『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第11話以前の話も編集して、行間を開けました。
見づらいところがあったら指摘していただけると助かります。


第14話 轟 焦凍

純和風な日本家屋。専用の道場付き。中々の豪邸である。

日本ナンバー2ヒーローの収入を思えば当然であろう。

久しぶりに訪れた舞火は、兄の家族に暖かく迎え入れられた。

心が痛む。意図的に距離を取っていたのに、それを知らせていないとはいえ彼らは自分を問い詰めることもなく歓迎してくれているのだ。

一人を除いて。

 

「久しぶりじゃな。今年の正月は足を運べずにすまんかった。

 一応教師になる故、入学予定の生徒と私的に会うのは憚られての」

 

「……あぁ」

 

「これ、儂とオールマイトからの合格祝いじゃ」

 

「……あぁ」

 

「遅くなったが、合格おめでとう」

 

「……あぁ」

 

「……」

 

自分に会いたがっていると聞いた甥、兄の末息子である轟焦凍が、妙に冷たい。

元々感情を表に出さないタイプではあるがそれにしても淡泊すぎる。

あまりの気まずさに、丁度後ろを通りすがった他の家族に挨拶する振りをしてその場を離れる。

 

「燈矢、焦凍は一体どうしたんじゃ?

 儂何かした?」

 

「何かしたって言うか……何もしなかったから拗ねてんだよ」

 

兄の長男、轟燈矢。

プロヒーローであり兄のサイドキック。

そして自分の一番弟子とも呼べる存在である。

 

「俺がガキの頃はさ、舞姉が付きっ切りで個性の使い方を教えてくれてたじゃん。

 だから自分も訓練に付き合ってもらえると思ってたみたいなんだよ、アイツ」

 

「焦凍の個性は炎だけではないし、伝手もノウハウもある兄上の指導の方が伸びるじゃろ?

 それに以前来た時はここまで露骨な態度は出しておらんかったはずじゃが……」

 

「親父の訓練の方が合ってるってのは理解してたみたいだけどさ、舞姉、焦凍と同い年の弟子取って育ててたらしいじゃん。

 なんで自分をほっといて他人に構うんだって考えるのも当然だと思うぜ?」

 

どうやら雄英の受験にて緑谷と爆豪を見た兄が、彼らのことを焦凍に話したようだ。

それが焦凍を傷つけてしまったらしい。

背を向け離れれば会いたいと言われ、覚悟を決めて向き合えば拒絶される。

何事もうまくはいかないものだ。

 

「フン!貴様がくだらん真似をしていたからだ」

 

「あら、口を滑らせたあなたにも原因があるのでは?」

 

「いやいや、今回の件は完全に儂のせいですので」

 

揃ってやってきた兄炎司と、義姉の冷に頭を下げる。

 

「とはいえ……焦凍がいつまでもあの調子では空気が悪い。

 責任を取って、得意の口車でなんとかしてこい」

 

「ん-……どういう流れに持っていこうかのー……」

 

「いやなんで乗り気?悪口なんだから否定しろよ」

 

呆れる燈矢をおいて、再び焦凍の元へ向かう。

何を話すつもりか気になったようで、兄夫妻と長男も少し距離を置いてついてきた。

 

「焦凍、お主は強い」

 

「……?」

 

突然脈絡のない話を始められて、焦凍は邪険に扱うことよりも疑問が勝った。

 

「儂や兄上がお主ぐらいの年の頃も、お主ほどではなかった。

 雄英の試験を直接見た儂が断言する。

 今年入学する生徒に、今のお主に敵う者はおらぬ。

 お主は労することなく雄英を首席で卒業することになるじゃろう。

 ……あ奴らがおらねばな」

 

「っ!」

 

舞火が彼女の弟子だという二人組を話題に挙げ、焦凍は露骨に嫌悪感を示す。

 

「……俺が負けるって言いたいのか?」

 

「少なくともあ奴らは主を超えるつもりでおるぞ。

 何せオールマイトを超え、ナンバー1ヒーローになると公言しておるからな」

 

舞火は焦凍を慰めるどころか、表情と言葉の両方で煽りにきた。

 

「今はまだお主に及ばぬが、うかうかしていれば追い抜かれるやもな。

 それだけの覚悟と可能性を秘めておるからの」

 

「……ふっざけんな!

 ナンバー1ヒーローになるのは俺だ!」

 

耐え兼ねて焦凍が舞火に吠えると、彼女は表情を変え、邪気のない笑顔を見せる。

 

「その意気じゃ。

 切磋琢磨し、共に高みを目指して行け。

 これからの3年間、きっとお主は退屈せんぞ?」

 

「……!」

 

人とは自分の都合の良いように考える生き物。

舞火の発言は、彼女が焦凍のライバルを用意するために弟子を取り、鍛え上げたようにも聞こえただろう。

 

「……母さん、まだ夕飯まで時間あるよな?

 道場に行ってくる」

 

「はいはい。

 無理しないよう、あなたも焦凍に付き合ってあげて?」

 

「……軽くだぞ。今日はもう遅い。

 本腰を入れるなら明日からだ」

 

焦凍が兄を連れて力強く突き進んでいく。

十分に離れたと判断したところで舞火は息を吐いた。

 

「ふーぃ。なんとかなったわい」

 

「……ホントたちが悪ぃな。

 悪女だよアンタは」

 

「失敬な。嘘はついておらんぞ?」

 

「それ詐欺師の常套句だろ」

 

時間が経過し、訓練から戻って来た焦凍の態度はすっかり以前の通りに戻っていた。

兄と義姉、4人兄弟の7人で、騒がしい食卓を囲む。

子供たちが寝静まった深夜、3人の大人が向かい合う。

 

「舞火さん……やっぱり、あの子たちに話しちゃダメ?」

 

義姉の冷には、舞火の寿命が後わずかであることを明かしている。

彼女は先ほどまでも笑い合う息子たちと舞火を、少し離れた場所から寂しそうに見守っていた。

 

「あまり公にしてよい話ではありませんからな。

 あの子らが知れば、義姉上のように隠して振舞うことはできんでしょう。

 燈矢ももう大人ですが、感情を表に出しすぎる。

 ……そういうところは、昔の兄上そっくりでしてな」

 

「フン!余計なことは言わなくていい!」

 

おやおや昔と言わず今もだったかと、舞火は更に兄を茶化す。

義姉の笑いが治まったところで舞火は姿勢を正し、畳に掌をつけ頭を下げる。

 

「冷殿。今日まで大変お世話になりました。

 どうかこれからも、兄上を支えてやってくだされ」

 

間もなく雄英での激動の日々が始まる。

時間に余裕がある状況で義姉と向かい合うのは、これが最後の機会になるだろう。

 

「……必ず」

 

冷もそれをわかっているから、義妹を心配させまいと力強く答える。

 

「お前は余計なことを考えなくてもいい。

 成すべきと思ったことを成せ。

 ……馬鹿な妹の尻ぬぐいは、兄の役目だ」

 

「ありがとうございます。兄上」




皆仲良し轟一家。この物語では荼毘は生まれません。
妻の入院も、焦凍の火傷もないです。
あと焦凍の実力がとんでもなく高くなってます。
暑苦しい父を鬱陶しく感じつつも、その実力とあり方は尊敬できるものだったので、素直に父の教えを受けて育ちました。
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