『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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区切り所を見失い、少し長めになっています。


第12話

ヒノカミは人間でも食べられるという木の実などの食料を用意してもらい、腹に詰め込んで霊力の補給に勤しむ。

だが人間界や霊界の食べ物に比べて霊気の回復量が少ない。

霊気を持つ生物がいない、魔界という性質上しかたないのだろう。

人間の彼女は人並の胃袋しか持っていないので、強引に腹に詰め込むような真似はできずちびちびとかじり続けていた。

途中で手土産を持ってきていたことを思い出し、背負ってきた包みを食料の礼にと手渡す。

 

「……これが?」

 

「うむ。『霊界が作った』人肉風料理じゃ」

 

中身はただの肉団子。

ヒノカミのテリトリーで生み出したものではなく、彼女の知識を元に霊界が独力で作り出したものだ。

栄養価は低く味も薄いらしいが、人食い妖怪でも食すことができるのは実証済みだ。

 

「むぐ……僅かですが、確かに腹が膨れますね」

 

「ようやく形になったばかりの試作品じゃからなぁ。

 空腹という調味料がなければ食えたものではあるまいよ。

 じゃが技術は確立された。

 質も量も味も、時間が経つほど改善されていくじゃろう」

 

「まさに我々にとっての福音です。

 部下たちも霊界への態度を改めることでしょう」

 

実際に、他の妖怪たちも同様に肉団子を口に運び驚いた顔をしている。

 

ただ人肉と同じ物質で構成されていればよいというわけでなく、霊力を内包していることが重要だったらしい。

ヒノカミのクローン技術だけではそこが解決できずに手間取ったが、霊気の扱いならば霊界に敵う者はいない。

そして先日ついに、霊界は人食い妖怪用の食料の開発に成功したのだ。

これで同盟を結ぶことに懐疑的だった雷禅の部下たちも、霊界を対等な相手と認めざるをえまい。

 

そして喧嘩開始から1時間ほどで桑原が脱落した。

というよりも、何時間も元気に暴れまわる魔族が異常なのだ。

桑原と二人でよくわからない木の実をかじりながら、幽助と雷禅のハードなじゃれ合いを眺める。

そして更に数時間後、ようやく幽助が力尽きた。

 

「……魔族ってなぁ、やっぱヤベェな……」

 

「アイツら見とると、儂らもまだまだ人間を名乗れると安心するのぅ」

 

「くっそー……オヤジの奴めちゃめちゃ強くなってやがる……今まではマジで死にかけだったんだな」

 

「ピンピンしてらぁ」

 

幽助は一度倒れたはずがすぐに起き上がり歩いてきて、桑原の隣にどかりと座る。

桑原とヒノカミは乾いた笑いしか出てこない。

 

「つーか桑原、テメーいつの間に聖光気なんざ使えるようになったんだ?」

 

「儂と手合わせしとる内に、いつの間にかな。

 ……儂や仙水の立つ瀬がないわい」

 

「オメーに置いてかれたまんまじゃあいられなかったからな。

 つっても、だいぶ差ぁ開いちまったみてぇだが……」

 

「こりゃもう、儂が幽助に抜かれるのも時間の問題じゃな」

 

3人並んで、ぼんやりと賑やかな様子を眺める。

あれだけ暴れてもまだまだ元気が有り余っている様子の雷禅と、嬉し涙を流しながら彼の復活を喜ぶ部下たちの姿があった。

 

「慕われてんなぁ。

 ……魔族でも人間でも、やっぱ仲間ってなぁいいもんだ」

 

「これで雷禅の死は覆された。まずは一安心じゃな」

 

「おうよ!オレがぶっ殺すまで死なせてたまるかってんだ!」

 

「オイコラ霊界親善大使」

 

3人でグダグダと話に花を咲かせていると、部下たちを伴った雷禅が歩いてくる。

 

「……なんじゃ?」

 

