硫黄島警備艦隊日誌   作:haruhime

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せめて一発でいい。

敵に向かって撃たせてくれ。

もう、動けない味方を撃つのはこりごりなんだ。

味方を撃って。

味方に撃たれて。

結局、味方に沈められる。

何のために生まれたのか、判らないじゃないか。



そうだろ、デカブリスト。




第007報 駆逐艦ヒビキ

 やあ、はじめまして。

 

「極地戦対応型独航督戦駆逐艦ヒビキだよ。その任務から味方殺しの通り名もあるよ。……せめて背中からは撃たないでくれると、うれしいな。」

 

 思わず余計な一言が漏れたけど、気にしないでくれると助かる。駆逐艦ヒビキだよ。

 

 目の前に居るのは、どうも疲労困憊しているみたいな金髪司令官と、白髪の女性、プラチナブロンドの少女だ。……女性二人は驚愕しているし、司令官も困惑の色が隠せていない。あ、奥に二人の女性が居るね、黒髪とピンク髪の。

 

 でも、艦娘としての知識は、この三人こそ私の友軍であると告げている。なら、生きるためには、敵よりも注意しなきゃいけないのはこの三人だ。私の素性を知っていれば、真っ先に殺しに来る。いや来なきゃいけない。だって、私が所属した艦隊は激戦地に捨て駒として送られるんだ。

 

 そして私は、逃げようとする味方に必殺の超音速魚雷を打ち込んで、見せしめに沈めるのが任務だったから。

 

「きついな、これは。」

 

「大丈夫かい、司令官。」

 

 さぁ、出方を見よう。司令官に手を差し伸べる。これにわずかにでも拒否感を示すようなら、そのときは……。

 

「すまないな、ヒビキ。助かるよ。」

 

 ……案外余裕があるじゃないか。心にもない言葉を臆面もなく吐けるとは。他の警戒対象は一瞬放った殺気に敏感に反応したというのに。ハルナとシマカゼ。気をつけなくてはならないな。

 

「なに、気にする必要はないさ。司令官。それよりも私のことを説明するべきだろう?」

 

「そうだな、よろしく頼む。」

 

 私は極地戦対応型独航督戦駆逐艦ヒビキ。北極海を始めとした流氷が存在する海域での敵戦略原潜狩りに従事するために設計、開発された重武装の駆逐艦だ。

 とはいっても、赤化した日本はソヴィエト原潜ではなく、アメリカ原潜を対称にしていたんだけどね。

 結局、極限まで張り巡らせた対潜哨戒網に恐れをはしたアメリカ原潜は一度も北極海に出現することはなかったんだ。時間的猶予を得たソヴィエトは、他の赤化国家に委託していた方面特化戦力を最寄の軍管区に委譲させ、その質的強化を図った。そのときソヴィエトに引き渡されたのが私。

 最前線のウラジヴォストーク軍管区に配置された私は、現地督戦部隊に引きわたされ、日本赤軍の督戦に当たる事になったんだ。最新鋭の誘導型超音速魚雷によって主力艦ですら撃沈できる火力と、マストに翻る赤軍旗。誰もが恐れる督戦駆逐艦の完成さ。

 

 何度も督戦し、何度もかつての友軍を撃沈したよ。

 

 幾度となく恨みの言葉を投げかけられて、最後の言葉を聴いたんだ。

 

 それでも、私は生きなくてはならなかった。

 

 乗員になった督戦隊員だって、督戦しなければ処刑される。

 

 だったら、確実に救える命を救ったっていいじゃないか。

 

 必死に毎日を生きたよ。味方の砲門がこちらに指向するのを見て対応射して、高性能なレーダー射撃をかいくぐり、間抜けな友軍が解き放った機雷を避けながら。

 

 でも、結局ソヴィエトは敗北した。私はそのとき、最後の督戦任務に従事していたんだ。日本赤軍残存艦隊を、アメリカ太平洋艦隊に突入させ、自分も沈む、という任務にね。敗北の報が無線で流れると、日本赤軍はアメリカ艦隊に降伏電を打ちながら、私に襲い掛かってきた。

