「……戻ったか」
「うぉっ!?なんだテメェは!?新手の妖怪か!?」
「落ち着いて、桑原さん!
この人はヒノカミさんだよ!」
「ヒノカミィ!?テメーらが言ってた変人か!?
女っつってなかったっけ!?」
決着をつけて、幽助とコエンマが戻って来た。
仲間の3人も共にだ。仙水と樹の姿はない。
流石に武装錬金の姿では誤解を招くかと、ヒノカミは維持に注いでいた霊力の供給を止めた。
間もなく鬼の鎧が消え、小柄な女が姿を現す。
ただし彼女の炎の制御は個性によるものなので、無数の炎の球体は変わらず戦意を喪失した特防隊員たちを取り囲んでいる。
「なぁ幽助。
忍は……笑って逝ったか?」
「!?アンタ、知ってたのか!!」
「そうか……だからお前は仙水に手を出さなかったのだな」
コエンマの抱いていた疑問が解消された。
ヒノカミは無関係な者や幼い子供を巻き込むような行いをひどく嫌う。
霊界に手を貸さないとしても、いつもの彼女なら仙水の野望の阻止に動くはずだと思っていた。
主義すら曲げるほど霊界を憎んでいるのかとも思ったが、何のことはない。
彼女は仙水の本当の願いが『魔界で死ぬこと』だと知っていたのだ。
人が通れるほどの大きさの穴なら霊界の者がすぐに塞ぎに来る。
だから彼女は騒動の間だけ人間界の被害を抑えるつもりで待機していた。
「大災害につながる可能性はあったし、実際に被害者も出ておる。
そして儂にも他の思惑があった。
じゃがなにより『どうせ死ぬならせめても』という気持ち、儂には痛いほど理解できるのでな……」
思い出すのはヒーローの世界での轟舞火の最期。
寿命が近いからと随分と勝手をやって、皆を悲しませた。
そんな自分が彼のわがままを止める資格などないと考えた。
無関係な人間たちに被害が出ない方法であったら、喜んで協力しただろう。
「……教えてくれ。
あ奴の最期はどうじゃった?」
「笑ってやがったよ……満足そーにな。ケッ!」
「かか……その様子では、お主の望む決着にはならなかったようじゃな」
そしてヒノカミは深々と頭を下げる。
「ありがとう。あ奴の最期を看取ってくれて。
嫌味にしか聞こえぬじゃろうが、心から感謝しておる。
……本当にありがとう」
「……仙水の奴もそう言いやがったよ。
調子狂うぜ。ったくよー」
幽助は完全に魔族に変貌したことで異様に伸びた髪をガリガリと掻いた。
続いてヒノカミは特防隊員たちを囲んでいた炎の塊を魔界の穴を囲むように移動させ、炎の糸に変えた。
まるで毬のような超高熱の網を作り、魔界の穴を囲む。
「これでしばらくは雑魚妖怪共も入ってこれまい。
その間に、儂の話をしたい。聞いてもらえるか?」
「すげぇ……マジで何モンだ?あのねーちゃんはよ」
「道すがら話しますよ。まずは洞窟の外へ……いいですか?」
「無論じゃ。師範にも聞いて頂きたいことじゃからの」
ヒノカミは付近で項垂れている特防隊員たちを威圧し、ついてくるように無言で促した。
桑原はもちろん、彼らのことは知らない蔵馬にも状況を説明した。
飛影は力を使い果たし眠ったままだ。
ヒノカミも帰りは歩きで、彼らと一緒に片道2時間。
出口で待ってくれている彼の仲間たちと合流した。
「さてと」
ヒノカミが強めに手を叩くと、彼女のテリトリーが発動。
突如地面に敷物と大量の料理が現れた。
「少し長い話になる。耳を貸してくれるだけでよいから付き合ってくれ。
その間、これらは自由に飲み食いしてくれて構わぬ」
「おぉ!腹減ってたんだよ!酒はあるか!?」
「なんじゃ幽助、貴様イケる口か。日本酒で良いか?」
「だっはっは!やっぱテメー話分かるじゃねーか!!」
適当に記憶の中から2,3本引っ張り出して具現化する。
この程度の食料品なら多めに霊力を注いでおけばテリトリーを解除しても数日は持つ。
消滅する前に消化され、彼らのエネルギーへと変換されるだろう。
「ほれ、貴様らも座って食え。
儂の話は貴様らも知っておいた方がいいことじゃ」
「おい、アイツら浦飯を殺そうとしたんだろ?」
「例外はいるが……彼らも任務に忠実だっただけじゃ。
それに何も喰わぬ連中と席を囲んでも居心地が悪くなるじゃろう?」
「そうだな……お前たちも来い」
「……はい、コエンマ様……」
特防隊員たちにも呼びかけ座らせる。
音頭を取る前に各々好き勝手に飲み食いを始めていた。
30分ほど、ヒノカミは彼らをぼんやりと眺めていた。
「では、そろそろ話を始めるか。
儂が霊界を離反した理由についてじゃな」
そう呟くと、全員が一斉に動きを止めた。
コエンマは真剣な表情でこちらを向くが、幽助などは相変わらず料理にがっつきながら耳だけ傾ける。
「結論から先に言おう。
霊界の許しがたい不正を知ったからじゃ。
悪事に加担するのはまっぴら御免じゃったからの」