硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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第005-2報 ハルナ出航す

こんばんは、ハルナです。

 

---こんばんは。

 

 今、私達は地下ドックで海上公試の護衛と補助を担当してくれる、大湊第671護衛隊の子達と顔合わせをするところです。一番ドックで幕を張られていた私の艦体艤装の目の前に立っています。

 

 大和型戦艦を固定、保持できる超大型エレベーターに搭載されている私の艦体艤装。ドックが大きすぎて小さく見えますね。

 

「硫黄島第410警戒戦隊司令、六条だ。今日はよろしく頼む。」

 

「は!大湊第671護衛隊、旗艦由良以下6隻、現時刻より指揮下に入ります!」

 

 きびきびとした敬礼をしてくれたのはピンク色の長髪を束ねた軽巡洋艦由良さんです。真面目そうな方ですね。

 

「秋月であります!対空戦はお任せください!」

 

 緊張してらっしゃるのは防空駆逐艦秋月さんです。駆逐艦とは思えないほどの長身ですね。

 

「朝潮です!いざというときは盾となる所存です!」

 

 忠犬っぽいと評判の朝潮さん。とても幼い見かけですが、意志は強そうです。

 

「望月で~す。まぁ、がんばるよ。」

 

 力の抜けた声は望月さんです。眠たげな目と気だるい雰囲気ですが、その眼は油断なく私の戦力を測ろうとしています。隠し切れない殺気が瞳の奥に秘められていますね。

 

「叢雲よ、護衛なら任せなさい。」

 

 こちらの方は率直に不信感をあらわにしていますね。それでも感情と行動は分けてくれそうな人ですが。

 

「ハルナです。、皆さんよろしくお願いしますね?」

 

---護衛なんていらないでしょ、むしろ護衛対象なんだけど。

 

 そういわずに、ね?

 

 皆さん、私の挨拶を聞いてか、緊張がわずかに緩みました。しかし、叢雲さんはむしろ警戒を強めていますかね?

 

---心拍数は上がってるし、手足の強張りも強くなってるわね。望月は脱力が完全に近い状態になってる。即応体制に移行しているわね。

 

 今回で信用して貰うのは無理かもしれませんね。

 

「今回の海上公試については、硫黄島司令部から送付された通りだ。受け取っているか?」

 

「すでに駆逐隊全員と共有済みです。問題ありません。」

 

 由良さんが大佐の問いに答えます。キビキビとしたやり取り。秘書官として見習わなくてはいけませんね!

 

---あんた周りからどう見られているかよく考えなさいな。

 

 思わず握りこぶしを作って決意してしまいましたが、何かおかしな事だったでしょうか?

 

「あれ、実は普通の榛名よりぼけぼけだろ?」

 

「シッ、黙ってなさい望月。」

 

 望月さんと叢雲さんからあきれられたような視線を感じます!?

 

---あたりまえよね?

 

「この海上公試は帝国海軍においても極秘のものである事を認識してほしい。現に要塞中央管理AIは欺瞞情報を噛まされ、全ての記録装置は艤装データを送り込まれている。」

 

---といいつつ、海軍省統括AIは正規の情報を獲得してるし、その秘匿回線は内務省第7局と陸軍参謀本部にただ乗りされてるけど。おかげで枝付け放題ね。

 

 ダメじゃないですか。

 

「私達の提督にも情報規制がかかっていますからね、今の時間は夜間航行演習になっているはずです。」

 

 一応欺瞞はされてるんですね。

 

---秘匿強度としては第一級よ。帝国全土で500人も認識できないんじゃない?この情報。お、内務省統括AIまで一直線じゃない、特一級機密コードごといただいて、アカウントを不正作成、作成日を偽装して、他の書類も作ってっと。

 

 すごいんですかね? 

