「姉ちゃん!」「お姉ちゃん!」
ゴーレムから飛び降りた二人の子供が、泣きながらヒノカミに縋りつく。
何故彼らが泣いているのか、そんなことよりも気になる単語が聞こえた。
「……『姉ちゃん』……!?」
「これこれ、人前ではそう呼ぶなと言うたであろう?」
ヒノカミが屈み、二人を優しく抱きしめる。
つまりこの鬼の鎧姿の巨漢の正体は。
「「「「女ァ!!!!??」」」」
「かかか、そうと気付かせぬためのこの姿じゃからな」
揃って絶叫を上げた葉たちに雑に対処し、ヒノカミは二人を引き剥がして顔を覗き込む。
「さて……どうした?」
「消えないんだ……モヤモヤが……!
オレたち、父ちゃんの仇を取ったはずなのに……!」
「それどころか何か、何か大切なものを無くしちゃった気がするの……!」
「そうかぁ……」
金属の巨大な腕が、二人の頭を乱暴にかき乱す。
「復讐とは自分の心にケジメをつけるための行為じゃ。
その胸のモヤモヤを拭い去り、未来へと歩き出すための。
復讐を果たしてもそれが消えぬということは、お主らは復讐のやり方を間違えたのじゃろう」
「間違えた……!?オレたちの何が悪かったんだよ!?」
「悪かったのではない。むしろ良かったのじゃ。
お主らは父を奪ったチョコラブへの憎しみよりも、チョコラブを殺したことを悔やむ優しさを持っておったのだから」
「「!?」」
「敵討ちとは奪われたものを奪い返すことではない。
相手からまた別の物を奪い取って帳尻を合わせようとすることじゃ。
仇を取ったからとて殺された者は蘇らぬ。
仮に蘇ったとしても、失われた月日はもう戻らぬ」
「そんな……」
「じゃあオレたちどうすりゃよかったんだ!!」
「復讐に正解などないさ。
お主らが納得できる答えを見つけるしかない。
ただ、最も簡単で確かな指標ならあるぞ?」
「あるのか!?」「教えて!」
「幸せになることじゃ。すべての人は幸せになるために生きておる。
敵討ちですら憎む相手を貶め不幸にすることで、自分の方が幸せだと思い込むための手段に過ぎぬよ。
だから『どうだ、自分たちはお前なんかよりずっと幸せだったぞ!』と言える生き方を見つけるんじゃ。
そして自分を不幸にするような手段だけは、決して選ぶな」
「「……うん……!」」
二人の子供は、再びヒノカミに縋りついた。
「……耳が痛いか?」
「うん……少しね……」
同じくハオへの復讐を抱いているリゼルグは、葉からの質問にそう答えた。
両親の仇を討てるのなら、自分はどうなってもいいと思っていた。
力を求めてX-LAWSにも所属した。試合だからと、ハオと無関係な相手まで殺そうとした。
自分の歩んできた道が間違っていたとは思わないし、後悔もしていない。
ただ仮にすべてが終わったとき、自分は幸せになっているのだろうかと考えると自信がなかった。
「さて……ではお主らの幸せな未来のために、今ある苦しみを取り除かねばな。
……チョコラブを蘇生する。良いか?」
「「うん……」」
「ウェッヘッヘッヘ。あんがとな、ルドセブ、セイラーム」
「へんっ!アンタらのためじゃない!オレたちのためさ!
それに納得できなかったら、何度だってチョコラブをぶっ殺してやる!!」
素直になれないルドセブが意地を張ってしまう。
それがまさに『余計な一言』だった。
「……あぁ、折角じゃしそれも試してみようか」
「「「「……へ?」」」」
全員がヒノカミの発言を聞き返す。
葉も、蓮も、ミッキーも、ルドセブとセイラームも。
「蘇生する巫力に余裕はあるし、いっそ気が済むまで殺し続けてみるのもいいかもしれんな。
とりあえず10回くらい行ってみるか?」
「「「「鬼かテメェ!!?」」」」
「えぇー……死から蘇る度に巫力は大きくなるじゃろ?
こ奴にとっても悪い話ではないではないか」
「「「「鬼だコイツ!!?」」」」
「言葉の綾!言葉の綾だから!!」
「ウチのお姉ちゃんがごめんなさい!」
結果、姉の発言に全員がドン引きし、チョコラブを憎んでいたはずの弟妹が必死に彼を庇い立てするという奇妙な光景が出来上がった。
なるほど、彼女の鎧の姿は伊達ではなかったのだ。
「ホラ!早く生き返らせて!
余計な事しちゃ駄目だからね!?」
「えぇい、わかったわかった。
ゴーレムにつつかせるでないわい」
霊体は後でイタコに呼んでもらうとして、遺体は早めに治した方が巫力の消費が少ない。
ヒノカミはいそいそと地面に寝かされているチョコラブに近付き、彼の遺体に右手を伸ばす。
「……!」
しかし手が触れる直前で右手を引き、勢いよく両手を叩きつけた。
直後発生したこの場の全員を覆う半球状の結界が、襲い掛かる巨大な炎を防ぎ切った。
「……へぇ、面白い力だ。こんなヤツもいたんだね」
「ハオ……!」
大勢の部下を引き連れたハオが、戦いを終えた葉たちの元に現れた。