期日の一週間後。
幽助が霊界の親善大使として魔界に行く日がやってきた。
送別を兼ねて桑原やヒノカミ、コエンマといった関係者が幻海の寺に集まっていた。
「浦飯が『親善大使』ねェ~……ぶぁっはっはっは!似合わねぇ~!!」
「うっせぇぞコラァ!
名門高校目指して勉強する不良にゃあ言われたかねぇよ!!」
「……そういや浦飯、お前雪村とイチャついてたらしいじゃねぇか」
「!?桑原!儂にもその話詳しく!!」
「あ、テメェ余計なことを!
その手の話題振ったらマジでめんどくせーんだよコイツは!!」
北神たちはまた人間界に迎えに来るつもりだったらしいが、わざわざ結界を超える手間を負わせるのも心苦しいので人間界から幽助を送り出すことにした。
今は霊界特防隊が魔界への穴をあけてくれているところだ。
エンマ大王と一緒に元隊長の大竹も罷免されたため彼らとの間にはもうわだかまりはなく、ヒノカミが霊界探偵に復帰したこともあり、気安く接する間柄となっている。
「で、浦飯が雷禅って奴のところで飛影が軀、蔵馬が黄泉っつったか?」
「奴のところに行けば戦闘には不自由しないようだからな。
強くなるにはそれが手っ取り早い。奴に付くつもりはないがな」
「黄泉は俺の古い知り合いなんだ。借りもある。
奴の思想には賛同できないが……ここで断れば面倒なことになりそうだからな」
「……なんかあったら言えよ?手ぇ貸すぜ?」
「ありがとう」
今回、幽助と同時に飛影も魔界に向かうことになった。
蔵馬は間もなく母親が再婚予定のため、彼女の式を終えた後で期間を区切って向かうという条件で黄泉と交渉済みらしい。
幽助が雷禅の部下である北神たちと会っていた頃とほぼ同時刻、残る三大妖怪である軀と黄泉の部下が、それぞれ飛影と蔵馬に接触してきたらしい。
これを聞いたコエンマは本気で結界を解くことを検討し始めた。結界、穴だらけすぎる。
来訪の理由は北神と同じく勧誘。
三大妖怪たちは仙水の事件にて魔界に赴いた幽助たちの妖気を感知していたらしい。
雷禅の命が残り僅かであることは彼らも察知しており、その後行われるであろう両名の衝突に備え、戦力増強を図ろうとしている。
霊界は雷禅に協力することを決めたが、飛影は霊界の部下ではないため強制できず、蔵馬はやむを得ぬ事情がある。
それぞれ別の勢力に属することになってしまった。
「現世や霊界とも繋がる伝令機じゃ。蔵馬にもこの機会に渡しておく。
余裕と隙があれば我らに魔界の情報を流してくれるとありがたい。
救援要請でも構わんぞ」
「了解」「フン」「わかった」
飛影は怪しいが、蔵馬なら霊界に協力してくれるだろう。
人間を家族とする彼が、『人間など幾らでも食えばいい』と言う黄泉に忠誠を誓うはずもない。
霊界としても軀はともかく、黄泉に魔界を支配させるわけにはいかないと考えていた。
「幽助……と、蔵馬。ちとこっちに来い」
「……?なんだよ、そのでけぇ包みは」
「くく、儂の秘密兵器じゃ。
軀と黄泉に知られるわけにはいかぬが……蔵馬なら明かしておいた方が良かろうからな」
そうしてヒノカミは包みを開き、中の箱に詰められているものを二人に見せた。
幽助はあまりに見慣れた物に疑問を抱き、蔵馬はやがてその正体に気付く。
「……っ!?これは!?」
蔵馬が彼にしては珍しく大声を出したので、周囲の視線が集まってしまった。
ヒノカミは素早く隠してまた包む。
「幽助、霊界からの手土産じゃ。
雷禅に会ったらすぐに渡してくれ。
念入りに霊力を込めておいたから、十日は消えぬはずじゃ」
「はぁ?これテメーのテリトリーで作ったもんかよ」
「ヒノカミ……アナタも人が悪い。
こんな奥の手を隠しているなんてな」
「かかか、流石にコレは軀も黄泉も予想できまいて」
「えぇ、これですべてがひっくり返る。
……フフフ、まさか彼らが餌としか見ていない人間が、盤面を覆すことになるとは思いもしないでしょう」
「かかか」「フフフ」
ヒノカミが蔵馬と悪い顔で笑っている間に、魔界に行く準備が整ったらしい。
飛影は無言でさっさと通り過ぎてしまった。
「浦飯ぃ!オレ絶対高校受かるからよ!
自慢するからな!それまで死ぬんじゃねぇぞ!!」
「桑原ぁ!テメーが首席で合格してたら街中土下座で舟唄歌ってやるよ!」
長年一緒にバカをやってきた戦友との、初めての長い別れ。
それは非常にさっぱりとしたものだった。
幽助の背中が消え、穴が閉じる。
「……桑原。吠えたからには厳しくいくぞ?」
「おうよ!男、桑原に二言はねぇ!
勉強だろうが修行だろうがなんだって来やがれってんだ!!」
「かか、よく言った。
ではもう少し……厳しくいこうか……!」
「お、おう……」
男、桑原。早速後悔し始めていた。
そして月日は過ぎ、ついにヒノカミが魔界へと向かう日がやってくる。