 

 ……当然だね。これまでに多くの友軍を沈めてきたんだ。なにしろ督戦隊で唯一ウシャコフ、ナヒーモフ勲章を授与された艦だったからね。

 

 彼らは絶叫していたよ。でも、私は死にたくなかった。乗組員も死にたくなかった。だから反撃した。

 

 最終改装を受けていた私は、すごい火力だったと思うよ。

 

 何しろ艦体延長と両舷に1500t級増設艦体で三胴艦になって、130mm連装速射砲三基六門、多用途リボルバーVLS十基40発、近接対空システムCADS-N-1二基、AK-230四基、超音速ホーミング魚雷十二発を装備していたからね。単艦で無人攻撃機の空襲を撃退しつつ、敵潜水艦隊を追跡、撃滅するのが目的の改装だ。生存能力は桁違いだった。

 

 当時の日本赤軍残存艦隊は大半が駆逐艦だったんだ。ひどいものだったよ、何しろ130mmを連射すれば穴あきチーズよりひどいことになるし、ミサイルだったら一撃さ。

 

 次々と沈めたよ。皆恨み言を吐いていた。なんで、なんで、って。でも戦争が終わったのなら私に砲を向けなければよかったんだ。

 

 結局は徹底的に打ちのめされて、最後に超音速魚雷を遠方の第七艦隊に撃ったところで、いなずまの127mmがミサイル倉庫に飛び込んでね。一発昇天さ、粉々だったよ。

 

 結局、前の世界で私は誰も救えなかった。

 

 味方も、乗組員も、私にかかわった人は皆死んだ。

 

「そんな私でも、受け入れる。そういうつもりかい?」

 

 最後まで、自分の全てを語った。そして目を閉じる。

 

 期待はしていない。いや期待してはいけない。

 

 せめて生かしてくれれば、それだけでもいい。

 

 だから、どうか。

 

 

 そして、もし殺すなら、せめて苦しませないでほしい。

 

 そう、願ってしまう。

 

 

 頭に、手が載った。思わず身が竦む。殴られるのか、それとも撃たれるのか。

 

 ゆっくりと目を開けると、彼はひざを曲げて私と目の高さをあわせていた。

 

「いや、受け入れない。」

 

 彼は目線を合わせて、はっきりと言った。そうはっきりと。

 

 

 思わず目の前が暗くなる。足に力が入らなくて、姿勢が崩れてしまう。

 

 

 何を考えていたヒビキ。期待してしまったのか?

 

 この血にまみれたお前を、受け入れてくれる大ばか者など。

 

 

「今の諦観にとらわれた君を、受け入れるつもりはないよ。ヒビキ。」

 

 

 いるわけがないのに。

 

 

「だがもし、君が生きたいというのなら。」

 

 

 そんな、ことが。

 

 

「少なくとも、私は君を。」

 

 

 ゆるされるというのか。

 

 

「生かして見せよう。」

 

 

 だめだ。

 

 

「さぁ、私の艦隊に来い。ヒビキ。」

 

 

 ダメだ。

 

 

「お前の魂の場所は、もう、ここにある。」

 

 

 もう、我慢できない。

 

 

「司令官、これから、よろしく。」

 

 

「ヒビキ?ヒビキ!?」

 

 

 

 

 せめて、彼に伝えたかった。

 

 

 

 

 緊張が解けて、私は意識を手放してしまう。

 

 数年以上経験していなかった、優しい闇に包まれる感触に、思わず笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 頬を伝う涙の感触と共に、闇に沈んでいく。

 

 

 

 

 

 なんだ、私は。

 

 

 

 

 

 まだ、泣けたんだね。

 

 




そうだな、せっかく生まれなおしたんだ。


せめて今度はあがいて見せろ。


そうすれば、お前の残念も解決できるかもしれないな。


でも、今度は大丈夫そうだぞ。


なに、私達の心配なんぞ、きっと無用の長物になるさ。





そういうことだよ、ヴェールヌイ。


幸運は待つのではなくて、掴み取るのさ。


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