 

「では、君たちは小艦艇桟橋から展開、湾外で待機していてくれ。」

 

「了解しました。護衛隊は直ちに警戒準備態勢に移ります。総員、行動開始!」

 

 六条大佐の指示を受け、由良さんを先頭に駆け足で昇降機に向かっていきます。皆さん元気ですね。

 

「提督、そろそろ乗艦しましょう?」

 

---乗って貰いますか。自走式のタラップをまわすからそこからよろしく。

 

 スキール音を立てつつ自走式のタラップが走ってきました。制限速度を超えているような気がするんですが。

 

---問題ないわ、コンタクト!ついでに陸軍参謀本部AIの中枢も頂きぃ!

 

 右舷艦橋付近にタラップが接続されます。てぇ、一寸傷が入ったじゃないですか!

 

「なかなか重い音がしたが、大丈夫か?」

 

「はい、ハルナは大丈夫です。」

 

 六条大佐から心配されてしまいました、ハルナ、感激です!さて大佐を甲板から前艦橋にご案内しましょう。

 

 前艦橋の装甲扉をくぐり直進すればエレベーターフロアに着きます。上に向かえば戦闘艦橋に、下に向かえばCICに向かうエレベーターです。シャフトには防爆装甲と遮断壁が施されています。ここが撃ち抜かれれば指揮要員が全滅するわけですから、これほどの重装甲を用意するわけですね。

 

 今回は前艦橋上部、航行艦橋に提督をご案内しましょう。無骨で飾り気のない灰色のエレベーターが音もなく私達を航行艦橋まで運んでくれます。扉が開けば、そこが私の戦闘艦橋です。

 

「ここがハルナの戦闘艦橋か。」

 

 戦闘艦橋には目立つ設備はありません。人間が動かす事を想定していない設計なので、ここにあるのは増設された艦長席と妖精さん特製羅針盤、各種システムコンソールくらいです。CICのほうがよっぽど充実した設備ですし。

 

「はい、ではそちらの艦長席にお座りください。」

 

 艦長席の右手後方に佇み、いろいろ眼をやっている大佐を手招きします。

 

 気付いた大佐は艦長席に座り、手元のコンソールをいじりはじめました。なにをしているのでしょうね?

 

---気にしない気にしない。ほら、外部電源引き込むから、合図よろしく。ケーブルコンタクト。

 

「ガスタービン発電機、起動します。」

 

 左舷側のガスタービン直結電源装置に、外部からの超高圧電流が流れ込みます。タービンの回転が安定でいたところで、高圧ガスに点火。徐々に甲高い、ガスタービン特有の音に変わっていきます。もっとも、外部センサーで拾っているだけなので、艦橋内では聞こえないのですが。

 

---燃焼の安定を確認。発電モードに移行します。電源ケーブルカット。固定ベルトを締めさせて頂戴。

 

「提督、エレベーターが上がります。固定ベルトを締めていただけますか?」

 

「ん?ああ、すまないハルナ。ありがとう。」

 

 大佐は生体工学に基づいて設計されたシートに深く腰掛け、固定ベルトを閉めました。

 

---とりあえず補正掛けとくわね。

 

 ベルトの締め具合とシートの形状をほんのわずかに最適化したようです。

 

「要塞中央管理AIへ、一番エレベーター上昇準備完了。」

 

『要塞中央管理AI[石楠花]です。はじめまして六条大佐。貴官の着任を歓迎します。それと、一番エレベーターへのアクセス権を譲渡します。』

 

 艦橋中央部のコンソールに、一人の女性が三次元投影されました。薄桃色の石楠花が描かれた豪奢な和装を纏った、豊かな黒髪を結い上げた美女。朱の差された唇と切れ長の眼、スッと鼻筋の通った人形のような人。要塞中央管理AI石楠花さんですね。

 

---公式にアクセス権を獲得。面倒な手順よね。まぁ、いいわ。上昇開始。

 

 重たい石を滑らせたような重たい音と共に、わずかな浮遊感がありました。超重量の船体艤装がエレベーターで海面高まで持ち上げられていきます。

 

---見かけ通りの融通の利かないお堅い娘だったわね。ま、私にかかれば箱入り娘を従順にするなんて簡単だったけど。

 

 ド外道な発言ですね、まったく。

 

「よろしく頼むよ石楠花。」

 

『現要塞内で宮内序列第3位ではありますが、軍内序列では17位である事をわきまえて行動していただけますよう、よろしくお願いいたします。』

 

 大佐の挨拶に対して、完成された美貌から無感動な口調で放たれた言葉。無表情である事も相俟って、余計に人間でない事を浮き上がらせています。一寸無礼な気がしますね。

 

---顔、顔!

