「どういうことだよ……『シャーマンキングになったら夢が叶わない』って……普通逆だろ?」
「……詳しく説明してもらえるか?」
「えぇ……ではまず、アナタは『シャーマンキング』とはどういった存在だとお考えですか?」
「……『グレートスピリッツを使役する許可を得たシャーマン』。
グレートスピリッツとはこの世界のあらゆる霊の集合体であり、その力を引き出すことができればこの世で叶わぬ願いはない。
こんなところか?」
「ではどうやってグレートスピリッツの力を行使するおつもりで?」
「どうやって?そりゃ持ち霊にするんじゃから巫力を注ぎ込んで……」
「すべての霊の集合体ならば、その霊力はどれほどになるでしょうか。
その方法ではグレートスピリッツの霊力を抑えねばならず、シャーマンの巫力分の力しか発揮できません。
それでは全知全能とは程遠い」
「……確かに」
神々の霊力は1体でも数十万。それを無数に束ねたとなれば800万でもまったく届くまい。
シャーマン能力を知ると同時に膨大な巫力を自覚した紅葉は、『巫力が足りない』という事態に陥ることがなかった。
故に想像力が欠如していたのだ。
「シャーマンキングがグレートスピリッツの力を十全に行使するには、人の体を捨て、グレートスピリッツと一体とならねばなりません。
即ち『シャーマンキングになる』とは『この世界の神』になることなのです」
「『この世界の神』……では!?」
「えぇ。アナタがシャーマンキングになれば、アナタの魂はこの世界に縛られる。
……故郷の世界に戻ることは叶わなくなるでしょう」
『シャーマンキングになればあらゆる願いを叶えることができる』。
嘘ではないが、ただし『この世界では』だ。
紅葉を担当したパッチの十祭司タリムも、まさか彼女の願いが『別世界に渡ること』などと思いもしなかっただろう。
これが事実ならば、紅葉は絶対にシャーマンキングになるわけにはいかない。
故郷や恩人たちの世界に帰還するという目標に比べれば、一つの世界の神の座ですら彼女にとっては無価値も同然だ。
「ご理解いただけましたか?」
「あぁ、ようわかった。すまんな、正直疑っていた」
紅葉は素直にサティに感謝していた。
危うく取り返しのつかない失敗をするところだったのだから。
「では出場の辞退を……」
「いや、答えは『否』じゃ」
しかしそれとこれとは話が別である。
紅葉はすっぱりとサティの要請を拒絶した。
「……理由をお聞かせいただいても?」
「世界の命運を全て子供らに押し付けて早々に離脱するような真似は、儂にはできん。
『大人』としては、な。
お主の話の通りなら最終的に『五人の戦士』に頼るしかなさそうじゃが、せめてそこに至るまでは可能な限り支えてやりたい」
「っ……」
サティの言う3チーム9人の中で大人と呼べるのはファウストとマルコの二人だけ。
前者は葉のイエスマンで、後者はX-LAWSの影の首魁。
リゼルグは信用できそうだが実力も立場も劣るためマルコを抑えられないだろう。
葉たちの負担はとてつもなく大きくなるはず。
「そしてもう一つ……ちょいとお耳を拝借」
そう言って紅葉はサティに近付き、小声で何かを伝える。
「……事実ですか?」
「誓って。
どうじゃ?これでも『アルケミスト』にシャーマンファイトを辞退してほしいか?」
「……撤回せざるをえないでしょう。
我々ガンダーラの『如来』『天』の両チームのみ参加の辞退を表明します」
葉たちには何を話したか聞こえなかったが、紅葉がサティの説得に成功したらしいことはわかった。
「どうせなら、儂らと主らでやり合ってもいいんじゃよ?」
「我らは五大精霊を手に入れるための戦いを控えています。
不要な争いはもちろん、消耗も避けたいのです」
「かかか。そこで『勝てぬから』と言わぬあたりとんだタヌキじゃな」
「フフッ……今日はこれで失礼させていただきます。
お話を聞かせていただき、ありがとうございました」
「いや、こちらも有意義な時間であったよ。ではな」
そしてサティはあっさりと帰って行った。
「……結局、どうなったんよ?」
「なぁに、葉兄上らは気にすることではない。
試合に備えて休んでおれ」
翌日、パッチより『如来』と『天』の棄権が発表され、『アルケミスト』と『X-Ⅰ』の二次トーナメント進出が決定した。
よって一次トーナメントは『ふんばり温泉チーム』と『THE・蓮』を残すのみとなる。
会場再建の目途も立ったらしい。
決着の時まで、あと1週間。