『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第1話 目覚め

――やぁ。

 

「……貴様、は……」

 

僅かな光すら届かない、完全なる暗闇の世界。

長年そこに封じ込められていたヒノカミは、突如目の前に現れた人物を見て久しぶりに声を出す。

 

「……何の、ようじゃ。

 今更……儂を、笑いに、きたのか……?」

 

――おいおい、そんなことで時間の無駄をするほど僕が暇だと思うかい?

 

「ふん、よく言う……」

 

相手を視界に入れないよう目を背けて答える。

コイツ程時間を持て余している者はいないだろうに。

 

――今日は提案に来たのさ。

  キミをここから出してあげよう。

  キミがずっと欲しがっていた力をあげよう。

  だから僕のお願いを聞いてくれないかな?

 

「……ふざけるなよ……儂に、貴様の走狗になれというのか!?

 ……儂がこうなる原因を作った貴様が!」

 

ヒノカミはかつて目の前の相手と戦い、負けた。

ありとあらゆる力と技を総動員しても、コイツには傷一つつけることができなかった。

 

――げらげらげら。

  僕はとっくの昔にキミを開放したじゃないか。

  その後でキミを捕まえたのは僕じゃないだろう?

  『僕は悪くない』……っと、彼のセリフを奪っちゃったね。

 

「ふざけるなぁっ!!

 貴様が儂に仕出かしたこと、片時も忘れたことはないぞ!

 ……この五千年な!!」

 

――……。

 

人を人とも思わぬ人でなし。

それどころか人と物の区別すらつかない本物の外道。

ある意味、あのAFOすらも超える邪悪。

ヒノカミが頷くことなどありえない。

 

「必ず殺す!ここから出すというなら出してみるがいい!

 儂は貴様を殺すために、何度死んでも貴様を追い続けるぞ!!」

 

相手はできぬことなどないと豪語する全能者。

勝ち目があるとは思えない。だがそう叫ばざるを得なかった。

 

――残念。それは『できない』のさ。

  何せ僕はもう死んじゃったからね。

 

「……何?」

 

ここで初めて、ヒノカミは目の前の人物の顔を見る。

脳裏に焼き付いた憎たらしい笑顔……ではない。

慈愛に満ちた穏やかな笑みだった。

 

――僕じゃあの子たちを守ることが『できなかった』。

  だから恥を承知で頭を下げに来たのさ。

  アイツを止められるのは君しかいない。

  ここにキミも捕らえられていたことは……予想外の幸運だったよ。

 

「貴様が……?」

 

コイツが自分以外の誰かを守るために戦い、命を落とした。

『自分以外は平等にゴミ』と言い張ったこの女が。

かつての彼女を知るヒノカミはそれが信じられなかった。

 

――この僕は残留思念のようなもの。

  殺すまでもなくもうすぐ消える。だから。

 

彼女は自分の唇でヒノカミの唇を塞いだ。

同時にヒノカミの中に力と、彼女の記憶の一部が流れ込んでくる。

 

――報酬は前払いだよ。

  踏み倒してくれても構わない。

  ……ま、キミにそんな不義理な真似ができるとは思わないけどね。

  くけけけ。

 

「フンッ……ちっとはマシになったかと思えば、口の悪さは相変わらずか」

 

そしてヒノカミを雁字搦めにしていた鎖がひび割れ、砕け散っていく。

遥か彼方に空間の隙間から差し込むわずかな光が見えた。

 

コイツが憎い。

わずかでも思い通りになどなってやりたくない。

だが彼女を殺した者が彼だというのなら……彼がまだ生きているというなら、ヒノカミは向かわずにはいられない。

 

 

「……儂を解き放ったこと、後悔するなよ。安心院なじみ」

 

――何度も言っているだろう?

  僕のことは親しみを込めて、『安心院さん』と呼びなさい。

 

 

 

――――……

 

 

 

獅子目言彦。

土地を守り民の盾となり、悪を正し弱きを助け、仲間と共にあり女を愛し、戦い続けた五千年前の御伽噺の英雄。

しかしかつての高潔な人柄は今や見る影もない。

ただ『生き続ける』ことに固執する彼は、自分の次の体となる『不知火半袖』を奪いに来た『黒神めだか』たちを弄ぶように傷つけた。

あらゆるスキルは通じず、一度彼に破壊されれば二度と元には戻らない、不可逆のデストロイヤー。

救援に来た箱庭学園のエリート、『十三組の十三人(サーティン・パーティ)』の『表の六人(フロント・シックス)』の攻撃を受けても、マッサージだと誤解して居眠りをする有様だ。

 

「なまっておった儂の身体をほぐしてくれるとは新しくも親切な奴らよ!!

 だがそのような機嫌取りが儂は一番嫌いなのだ!

 こびへつらいおって!

 どうして正面から戦いを挑まんのだ情けない!!」

 

元よりめだかたちの目的は不知火半袖の奪還。

彼を打倒する必要はないが、こうまで手も足も出ないとなると言葉も出ない。

だが間もなく表の六人をこの場に呼びよせた者が救援に来る予定だ。

それを知らないめだかはなおも言彦と戦おうと身構える。

 

「「……ぬ?」」

 

めだかと言彦の声が重なった。

いつの間にか彼らの間に、一人の女性が立っていた。

和装を着て、腰に刀を下げ、左腕に蛇を巻きつけた小柄な女性が。

 

「……おぉ……おおお……うぉぉぉおおおおおっ!!」

 

彼女の姿を目にした途端、言彦は歓喜の叫びを上げた。

そしてその声が止む前に瞬時に彼の目の前に移動した女性が、言彦の腹を殴った。

 

「がはぁっ!?」

 

今確かに言彦は傷つき、血を吐いた。

たったの一撃で彼は樹海を貫き、遥か遠くまで殴り飛ばされていった。

自分たちが散々攻撃してもまったく通用しない相手に確かなダメージを与えた存在に、めだかたちは目を見開く。

 

「あれは……!なんでコイツまで!?」

 

「!?彼女を知っているのか、不知火!?」

 

「ウチの里で保管されていた、もう一体の化け物だよ!

 誰も開放できないように、厳重に封印されていたはずなのに……!」

 

後ろで話す彼らを無視して、ヒノカミは瞬時に言彦の前へと移動する。

彼は殴られた腹を片手で押さえており、確実に痛みを感じている。

 

「げへっ、げ、げげ、げっげっげっげ!!

 この拳、この重み!!

 間違いない……ようやく出会えた!!

 恋焦がれた古き盟友との再会!あぁなんと新しい!!」

 

「……何をやっている」

 

大声を上げ、全身で喜びを表す言彦に対し、目の前の女性は悲し気に呟く。

そして彼女は顔を上げ、憤怒の形相で言彦を睨みつけた。

 

 

「何をやっているか言彦ぉ!!!」

 

「五千年ぶりだなヒノカミ!この儂が誰より愛した女よ!!」




第6章『???の世界』……『安心院なじみの世界』編、開始します。
原作終了間際に少しだけ関わります。
全10話、お付き合いください。
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