『ワン・モア・タイム』   作:緑のおっさん

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第4話

めだかが彼女の父、黒神舵樹から鶴喰博士の居場所を聞き出し戻って来た頃には、すでにヒノカミの姿はなかった。

ただ約束通り善吉と球磨川は治療されており、善吉の母である人吉瞳の心療外科手術により、弱った心も回復していた。

 

黒神めだか、人吉善吉、球磨川禊、鶴喰鷗、贄波生煮の5人は鈍行列車に乗って、博士がいる箱庭病院跡地へと向かっていた。

 

めだかは仲間たちに状況を説明する。

 

言彦はスキルを無効化するのではなくスキルそのものが通用しない。

しかし彼には言葉が通じる。だから言葉を武器とするスタイルならば通じるはず。

そして鶴喰博士は不知火の里での事件後に、不知火半袖を影武者として指名してきた。

故にこれは不知火を奪還するチャンスでもあるのだが……言彦の後継者を、言彦を倒せるスタイルの開発者が呼び出した。

何か意図があるのではと、どうしても勘ぐってしまう。

 

「『……あのさぁ、めだかちゃん。

  そのヒノカミって奴だったら言彦を倒せるんでしょ?

  だったら洗脳でも脅迫でもして手伝わせりゃいいじゃない。

  そいつはスキルを無効化できるわけじゃないんだし』」

 

「テメェえげつねぇこと言うなよ!」

 

「『何言ってるんだい、大事な大事な不知火ちゃんのためだろ?

  通じるかわからないスタイルなんかを頼るより、よっぽど確実じゃないか』」

 

「……彼女を頼ることは、私も考えた。

 しかし彼女と安心院さんの関係を聞かされると……これ以上巻き込むのは憚られる。

 というか、私たちの救出を引き受けてくれただけでも奇跡だ」

 

「『ふーん、何があったの?』」

 

「なんでわくわくしてんだよ!どう考えても暗い話になりそうなのわかんだろ!?」

 

「いや、お前たちも知っておくべきだ。

 安心院さんと関わりを持った以上な」

 

「めだ姉、私とコイツは席を外そうか?」

 

「え~、気になるぅ~。今更仲間外れなんて酷くなぁ~い?」

 

「「「『フンッ!!』」」」

 

全員の一斉攻撃を受けて、贄波は陥落した。

 

「安心院さんは五千年前、とある『目的』があって言彦と対峙した。

 その目的が、当時の言彦の仲間だった『ヒノカミ』なんだ。

 ……以前安心院さんがかかっていた病気、覚えているな?」

 

「『シミュレーテッドリアリティ思想』だろ?

 何でもできるからこそ、現実が空想の世界に見えちまうっていう……」

 

「この世界が本当に空想かどうかを知ることができる可能性が、彼女にはあったんだ。

 彼女はこの世界とは異なる世界からやってきた転生者らしい」

 

「「はぁ!?」」「『へぇ』」

 

ある時、なじみは『スキル』とは大きくかけ離れた力を操るヒノカミを見つけた。

なじみは彼女を観察するうちに、彼女が平行世界からの来訪者だと知った。

平行世界が実在するということは、なじみのいるこの世界を外部から観測できる可能性があるということ。

上手くいけば彼女の力を通じて、この世界が本当に漫画の世界なのかを知ることができるかもしれない。

なじみはそう考えた。

 

「だから安心院さんは言彦との戦いを避けつつ、彼の盟友であるヒノカミを拉致した。

 そして彼女を被検体にして思いつく限りの実験を繰り返した。

 彼女が簡単に死なないようにスキルまで植え付けて、およそ千年間ほどな」

 

「千年!?」

 

「だが結局安心院さんの望みは叶わなかった。

 異なる世界の知識を得ることはできたし、そこに行けるはずのスキルも作り上げた。

 だが結局平行世界に移動することはできず、外からこの世界を観測する手段も得られなかった。

 ある意味これも安心院さんの『できないこと』だったが……この結果はシミュレーテッドリアリティ思想を後押しすることにしかならなかったようだ。

 『所詮漫画のキャラは、作者の許可なしに漫画の外に出ることはできないのか』とな」

 

そしてなじみは用済みになったヒノカミを放り出した。

その後満身創痍の彼女を見つけた不知火一族が『希少種』として彼女を保管していた。

『言彦』と彼女の関係を知らず、『言彦』に彼女のことを伝えず、およそ四千年間。

 

「そして五千年経った今、安心院さんは言彦に殺される間際に、不知火の里に彼女が捕らわれていることに気付いて開放したんだ。

 彼女が欲していたスキルと交換で私たちを助けるという契約だったらしいが……よく応じてくれたものだよ」

 

「言彦が安心院さんを見た途端ブチギレてたのはそれか……無理もねぇぜ」

 

「『へ~、僕だったら絶対お願いなんか聞かないけどね。

  開放された瞬間に不知火もめだかちゃんたちも全部ぶっ殺してるところだよ。

  ソイツ頭おかしいんじゃない?』」

 

「言葉を選べぇ!!」

 

「彼女は子供には甘いらしい。

 我々が未成年だから助かったのだ。

 そして何より……今の言彦は、見るに堪えないとな」

 

「なるほど、そいつは頼むに頼めねぇな。

 オレらがまた怪我したら、せめて治療だけでもと思ったんだが……」

 

「もう彼女はこの世界にはおるまいよ。

 安心院さんが彼女に渡したスキルとは、先ほど言及した『平行世界の壁すら超える究極の転移』スキルだ。

 安心院さんも自分は使えなかったが彼女なら使えると踏んでいたらしい。

 こんな嫌な思い出ばかりの世界など、とっくに見限っているさ」




・『絶飲絶食(カロリーオフベース)

栄養補給不要のスキル

・『不老所得(インカムサポート)

成長停止のスキル


原作にて安心院さんが不知火の影武者たちに使ったスキルの内二つがヒノカミに埋め込まれています。
彼女の転生が『死』により発動するため、『不死』のスキルは植え付けられませんでした。
第1話にて『口写し(リップサービス)』を使う際に回収しようとしましたが、すでにOMTに取り込まれていたためほぼそのままの形でヒノカミの中に残っています。
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