第1話 決着
「無茶だ、オールマイト。病室に戻ってくれ」
「……みんなが私を、探している。
待っているなら、行かなきゃあな」
「深手ではないとはいえ、臓器をやられたんだぞ!?
少し休めば、元通りになるんだ!
今無茶をしたら、治るものも治らない!」
「その少しの間にどれだけの人々が脅えなければならない?
私は……『平和の象徴』なのだ……!」
「……なぜだ、オールマイト。
あなたはもう十分に、頑張ったじゃないか……」
ナイトアイがどれだけ必死に説得しても、オールマイトは病院を抜け出し、怪我を押してヒーロー活動を再開しようとする。
彼を止めるのは不可能だと察したナイトアイは立ち尽くし、離れていくオールマイトの背中を見送ることしかできなかった。
しかし病院の廊下の曲がり角から飛び出した腕が、オールマイトの顔面を殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
「オールマイト!?」
背中から倒れこむオールマイトにナイトアイが駆け寄り、攻撃を加えてきた謎の人物を見上げる。
「無様だな、オールマイト。この程度の拳も躱せんとは」
「君は、エンデヴァー!?なぜここに!?」
「儂が呼び寄せた。
この馬鹿を止めたいなら力づくしかなかろう?」
オールマイトの目の前にいたのは、今回の一件とは無関係なはずのナンバー2ヒーロー、エンデヴァー。
そして彼の後ろから姿を現したのは、オールマイトのもう一人のサイドキックであるヒノカミ。
彼女もまたオールマイトに負けず劣らずの重傷のはずだが、どうやら彼の行動を予測して病室を抜け出し、先手を打っていたらしい。
「だが貴様にここまでの深手を負わせるとは。
……オール・フォー・ワンか。
そのような化け物が闇に潜んでいたとはな」
「なぜそれを!?まさか、ヒノカミ!?」
「あぁ、話した。
ワン・フォー・オールのことも、オール・フォー・ワンのことも。
……『OMT』のことも、洗いざらい全てな」
「なんということを……!」
長年守り続けてきたOFAにまつわる秘密を、血縁とは言えあっさりと明かしたという彼女を、ナイトアイは責めるように睨みつける。
しかし当の本人は意にも介さずへらへらと笑いながら答える。
「オール・フォー・ワンは討った。今までほど神経質になる必要はなかろう。
それに手負いとは言えオールマイトをどうにかできる存在がいるとしたら、エンデヴァーをおいて他にあるまい?
協力を仰ぐなら怪我の事情を明かさぬわけにもいかんじゃろう」
「それは……そうだが……」
「……と言うわけでオールマイトよ、抵抗は無意味じゃ。
神妙にお縄につけぃ」
「お縄って……いやいやいや!待ってくれヒノカミ!
みんなが私を呼んでいるんだ!ぐはぁ!」
「オールマイト!?」
立ち上がろうとしたオールマイトにエンデヴァーが追撃。
そのままオールマイトの胸倉を掴んで持ち上げる。
「皆が求めているのは完全無欠のオールマイトだ。貴様のような半病人ではない。
これ以上下らぬ問答を続けるつもりなら、その手足をへし折りベッドに縛りつけるぞ!」
眼前に迫るエンデヴァーの威圧に押し負け、さしものオールマイトも押し黙ってしまった。
彼は「やる」と言ったらやる男だ。逆らえば本気で手足を折りにくるだろう。
「ちなみにオールマイトの休養はすでに儂の方から関係各所に通達済みじゃ。
理由はでっち上げた。怪我は明かしておらぬから安心せい。
期間は一カ月。ナイトアイはこやつが病院を抜け出さぬよう監視を頼む」
「あ、あぁ!任せてくれ!」
頭脳明晰なナイトアイも予想できなかった状況になっているが、オールマイトに休養を取らせたい彼としては好都合だ。
完全に外堀を埋められ、ようやく諦めたらしいオールマイトを病室へと引きずっていく。
「ふん!手間取らせおって!」
「本当にな。……エンデヴァー」
ヒノカミは松葉杖を廊下に立てかけ、エンデヴァーに向き直り姿勢を正した。
「ご迷惑をおかけし申し訳ない。
我ら不在の尻ぬぐい、どうかよろしくお願いします」
ヒノカミは深く頭を下げた。
彼女の秘密を知った今、なぜこのような態度を取るかの理由は理解しているが、軽薄な妹のらしからぬ姿にエンデヴァーは舌打ちする。
「……今まで通りで構わん。
例え貴様が何者であろうが……轟舞火であることに変わりはないのだからな」
エンデヴァーはそう言って、頭を下げたままのヒノカミを無視して立ち去った。
「……ありがとう、兄上」
突然発表されたナンバー1ヒーローの休養に市民は騒然としたが、
ナンバー2であるエンデヴァーを筆頭とした多くのヒーローの活躍により、社会の混乱は最小限に抑えられた。
そして1カ月後、オールマイトはかつてと変わらぬ姿で皆の前に舞い戻ってきた。
しかし彼の隣にヒノカミの姿はなかった。
後日、ヒノカミはオールマイトのサイドキックの解消と活動の縮小を発表。
公の場に現れることはなくなり、やがて人々の記憶から忘れ去られていった。
この世界では戦力増強により、オールマイトの怪我は治療可能な程度まで抑えられています。
また、エンデヴァーの能力が遥かに高く、精神的にも安定しています。
理由はこれから明かしていきます。