硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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再投稿、字数がいきなり減ります。

ほんの、ほんの少し改訂


第002報 秘書艦娘大淀

 私は大日本帝國海軍太平洋管区硫黄島要塞駐留艦隊司令部付の退役艦娘、大淀です。本日着任される提督をお迎えするために第三バンカー前の待合室で待機しているのですが……。

 

 「暑い。」

 

 赤道に程近い硫黄島の気候はひどく暑いのです。気温そのものが高いのに加えて、太陽光そのものが大きな熱量を供給してくるのです。

 

 硫黄島北西に作られた巨大飛行場、その滑走路の一つに併設された半地下型バンカー。深海棲艦艦載機の運動エネルギー徹甲爆弾に対応した新式工法、その試験目的で作成された第三大型バンカーは、真っ白な外壁をしています。照り返しで輝いています。

 

 そして滑走路とその周辺は全て白色の強化コンクリート製です。光が強すぎてそれ自体が発光しているように見えますが。

 

 「……暑い。」

 

 そのため、冷房が最大で効いているはずの(なぜか全面ガラス張りの)待合室にいる私を、太陽、壁、滑走路の三面から熱と光が襲っています。

 

 今日私は、新しい提督が着任する際の硫黄島要塞の案内とその他雑務をこなすためにここに来たのだ。そのためにわざわざ制服をクリーニングに出し、シャワーを浴びて、取って置きの香水を軽く纏い、二時間近くかけて髪のセットとメイクをしてきたというのに!

 

 「……暑い!」

 

 体感温度は41℃。艦娘としての機能が、体表面温度の異常上昇に対して急速な発汗を促しています。それでも蒸発による冷却よりも、太陽光による加熱が強く効いています。

 

 艤装をつけていない状態の私は、ナノマシン処理を受けた少女と代わりがありません。この灼熱地獄の中、私のメイクもセットも、噴出す汗によってぼろぼろに崩れています。

 

 「暑いアツいあついィィィッ!!!!!!!!」

 

 できることならば、今すぐに化粧室に飛び込んで直してしまいたいところですが、先ほど震空改二がこのバンカーに格納されたのを確認してしまいました。

 

 「なんでこんなことにぃ!?」

 

 いつ迎えるべき対象が現れるかわからない以上、出迎え担当の私はここを離れることができません。

 

 最初の印象が大切なのに、こんなぼろぼろの状態を見られることになるなんて!

 

 あごを伝って落ちた汗が床に当たると同時に蒸発していく。

 おぞましい映像です。

 

 ゆらゆらと陽炎が立ち上るバンカー出入り口に向けて、せめて最高の微笑を浮かべて提督を待ちましょう。

 

 見た目が目も当てられない時点で手遅れな気もしますが、印象はましになる……はずです。

 

 本来であれば出入り口前に待機していなければダメですが、今日の気候で外に突っ立ていればものの十分で湯で艦娘、いえ焼き艦娘が出来上がります。確実です。

 

 それに、駐留艦隊司令部と硫黄島気候局、衛生局の三箇所から屋外作業の禁止が申し渡されている以上、正当な理由による緊急避難であるといえるはず。

 

 注意報が出ていたにもかかわらず、給水用のボトルを秘書室に置き忘れるという痛恨の失態は悔やんでも悔やみきれませんが。

 

 「……うん、まずい。」

 

 明らかに思考が定まっていない。あっちいったりこっちいったりふらふらしている。

 

 ちょっと視界がぼやけてきた。いや、陽炎でぶれてるだけ?

 

 「貴様、大丈夫か?」

 

 「ぅあ?」

 

 後ろからいきなり声をかけられて、変な声が出てしまった。

 何とか後ろを振り向くと、長い金髪を後ろでくくった、帝國海軍第二種軍装に金線二本と銀桜花二つの肩章をつけ、銀糸編の飾緒をつけた細面の青年士官が心配そうな顔をしながらこちらに近づいてくる。

 

 「ん?聞こえているか?」

 

 待合室の自動ドアが開いたことに気づけなかった。そして人間に後ろを取られ、声をかけられるまで気配を察知できなかった。体がふらつく、ひざから力が抜けて、崩れ落ちてしまう。

 

 「う、あ。」

 

 誰?どうして後ろに?一体どうやって?

