言彦にはあらゆるスキルが通用せず、彼が与えたダメージはスキルだろうと自然だろうと決して回復しない。
そして圧倒的な身体能力の前には何の特殊効果もないただの攻撃など通じるはずもない。
故に最強。
1京を超えるスキルを持つ安心院なじみですら彼には手も足もでず、五千年前には徹底的に戦いを避けたほどだ。
だが唯一の例外が存在する。
「かぁぁぁあっ!!」
「げへっ!ぐぅ!げ、げげげげ!!」
彼に通用しないのはこの世界の理だけ。
故に別の世界の力を用いるヒノカミだけは、能力を完全に無効化されなかった。
その気になれば山をも砕く身体能力。
大きく減衰されていたとしても無傷とはいかない。
「ぬぅっ、相変わらずすばしっこい!!」
そして圧倒的に勝っているのは速さ。
彼の攻撃を受ければヒノカミでも容易に治療はできないが、攻撃を受けなければ問題はない。
彼のパワーとフィジカルは確かに脅威だが、スピードに関しては彼の不可逆の破壊の力は影響しない。
だから速さだけならばヒノカミが圧倒的に勝っている。
その気になればこの世界全てを破壊しつくすことができる獅子目言彦という英雄を、唯一打倒しうる存在。
故に希少品の保存を本能とする不知火一族は、彼女もまた収集品の一つとしてこの世界に閉じ込めてきたのだ。
「げげげげげげ!!新しい!!
この五千年研鑽を続けてきたが未だ及ばぬとは!!
やはり貴様ほど儂の心を揺さぶる者はいなかった!!
斯様に古く、なのに最も新しい!わくわくが止まらんではないか!?」
ボロボロにされている言彦は本当にうれしそうに、楽しそうに笑う。
しかし圧倒しているはずのヒノカミは深く深く沈んでいる。
高潔な人物だった。
弱きを助け強きをくじく人だった。
いつも誰かのために戦っていた。
守った人々の笑顔を見ることが、何より好きだった。
自分が生まれ変わりを続ける異端の存在と知ってなお……『愛している』と言った初めての人だった。
「げげげげげげげ!!!」
「言彦ぉ……!」
こんな奴じゃなかった。
こんな化物ではなかった。
不知火一族の者が言彦の人格や体格まで完全にトレースし、新たな言彦になる。
そんなことを彼らは五千年も続けてきた。
目の前のコレが、不知火一族が継承してきた言彦の模造品だということは理解している。
しかしかつての英雄のあまりにも醜悪な姿を見ると、涙が零れ落ちてきた。
「なぜじゃ……なぜそうまでして生きることに拘った!?」
「げげげ、それをお前が言うか!?
幾度も新しく生まれ変わり、新しく生き続けるお前が!
……お前のようになりたいと願って何が悪い!?」
「儂の、ように……!?」
ならば彼がこのような姿になってしまったのは、自分の責任なのだろうか。
五千年前のあの日、彼と共に生きる道を模索していれば、こんな未来にはならなかったのかもしれない。
「……ぬ!?
あ奴ら、半袖を連れ出しおったな!?
この儂を出し抜くとはなんとも新しい奴らよ!
……まぁ良い!今はこの会合を楽しもうではないか!!」
「っ!?」
安心院なじみから受け取った情報から、おそらく不知火半袖という少女が次の言彦になるのだろうと予測はついている。
そしてなじみが守ろうとした黒神めだかという少女が、それを止めようとしていることも。
このまま放っておけば、言彦は自分の生への執着のためにまた誰かの命を犠牲にする。
「……わかった」
自分の言葉ならもしかしたらと思った。
しかし届かなかった。
もはや言葉では彼を止められない。
かつての英雄をこれ以上貶めるくらいなら。
「せめて……儂の手で!!」
「……げげげげげ!!」
まともな攻撃では言彦には通用しない。
彼の能力により大幅に効果が減衰され、決定打とならない。
だがヒノカミは『まともではない攻撃』手段を持っている。
……殺すことになるが。
「卍解……『赫烏封月』!!」
異なる世界の力は、完全には無効化されない。
だから言彦の防御力よりも『特性や強度を無視して触れた物全てを焼失させる』という卍解の特性が勝る。
炎の刀を頭上に掲げ、自らが生み出した炎を更に注ぎ込む。
「……さらばじゃ言彦……月牙天衝!!」
ヒノカミの放つ炎が言彦へと向かう。
「そこまで」
しかしその前に現れた不知火帯が軽く腕を振るうと、その炎が消え去った。
「くっ……」「ぬぅ?」
原理はわからないが、蓄えた炎を霧散させたか周辺の酸素を奪い取ったか、はたまた別の何かか。
ヒノカミはこの世界で最強の存在である言彦の、まさに天敵とも言える存在だ。
しかしだからと言って彼女が最強というわけではない。
言彦ならば無効化できる多種多様な『スキル』を、彼女は無効化できないのだから。
ヒノカミはこの世界において強者ではあるものの、最強からは程遠い存在なのだ。
「そこまでだ言彦。半袖はこちらの手の者が回収した。
封印が修復不可能なほどぶっ壊されてるからコイツの再封印も不可能だ。
コイツとの間に何があったか知らないが、お前まで殺されるわけにはいがっ!!」
「帯様!?」
彼女が言葉を言い終える前に、言彦が帯を殴り飛ばした。
「……帯、貴様こ奴を不知火の里に捕らえていたことをよくも儂に隠していたな!?
よくも、よくも!よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもぉ!!」
そして彼は怒りに任せて帯を何度も殴り続ける。
不可逆の破壊は不知火の者でも有効だ。
もはやまともな人の形をしていまい。
自分のために怒ってくれていることは嬉しい。
だが実年齢はともかく見た目は幼い少女に過ぎない帯を痛めつけ続ける彼の姿から、目を逸らした。
ヒノカミは卍解を解除し、刀を納めて背を向ける。
「む?どこへ行くヒノカミ?」
「儂が頼まれたのは、あの黒神めだかとかいうお嬢ちゃんを助けてやることだけじゃ。
……それ以上は知らん」
安心院なじみからの情報によれば、揺れ動いてこそいるが半袖という少女は自分が言彦を継ぐことを受け入れていたらしい。
激情し手を出してしまったが……互いに同意の上ならヒノカミに何も言う資格はない。
何より……これ以上今の彼を見たくなかった。
「待て!」
「さらばじゃ、言彦」
そしてヒノカミは不知火の里から姿を消した。
彼は『絵に描かれたキャラクターを引き裂く』ように相手を破壊するという設定ですが、『他の作者が描いたキャラクターや設定まで勝手に引き裂く力(権利)はない』と判断し、他世界の能力なら通じるという設定にしました。
ただし本作品は『二次創作』であるためオリジナルキャラクターであるヒノカミは下位存在に当たり、よって他世界の能力であっても効果が減衰されるものとしています。