『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第9話

紅葉が話を終えた後、その場はすぐにお開きになった。

リゼルグは長時間X-LAWSの元を離れていたため急いで彼らの拠点である船へと戻る。

ハオの手下たちはついぞ仕掛けてくることもなく、なので葉たちも何もせずに送り返すことにした。

 

「ハオ兄上に伝えておけ。

 『そちらがなりふり構わぬなら、こちらも手段を選ぶつもりはない』と」

 

「わかった……いや、一ついいか?

 お前はハオ様を『読心術者』と言ったな……事実か?」

 

「間違いなかろうな。なんじゃ怖いのか?」

 

「……恐ろしくないと言えば嘘になる。お前は違うのか?」

 

「読心術者なぞ腐るほど見てきたから、今更なぁ。

 そもそも心を読まれて困るような生き方はしとらんでの」

 

「壮絶な人生だな。

 ……我々にもそう言い切れる心の強さがあれば……」

 

「……剥き出しの心に負の感情をぶつけられるのは辛いぞ。

 自分の気持ちを容易に変えることはできんじゃろうが、お主らがハオ兄上を支えたいと思うのなら、向き合おうとすることを諦めるな」

 

「フン……言われるまでもない」

 

紅葉とターバインの会話の後、彼らは無言で立ち去った。

 

その場に残ったのは、ここに宿泊予定だったふんばり温泉チームとTHE・蓮、およびその関係者。

故郷に帰るつもりだったアイスメンも、またハオの手下たちに襲われてはたまらないので脱出の機会があるまで滞在決定。

怪我はファウストと紅葉に治療してもらえたが、疲労もあるので宛がわれた一室に転がっている。

そして葉とミッキーからの誘いで、紅葉たち3人もこのまま滞在することにした。

試合では敵だがもはや殺し合うような関係ではなく、その実力は折り紙付き。

ハオへの牽制にもなるので葉たちにも都合がよかった。

 

「おぉ、お主筋がいいのぉ」

 

「アンタにゃ負けるぜ、紅葉チャン。

 まさかこんな調理法があったとはなぁ……!」

 

「かっかっか。

 何を隠そう、儂は料理の達人じゃからな」

 

「……なぁセイラーム。

 姉ちゃんが普通に葉の兄さんたちを『兄上』って呼んでるってことはさ。

 オレたちにとってもあの人らは兄ちゃんになんのかな?」

 

「どうだろ……それを言うとあのミッキーって人がお父さんになるの?」

 

「……あんな父ちゃんはイヤだなぁ」

 

「ぐっはぁぁああ!!!」

 

「こんなところで転がるなミッキー。

 料理運ぶのに邪魔じゃろうが。

 あとあの子らからの評価は自業自得じゃから受け止めろ」

 

紅葉はミッキーに恩はあるが、父として認めているわけではない。

葉にきちんと向き合わなかった彼は『駄目親父』認定である。

 

「皆の者ー。夜食ができたぞー」

 

「ヤッホゥ!」

 

「お兄ちゃん、流石に食べ過ぎ」

 

「これこれ、子供はもう寝る時間じゃろ」

 

「姉ちゃんだって体は子供じゃん」

 

「おっと、そう言われると言い返せんな。

 ……どうした?葉兄上」

 

「いやなー……話をする意味なくなっちまったなってさ」

 

「……あの話のことね」

 

葉は元々ある大切な話をするために、友人たちを集めていた。

そこにハオの手下やゴーレム・ヒノカミの襲撃、そしてハオ自身の出現により今まで機会を失い続けていた。

だが同時にこれらの事件により、話の根本が間違っていたことが判明した。

 

「オイラ、というか麻倉はな。

 シャーマンファイトに優勝するのはハオだと決めつけとったんよ」

 

「なんだと!?」

 

「だってそうだろ。巫力125万なんて数字、まともな試合じゃどう考えたってひっくり返せん」

 

だが優勝したシャーマンはグレートスピリッツを受け入れるための儀式により一時無防備になる。

その隙をみんなで協力して叩く、という作戦を提案する予定だったのだ。

 

「でもその前提の方がひっくり返っちまった。

 シャーマンファイトに優勝するのは紅葉だ」

 

紅葉が800万。ゴーレムが200万。

ルドセブとセイラームもそれぞれ8000。

アルケミストの巫力の合計は1000万オーバー。まさに桁が違う。

 

「おまけに紅葉は『個性』とか『武装錬金』とかいうので、炎に対して無茶苦茶強いらしいじゃねぇか。

 五行の力で水や土に性質を変えられると言ってもスピリット・オブ・ファイアは『炎』の大精霊。

 相性が悪すぎてハオに勝ち目はねぇ。

 ハオにも勝てねぇオイラたち他の参加者は相性以前の問題だ」

 

「ぐっ……!」

 

「ハオの言う通り、麻倉は絶対に紅葉を手放すべきじゃなかったんだ。

 そうすりゃ今回のシャーマンキングは麻倉家に決まってたんだから。

 こんなすげぇ力を持ってると知ってたら思いとどまったかもしんねぇけど、今更だな」

 

流石の蓮も言葉を詰まらせる。

だがここで気になる単語を聞いた紅葉が挙手。

 

「その……儂はそんな儀式があるとか初耳なんじゃが……?」

 

「あ?……あー……」

 

彼女はシャーマンのことを、ミュンツァー博士から聞いた情報でしか知らない。

ゴーレムに残された知識から我流でオーバーソウルという技術を身に着け、来訪したパッチから『優勝すればなんでも願いが叶う』と聞いてシャーマンファイトに参加しただけ。

アルケミストの面々はどの参加者よりも強く、どの参加者よりも無知という、非常にアンバランスなチームなのである。

 

「二次トーナメントに進んだ者だけが行けるエリアがあって、その最深部で儀式が行われるらしいんよ。

 だからオイラたちはそこに行った後で試合を辞退して、団結して儀式の妨害に向かうつもりだったんだが……」

 

「それ儂が優勝したらハオ兄上が襲撃してくるということではないか!?」

 

「「「……あ」」」

 

1次トーナメントでアルケミストと星組はぶつからない。星組が二次に勝ちあがるのはほぼ確定だ。

 

「だ、大丈夫さ。そのシャーマンキングを守るためにパッチの十祭司がおるんよ。

 アイツらも本気出したらスゲェ強ぇらしいから」

 

「儂がおらねば確実に王になっていた男じゃぞ!?

 あのラキストとかいうのも相当できる!

 スピリット・オブ・ファイアの餌にされる未来しか見えん!」

 

巫力だけならゴーレムの方が上だが、圧倒的戦闘経験を覆すほどの差はない。

ゴーレムが食われたらいよいよハオは手が付けられない存在になるだろう。

葉たちの考えていた作戦は、前提と一緒に攻守が丸ごとひっくり返ってしまったのである。

 

「……まいったなぁ。ウェッヘッヘッヘ」

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