『さぁ、予選も残すところあと1ブロック!
……しかし、たった二人だけの戦いがここまで長引くとは、いったい誰が予想できたでしょうか!?』
黄泉とその息子・修羅との戦いになった34ブロックの試合も長引いたが、軀とヒノカミの戦いはそれ以上だった。
観客だけでなく試合を終えた選手たちも、モニターに映った二人の戦いを見守っている。
軀の空間断絶は、攻撃する瞬間だけでなくその後も空間のズレが残り続けるものだった。
無理に越えようとすれば体が裂けてしまう。
幸いにして、切断力はヒノカミの卍解の方が上だった。
軀の空間断絶を迎撃する形で刀を差し込むことで空間のズレを途中までで止めることができたが、刀一本と両手では単純に手数の差が倍。
ズレた空間に囲まれ逃げ場を失い、早々に切り札を切ることになった。
『おぉっと、ヒノカミ選手また消えたー!
しかし軀選手、背後から現れたヒノカミ選手の攻撃を危なげなく躱しています!』
切り札とは最初に具現化して隠し持っていたヘルメスドライブ。
白星が咥えヒノカミの代わりに発動しているが、移動先を指定する手間があるため一度転移した後でもう一度転移するには数秒の時間がかかる。
その数秒が軀相手では大きなタイムロスだった。
一度目は追い詰められ、ベストなタイミングでないのに使わざるを得なかった。
そこで斬撃を当てることができたが掠っただけだ。
二度目以降は奇襲にならず、すべて躱されてしまっている。
「随分粘るじゃないか。
……しかしこれ以上は時間の無駄のようだ」
「……」
軀もしばらくはヒノカミが何を仕出かすつもりかと身構えていたが、彼女はひたすらに軀の攻撃を凌ぐばかりで非常に消極的。
先ほどのように転移で離脱するついでに反撃するくらいしかしてこない。
もはや彼女には打つ手がないのだろうと判断した。
それでも試合時間を引き延ばそうとしているのだから、その意図は一つしか思い至らない。
「雷禅たちのために少しでもオレを消耗させようという腹積もりか?
……だとしたら失望だ。せめて潔く散るがいい」
「否」
しかしヒノカミは即座に否定した。
「この場に立った以上、皆一人の戦士よ。
後に続く者のため?儂は儂が勝つために戦っておる」
「ほぅ……では何の意図があってそのような無様を晒している?」
「貴様の攻撃を観察するためじゃよ」
ヒノカミは右手に持った炎の刀の先を軀へと突きつける。
「……昔から試していたのだが、どうしても実現できぬ技があってな。
しかしお主の『空間を切り裂く力』に光明を見た。
故に一度でも多く、その力を儂に見せてもらいたかったのよ」
「……なるほど。
ではその技とやら、この場で見せてもらえるのだろうな?
オレにここまでやらせておいて『出来ません』では許さんぞ?」
「……ぶっつけ本番じゃが……やってみせようか!」
ヒノカミは両手で炎の刀を握り、頭上へと掲げる。卍解の炎が揺らめく。
イメージするのは空間を切り裂く……飛翔する斬撃。
かつて父と慕った男が振るい、弟と呼んだ男が身に着けた技。
「……月牙天衝!!」
振り下ろした炎の刀から生じた斬撃が弧を描いて飛ぶ。
軀は迎撃ではなく回避を選んだ。それが正解だった。
斬撃は軀の背後の台地を抉り、舞台である億年樹を貫通してもなお止まらず、地上に届く寸前で薄れて消えた。
「……霊力の消費が馬鹿にならんな。だが遂に完成した。
『触れたものすべてを焼失させる斬撃を飛ばす』技。
……どうじゃ?貴様の技に負けず劣らずの凶悪さであると自負しておるのじゃが?」
「……クハハハハハハ!!!」
先ほどまでのつまらなそうな表情から一変。
軀は口角を吊り上げて笑う。
「いいぞ、やはりお前はいい!
……何としても手に入れたくなった!!」
「言うたであろう?儂を従えたくば……」
「この大会で優勝してみせろ、だったな。
フフフ……勝ち残らねばならない理由が増えた!!」
空間を切り裂く軀と、すべてを焼き消す斬撃を飛ばすヒノカミ。
二人の戦いはエスカレートし、それぞれの斬撃が飛び交う事態となった。
『お、億年樹がぁ!?』
彼女らの攻撃に耐えきれずバラバラになってしまった舞台が崩れ落ちていく。
それでも二人は空を飛びながら戦い続ける。
「くかかかかかか!!」「クハハハハハハ!!」
舞台が消滅したことで戦場が限定されなくなってしまった二人は周辺の空を飛び回り、やがて74ブロック周辺の億年樹にも余波が届き倒壊し始めた。
他のブロックの試合が終わった後で、本当によかった。
ここから落下した程度で死ぬような参加者はいないが、予選自体が台無しになり大幅な予定変更が行われることになっていただろう。
「……やはり、彼女はただ者ではありませんね」
「チッ……軀め、随分とはしゃいでいやがる」
「くっそー……ここでどっちかが消えちまうのかぁ……。
どっちとも戦ってみたかったぜ!」
蔵馬は戦慄し、飛影は苛立ち、幽助はあの場に自分がいないことを惜しんでいた。
他の妖怪たちも優勝候補と渡り合う人間の姿を、確かに目に焼き付けた。
本人が意図した形ではないが、ヒノカミは予選の段階で当初の目的を果たすことに成功していた。