近くまで来た雷禅は無言でヒノカミをじっと見つめる。彼女は思わず眉をひそめた。

 

「……ちげぇか。

 気の強いところは似ちゃあいるが、アイツがこんなチンチクリンになるはずはねぇな」

 

「喧嘩売っとんのか貴様ァ!!」

 

「落ち着け霊界親善大使」

 

幽助よりもヒノカミよりも桑原の方がよほど冷静だ。

名門高校次席入学を果たした彼はもうどこに出しても恥ずかしくない知性派の霊能力者。

霊界は彼の雇用を真剣に検討するべきである。

 

「……で?アイツってのは誰だ?」

 

「そうだな……テメェのおしめも取れたみてぇだし、話してやるか」

 

雷禅は3人の前に座り、長い話になるからと部下たちも後ろに座らせる。

 

彼が語ったのは、およそ700年前の出来事。

当時はまだ人間界と魔界の間に結界が張られておらず、雷禅も自由に出入りしていた。

ある日彼は人間界で、食脱医師(くだくすし)の女と出会った。

病原菌を自ら取り込んで抗体を作り、それを患者に投与することで治療する、当時の医者の一種。

雷禅に出会った彼女は彼を恐れるどころか、『病に侵された自分を食えば貴様も死ぬ』『喰わずに殺せば食人鬼としての誇りを失う』と、毅然とした態度で雷禅を圧倒したという。

 

「……ソイツをどうしたんだよ?」

 

「口説いた」

 

「「「……は?」」」

 

雷禅はその女に一目惚れし、一晩かけて拝み倒し、一夜を共にした。

そして生まれたのが幽助の祖先だ。

しかし彼女は子を産んで間もなく亡くなってしまった。

当時の雷禅は『彼女ともう一度再会するまで人間は喰わない』と勝手な誓いを立てていた。

そして彼女が死んだと知っても『生まれ変わった彼女の魂と再会するまで誓いを貫く』と決めたのだ。

 

「で、儂がそうかも知れぬと思ったわけか」

 

「それで死にかけて……?馬鹿かオメーは!?」

 

「……いや、わかるぜ雷禅サンよ!アンタぁ漢だ!」

 

受け取り方は三者三様だったが、純愛な桑原には特に深く刺さったようだ。

 

「だったら待ってるだけじゃいけねぇ!

 下らねー戦争なんざさっさと終わらせて、人間界に探しに行こうぜ!!」

 

「はぁ?オヤジが人間界に?……無理じゃね?」

 

「それが、無理とも言い切れぬのよな。霊界の姿勢は大きく変わった。

 ……魔界の抗争が平定すれば、結界を解くと決まったのじゃ」

 

「「「!?」」」

 

A級以上の妖怪を防ぐために結界を張ったはずが、実際にはA級S級の魔族が好き放題出入りしていることが判明し、その存在意義を問われていた。

そして親善大使の幽助とヒノカミのおかげで魔界の一国と同盟を結ぶこともできた。

これらの事実を受けてコエンマは、『500年続く魔界の抗争が平定したら結界を解く』と発表した。

大半の者は『結界を解くと言うのはただのポーズだ』と判断したが、コエンマは本気だ。

 

「……探しに行く、か。それもアリだな。

 つっても軀も黄泉も簡単な相手じゃねぇ。

 俺が力を取り戻したとなりゃ結託して襲ってくるかもしれねぇぞ」

 

「そこなんじゃよなぁ……軀をこっちに引きずりこめぬか?」

 

「難しいかと。この状況ではあちらが雷禅国王に下る形になります。

 簡単に受け入れるとは思えません」

 

「あぁ、めんどくせェ……」

 

「まったくだ。魔界は力が全てだってんなら、手っ取り早く一番つえぇ奴を決めりゃいいじゃねーか」

 

幽助の発言に、雷禅が興味を持つ。

 

「例えば……どうやってだ?」

 

「例えば?そうだな……」

 

 

――――……

 

 

「……面白ェな。それで行くか」

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