 

「無論、軍内部で宮内序列を振りかざすつもりはない。」

 

『まことに失礼いたしました、六条大佐。ご理解いただけて幸いです。』 

 

 大佐の言葉に、石楠花さんは深く腰を折って謝罪しました。当たり前じゃないですか、大佐がそんな事するはずがありません!

 

---うーん、作られたとはいえ、あのレベルの美人が微笑むと桁が違うわね。

 

 それまで無表情だった石楠花さんは、顔を上げたときには微笑を浮かべていました。ふわりと、花が開いたというべき微笑。大佐は顔を赤くしていました。……なんだかいらいらします。

 

『あぁ、それとハルナさん?』

 

「なんでしょうか。」

 

 その微笑みを浮かべたまま石楠花さんが手招きしています。何だというのでしょうか、彼女が立っているコンソールに歩み寄ります。

 

---不機嫌そうな顔してるわね。 

 

 うるさいですよ。彼女の目の前に立つと、石楠花さんはしゃがみこみ、私の耳に口を寄せて、

 

『私はAIですから、六条大佐を取ったりなんかしませんよ。安心してください。』

 

くぁwせdfrtgyふじこlp!?

 

---バグってるわね。緊急冷却するわよ?

 

「にゃにゃにゃにゃなにを!?」

 

 い、いきなり何を言い出すんですか、このポンコツAIは!?

 

---いきなり何を言い出すのかしらね、このポンコツ艦娘は。顔が真っ赤よ?

 

 思わず両手で顔を覆うと、明らかに熱を持っています。きっと真っ赤になっているでしょう。こら、はるな。映像まわさなくていいですから。恥ずかしさで思わずしゃがみこんでしまいました。

 

「おい、ハルナ!?大丈夫か、何があった。」

 

「だ、大丈夫ですから!」

 

 提督の立ち上がろうとする気配を感じました。近寄られたら恥ずかしすぎて死んでしまいそうです。思わず制止してしまいました。

 

「そ、そうか。」

 

 とりあえず立ち上がるのはやめてくれたみたいです。

 

『あら、見た目とは裏腹に随分と純なお方。……ふふ、六条大佐、大切にしてあげてくださいね?』

 

「無論だとも、彼女は私の大切な艦娘なのだから。」

 

 ふあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!

 

---ものは言い様よね。

 

 聞きました?聞きましたか!<私の>ですって!<私の大切な>ですって!いやったあぁ!

 

「提督!」

 

「なにかな。」

 

「不束者ですが、これからよろしくお願いします!」

 

「ああ、よろしく頼むよ、ハルナ。」

 

 大佐が微笑んでくれましたよ!

 

---はいはいご馳走様。

 

『本当にかわいらしいお方。さて、海面部に到着いたします。』

 

---海水の注入が始まるから一寸待ってなさい。

 

 途轍も無く重い音と鈍い衝撃が艦を揺らしました。ドックの海面部まで上昇したようです。正面ゲート以外の各所から海水が注入されていきます。

 

『現在急速注入中です。しばらくお待ちください。』

 

 滝のような水音と共に、私を浮かべるに足る水量がためられていきます。

 

『規定量の注水が完了しました。これより固定アームを解放します。』

 

 私を固定していた大型固定アーム群が一斉にロックを解除しました。圧縮空気の気泡と共に、生み出された浮力が私を上に押し上げます。

 

---艦体安定化開始、両舷バラスト調整。……艦体動揺規定値まで低下。

 

『艦体の浮上を確認しました。第10装甲ゲートを開放します。』

 

