『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第18話

軀とヒノカミの戦いの幕切れは、あっけないものだった。

 

「ま、わかっちゃいたんじゃがの」

 

攻撃力も防御力も素早さも特殊能力も、その全てが軀に追いついていた。

ただ種族差による持久力だけはどうしようもなかった。

相手の技を観察するためとはいえ、持久戦を仕掛けた時点で勝負は見えていた。

ヒノカミがエネルギー切れで降参だ。

 

「結果は予選落ちじゃが、儂らの戦いは魔界中に中継されていたらしい。

 これで霊界と人間を侮る者も減ったじゃろう。礼を言うぞ」

 

「……それはいいが、お前は何をやっている?」

 

「見てわからんか?」

 

簡素な台と屋根。

小さなキッチン。

個性で操っているコンロの炎。

蒸気を噴き出す蒸し器。

並べた椅子とカウンターテーブル。

 

「屋台じゃ」

 

「状況ではなく事情を説明しろと言っている……!」

 

今は予選と本戦の間の長い休憩時間。

試合を終えたヒノカミはあらかじめ持ち込んでいた特製兵糧丸で霊力を回復させた後、会場の外に小屋を立てて大量の肉まんを作り始めた。

霊界から送ってもらった材料で作ったそれを、周囲の妖怪たちに無償で配り始めたのである。

目的は人肉風料理の布教活動。

大会が終われば結界が解除されることになる。

早めに霊界の存在感を示しておくに越したことはない。

雷禅の部下たちにも協力を要請した。北神以外は全員予選落ちしたので。

 

「霊界は本気で魔族との融和に取り組んでいるのか……。

 で、オレを呼び出したこととどう繋がる?」

 

「伝えた通り儂の目的は霊界・人間の実力を示すことでな。

 儂を降したお主に勝ち進んでもらった方が助かるんじゃよ。

 なんで今のうちに媚を売っておこうかとな。ほれ」

 

そう言ってヒノカミは対面に座っている軀の前に料理を並べる。

霊界産ではなく、彼女のテリトリーで生み出した霊力たっぷりの料理だ。

 

「これが雷禅の腹を満たしたというヤツか……」

 

相手のペースに乗せられているようで気に食わないが、先ほどの予選で激しく消耗していることも事実。

興味はあったので素直に頂戴することにした。

中華っぽい服装だったからと安易な理由で最初に出された麻婆豆腐を一口。

 

「……うまいな」

 

「そりゃ何より。存分に喰ってくれ。

 お主に活躍してもらえれば、敗れた儂の立つ瀬もあるというものよ」

 

「……その理屈だったら、お前の名を売る機会を作ったオレのメシがあってもいいよな?」

 

いつの間にか軀の後ろに雷禅が立っていた。

ヒノカミはため息をついて、無言でテリトリーを発動し大量の回鍋肉が入った大皿を具現化する。

 

「けけけ、あんがとよ」

 

雷禅は軀の隣に腰かけ、素手で料理を掴んで貪り始める。

 

「箸とは言わんが、せめて匙くらい使え。あと汚れるから汁を散らすな」

 

「こまけぇこと言うなよ。

 どうせコレも屋台もテメーが出したんだろ?

 だったら数日経ちゃあ全部消えんだろうが」

 

「そうなのか?」

 

「注いだ霊力が霧散したら消滅するんじゃ。

 その前に消化吸収されたら関係なくなるから、メシを振舞うにはうってつけの能力じゃよ」

 

「……あれほどの武具を生み出す力でやることが配膳なのか」

 

呆れながらも食事を続けていると、更なる来訪者が。

 

「ほらパパ!こっから美味しそうな匂いがするだろ!?」

 

「おぉ、黄泉」

 

「雷禅……軀もか」

 

息子である修羅に引っ張られてきた黄泉は、椅子に座っている二人を見て顔をしかめた。

 

「確かお主は、修羅じゃったか」

 

「あ!お前は鬼だったヤツ!」

 

「いや人間なんじゃが……まぁ良い。お主も喰っていくか?」

 

ヒノカミが手を叩くと彼の前にお子様ランチが現れる。

 

「いいの!?うまそう!」

 

「なんだそりゃ?オレにもよこせ」

 

「たわけ。こりゃ子供だけの限定メニューじゃ。

 ほれお主も座れ。子を招いて親を追い返すほど儂は薄情ではない」

 

「……」

 

修羅は満面の笑みで食事にがっついているらしく、これは暫く動きそうにない。

妙に子煩悩になってしまった黄泉は息子を放っておけず、ため息をついて仕方なく席に座る。

 

「んだこりゃ。こっちはやたら薄味だな」

 

「勝手に喰うな貴様ぁ!そりゃ配布用の霊界製肉まんじゃ!」

 

「ふん……霊界も余計なことをしてくれたものだ。

 代わりの食料を用意してやるからもう人間を喰うなと言いたいのか?」

 

それは魔界の食料を霊界に依存するということ。

霊界や人間も侮れない相手だと認めた黄泉だが、面白くない状況であることに変わりはない。

 

「いや普通に喰えばええじゃろ?」

 

「「……は?」」

 

黄泉だけでなく軀も呆けた顔で声を漏らしてしまう。

 

「儂は選択肢を増やしただけじゃよ。

 人食いを続けるか、コレで我慢するか。

 どっちかに絞る必要もない。気分と状況次第でええじゃろ」

 

「貴様は人間だろう?

 人間が食われてなんとも思わないのか?」

 

「そりゃあ儂としてはやめてほしいさ。

 じゃが他人を食い物にする人間なぞ幾らでもおる。

 連中を放っておきながら、生きるために人を食わねばならぬお主らに『人を喰うな』とは言えんよ。

 ……あとなぁ、人間しか食えぬということは結局人間界に依存しとるわけじゃろ?」

 

「?」

 

「災害・疫病・戦争……人間はお主の思っているよりも遥かに脆弱じゃぞ?

 ふとした拍子に全滅したら、魔界の人食い妖怪も全滅するじゃろ」

 

「!?」

 

「代用品を用意するくらいしておかんかい。

 外部依存の状況を変えたいなら、次は魔界で食料を生産する方法を考えよ。

 貴様らが次の王となり国を率いるつもりならな」

 

「……コイツ本当に人間か?」

 

「けけけ。面白れぇだろ」




ヒノカミが魔族たちに対して圧倒的に劣っているもの。
それは『持久力』です。
原作で幽助と黄泉は60時間戦っており、人間のヒノカミには絶対に真似できません。
つまり最高出力は同等なのですがヒノカミは短期決戦型で魔族たちは超持久戦型。
これが彼らの霊力値・妖力値の差の理由です。

原作にて黄泉は幽助との戦いの疲労を理由に敗退していることから、インターバルはそう長くないと予測できます。
なのでヒノカミが優勝候補に勝てる可能性があるとしたら全力を振り絞っての一度だけ。
二度目はスタミナ切れでまともに戦えず勝ち目はありません。

当初の強敵は雷禅たち3人だけなので組み合わせ次第では優勝の目もありましたが、雷禅の旧友たちが参加し強敵が十数人に膨れ上がったため、二度以上ぶつかる可能性が非常に高くなってしまいました。
これが、ヒノカミが優勝を諦めた理由です。

感想でも何度か聞かれたのですがネタバレになるかと思い、数値の比較や数値を決めた理由を並べたり、連戦が不味いと匂わせるくらいで、劣っている部分の明言を避けていました。
紛らわしい形になって申し訳ありませんでした。
どうかご理解いただけますと幸いです。
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