『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第15話

戦意を失ったヴィクターを掌に抱き留め、機神は帰路に就く。

弱いとは言え月にも重力があり、熱エネルギーを使い果たした今の機神では推進力が足りないが、そこはヘルメスドライブの瞬間移動で乗り切る。

月の重力圏を離脱できる程度の余力はあらかじめ残してあった。

今はヴィクターも人間サイズに戻っているので重量制限にも問題はない。

 

完全な無重力となれば、ガンザックのわずかな推進力でも地球に近付くことができる。

大気圏突入により膨大な圧縮熱が生じるが、鬼相纏鎧の能力を併せ持つ機神にとってはむしろ好都合だ。

 

『熱エネルギー、十分に溜まったぞ』

 

『俺の方で全身に回す』

 

『うむ、頼んだ』

 

各部のスラスターから炎を噴き出し、機神は仲間たちの元へと進路を取る。

 

(『地球は青かった』、か……)

 

ヴィクターは機神の掌の隙間から一部始終を見ていた。

自然あふれる地球は、本当に美しかった。

今の彼は反転したシルバースキン、防護服から拘束服へと変化したシルバースキン・リバースを身に着けている。

第三段階に達した今の彼のエネルギードレインは強大すぎる。

敵だけでなく獣も自然も近づくだけで死滅させてしまうからと、彼自身も着用に同意した。

エネルギードレインを完全に抑え込む武装錬金。

彼らの言う通り、手段を選ばなければ自分を殺す手段はいくらでもあったのだとヴィクターは理解した。

 

地図に載っていない孤島、亜細亜支部の施設があるその島の広場に、機神は着陸した。

大勢の戦団関係者が拍手や喝采で機神を迎え入れる。

その集団より一歩前。機神の正面になる場所にいる二人の姿にヴィクターは目を剥く。

 

「アレク……?ヴィクトリア……!?」

 

機神は主たちを下すよりも先に、掌を二人の前へと差し出す。

 

「アナタ……」

 

車椅子に座り、かつてと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた妻。

 

「パパ……!」

 

最後に別れたときとは違い、喜びの混じった表情で涙を浮かべる娘。

 

「……馬鹿、な……!」

 

『……えぇい、さっさと行ってやらんかい!』

 

機神の操縦権を強引に奪い取ったヒノカミがもう一方の手で硬直したヴィクターの背を弾いて掌から突き落とした。

 

『オイコラ!何やってんだテメェ!』

 

『アナタはもっとデリカシーってものをねぇ!』

 

『儂ら疲労困憊なんじゃぞ?

 無駄に時間を使ったらシルバースキンが解けてしまうかもしれんじゃろうが』

 

『俺を言い訳にするなよ!そんなにヤワじゃないぞ俺は!』

 

『まったく、アナタたちもいい大人なんですから、いい加減に落ち着きを持ってください』

 

背後の機神から響くやかましいやり取りなど耳に入らず、目の前にまで迫った二人から目を離さない。

 

「「……おかえりなさい」」

 

「っ!!」

 

その一言が聞こえた瞬間、ヴィクターは二人を抱きしめていた。

拘束衣越しであっても、二度と触れ合えないと思っていた愛する家族が腕の中にいる。

彼らを取り囲む戦団の者たちが拍手をし、指笛を鳴らし、祝福を口にする。

 

(あぁ……)

 

かつて錬金の戦士であった頃に出迎えてくれた仲間たちの姿が、周囲の者たちと重なる。

帰って来たのだ、彼は。

家族の元に。錬金戦団に。

 

「……ただいま。待たせて……すまない……!」

 

復讐に燃えた男はその炎を奪われ、溢れ出す怒りは涙へと変わっていた。

 

 

――――……

 

 

ヴィクターに妻の手から『白い核鉄』が手渡され、彼はそれを自分の胸に押し当て『黒い核鉄』を中和した。

 

「「「……え”?」」」

 

……はずだったのだが、中和しきれていなかった。一段階前に戻っただけ。

どうやら第三段階に至った彼を人間に戻すには一つでは力不足だったらしい。

戦団は大慌てになり、急いでもう一つ白い核鉄を作り出さねばと動き出したが、その前に武藤カズキが名乗り出た。

自分がヴィクターより先に人間に戻るのは違うだろうと、彼は今まで自分のために用意された白い核鉄を使わずに保管していた。

これを彼に使ってほしいと差し出され、確かに第一段階のカズキと第二段階のヴィクターでは後者を優先するべきであり、申し出を受けることになった。

そして二つ目の白い核鉄により、ヴィクターはついに人間に戻った。

シルバースキン・リバースが解かれ、直接家族と触れ合うことができた。

 

これで残る問題は一つだけ。カズキのために追加でもう一つの白い核鉄を作り出すこと。

第二段階に至っても白い核鉄一つで元に戻ることはヴィクターにより証明されている。

なので彼が第二段階に至る約5週間という期日に拘る必要はないのだが……。

 

「気合入れろぉ貴様らぁ!!」

 

「「「イエス・マム!!!」」」

 

「あの……やはり私も手伝いましょうか?」

 

「いーからお主はイチャついとれ!

 これは儂らの意地じゃ!こーなったら意地なんじゃーー!!」

 

『鬼のヒノカミ』率いる錬金戦団技術局員が奮起。

心優しき少年の想いに応えずなんとすると、期日中の白い核鉄の完成に挑む。

全員治療用核鉄を装備しての不眠不休体制である。

そして彼らはわずか一月で新たな白い核鉄を作り上げることに成功。

武藤カズキは人間に戻った。

……そこに、彼に執着するとあるホムンクルスの協力があったことを付け加えておく。

 

これにより黒い核鉄に端を発する事件はすべて解決。

面白くないのは亜細亜支部以外の錬金戦団だが、結局彼らはどうすることもできなかった。

ヴィクター事件の始まりは過去の錬金戦団の失敗であり自業自得。

よって彼から受けた多大な損害を請求することはできない。

というより、そう言い出した輩は社会的に抹殺された。

ヴィクターは亜細亜支部に仲間として受け入れられている。

下手に手を出すと、あのバスターエンペラーを敵に回すことになる。

自分たちが手も足も出なかったヴィクターを相手にした大立ち回りの中継映像は錬金戦団全体に流されていた。

亜細亜支部に喧嘩を売ろうとする前に、各々所属の戦士が全力で止めるか先んじて降伏した。

やがて亜細亜支部のやり方が戦団の主流となり、戦団は緩やかに変わっていく。

 

そしてヴィクターの帰還からおよそ2年。

アレクサンドリアは静かに息を引き取った。




次回、第三章完結となります。
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