 艦体の動揺が収まった事を確認すると、石楠花さんが正面にある第10装甲ゲートを開放しました。幅70m、高さ60mの超大型ゲートは両開きに別れていきます。

 

『ゲートの完全解放を確認しました。大防壁外部まで、管制データに従って航行してください。』

 

---両舷微速前進。その後3-2-1に転針し、大防壁外に出るわ。

 

「両舷微速前進、3-2-1に転針し、大防壁外に出ます。よろしいですか?」

 

「まかせるよ、ハルナ。」

 

 電磁推進装置の微振動と共に、私の艦体が滑るように進んでいきます。装甲ゲートを抜けると、湾内に設置された航路表示システムがガイドラインを展開しています。月は出ていませんが、南洋の満点の星空という奴です。明るいですね、意外と。

 

「港湾部分に明かりはほとんどないな。」

 

『現在灯火管制と夜間外出禁止令が出ています。それに七つの警備部隊が二重の哨戒線を構築していて、それ以外の部隊は先の間引き作戦の休暇を取っている最中ですから。』

 

---実際、ほとんどの艦が火を落としてる。再起動には時間がかかるわ。装甲ゲートを抜けた、湾内に移動体無し。両舷半速。

 

 確かに、赤外線によれば桟橋に停泊している艦は火を落としています。これでは急速出撃は無理そうです。でも、航空隊がいる以上、初撃をしのぐくらいは出来るでしょうが。

 

「杜若作戦か。」

 

『その通りです。』

 

 提督と石楠花さんが言っている作戦が判りません。この要塞駐留艦隊が関係しているのはわかるのですが。

 

「杜若作戦?」

 

「君は知らなかったな。硫黄島駐留艦隊が、深海棲艦太平洋方面軍対日派遣艦隊の間引きを企図した作戦だ。」

 

---中部太平洋全域で深海棲艦の個体数増大が確認された事を受けて、計画発動された作戦みたいね。本土からも一部戦力を抽出して実行されたみたいよ。変針点に向け転舵、スラスターセット。外洋を目指すわよ

 

『ミッドウェイ駐留艦隊の奇襲で痛みわけに終わってしまった作戦でした。轟沈が出なかったのが不思議なくらいの過酷な戦闘だったようです。敵の旗艦級を複数沈めましたが、呉の長門や佐世保の伊勢などの歴戦の勇士たちが大破しています。』

 

「囮部隊による誘引と分断。基地航空隊と複数の機動部隊による波状攻撃に加え、姫級が率いる主力艦隊が殴り込みを掛けてきたんだ。戦闘詳報を読んでも、轟沈が出なかった理由がわからない。」

 

 基地航空隊1000以上、三個の機動部隊、姫級を含めた戦艦7隻からなる主力艦隊ですか。本土四鎮守府でも苦戦しそうですね。

 

---呉の長門は撃沈数1000隻を超える英雄ね、初代艦でもないのに遣るわね。佐世保の伊勢も、日向と共に佐世保の対空戦エースを張っているわ。他の大破艦も鎮守府でのエース格ばかり。まるで狙い撃ちされたみたいにね。変針点を通過、舵中央、スラスターセンター。両舷全速。

 

 妙な話ですね。

 

『損害を受けた主力は軒並み本土に後退しています。数ヶ月は補修に入らないといけない娘ばかりでしたからね。代わりの子達も徐々に到着してはいます。』

 

「補給船団の護衛としてか。」

 

『その通りです。おかげで補給の頻度が増えたのはいいことですね。』

 

 なんだかとっても仲がよさそうなのです。なのDeath。

 

---お子様か。大防壁を抜けるわよ。電探、光学双方から前方に障害物無し。翼角変更、外洋巡航速へ。

 

『そのまま前進してください。大防壁から5kmに大湊第671護衛隊が展開しています。ではお気をつけて。』

 

「ありがとう。情報感謝する。」

 

「行ってまいります。」

 

 いよいよ外洋に出るんですね。楽しみです。

 

 




要塞管理AI石楠花さんの登場でした。
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