『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第16話 鬼束 マトイ

怪人になっていたヴィクター、ホムンクルスになっていたヴィクトリアと違い、アレキサンドリアは生身のままで100年以上を生きてきた。

失われた肉体はヒノカミが用意した若い体だが、脳は著しく老化していた。

ヒノカミがヒーローの世界で自分を被検体にして確立した手法と、死神の世界で習得した回道や義骸の技術を組み合わせてなんとか繋いできたが、限界だった。

むしろここまで良く持ったというところだろう。

 

アレキサンドリアは偉大なる錬金戦団研究者の先達。

戦団支部を上げての葬儀が行われた。

望むなら彼らの故郷に埋葬すると提案したが、この支部の共同墓地で良いとのこと。

なんだかんだ支部の連中と交流があった彼女なら、そこに近いこの場所の方がきっと寂しくないだろうからと。

 

「改めて、お悔やみ申し上げます。」

 

「悔やむようなことなどない。

 かつて戦士として死んだ瞬間に失われるはずだった日常。

 この2年には、100年の苦難を超えるだけの価値があった。

 ……ありがとう。俺たちは幸せだった」

 

アレキサンドリアの墓の前で、ヴィクターと照星が向き合う。

ヴィクトリアは墓の前に、戦団の連中が持ってきた花を並べていた。

 

「だから、頼む」

 

「……本当によろしいので?」

 

「あぁ。俺を娘と同じ、人間型ホムンクルスにしてくれ」

 

照星の隣に立つヒノカミが割り込む。

 

「ホムンクルスの再人間化の研究が進んでいるとはいえ……まだ兆し程度しか見えてはおらぬのじゃぞ?

 折角人間の体に戻ったというのに、それを再び捨てるというのか?」

 

「だからこそだ。

 俺はもう、娘を置いていかないと決めた」

 

「パパ、私は一人でも……」

 

「俺のわがままだ。

 お前のウェディングドレス姿を見るまで、くたばるわけにはいかないからな」

 

「……もうっ!」

 

それは1年ほど前に行われた、防人と千歳の結婚式の影響だろう。

良き友人である千歳の晴れ姿を見て、目を輝かせていた娘の表情が忘れられない。

 

「……そーいやトキコの方はどうなの?

 カズキはすごい乗り気だし、トキコも満更じゃなさそうだけど……」

 

「戦士・武藤は高校卒業と同時にプロポーズすると息巻いていますが……どうでしょうね。

 彼も戦士・津村も、戦団所属になってからの日々で十分以上の蓄えはあるのですが……」

 

「斗貴子の実家をどう説得するかじゃよなぁ……」

 

「……未だに信じらんないのよね。トキコが名家出身のお嬢様って……」

 

未だに彼女の記憶は戻っていないが、定期的に実家に戻るようには命じていた。

実際には年に一度行くかどうかという頻度だったが……前回の斗貴子の帰省に際し面白がった戦団関係者……というかヒノカミ筆頭の馬鹿共が彼女に内緒でカズキを向かわせ、彼女の実家にて鉢合わせるように仕向けた。

望む形ではなかったとは言え立派に成長した娘が、突然彼氏を連れてきた。

親馬鹿を発揮した父、黄色い声を上げる女性の使用人たち、津村家は大混乱に陥ったそうだ。

報告を受けた戦団の大人たちが一斉にヒノカミたちを叱りつけたのは記憶に新しい。

尚、防人は説教される側であった。

 

「彼は強い少年だ。きっと彼女を勝ち取るだろう」

 

「勝ち負けがある問題ではないんですがね……」

 

「いやいや、『惚れた方が負け』とかいうじゃろ。

 そういう意味ではすでに勝って……ん?あやつらどっちが先だったんじゃ?」

 

「どっちでもいーわよ。

 ていうか、所構わずイチャつくのホント勘弁してほしいんだけど。

 見かける度に砂糖吐きそう」

 

カズキは歯が浮くようなセリフを恥ずかしげもなく叫ぶし、斗貴子の反応は未だ初々しいし。

支部でフラフラしていることが多いヴィクトリアは彼らに会うことも多く、そのやり取りを見る度にゲンナリした表情になるのだ。

亜細亜支部の自販機はブラックコーヒーがやたらと充実している。

 

「フッ……娘もいる。パピヨンとかいう青年もいる。

 改心したホムンクルスたちもいる。

 彼らを見ていると、ホムンクルスとして生きるのも案外悪くはないと思えるのさ」

 

流石に監視の目があり行動範囲にも制限はあるが支部のホムンクルス用設備は充実しており、人肉しか食えないなりにクローン肉や培養肉を用いた料理もレパートリー豊富である。

自堕落な日々を満喫している者もいるくらいなので、一理あるだろう。

 

「意志は固いか……儂が生きとる内に再人間化の技術を完成させねばなぁ」

 

「?そんなにかかりそうなのですか?

 アレキサンドリア女史のクローン技術と貴方の生体義肢技術のお陰で光明が見えていると聞いていますが?」

 

「いや、儂寿命が短いんじゃ。

 多分長生きできんし。あと10年?いや20年持つか?」

 

「初耳ですよ!?」

 

「アンタこそホムンクルスになんなさいよ!!」

 

「かっかっか。生憎儂は人として生きることに誇りを持っていてな。

 何と言われようとここは譲れぬよ」

 

 

それから約20年後。

予言通り、ヒノカミは亡くなった。

数多の発明を行い社会の発展に大きく貢献した彼女の名は表舞台にも轟いており、その早すぎる死を悼む者が彼女の葬儀に詰めかけた。

その中には成長した後輩たちやその子供。

人間に戻った元ホムンクルスたちもいた。

 

鬼束マトイ。享年50歳。

満面の笑みを浮かべての大往生であったという。




第三章『錬金術の世界』。これにて完結です。
設定紹介を挟み、第四章を開始します。
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