それを知っているかのように、左翼梯団と中央・右翼梯団残存は雷・爆撃隊に分離して艦隊に向けて飛行してくる。こちらを挟み込む形だった。距離にして12km。主砲による砲撃にはいささか近い距離だった。

 

《三式弾の有効射程外に敵部隊侵入。近接防御火器起動。》

 

《敵爆撃隊を127mm速射砲で迎撃開始。雷撃隊は14cm単装砲による迎撃開始。》

 

 ハルナの保有する四門の127mm速射砲のうち、内前部艦橋前と右舷煙突部のものが、機敏な動きで敵爆撃隊に指向する。対艦ミサイルの迎撃に持ちいれるように開発された速射砲は、現存する最強の砲煩兵装といえるかもしれない。その射程距離は戦艦主砲に匹敵し、使用する弾種によっては戦艦のバイタルパートにすら打撃を与えうる。そしてその命中精度は既存の砲と比較したとき、百発百中に等しい。

 それに加え、艦隊右翼に展開しているヒビキの130mm連装速射砲三基も射撃に加わっているのだ。砲弾数が足りないという事は無いだろう。

 

 ハルナの長距離観測に裏打ちされた砲撃。10km以上の砲撃にもかかわらずその命中精度は目を見張るべきものだった。何しろ一機に3発以上かけることが無いのだから。爆撃隊は置き物撃ちするように撃ち減らされ、三分以内にその大半が被弾、撃墜。残りも爆弾を投棄して逃げ出していった。

 

《敵爆撃隊脅威度0。砲身冷却と即応弾マガジンの再装填を開始します。》

 

 打って変わって、緩やかに動き、その砲口の先に雷撃隊を捕らえた舷側15cm単装砲はハルナが建造された当初から装備していたものとほぼ同型である。

 

 つまり、舷側部に配置されたケースメイト砲。これは魚雷戦を仕掛けてくる駆逐艦や魚雷艇などを排除するための自衛兵装として配置された副砲だ。当時はその有用性は確かなものであったが、上部に甲板などの装甲が存在し、仰角が取りにくい平射砲であるために、航空戦が確立された第二次大戦では次々と撤去された旧式の砲配置である。

 

 しかし、この世界では行われなかった第三次大改装の影響で弾速の高速化と速射性能を向上しており、雷撃機の迎撃には十分すぎる仰角を取る事ができるため、現在も片舷四門を装備している。

 

 ハルナはこの砲が撤去された艦体中央部に速射砲とCIWSが配置されており、戦闘時に人間が移動する事を想定していない設計だ。

 

 こちらの射撃速度は127mmにはるかに劣るとは言え、砲門数が四倍であるためにそれなり以上の弾幕を形成している。しかも放たれている砲弾は15cm三式弾である。35.6cmのそれに比べ範囲が狭いとは言え、22機の雷撃機を飲み込むのには十分すぎる炎のカーテンが形成された。

 

 幾輪もの火の花。それにに群がる羽虫のように、雷撃隊は落ちていく。頑強で知られるType-2とは言え、これだけの火力にさらされれば抵抗する事もできない。それでもなお、超低空で侵入してくる5機がいた。

 

《第三波雷撃隊残存5機、更に接近。脅威距離まで7000。近接火器起動。殲滅します。》

 

 ハルナの声と共に、指向可能な3基の20mmCWISが素早く振り向き、射撃を開始する。チェーンソーのような射撃音と共に、オレンジ色の火線が三本伸びていく。その火線は触れる先から雷撃機を塵に変え、射撃開始から3秒で5機を撃墜してしまった。

 

 それでも、最後の一機が撃墜寸前に投弾した一発の航空魚雷。それも、ハルナの近接防御火器の弾幕によって、わずかに航跡を残す事だけしかできずに水柱に変わってしまった。

 

《敵第三波の全滅を確認。》

 

 出現時に一個艦隊規模を誇った深海棲艦の姿はすでに無く、今では二個水雷戦隊が猪突猛進してくるだけとなっていた。五隻分以上の航空戦力も、その半数以上が艦上で失われ、残る機体もほぼすべてが撃墜されている。

 

《対艦戦闘用意、主砲斉射。》

 

 零式通常弾改を撃ち込むハルナ。炸薬を変更された通常弾は、正確無比な射撃によって水雷戦隊上空に送り込まれ、内蔵されている時限信管によって起爆。赤熱した破片によって艦体をずたずたに切り裂かれた。

 不運なものは魚雷が誘爆して轟沈し、そうでないものもレーダーや測距機を失った。煙突を損傷したフレッチャー級は行き足を緩め、後続は艦列を乱しながら回避していく。

 そこに送り込まれる第二射。再び空中炸裂した零式通常弾改が二隻のフレッチャー級を轟沈させる。

 後は虐殺だった。信じられない速度で都合24発の零式通常弾改が撃ち込まれ、起爆するたびに水雷戦隊は櫛の歯が欠けるように減っていった。最後に残っていたアストリア級重巡洋艦も、三発の砲弾を受けて海中に没した。

 

《全敵性存在の殲滅を確認。戦闘モードを終了します。お疲れ様でした。》

 

 開戦からわずか27分の出来事だった。

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