『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第15話

パッチ族の必死の作業により、ついにスタジアムの再建が完了した。

しかし『如来』と『天』が出場を辞退したのでここが使われるのは、あと1回だけ。

パッチ族は普通に泣いていい。

 

友人同士、全員が神クラスのシャーマンとなった『ふんばり温泉チーム』と『THE・蓮』の戦い。

一次トーナメント最終試合として、これ以上のカードはないだろう。

島中の人間がこの試合を見るために会場に押し掛けた。

ただ二人の例外を除いて。

 

「お前は行かないのか?」

 

「訓練で彼らの戦いは何度も見ておるし、どっちが勝っても結果は同じじゃからなー」

 

拠点にてコーヒーを飲みながら雑談に興じるハオと紅葉。

二次トーナメントの舞台は……『ムー大陸』。

海中深くに沈んだ伝説の大陸であり、パッチ族による先導が無ければ辿り着けないシャーマンの聖地。

 

……だがこの世界とは地続きの場所。

結界により遮断された異界とすら空間を繋げる次元刀の前には無力だ。

紅葉が二次トーナメントに参加しその場に招待された時点で彼女はその座標を記憶する。

すると紅葉とその仲間たちは自由に出入りができるようになってしまうのだ。

葉が勝とうが蓮が勝とうが、来られなかった方を後から連れてくればいい。

 

もはや葉たちはシャーマンファイトでの勝利ではなく、シャーマンキングとなったハオと戦うために動いているので勝敗に拘る意味もない。

今試合を行っているのも、ただ決着をつけるに相応しい舞台だからでしかない。

 

「義姉上らだけではなく、ハオ兄上の仲間たちも呼ぶ予定じゃ。

 皆で兄上が王となる瞬間を盛大に祝ってやろうぞ」

 

「……わかっているのか?僕は人間を滅ぼそうとしているんだぞ?」

 

「そうさせぬために我らが動いていることは把握しておろう?」

 

「あぁ……まったく余計なことを」

 

紅葉と出会ってから、ハオはずっと苛立ちっぱなしだ。

自分をからかってくる事とか、自分よりも強いこととか、確かに理由はいくつもある。

だが最も気に食わないのは、紅葉が周囲の人々から『ハオへの恐怖を取り除こうとしている』ことだ。

 

紅葉は自分の力を大々的に示し『ハオ以上の強者』であることを誇張した。

紅葉は自分の過去を明かし『ハオ以上の邪悪』が存在することを知らしめた。

そして『読心』という能力は万能ではなく苦痛を伴うものだと理解させた。

紅葉は『ハオよりも恐ろしいもの』を提示することで、相対的に『ハオへの評価』を下げようとしている。

決して恐るべき、忌むべき存在ではないのだと錯覚させようとしている。

つまり彼の孤独を取り除き、情に訴えかけようとしているのだ。

 

「お前のせいでアイツらが随分と馴れ馴れしくなってしまった。

 僕はアイツらのことなんて、道具としか考えていないというのに」

 

「かかか。それを理解した上で好意を向けられては流石に邪険に扱えぬか?」

 

「……ちっ」

 

ハオの手下たちはハオの能力を知り、ハオが自分たちを内心で見下していたことを知り、その上でハオと共にいることを選んだ。

たとえ道具としか思われていなかったとしても、彼らは皆ハオに救われたから今がある。

読心術者は『悪意』だけでなく、『善意』も真っすぐに受け止めてしまう。

 

「ハァ……貴様のような奴がいると知っていたら、とっとと次のシャーマンファイトに切り替えていたものを」

 

「怖い顔じゃのー。じゃが以前までの作り笑いよりよほどマシじゃな」

 

「誰のせいだと思っている」

 

気に入っていたはずのコーヒーの苦みも、今は眉間の皺を増やすばかりだ。

そこでハオはちょっとした意趣返しを仕掛けることにした。

 

「……あぁ、今からでもその方針に切り替えるのもありかもしれないな」

 

「む?」

 

「何、やはりシャーマンキングは最も強いシャーマンでなるべきではないかとね。

 お前がなるといい。……叶わぬ夢のことなど忘れてね」

 

紅葉の表情が薄くなる。彼女の感情が急激に冷たくなっていくことを感じ取る。

ハオが二度の転生を行ってまで求めていたシャーマンキングの座を『いらない』と宣言される。

これもまた、紅葉がハオを苛立たせている理由の一つだ。

 

「わかっているんだろう?お前が故郷を離れてどれほどの月日が経ったと思っている?

 仮にお前が故郷に辿り着いたところで、すでにお前を知るものは誰もいないんだぞ?」

 

「……」

 

「故郷だけじゃない。お前が巡って来た他の世界もだ。

 どこもかしこも酷い世界じゃないか。

 まさかこの腐った世界がマシな方だとは僕も驚いたよ。

 ……そうまでして戻る価値がどこにある?

 この世界でシャーマンキングとなり、自分の住みよい世界を作ろうとは思わないのかい?」

 

心を読めるハオならば紅葉が口に出すまでもなく答えがわかるはず。

なのに彼は紅葉が答えるのをずっと待っている。

彼は紅葉の退路を断とうとしているのだ。

思うことと口にすることでは、その重みはまるで違う。

 

「儂は皆に、再び会おうと約束をした。

 他の誰でもない、『自分自身の魂』に誓ったのじゃ。

 時代が過ぎ去ったというなら……次は時を超える方法でも探すさ」

 

「傲慢だな。お前は神にでもなろうというのかい?」

 

「シャーマンキング目指しとる兄上も似たようなもんじゃろ」

 

「……ハッハッハ!確かにそうだ!」

 

彼女は強い。

霊力よりも巫力よりも、その心が。

そして『大切な誰かに会いたい』という気持ちは、ハオには痛いほど理解できた。

 

「……おっと、どうやら試合が終わったようじゃぞ」

 

「ここは会場から随分離れているはずだが?」

 

「かかか、地獄に行かずとも地獄耳にはなれるということじゃ。

 どうやら勝者は――」




葉と蓮、どちらが勝ったかは敢えて言及しません。
皆さまの想像にお任せいたします。
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