「すまない、見苦しいところを見せた」
「いえ、お気になさらず」
なんとか持ち直したコエンマが北神に謝罪する。
彼の後ろでは幽助とヒノカミが未だに責任を押し付け合うかのように無言でメンチを切り合っている。
「割り込んできた身で勝手ではあるのだが、今度はこちらの話も聞いてもらいたい。
すでに把握しているようだが、ワシは霊界と魔界との関係を見直したいと思っている。
……尋ねるが、そなたらの勢力は人間界や霊界をどうこうしようと言う意志はあるか?」
「私を含めて、誰も興味がありません。
人間を見下している者なら大勢いますがね」
「ふむ……」
彼らの言う情報が事実であるなら、霊界としては人間を襲う心配がない雷禅と協力関係を築きたい。
こうして話す限り彼らは非常に理知的だ。
彼らの勢力が魔界のトップに君臨すれば交流も容易になるはず。
今から恩を売っておけば対等とはいかずともそれに近い形で同盟を結ぶことができるかもしれない。
「待てよコエンマ。そいつら嘘ついてやがる。
国王は断食してんのに、そいつらは今も人間を食ってるぜ」
「なんだと?」
「……よくわかりましたね。
ですがすべてが嘘ではありません。私もいずれ人間を絶つでしょう。
しかし今は敵に対抗するための体力がどうしても欲しいのです……」
北神は失敗を悟った。コエンマとヒノカミを軽視し過ぎた。
ヒノカミが強者であると知っていたのなら下手に隠そうとせず、最初から伝えていた方が好印象だっただろうに。
「そこは別に重要ではなかろう?
お主が気になったのは、未だ食事をしているこ奴らが断食している国王に仕えておる理由ではないか?」
「そりゃ全部が嘘だとは思ってねーけどよ、胡散臭いじゃねーか」
「は……?」
しかし魔族になってしまった幽助はともかく、人間であるヒノカミも全く気にしていなかった。
「……忌避しないのですか?我々は未だに、アナタと同じ人間を食料としているのですよ?」
「人間しか食えないのなら仕方なかろう。人も獣を殺し喰らう。
それは善悪ではなく生存競争じゃ。貪り弄ぶなら苦言くらいは申すがの。
流石に知人友人が目の前で襲われていたなら妨害もするが、あずかり知らぬところで名も知らぬ人間が食われていることにまで、儂は関与せぬよ」
「気にしないでくれ。コイツは妙なところでドライなんだ」
人間のヒノカミよりも、霊界のコエンマの方が顔をしかめているくらいだった。
北神は思わず拍子抜けしてしまい、苦笑する。
どうやら幽助とヒノカミ相手に余計な考えは巡らせない方がよさそうだと、正直に簡潔に答えることにした。
「……我々が国王に従っている理由は簡単ですよ。
共に戦って楽しいからです。
そして他の二人と戦っている理由は国王も我々もそいつらが嫌いだからです」
「なるほど、わかりやすい」
「率直にお願いしましょう。
私は霊界の……ヒノカミさんの協力も得たいと思っています。
劣勢の国に付くのは気が進まないと思いますが……」
コエンマはヒノカミの方を向く。
コエンマが霊界のトップに立った後彼女は正式に霊界探偵に復帰し、今も霊界のために尽くしてくれている。
コエンマが頼めば応じてくれるかもしれない。
しかし彼らが求めているのは彼女なのだから、彼女自身が決めるべきだ。
ヒノカミは勢力争いの類からは距離を置きたがるので、拒絶するかとも思ったが。
「……戦争に直接加担するつもりはないが、おそらく協力できることはある。
ただしばし時間をもらいたい。
雷禅とやらがくたばるとしても今日明日の話ではないのであろう?」
「国王が言うには、後1年くらいだと……」
「わかった。それまでには必ずそちらに向かう」
1年あれば、次元刀を完全に習得することができるはず。
次元刀はとんでもなく消耗が激しいが、ヘルメスドライブよりも更に強力な空間移動能力だ。
使いこなせるようになれば現世と魔界を自在に行き来できるはず。
それに何より。
「桑原と約束したからの。あ奴が高校受験を終えるまで離れるわけにはいかん。
途中でほっぽり出すのは儂の流儀に反する」
「変なとこ律儀だよなぁ、アンタ」
「……幽助はどうする?」
「行くぜ。仙水ん時にチャチャ入れてくれやがった件、ワビ入れさせねーと気がすまねー」
「そうか……わかった。霊界も協力しよう。微力だが全力を尽くす。
親善大使として浦飯幽助とヒノカミの両名をそちらに派遣する形を取らせてもらいたい。
準備と手続きがあるので、一週間ほど時間をもらえないだろうか」
「構いません。元々我々も、そのくらいでもう一度勧誘に来る予定でしたので」
「おい、オレは今すぐにでも……」
「まだ気軽に行き来はできんのじゃぞ。
人間界にはしばらく戻れぬ。
桑原や温子や螢子に別れの挨拶をしておかねばならんじゃろ」
「……そっか、そうだな。
ワリィ、やっぱ一週間後な!」
「えぇ、では一週間後に」