 

 私が混乱しているさなか、彼は私を抱きとめ、額に手を当てた。

 

 「熱があるな。まさか、この気候の中、ここで待っていたのか?」

 

 「ぁ、はい、私は、着任される、提督の、お迎えに、。」

 

 「いい、しゃべるな。……清気来訪熱気放逐。天后、祓え。六合、平衡せよ。玄武、結界を。」

 

 彼は呪を諳んじながら、私の額に刀印を当てた。すると体から熱が抜け出し、周囲に爽やかな気が充満して行く。それに光と熱が弱まった気がした。ぼんやりとしていた思考も明快になり、私は目の前の中佐さんをまじまじと見つめました。

 

 「さて、これは何本に見える?」

 

 「……一本です。」

 

 「よろしい。」

 

 そんな私の目の前で、刀印を結んだ右手を左右に振る中佐さん。その細くて真っ白な指先を凝視しながら、刀印の本数を答えた。なんだか眠くなってきま…

 

 破裂音。

 

 「ハッ!?」

 

 「目は覚めたか?」

 

 中佐さんが打った拍手の音で目は覚めました。大丈夫、平常どおりです。

 

 「はい、中佐殿。その、ご迷惑をおかけいたしました。」

 

 「艦娘とて艤装なくばただの娘、養生せねばな。」

 

 中佐さんはちょっと困ったような笑顔を浮かべながら一言。耳が痛いです。

 

 「はい、肝に銘じます。」

 

 「かまわない、楽に。ところで、貴様が出迎えか?」

 

 そうでした、それが私の任務です。秘書室から持ち出した命令書付のクリップボードを……。

 

 「あ、」

 

 「……その、読めるのかね?」

 

 私の汗で、すっかりインクがにじんで読めません。それに紙もぐしゃぐしゃになっていました。

 

 「あ、あわわわわわわわ!?」

 

 どうしましょうどうしましょう!?正式な命令書なしにどうやって確認すれば!

 

 「教育局の辞令で大丈夫だろう。あと個人情報カードを渡すので確認してくれ。」

 

 中佐殿はトランクケースから教育局局長印の入った封筒と、白銀の個人情報カードをだして渡してきました。すぐに受け取って軍用情報端末でカードと中佐さんをスキャン。パーソナルデータと辞令のホログラフデータを照合しました。

 整合率99.42%。本物です。

 

 「はい、確認できました。カードと辞令をお返しします。」

 

 「受領した。」

 

 「では、失礼ですが、官姓名の申告をお願いします。」

 

 「申告する。従五位下陰陽権博士、嵯峨野宮佳奈子内親王海軍少将殿下付海軍中佐、六条実行だ。」

 

 「帝國海軍太平洋管区硫黄島要塞駐留艦隊司令部秘書課長、海軍主計少佐、任務管理艦娘の大淀です。そしておめでとうございます。硫黄島要塞第310警備戦隊司令への着任同時に、海軍大佐に昇進なさいます。」

 

 封筒の中の大佐肩章と袖章、制帽章を引き渡します。どれもピッカピカに輝いてます。

 

 「祝賀、感謝する。……まさか22歳で大佐とはな。」

 

 「はい、宮様方と同じくらいですね。」

 

 顎に手をやり、肩章に目を落としながら、なにやら考え込まれているようですが。

 宮様方と同じペースで昇進していかれると、中将は確実、大将も見えてきます。

 

 「考えても仕方あるまい、付け替えるのを手伝ってもらえるか?」

 

 「お任せください!」

 

 六条中佐、いえ、六条大佐からのご依頼です。汚名を挽回しつつ、ご恩をお返ししなくてはなりません!

 

 といっても、ちょっと複雑な機構のホックで留まっているだけなのでものの五分で終わってしまいましたが。

 

 付け替えた中佐用の肩章などをお預かりして、クリップボードに止めておきます。あとで本土に送付しないといけません。 

 

 「ところで少佐、案内も貴様か?」

 

 「はい、大佐。」

 

 そうです、この後は六条大佐に要塞各部署をご案内しなくてはいけません。こ、こんどこそお役に立たなくては。できる女、大淀をお見せしないと!

 

 「そうか、では、案内を頼む。……あぁ、その前に。」

 

 「はい?」

 

 なぜか大佐はこちらを見てくださいません。

 

 「その、黒のレースとは……、なかなか派手だな、少佐。」

 

 「はい?」

 

 なにを言って、ぇ!?

 

 「下着が透けている。私の上衣を貸そうk」

 

 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 あ、汗で透けてっ、張り付いてる!体形も下着も全部、全部見られちゃいました!?

 うぅ、気合入れて黒の紐レースなんてつけるんじゃなかったぁ!!!!

 思わず胸元を押さえて座り込んでしまいます。

 

 これじゃ、痴女ですよ痴女!なんでこんなことになっちゃうんですか!?

 

 もう嫌ぁ!?

 

 




ポンコツ娘、大淀さん登場の回。

硫黄島要塞の任務管理艦娘さんは、とってもポンコツです。よくしでかします。

陰陽師で侍従武官な主人公、六条大佐。

名前だけ登場の嵯峨野宮佳奈子内親王海軍少将殿下。現在は横須賀所属。
いつか硫黄島に来訪することもあるかもしれません。

次回はついに建造が行われます。そしてあの不思議存在も。
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