『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第12話

「……ねぇ、斗貴子さん。

 ヒノカミってたった今、武装錬金を発動したよね。

 ……じゃあさっきまで空飛んでたのはなんで?」

 

「考えるな。ヒノカミとは『そういうものだ』と理解しておけばいい」

 

カズキ以外にも同じ疑問を抱いた者がいるようだが、この場にいる者の中では一番ヒノカミに詳しい斗貴子でもそれに答えることができなかった。

 

ちなみに空中を跳ねたのはOFA75%相当に達した身体能力によるもので、空中に立っていたのは滅却師の飛廉脚だ。

錬金術の世界は霊子が非常に乏しいので死神の世界にいた頃のようにしっかりとした足場は作れないが、短時間空中に立つくらいならなんとかなるのである。

 

さて錬金戦団の関係者たちが見守る中で始まった、ヒノカミとヴィクターの大喧嘩。

地上付近ではヴィクターが他の生物からエネルギーを吸収してしまうため、ヒノカミは剛腕で彼を天高く打ち上げた。

 

『TEXAS SMASH!!』

 

『ぐぅぉっ!!』

 

「……なんでテキサス?」

 

「知らん。ヒノカミだからだ」

 

ヒノカミの脚部の装甲が開き、放出された炎を推進力として打ち上げた彼を追いかける。

恐ろしいパワーとスピードでラッシュを浴びせ、ヴィクターが再生するよりも早く攻撃を続けながら高度を上げていくが。

 

『舐めるなァッ!!』

 

「!?攻撃が当たってないのに叩き落とされた!?」

 

「夫の武装錬金の特性は『重力操作』です!

 おそらく彼女……彼女?にかかる重力を増幅させて!」

 

モニターではヒノカミが勢いよく海に叩きつけられ海中に沈んだ。

 

『かぁぁぁぁっ!!』

 

音声で彼女の声が聞こえるので無事なのだろう。

しかしマイクが同時に拾う、『ピキピキ』という音は一体何なのだろうか?

 

「……!?おい、海が!!」

 

映像にも変化が現れた。

ヒノカミが落下した箇所を中心として、海が凍り付いていくのだ。

やがて海の中心に広い氷の大地が現れる。

ボコリという音と同時に映像で巨大な氷の塊が浮き上がり、ヴィクターめがけて飛んで行った。

あまりの大きさに回避は不可能と判断したのだろう。

ヴィクターは迎撃を選択。重力を増幅させた大戦斧の一撃で氷塊を打ち砕いた。

氷塊の大きさ分の窪みの中心に、ヒノカミが立っている。

心なしか、その背中から昇る炎が大きくなっているような。

 

「アイツの武装錬金って……何なの……!?」

 

「……ヒノカミの武装錬金の特性は『熱の吸収と出力への変換』だ」

 

これは知っている情報だったので、ヴィクトリアの疑問に斗貴子が答える。

つまりヒノカミは海に落とされた時に海中の熱を奪い凍らせて、強化したパワーで氷塊を持ち上げ投げつけたのだ。

彼女の背中から漏れ出る炎の量は武装錬金が蓄積している熱量、つまり現状の出力の目安である。

 

「ヴィクターの能力が『生命エネルギードレイン』なら、彼女の能力は『熱エネルギードレイン』。

 周囲一帯を氷漬けにしながら、際限なくパワーを高めていくんだ。

 ……はっきり言おう。

 出力調整や能力のオンオフこそできるものの、戦闘力と人類への脅威度という点では、彼女はヴィクターとさほど大差がない」

 

「アイツって……そんな強かったの!?」

 

「オマエ知らなかったのかよ!!5年も一緒にいたんだろ!?」

 

「だって戦うとこなんて見たことないもの!仕方ないじゃない!!」

 

広間にいた戦団の戦士がヴィクトリアにツッコミを入れるが、彼女は半泣きで逆ギレする。

 

「ですが、夫も高度を下げ地上の生物からエネルギーを吸収し回復してしまいました。

 このままでは繰り返しに……?」

 

アレキサンドリアは言いかけて、ヒノカミがいつの間にか真紅の刀を握っていることに気付く。

 

「……あんなもの、持っていましたか?」

 

「知らん。ヒノカミだからだ」

 

『焦がれよ『赫月』っ!』

 

「刀が炎に変わったんですが!?」

 

「あれも武装錬金!?いやでも、一人一種類だろ!?」

 

「知らん。ヒノカミだからだ」

 

『……フン!!』

 

「「「ハラキリーーーー!!?」」」

 

「何をしてるんですか彼女はーーー!!?」

 

「知らん!ヒノカミだからだ!」

 

自分の腹に炎の刀を突き刺すという凶行に、支部の大広間全体に動揺と困惑が広がるが、不安を余所にヒノカミの全身の装甲の隙間からすさまじい炎が噴き出し、背中の炎が大きく燃え上がった。

 

『余興はここまでじゃ……。

 ここからは……本気で行くぞ!!』

 

「「「え”」」」

 

聞き捨てならない言葉が聞こえてきたので、全員が一斉に反応する。

 

『赫灼熱拳……ジェットバーン!!』

 

脚部の装甲から放出された超高熱の炎を推進力として、ヒノカミの体が凄まじい速さで上空のヴィクターへと迫る。

 

『DETROITォ……SMAAAAASH!!』

 

『ぐぉぉぉおおおおっ!!!』

 

今まで以上の速さと威力の一撃がヴィクターが纏った重力の力場の防壁も貫通し、彼を再び遥か上空へと打ち上げた。

先ほどはあれだけのラッシュを繰り返して行ったことを、たったの一撃で。

 

「……何アレ」

 

「理解しようとするな。火渡戦士長曰く、あれは『不条理の権化』だ」

 

「そっか……ならしょうがないな」

 

「フッ……わかってきたじゃないか、カズキ」

 

斗貴子は穏やかで慈愛に満ちた表情を浮かべ、『わからない』ということが『わかってきた』相棒の肩を優しく叩いた。




本気の形態のヒノカミはオールマイトとエンデヴァーを足して倍化したような強さですが、斬魄刀の炎を吸収するのは武装錬金にとってもかなりの負担となります。
いわば短期決戦モードです。
卍解ではできません。本当の腹切りになるので。
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